「この人は一体誰なのでしょうか……?」 「この格好から見る限り、シュピルドーゼ辺りの軍人さんだろうね」 工房の宿舎のベッドに眠る女性を見ながら呟いた雷華の疑問に、今回お世話になっている ズェーデリヒハーフェンの工房長が答えた。 第一部『一人旅』 番外編その2 『わけの分からぬままに』 事の起こりは数時間前となる…… いつもの日課として朝の散歩を雷華がしていると 「おい!そこのお前!!まて!」 と、後ろの方で怒鳴る声がした。しかし、自分ではないだろうと雷華が歩き続けると 「こら!無視をするな!!腰にカタナを2本さしているお前のことだ!」 腰に刀2本どう考えても雷華しかいない。雷華は振り返り 「えっと……?どちら様でしょうか?」 と訊ねる。すると 「我が名は『ルナティ』栄光あるシュピルドーゼの軍人だ!!覚悟しろ、カスガライカ!!」 「はい!?ちょ、ちょっと待ってください!!一体何のことか!?」 雷華の静止の声を無視して『ルナティ』と名のった。剣を構え女性が突っ込んでくる。 女性の持つ西洋剣による、攻撃を刀の1本で受け流しつつ更に雷華は訊ねる。 「えっと!?本当にどちら様ですか!?私は貴女を知りませんよ!?」 「お前が知らなくても、私は知っている!!この『奇声蟲と共に来る男』め!!」 ザワザワ その単語が出てきたとたん周囲が騒がしくなる。中には 「ちょ、ちょっと大丈夫なのあの英雄様?」 「悪い人かもよ?」 「え?だってあの英雄様。この前、おばあさんの荷物もってあげていたわよ?おばあさん、 とても感謝していたし……」 「それが、作戦なのよ…」 と言う者まで出てくる始末。雷華は慌てて抗議の声を上げる。 「ちょ!?な、なんてことを言うのですか!?ここの人に誤解されてしまうではないです か!?」 「知らん!!私はお前のような厄災を成敗するまで!!」 「ああ、もう!!いい加減にしてくださいよ!!」 雷華はそう言いながら、ルナティの剣を大きく払い。その場から逃げ出す。 「な!?ま、まて!!お前、英雄としてのプライドは無いのか!?」 「ここで戦い、あることないこと言われたり、他の人に迷惑を掛けるわけには行きません からぁぁ!!」 そう言って雷華は凄い速さで走っていく。 「くっ!まてっ!!」 その雷華をルナティは追いかける。しばらくすると広い場所に出て雷華が立ち止まる。 「ここなら、誰にも迷惑は掛かりません。さぁ、いつでもどうぞ」 「はぁ、はぁ……さ、さぁ…か、覚悟……しろ〜……」 パタリ 「て、ちょっと!?何で倒れるのですか!?」 「……きゅ〜〜〜〜」 「め、目を回している……本当に一体なんなのですか……?」 そのとき、雷華はどこまでも続く青い空を見上げてそう呟き 「で、私にどうしろと?やはり、どこか休める場所に連れて行かなくてはダメでしょうか ……?」 その数分後、雷華は仕方なくルナティを背負い工房へと向かっていた。 ―回想終了 「まぁ、何であれ。変な噂のたったあんたをここには置いとけ無いよ」 そう工房長が言う。 「ですよね……。分かりました、すぐに出て行きます」 「悪いね」 「いえ、仕方ありませんから……」 そう言って雷華は手早く荷物をまとめて、工房を出て行った。 「はぁ、もう散々ですよ……前の所でもろくに稼げなかったというのに…ようやく見つけ た仕事場は、あの変な騒ぎで仕事をする前に追い出されてしまいましたし……何故かその 原因の人は後ろからついてくる始末……」 そうルナティと名のったあの女性。雷華の後をしっかり付いて来ていたのだった。 「あの、非人道的な者を世界の平和のために葬らねば」 おまけに雷華の知らない所で、物凄い決意までしていた。 「はくしゅん!!はくしゅん!!……誰か噂でもしているのでしょうか??……まぁ、予 想はつきますが……」 雷華は後ろをちらりと見る。ルナティは慌てて草むらに隠れる。 「(ばればれです……)……はぁ、何にせよ良い噂ではないでしょうね……」 と雷華が呟いたそのとき、 「そんな!!この幻糸の乱れ方は奇声蟲!?」 突然ルナティが道の先にある村の方を見ながらそう叫んだ 「何ですって!?それは本当なのですか!?」 雷華がその言葉に慌てて聞き返すと 「間違いない……。何故あのような場所にも……」 「くっ!!貴女は逃げてください!!私はあの村を助けに行きます!!」 そう雷華は言い放ち駆けていく 「なんだと!?ま、待て!!絶対奏甲も歌姫もいないお前がどうやって奇声蟲を倒すん だ!!」 ルナティがそう叫んだ時には既に雷華はかなり離れていて声が届かなかった。 「まて!!」 ルナティはそう叫び雷華を追いかけた。 雷華が村に入ったとき人々は奇声蟲数匹から逃げているところであった。雷華は更に村の 奥に行き奇声蟲を見つけ 「そこにいましたか!これ以上はやらせません!!」 そう言い放つと近くにいる奇声蟲に接近する。 ギシャァァァァァ!! 当然、奇声蟲は近づいてくる雷華に爪による攻撃を浴びせる。 その攻撃を刀で受け流し、時には相手の勢いを利用して切り捨てながら近づき、奇声蟲の 頭を切り落とした。 「先ずは1体。後2体ですね」 そう言った雷華の後ろでは頭を切り落とされた奇声蟲が崩れ落ちる。それを見ていたルナ ティは驚く。 「す、凄い……生身で衛兵種とはいえ奇声蟲を倒す者がいるとは……」 ルナティの見ている前であっと言う間に奇声蟲は片付けられていた。その惨状に驚くルナ ティは背後から近づく存在に気がつかない。そして…… ギシャァァァァァ!! 「え?」 背後から聞こえる奇声蟲の鳴き声にルナティが振り向くとそこには奇声蟲がいた。その鳴 き声を聞いた雷華が、慌ててそちらを見やると今まさに奇声蟲に攻撃されそうになるルナ ティの姿があった。 「な!?何故ここに!?ち、ちがう!その前に助けなくては!」 雷華は慌てて走り出すが 「(間に合わないか!!)」 そのような考えがよぎる。そして…… すさまじい射撃音と共に、奇声蟲は吹き飛ばされていた。雷華は驚くなぜなら… 「わ、私じゃない……一体誰が??」 雷華は呟き辺りを見渡すと、そこには一体の絶対奏甲がマシンガンを構えて立っている。 「(あれはシャルT?…でも何故?)」 雷華が絶対奏甲をみて思う。そのようなことを考える雷華を尻目にシャルTはルナティに 近づきしゃがんだ後、ハッチを開け英雄が顔をだす。 「たく、俺の歌姫様は危なっかしいな……」 「お前……私の英雄か?」 「ようやく見つけたぜ。俺の歌姫様」 2人は雷華を『無視』して2人の世界を作り、そしてしばらくしてルナティは誘われるがま まにシャルTに乗って英雄と共に去っていった。 ただ1人、奇声蟲の死体に囲まれ雷華は唖然として、そして呟く。 「一体……何だったのですか……」 更に続ける 「今日も空が青いですね……」 尽きかけている路銀の心配を忘れるかのように……雷華は現実逃避をしてみるのだった。 番外編その3終了 あとがき 2004年のクリスマスは電気を消した、8畳の部屋の真ん中で体育座りをしてすごす予定(未 定)。シングルベ〜ル、シングルベ〜ル、鈴もなし〜♪……(空しすぎ……) こんにちは、Akiraです。 『恋人いない歴=年齢』の公式の成り立つ私は、今年こそ本気で『1人きりのクリスマスイ ブ♪』です。もちろん、クリスマスもですが……。 暗いのは止めましょう。どうせ私には恋人は出来ないでしょうから……昔から『いい人止 まり』でしたし……。 今回の話は、雷華が振り回されるお話です。あまり書いてはいませんが、このくらいの不 幸、雷華は日常茶飯事です。ええ、それはもう……。 さて、この話で第一部もようやく終わりとなります。第二部は年明けの予定です。雷華の 歌姫、そして絶対奏甲。第二部ではよりいっそう振り回される雷華。そんなお話をお楽し みに……。 それでは皆様、また次回のあとがきでお会いしましょう。 Akiraでした。 |