「(一体何がどうなればこのような状況になるのでしょう?異世界に来てしまうし、自分の
世界では技術者志望だったと話しただけなのに……)」
ゴン
「痛っ!!」
1人考え事を雷華がしていると突然、拳骨が飛んできた。
「何ボーっとしてるんだい、よくと作業を見てとっとと仕事覚えな!!」
「す、すみません!!」
雷華は拳骨を飛ばし、怒鳴ってきた相手、工房長のリーシャ・ノインに頭を下げて謝った。


第一部	『一人旅』 番外編その1 『それが最初の3日間』


「いいかい?あんたの歌姫はこの辺りにゃあいないんだ。そしたら旅しなきゃいけないだ
ろ?歌姫を捜すために。それには、先立つ物が無くちゃならない。そう、お金さ。それに、
途中で尽きても大丈夫にしなきゃならんしね」
リーシャがそう雷華に言ってくるので、雷華は
「分かっています。そのため、今後安定した職を得るために絶対奏甲の構造やらを学び、
整備を出来るようにして、旅の途中で工房に短期で雇ってもらったり出来るようにするん
ですよね?」
「そういうことさ。技術さえありゃ、どうにでもなるからね。まぁ、ここは田舎だし、他
と比べると小さい部類で一般に『ミニ工房』って呼ばれる部類だが、最低限の設備はある
からここの設備程度なら完璧に使いこなしな」
とリーシャが雷華に言う。

そう、工房にも規模の違いがあり、それぞれ『ミニ工房』、『小規模工房』、『中規模工房』、
『大規模工房』に分かれている。当然、それによって設備や建物も規模の大きいものほど
立派になり、収容できる奏甲の数も工房の大きさに比例して増えていく。雷華の世話にな
っている『ミニ工房』と呼ばれる部類では設備も小さく、一度に収容できる奏甲の数もせ
いぜい2機程度である。
閑話休題……

この工房にいる技師はリーシャを含め2人、つまりもう1人の技師である、フィズル・マ
インドが、なにやらリーシャに走りよって言う。
「リーシャ工房長〜、お客さんですよ〜」
「わかったよ。すぐ行くから待つように言っといてくれ」
リーシャはそう言ってフィズルを客のところに戻らせて雷華に向かってにこにこと言う。
「雷華。早速、あんたの仕事だよ」
「はい?え?ですが、先ほど一通り教えていただいただけですが?」
雷華が困惑して言うと、リーシャは答える。
「こういうのは、基本を覚えたら後は回数をこなすのが一番だ」
その日『急いでいるから、明日までに修理してくれ』と言う英雄の一言のために雷華は一
睡も出来なかった。

―翌日
「お、終わりました……」
完璧に憔悴した雷華がそこにいた。先ほど、修理の終わった奏甲を持ち主の英雄が持ち帰
ったのだ。リーシャが傍で口を挟むとはいえ、奏甲の整備は初めてなので、当然時間は掛
かるし失敗もした。
「はぁ、『失敗したから朝飯は抜き』だなんて……鬼ですよ」
ぼそりと雷華が言うと
「まだまだ序の口さ」
後ろから予想外の声がするので、慌てて雷華が振り向くとそこにはリーシャが立っており
微笑みながら、更に言う。
「仕事だよ♪」
「え?まだ昨日から一睡もしていないんですよ!?」
雷華が言うとリーシャは
「『ミニ工房』だからね。技師は1人で全てが出来なきゃなんないんだよ。どっかの誰かさ
んのおかげで飯代も増えたしね」
「うっ……分かりました。頑張ります」
「最初はこうやってしごかれるんですよ〜。頑張ってくださいね〜」
フィズルが雷華に近づいてそう言って去っていく。
「が、がんばりましょう」
雷華はそう自分に言い聞かせるしかなかった。
その後、昼食と夕食をはさんで整備を続けるものの、今度は1人で行ったためか一行に整
備は終わらず。ようやく終わった頃には雷華はまた朝日を拝んでいた。
起き出して来たリーシャは奏甲をチェックする。結局、ミスがいくつかあったため朝飯は
抜きだった。
ようやく、ミスした部分の修理が終わったのが昼。奏甲を持ち主の英雄に返した後。雷華
が寝るために部屋に戻ろうとしたとき、奏甲がやってきた。乗っていた英雄曰く『近くに
奇声蟲の群れがありそこを戦場にしているため』だそうだ。そのため、翌日までにまた修
理しなくてはならなかった。
その瞬間、雷華の三日連続の徹夜は決定した。

―翌日
「ふぅ、終わりました。まさか、また朝日を拝むことになろうとは……」
今回はフィズルが手伝ってくれると言ってくれたため、早く終わると安堵したのだが実際
は『キング オブ ドジッ子』であった。仕事をフィズルにひかっき回されてしまったた
め、終わるのが遅れたのである。
「しかし、あれで年上とは……」
「雷華く〜ん」
フィズルが走ってきて、何もないところでこけ。雷華に避ける隙を与えず、巻き込んで倒
れる。
「あたたたた……って、ん?」
雷華がそう言って、自分の上にある何かを見る。
「え?フィズルさん?って、え?……うわぁぁぁ……」
フィズルと密着状態であることに気付いた、女性の苦手な雷華は見事に気絶した。
「痛〜い……って、雷華くん!?ちょっと、ねぇ!?雷華くんってば!!……」
その後しばらく、フィズルの心配そうな声が聞こえる。ふと、なにかの音に気付いたフィ
ズルは声をかけるのを止めて耳を澄ますと
「すぅ、すぅ、すぅ……」
雷華の寝息だった。気絶した後、三日連続の徹夜から来る眠気に負けて寝てしまったのだ。
「ね、寝てる……」
雷華が目を覚ましたのはそれから1日後であった。

その後、雷華は2週間かけて整備を学び普通の奏甲ならば整備が出来るまでとなった。も
っとも、その間何回もご飯抜きと徹夜があったのは言うまでも無い。

番外編その1終了

あとがき
最近、課題を置いといて小説を読んでいます……。課題をさっさとおわそう……。
こんにちは、Akiraです。
今回の話は、雷華がアーカイアに来た直後の数日間の話です。
実際かなり微妙な話ですけどね……。『リーシャ』や『フィズル』の出番が少なかったので
書いた物語……と言ってもいいくらいなのですが……あまり出番無かったような……(汗
それと、今回この話を書くにあたって『ゲームギャザ12月号』の『会話型RPG「幻想戦記Ru/
Li/Lu/Ra」サポート記事』を参考に工房について書いていますので、特に失敗はないと思い
ますが……何か変な所があれば仰って下さい。
なにはともあれ、次の『番外編その2』では何気に主人公に次いで出番の多い『彼』が出
てきます。また、盛大に暴れてくれることでしょう……。
話は180°変わりますが、最近なりきり掲示板にて雷華のキャラクターが変わってきてい
る気がする今日この頃です。まさか、春日葵がいるのといないのとではここまで変わると
は作者もびっくりデス。……と思うのは気のせいなのでしょうか?
そんなこんなでそろそろ締めさせていただきます。
それでは皆様、次回のあとがきでお会いしましょう。
Akiraでした。

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