第一部 『一人旅』 第三話 中編『ハルフェア脱出…』

 ルリルラからベグヴェームに続く広い道を一機の奏甲が歩いていた。
 それは漆黒のシャルラッハロートV、そうショウグの奏甲である。
 奏甲は胸の前に両手を掲げおり、その手のひらの上には二つの人影がある。
その人影の片方、雷華が言った。
「問題があるんですよね……」
 その言葉を聴いてもう一つの影、ムーンストーンが訪ねる。
 「問題って何ですか?」
 「実は旅銀が早くもそこを尽いてしまったんですよ。」
 『そりゃ、あれだけ高い本を買ってたらな〜。』
 奏甲からショウグが話してくる。
 「うっ!し、仕方ないじゃないですか!技術者として絶対奏甲には凄く興味があるん
ですよ!!」
 「しかし変だろ?絶対。絶対奏甲の技術の一部は本来、門外不出と聞いてるんだが?」
 そのショウグの疑問に、続けてムーンストーンも言う。
 「確かにそのはずだよ。本来、絶対奏甲は黄金の工房でのみ作ることの出来る物の
  はずだもの。」
 「それに、その本を買ったあの変な本屋。あれから何度探しても見つからなかった
だろ?」
 「ええ。それに正確には、買ったと言うより貰ったですね。」
 
そうなのである、この本があった店を雷華が覗いた時、まず最初にこの本を手にとった
 そしたら店主らしき老婆が面白いという顔をして言ってきたのだ。
 『その本を手に取るとは、なかなか面白い坊やだね。よし、その本はただでくれて
やろう。』
 その後、お金を払おうと雷華が何度も試みたが頑として受け取らず。消えてしまった
のであった。

「それにこの本、変なんですよね……。この本見た目はやたら古いのに新型の奏甲
の設計図まで載ってますし、この装甲の設計図まで載ってるんですよ。」
 雷華がショウグのシャルV・カスタム指差しながら言った。
 「げっ!やっぱその本はやばいだろ?確かに興味深いのはわかるが、やばいものは
  やばいんだよ、それは興味深いと言うことよりやばいのであって、やばいのが
こんな具合なのにこんな感じのところがなかなか上手くいかないんだわかる
だろ!?」
「いえ。そもそも言っている意味が少しわかりませんし……」
なにやら奏甲の中からわめいているショウグにむかって片手で頭を抱えつつ雷華は
呟いた。
 と―――
 ガシャーーーン!!!!
 「お待ちくださぁぁぁぁぁぁい!!!!」
唐突に雷華たちのいる道の数メートル先から『そこにあるはずの無い《窓》ガラスの
割れる音と壮大に鳴り響くファンファーレの音』と共に、タキシード姿のエメラルド
グリーンの髪の青年が現れる。万歳をして片足を上げている、いわゆるグ○コのマーク
のポーズのまま足も動かさずに雷華の目の前(もちろん、ショウグの奏甲の手のひら
の上である)まで来ると、ファンファーレに負けない声で高らかに宣言した。
「判定します!!」
「そんなことよりも。お前は何者だ?とか、なぜタキシードを着てるんだ?とか…」
もっともなこと疑問をショウグが言い。それを引き継ぎつつ更にムーンストーンが
訊ねる。
「あの窓ガラスや、この聞こえているファンファーレはどこから出てきたの?」
「考えたら負けです!!こんな奴を理解しようとしたらこっちが狂ってしまい
ます!!」
その疑問の声に答えたのは、謎の青年で無く雷華だった。しかも、普段落ち着いている
雷華がえらく取り乱している。
そんな中、どこから出したのか黒と青の旗を振りながら一人無言で思案顔を見せた後
謎の青年が、にこやかな顔になり持っていた旗の一方(青い方)を、ばさっと振り上げ
て言う。
「判定――――ハーメルン殿の勝利です!!!!!!!」
「「「誰!?」」」
当然のように三人が同時に突っ込む。その直後…
ガコン!
「へ?」
「きゃあああああああーー!!!?」
ショウグのシャルVの足元の道が『開き』なぜか雷華と謎の青年の目の前をショウグ
の疑問の声と、ムーンストーンの悲鳴と共に落ちて消えていった。『開いた』道が
パタンとなぜか子気味いい音を立てて閉じた後、青い旗を振りながら謎の青年は雷華
に近づいてきてはらはらと涙しながら言う。
「ハーメルン殿の御友人を葬るのは心苦しいですが……これがるーるです!!」
「勝手に葬るなぁぁぁぁぁ!!!」
「それに『るーる』って何ですか!?」
ショウグの怒鳴り声とムーンストーンの疑問の声がして、漆黒のシャルVが大量の
土砂と共に地面から出てくる。
「こんにちは。私はハーメルン殿の親友で『春岡 風華』と申します。以後お見知り
おきを」
 大量の土砂が降ってきていたにも拘らず、どこも汚れずに恭しく頭を下げて言う。
 そこに、ムーンストーンが訊ねる。
 「ところで、『ハ−メルン殿』ってどこにいるんですか?」
 「何を仰いますか、先ほどからそちらにいらっしゃるではありませんか。」
 そう雷華を指さして言う。
 「な?!なんですってぇぇぇ!!いつ私があなたの親友になったんですか!!ええ!?
  ふざけるのも体外にしてください風華!!」
 指をさされた雷華はめったに出さない怒りをあらわにして叫ぶ。
 「それに、なんで『ハーメルン』なんですか!?」
 風華の首を絞め、振り回しながら雷華が訊ねる。
 しかし、風華は平然とした顔で答える。
 「なにを仰られますか、行く町行く町で奇声蟲を呼び寄せていると…」
 「人聞きの悪いこと言わないでください!!私はハ−メルンではありません!」
 「ふぅ〜、仕方ありませんね。今まで通りに『武士殿』にしておきましょう」
 しょうがないな〜という感じで首を振る風華に、雷華は
 「ぐっ!!思い出しましたあなたにはなにを言っても無駄でしたね…」
 諦めの色の強い顔をして雷華は風華の首から手を離すと、風華が雷華に顔を近づけて
きて、口元を手で隠し声を潜めて言ってきた。
「ところで武士殿………実は一つ試したいことがあるのですが。」
「勝手にやっていてください。行きましょう、ショウグさん、ムーンストーンさん」
雷華は風華を無視して立ち去ろうと、ショウグとムーンストーンに声をかける。
「わかりました。それでは、失礼して……」
風華はそう答えて、右腕を振り上げ指を鳴らして言う。
「おいでくださいませ!!奇声蟲の方!!」
泣き声と共に奇声蟲が現れる。
「「「なぜ!?」」」
「「「おまけに貴族種!?」」」
やはり三人同時に突っ込む。
「って何であなたはそうやっていつも厄介ごとをもて来るんですか!?」
雷華はわめいた。
「っていうか……どうやってつれて来たんだ?」
「私も、そこが気になります。」
ショウグとムーストーンは当然の疑問を口にするが誰も答えてくれない。
「とりあえず、撃退するぞ!!ムーンストーン!雷華さん!」
ショウグは、気持ちを切り替えて言って、奏甲を戦闘起動して太刀を構えた。
「いきますよ!!」
雷華は掛け声と共に貴族種に向かって行き関節部分を切り裂いていき、ショウグも
それに続く。そして動きの鈍くなった貴族種の頭をショウグが太刀で貫き終わりかと
思ったその時、ノイズと共に20匹もの衛兵種が現れる。
「そういえば、貴族種は常に衛兵を従えているんでしたね……」
ため息と共に雷華は言うと、ショウグと協力して衛兵種を倒していった。
「や、やばかった。起動時間ぎりぎりだったぞ。」
何とか奇声蟲を全滅させた後、ショウグが言う。
パチパチパチパチ
――とその時どこからか、女性が拍手と共に現れて言う。
「お見事!!これがお礼のお金だよ。」
そう言うと、今までどこかに隠れていたのか唐突に風華が現れ、さも当然と言う顔で
お金を受け取り、
「それでは、また会いましょう武士殿!!」
と言い残して風のごとく去っていく。
「あの、お礼のお金ってどういうことですか?」
ムーンストーンが不思議そうに聞くと女性が答える。
 「いやね。奇声蟲が村のすぐそばまで来ていて危ないから今後の行動を話し合ってい
たら、さっきの人が現れて何とかしましょうと言ってくれたんだよ。上手くいった
からお金を御礼として上げたのさ。」
「もしかして、その奇声蟲っていうのはさっきの群れのことですか?」
雷華が続けて訊ねる。
「そうさね。それにあんただろ?最近噂になっている『奇声蟲と共に来る男』とか
 『奇声蟲から町を救う男』とか呼ばれているのは。お金には苦労して無いだろ?
 結構お礼を貰っているそうじゃないか。」
と雷華の方を向いて話すのを聞いて、三人は唖然とした。その様子を見て女性は
不思議そうに訊ねる。
「?いつもさっきのような風貌の男が、お礼を貰っているとも聞いたんだけど?」
そう、雷華たちの今までの奇声蟲退治のお礼は全てかの人物『春岡 風華』が貰って
いたのである。しばらく、あまりの事に動けなかった一同であったが、何とか気を
とりなおして目的の町ベグヴェームに着くことはできたのだが、当然ながら雷華には
船で次の町に行くためのお金が無かったので、ショウグ達とはここで別れることに
なった。
「それでは、今までいろいろありがとうございました。」
雷華は頭を下げて言う。
「一部を除けば楽しかった、また会おう雷華さん。」
「それじゃ、またどこかでね。」
それに、ショウグとムーンストーンが答えて彼らは船に乗り込んで旅立った。

雷華はまだハルフェアを旅立てない。

                                   つづく


あとがき
 先日、アルバイトで、自分がしたことではないことで怒られました。最悪です。
こんにちは、Akiraです。
 さて、何とかここまで書けました。今回は宣言どうりトラブルメーカーっぽいものが登場です。
新キャラは、魔○士○ー○ェンのキー○がモデルです(まんまじゃねーかとか言わないで見逃してください)。
それと、「第三話は続き物の必要は無いん
じゃないか?」とか思っている方々も見逃してください<(_ _)>
と言うことで(どういうことだ?)次回の後編で、いよいよ簓さんからお借りしたキャラが登場します。
次回が初のクロスSSさらに連続クロスSSの第一弾となるので頑張りたいですね。
  
それでは、次回を期待せずにお待ちください。Akiraでした。  

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