第一部	『一人旅』 第四話 『トラブルメーカ×2』

雷華はエタファとヴェステンデを繋ぐ街道をひたすら徒歩でリーズ・パスに向けて歩
いていた。
ベグヴェームからツィナイグングへと船で渡った後、エタファに向けて旅をしながら
自分の歌姫を探していたのだが、いまだ見つけられないでいた。おまけに、街に立ち
寄るたびに、衛兵種の群れやら貴族種の単体など奇声蟲が現れるという『奇声蟲と共に
来る男』なる『通り名』が広まる状況が続いている。もっとも、今回はちゃんと報酬が
貰えているので以前よりかは幾分かましであったが……。他にもいろいろなことが
あったのだが、それはまた別の話……。

そんなこんなで、少々路銀が乏しくなってきたので立ち寄った小さな町の工房で
いつものように、住み込みのアルバイトをすることにして数日たったとある夕暮れ。
任されていたカスタム機の整備を終えて一休みしていると工房長が雷華に話しかけて
きた。
「新しいお客が来たんだが、手が空いているのがあんたしかいないからやってくれ
ないかい?」
 「かまいません、条件でもありますから。」
「で、客は奏甲の修理が目的だそうだ。修理箇所は自分で調べてくれ。それじゃ、
頼んだよ。」
 そう言って工房長が再び仕事に戻っていくのを見て雷華はお客の元へと向かった。
 
小さな町の小さな工房では、工房長と他に技術者一名のため一機ですでに手一杯なため、
雷華が雇われた時、お客が一人すでにいて新たにお客が来た場合一機丸々一つを見る
と言う条件だった。その条件が適用されたのだ。

お客の元へと来た雷華はまず挨拶をした。
 「こんにちは、今回お客様の奏甲を修理する、春日 雷華と申します。」
 すると、英雄らしき19歳くらいの青年が挨拶を返してきた。
 「オレは天凪優夜、よろしく雷華くん。」
 「ゆ、優夜さん初対面の方に失礼……って言っても聞きませんよね……。」
歌姫らしき15歳くらいの少女があきれ口調で優夜に言って気を取り直して続ける。
 「あっ、わたしはルルカ。ルルカ・ソロ・エンフィール。この人の歌姫です。」
 そう歌姫の少女、ルルカは隣の優夜を指差して言いさらに続ける。
 「春日さんの歌姫の方はどこに?」
 ルルカはそう訊ねて辺りを見渡す。
 「私は、まだ歌姫に逢えていないんです。ですから、旅をしながら行く先々の工房で
  アルバイトをしている、と言うわけです。」
 苦笑しながら答える雷華にルルカは頭を下げながら謝る。
 「す、すみません。そうとは知らずに……」
 「ルルカくん、君の方が失礼だったようだね。」
 そう言いながら優夜はルルカの肩をぽんぽんと叩いてにやけている。
 「くっ!!」
 そんなことを優夜に言われたルルカはかなり屈辱らしく悔しい表情をしている。
 そんなルルカと優夜のやり取りを聞いて、雷華は再び苦笑しながら言う。
 「かまいませんよ。それと、お二人は『天凪さん』、『エンフィールさん』と呼んで
  よろしいでしょうか?」
 それに対して二人は答える。
 「そんな他人行儀でなくて、私も優夜さんも名前でいいですよ。」
 「うむ、そうだぞ雷華くん。」
 「わかりました。それでは、改めて『優夜さん』…『ルルカさん』とお呼びいたします。」
 そう答えた雷華を見て優夜は、面白い物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべ雷華
 に近づき凄くうれしそうな感情のこもった小声で訊ねる。
 「雷華くんは女性が苦手かね?」
 「な!!……そ、そんなことはありませんよ…。」
 そう雷華が答えると優夜は
 「ほぉう」
 優夜がそううれしそうに言って再びルルカのそばに戻っていった。
「一体何を考えているんですか?…まぁ、いいです。雷華さん修理に関することを
お聞きしていいですか?」
ルルカは呆れた感じで優夜に言った後、雷華に訊ねる。
「ええ、かまいませんよ。それでは、修理する部分のチェックをしましょう。」

――数分後
 「う〜ん、これではあちこち修理が必要ですね…明日一杯かかりますがよろしい
ですか?」
 チェックを終えた雷華がルルカに訊ねる。
 「そうですね……仕方ありません。」
 「しかし、ここまで壊れているとは……また、奇声蟲退治に行きますか?」
 「はい。行くつもりですけど?」
 「えっとそれじゃ、優夜さんとルルカさんにお願いが。」
 そう言って雷華は優夜とルルカを見る。
 「なんだい?」
 優夜が訊ねてきたので雷華は言う。
 「どのように戦うのか興味があるので付いていってもかまいませんか?」
 「別にかまいませんよ。それなりの覚悟は必要ですけど……」
 そうして、明後日に出発することが決まった。

 ――早くも予定の日
 雷華、ルルカを両肩に乗せて優夜の乗ったシャルVが目的の場所まで歩いていた。
 「優夜さん、そこの高台に下ろしてください。あそこなら、よく見えそうです。」
 『ほいさっと』
 そんなルルカと優夜のやり取りがあって、高台にルルカと雷華が降り立つと優夜が
さらに歩を進める。
『オレのマシンはぁ〜♪ 幻糸の三重織り〜♪』
……不思議な歌を歌いながら…
「ゆ、優夜さん!」
その歌を聴いてルルカの顔に怒りの表情が見える。しかし、それを気にせずに優夜は
続けた
『右の腕には……ん?これは?…♪』
のだが、途中で止めてなにやら座り込んでがさごそやり始めた……もちろん奏甲に
乗ったまま。
「な、何やってるんですか!!奇声蟲はすぐそこまで来てますよ!!」
ルルカは優夜に吼える。優夜お歌に引き寄せられたのか2匹ほどの衛兵種がやってくる
のが見える。それに、気付いていたのか優夜はすっと立ち上がり
 「奇声蟲の諸君来たまえ。」
と言いうと。
ギシャァァァァァァァァ!!
挑発されて怒ったのか、大きく吼えて凄い速さで優夜に近づき……消えた。
 「「え?」」
 当然だが、雷華とルルカは驚いて疑問の声を上げる。
 「はっはっはっはっは〜。まんまと引っかかったな!」
 驚く二人を尻目に高らかに優夜は誇り。足元に向けてマシンガンを撃っている。
 呆気にとられていた二人が優夜の乗るシャルVの足元を見てみると大きくて深そうな穴
 が見えた……いや、奇声蟲が這い上がってこないところを見ると実際に深いのだろう。
 「ゆ、優夜さん!?その穴いつの間に掘ったんですか!?」
 ルルカが驚きの声を優夜に発する。すると優夜は
 『う〜ん、最初からここにあったのを利用させてもらった♪』
 シャルVの頭をルルカに向けて言う。
 「それでは、一体誰があんな物を?」
 雷華が疑問を口にした時すぐ後ろから声が上がる。
 「私でございます、武士殿。」
 「!?」
 その声が聞こえた雷華は勢いよく腰の刀を抜いて自分の背後の……空気を切り裂いた。
 「くっ!!逃げられたか!!」
 「!?いきなりどうしたんですか、雷華さん!」
 「刀を急に振り回しちゃいけないなぁ、雷華くん」
 ルルカといつの間に戻ってきたのか奏甲から降りていた優夜の二人が雷華に声をかけ
てきた。
「今ここに、諸悪の根源が!」
怒の声を発する雷華に優夜の隣にいる、ルルカとは別の人物から声がかかる。
「酷いですなぁ。武士殿、私のどこが諸悪の根源なのですか?」
「うわっ!」
「きゃ!」
優夜とルルカは突然現れた人物に驚いて離れる。それを、見たタキシード姿のエメラ
ルドグリーンの髪の青年は言う。
「こんにちは、私、武士殿……雷華殿の唯一の親友で『春岡 風華』と申します。」
「な!?まだ、いいますか!!いつ!貴方が、私の唯一の親友になったんですか!!
 私にはちゃんとした親友がいます!!」
さらりと言う風華に激昂した雷華が言った。そんなことは、これっぽっちも聞こえま
せんと言う顔でさらに風華は続ける。
「優夜殿、先ほどはお見事でした。そんな、貴方様にプレゼントを差し上げます。」
と優夜に言って、おいでおいでと優夜に手を振る。近づいてきた優夜に耳打ちをする。
話が終わったのか、しきりに頷いていた優夜の動きが止まり風華から離れて何かを
呟くと、例の落とし穴からふわふわとした足取りで奇声蟲が出てきた。
 「ご覧ください!!これが、執事流傀儡術でございます!!」
 高らかに風華が言ってさらに続ける。
「この術は応用しだいでどんな物でも操れるのです!!」
ビシッ!!っとガッツポーズまで決めて言い放った。
「さすがだ、風華くん!!これさえあれば、何でも出来る!!ありがとう!」
優夜が風華にそう言うとルルカの方を向き言う。
「…と言うわけで、ルルカくん♪マ゛――」
スパァァァーーン!!
きれいな音と共に何かを言いかけていた優夜の動きが止まる。それもそのはず、
あまりの事に呆気に取られていたルルカが気を取りなおして物凄いスピードで優夜に
近づき物凄いスピードでハリセンを繰り出したからである。
「なにをするんだい?ルルカぐ――」
スパァァァァァーーン
どうしたらここまで綺麗な音が出せるのかと疑問に思うくらい、ハリセンで叩いた音
が響き続いて
ドゴォ!!
と優夜が足を滑らして傍にあった大岩に頭をぶつける鈍い音が響く。
「優夜さんが変なことを……って優夜さん!?」
「って優夜さん大丈夫ですか!?」
ルルカと気を取り直した雷華が優夜に声をかけた。すると、優夜が起き上がり
「ここはどこ?私は誰?」
「え?ちょっと優夜さん!!ふざけないで下さい!!」
「あなたは誰?」
そう言って再び優夜は気絶した。
「ふざけてないでくださぁぁーーい!!」
ルルカの叫びが木霊した……。

――後日談
結局、優夜はホントにやばかったらしく一時間後に正気を取り戻した。優夜曰く、
「花畑の向こうで綺麗なお姉さんがいて付いていきそうだった」という状態だった
そうだ。しかし、戻ってこれた代わりに風華が現れた以降の記憶は無くなっていた。
その後、町に戻るのだが、道中優夜はしきりに「何か忘れている気がするんだ……」
と繰り返していた。結局、優夜達はすぐ旅立って行ったが雷華は数日間アルバイトを
続けた後、ヴェステンデに向けて出発した。
ちなみに、風華はいつの間にかいなくなっていたことを追記しておく。

つづく


あとがき
うわぁ……、なんか変な話に………。おまけに、2004/08/13現在で私のSSの中で最長
の作品に……(汗
……こんにちは、Akiraです。
今回の話はちょっと、ぐちゃぐちゃ気味かもしれません……。
天凪さん、例によって例のごとく不満、苦情その他なんでも承ります。もし、ここは
違うんじゃないかというところなどがあれば、仰ってください。
それと、この話は止めて欲しいと思われましたら、遠慮なく言って下さい。即抹消
いたします。
というわけで、前回に引き続き『機○戦○ ナデ○コ』風次回予告を。

〜次回予告〜
??「というわけで次回は俺たちの出番らしいぞ?」
??「お兄ちゃん、これじゃどっちがどっちか分かんないよ?」
??「や、それはこの次回予告の性質上仕方ないから……」
??「お兄ちゃん、それでも分かりにくいのはダメじゃない?」
??「……そうだな、名前言わんといけないな。それじゃ、俺の名前ば――」ドゴォ!!
リーシャ「前回同様、次回予告で名前は言っちゃだめだよ。」
??「くす(邪笑)」
??「ぐふっ、はかったな……」ガクッ
リーシャ「ということで、次回『電波系(仮)』をみんなで読もう!!」
〜次回予告終了〜

ということで、次回の連続クロスSS第三弾は電波系……書けるんだろうか?
……ちょっと、やばいかも…。
あまり期待しないで待っていてください。
というわけで、最近あとがきが長くなっているAkiraでした。

戻る