「はぁ〜、なんでこうも遠いのでしょうか?」
朝早くひたすらに道を歩く青年が1人、誰にともなく呟いた。彼の名は春日雷華。自分の
歌姫を捜して旅する青年である。
「やはり残り少ないからといってお金を使うのを渋ったのが失敗でした……。また食料が
尽きてしまいましたよ……。しかし……次の町がもうすぐ見えてくるはず……」
確かに、彼の進む先には小さな町があった……あと2qほど先ではあったが……

第一部	『一人旅』 第八話 『知らなかったこと……』

「つ、着きました……。とりあえず何か食べないと……」
ふらふらとした足取りで彼は近くに在った食堂に入っていく。
「いらっしゃい!なんにする?」
「とりあえず、何か食べる物をお願いします。もちろん、財布にもやさしい物で」
そう、訊ねてきた食堂のおばちゃんに雷華は答える。
「財布にもやさしい物ね、わかったすぐ作ってきてやるからしばらくお待ち」

数十分後―――
そこには食事をい終え満ち足りている雷華がいた。
「とてもおいしかったです。ご馳走様でした」
雷華がそう食堂のおばちゃんに礼をいうと
「ありがとう。ところで、あんた英雄だろ?歌姫はどうしたんだい?」
そう聞いてくるのに雷華はいつも通りの答えをする。
「まだいないんです。今私は、自分の歌姫を捜す旅をしているんですよ」
「そうかい。早く見つかるといいね。この町では探したのかい?」
そう訊ねてくる食堂のおばちゃんに雷華は答える。
「いえ、先ほどついたばかりですからまだですけど……何か?」
「いやね、この町を南側の出入り口から出てしばらく歩くと右手に森が見えるんだよ。そ
こを道なりに進むと小さな村があるんだ。そこにも行ってみるといいよ。歌姫が見つか
るにせよ、見つからないにせよ、いい所だからね」
そう食堂のおばちゃんが言うのを聞いて雷華は
「分かりました。一度行ってみます。では、このへんで失礼します」
「はいよ、ありがとうございました」
食堂のおばちゃんのその言葉に後押しされて雷華は食堂を出て
「さて、とりあえずは町を回ってみましょうか……」
そう言って、町を歩き始めた。
その町はとても平和だった。辺境といってもいい位置にある小さな町にも関わらず、蟲の
被害は無い様だと感じる。そのせいか、この町には工房が無かった。
「工房が無いとは……平和なのは良いのですが、いかんせん私にとっては死活問題です」
工房でアルバイトをすることで生活してきた雷華は嘆いた。
「当分はもちますが……。あまり長居は出来そうにありませんね……」
そう嘆き続けながら雷華は町を歩いていく。
町を歩いていると通りかかった公園では子供たち(もちろん女の子ばかりだ)の遊び声が
聞こえ、親達らしき人たちの話し声が聞こえる。実に平和でのどかだった。
「良いところですね……。皆が幸せそうです。」
日が高くなった頃、雷華は町を歩き終わる。残念ながら収穫はゼロだった。
「結局、ここにもいませんでしたね……。私の歌姫となる方はいったいどこにいらっしゃ
るのでしょうか?はぁ、まぁいいです食堂のおばちゃんが教えてくれた村に行ってみまし
ょう。今から行けば夜までには着くでしょうし」
そう呟き、雷華は食堂のおばちゃんが教えてくれた道を進み始めた。
「あそこの食堂はおいしかったですし、また立ち寄った時もあそこで食事をしましょう」
そうも雷華は呟いた。

数時間後―――
「思ったより、森の入り口に来れたのは早かったですね。後どのくらいなんでしょうか?
 ……なんだか最近独り言を言うことが多くなってきている気がします。やはり、1人暮ら
しになると独り言が増えるというのは……って、また独り言を〜〜〜〜。」
1人自己嫌悪気味になりながら森の中に入ろうとしたとき、ふと雷華は視界の端に煙が見え
た。
「え?煙?それに……1本だけじゃない、何本も見えます……」
雷華は疑問に思う。何故なら煙の見える方向はさっきまで雷華がいた場所だったからだ。
そう、あの小さな町の方向だった。雷華は嫌な予感に襲われ、走り出していた。

ひたすらに走り続けてようやく町の入り口にたどり着いた時、空は厚い雲に覆われ始め
ていた。町の様子は一変していた……あんなにも明るかった雰囲気が微塵も感じられなか
った。ある建物は火により燃え盛り、ある建物はもとがどのような建物だったのか分から
ないほどに崩れ去っていた。ふと気がつくと道の先に倒れている人影が見えた。雷華は慌
てて走りより抱きかかえる。よく見れば、それは何故か武装したあの食堂のおばちゃんで
あった。
「しっかりしてください!!一体何が!?」
雷華は慌てて訊ねる。すると、彼女は閉じていたまぶたを開き雷華を見て
「おや…、あんたかい、さっさと逃げな、奇声蟲が襲ってきてるんだ…」
そう言われて雷華は言葉を返す
「それは大丈夫ですから!そんなことより早く治療しないと!!」
「あんたに、頼みがある……あたしを、殺してくれ……」
唐突にそう言われ雷華は何も言い返せなかった。雷華が沈黙したため彼女は続ける。
「奇声蟲に、卵を植えつけ、られた……。一週間も、すれば、新たな奇声蟲が生まれる。
 そうなる、前に…早く……」
雷華はわれに返って言い返す。
「そ、そんな……もうどうにもならないんですか!?」
彼女は頷き
「それと、あたしみ、たいなのが何人か、いるはずだ。そんときは、あたし、と同じよう
に殺してやって、くれ……。さっき、は逃げろって、いったのに……すまないねぇ…」
「いえ、お気になさらないでください……」
彼女の言ったことに雷華が答えると
「それじゃ、頼んだよ……。さぁ、殺してくれ……」
その言葉を雷華は聞き、立ち上がり腰の刀を抜刀し構える。そして
「ありがとう、ございました」
泣きながら刀を振り下ろした……。
それから、雷華は町中を回り。殺してあげるべき人を捜した。何故か奇声蟲とは合わな
かった……。町はとても酷い状況となっていた。ある人は子供を守ろうとしていたのか、
子を抱きかかえたまま何かに串刺しにされたのか、胸に大きな穴を開け子と共に死んでい
る者、またある人は燃え盛る建物の中で焼かれて死んでいた。結局、町中を回ったが生存
者は見つからなかった。雷華が唯一喜べることは、食堂のおばちゃんのような人はあの後
2人しか見つからなかったことくらいであった。
 そして、雷華はこの町で最後の場所となる公園の中に入っていく。ふと、この町に入っ
てから数えるくらいしか感じなかった人の気配を感じてあたりを見回すと、2、3人子供の
姿が見えた。慌てて近づき隠れた子供たちに雷華は話しかける。
「大丈夫かい?私は君たちを助けに来てあげたんだ。姿を見せてくれないかい?」
雷華のやさしげな声を聞いて安心したのか3人の少女が出てきた。それぞれ、7歳くらいの
子、13歳くらいの子、15歳くらいの子の3人だった。
「本当、ですか?」
15歳くらいの少女がこわごわと尋ねてくる。
「本当ですよ。私の名前は春日雷華といいます。さぁ、ここは危険ですから早く逃げまし
ょう」
雷華に言われて15歳くらいの少女は答えた。
「分かりましたライカさん。はや……」
ドス
答えようとしていた言葉は途切れ……その少女は小さな堰と共に血を吐く。誰しもが何が
起きたか分からなかった。少女は体を茶色の爪に貫かれていた。奇声蟲だった……。しか
し異様だった。その奇声蟲には人が埋め込まれているのだ。雷華はその奇声蟲を見て唖然とした。
「(なんですかこれは……人?しかも、私と同じ男?一体何がどうなって……)」
誰もが固まり動けない中、最初にこの事態に対処したのは体を貫かれた少女だった。
「フィー!!ディーを守りなさい!!」
その言葉を最後に彼女は彼方に振り飛ばされ、フィーと呼ばれた13歳の少女はディーと呼
ばれた7歳の少女を抱きかかえた所で他の衛兵種に弾き飛ばされた。少女達は雷華の目の前
に落ちてくる。とても、とても嫌な音が鳴った。何かが折れる音であった……。雷華は
目の前で起きたそれらたった数十秒のことに唖然とし、そして怒りの籠もった瞳で周りを
囲む数十匹の奇声蟲を睨み。
「覚悟しなさい、貴方たちは私を怒らせました」
そう雷華は言い放つと、2本の刀を抜刀し奇声蟲の群れに走りこんでいった。何時しか廃墟
の町には雨が降り始めていた……。

町が奇声蟲に襲われてから半日が経っていた。雨がやんだ町の入り口に十数人の人が現れ
る。異変を感知した雷華が目指していた村の住人が救助隊を結成してやってきたのだった。
「何よこれ……ひどい……」
やや赤の混じった茶色の髪と瞳をもった気の強そうな女性は不安を拭えない表情で呟く。
他の人も似たような顔をしていた。
『このような惨状の中で生存者など居るのか?』
皆そのような顔をしていた。その不安を振り払うがごとく呟いた女性は声を出す。
「生存者が居ないか、奇声蟲に気をつけて捜して!!」
その一言で皆は我に返り、2、3人でチームを組んで町中に散らばった。その1チームから
声が上がる。
「葵様、生存者が居ました!!」
や赤の混じった茶色の髪と瞳をもった気の強そうな女性、葵がその声の方へ走っていく。
そして、その光景を見て唖然とする。数十以上の奇声蟲の亡骸がそこにはあった。それが救
助隊の隊員の居る場所を中心として円状にあるのだ。
「何よこれ……いったいここで何があったの……?」
唖然とする葵にその異様な光景の中心地にいる隊員から更に声が掛かる。
「葵様こちらです!」
その声に我に返った葵は隊員達に駆け寄る。そして、隊員の1人が言う。
「とりあえず見つけた生存者は2人です。1人は腰に2本の刀を帯びた20歳くらいの英雄
 と、もう1人は7歳くらいの少女です。彼女を抱きかかえるように英雄が倒れていまし
た」
その報告を聞いているうちに他の報告も来る。
「どうやら、生存者はこの2人だけのようね……」
葵はそう呟き、救助隊の皆に聞こえるように声を出した。
「この辺りにはもう生存者も、奇声蟲も居ないようだからさっさと撤収するわよ!!」
「「「「「「了解しました」」」」」」
十数人の救助隊が返事をした。葵は数人の隊員に声をかけ、生存者を運ばせると自分も村
への道を急いだ。

第一部完


あとがき
二次創作ページの作家さんも私の来てなかった間に増えましたね。
こんにちは、Akiraです。
久しぶりに覗いてみれば、ホームページはリニューアルされていて驚きましたし。初めて
見たときは驚きました。えらく変わっていましたから、間違えたと思ったほどですし……。
何にせよ作家さんが増えるのは良いことです。いろいろな話を楽しめますから。(^_^)
閑話休題
さて、今回の話で第一部が終了します。きっと誰しもが思うでしょう『なんでこんな中途
半端に第一部が終わる?』と、とりあえず一人旅がこの話で終わるのでこれでいいかなと
思ったんですが……まずかったでしょうか?
なにはともあれ、これにて第一部は終了です。滅茶苦茶暗い終わり方ですけど……。それ
で、第二部開始前に2、3本の番外編と別の話、新しい主人公達の話を書いてみたいなと思
っています。とりあえず、番外編で書くことの1つは以前に言っていたことを書いてみよ
うかと……。
というわけで、次回は番外編です。あまり期待せずにお待ちを……と言っても期待される
ほどの物語は書いてないかもしれませんが……。
それでは、また次回のあとがきでお会いしましょう。Akiraでした。

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