第二部 『親しき友』  第二話『再会』


ワァァァァァァァァァァァァ!!
 ギリシャのコロッセウムのような闘技場に歓声がこだます。
 「皆さん!!おぉぉぉ待たせしましたぁぁぁぁぁ!!いよいよ絶対奏甲バトル決勝の
   開始です!!」
 さらに、歓声に負けない声で女性の司会者兼実況者がいい放つ。
 「葵さん……なんでこんなことになっているんでしょうぶふぇ!?」
 歓声の中、客席の一角で黒髪の英雄が華麗に宙を舞う。
 「敬語はよしなさいといったはずよ?」
 「ラ、ライカおにいちゃん!?」
 葵と呼ばれた女性がそう言い放ち、傍でその光景を見ていた少女が驚いて
立ち上がる。
 「ぐ…しかしですね…バ!?」
 「お、おねえちゃん!!ライカおにいちゃんが死んじゃうよ!?」
 倒れ伏した雷華の傍には、何処から出したのかスパナが落ちていた。
 「まったく、急がなきゃいけないのにシルキーのパートナーは一体何を考えているのよ」
 「シルキーって?」
 「私の友人でクラフトシリーズ最後の一体を預かる歌姫……って、雷華!?え!?」
 ぼやいた葵に訊ねていたのは数瞬前まで倒れ伏していた雷華であった。おまけに
驚くべきことに傷一つ無い。
 「ラ、ライカおにいちゃん…大丈夫なの?」
 「大丈夫だよ、ディー」
 ディーと呼ばれた少女はやや引き攣った表情で訊ねる。周囲の人も驚いた顔で雷華を見ており、
雷華の答えを聞き今度は困惑の表情を浮かべる。
 「なんであんたは平気なのよ…」
 「酷いで…いや、酷いな…怪我しなきゃダメなのかい?」
 「そ、そんなことは……」
 そんな二人のやり取りを傍目に見ながら、雷華達の周囲に座っていた客達は静かに距離
をとり始めていた。皆、一様に「こいつらはヤバイ」と考えながら……。


 「対戦カードは、那須野一矢(なすの かずや)、パートナー、シルキー・ブラウニーVS
キョウスケ・桜葉、パートナー、ミルフィー・ジグラット!!」
 司会者は一部で起きていた騒動をも気にせずに司会・進行を続け、選手が紹介と共に絶
対奏甲に乗って現れる。一方は淡い緑に染められた機体で、各所に重火器が見受けられ見
た目は動く武器庫といってもよいほどの装備であった。もう一方は赤い機体で、左肩には
『アダックス』という工房のロゴマークが見受けられる。現世人が見れば見た目はどこか
のゲームに出てきた巨大ロボットにそっくりだと気付くだろう。
 「一矢って……」
 「何?知ってるの?」
 雷華の呟きに葵が訊ねる。
 「知ってるも何も……おそらく、私の友人だよ……」
 「なんかしゃべり方が偉そうよね……」
 葵の呟きにやや冷や汗を流しつつ、自分の友人かもしれない人物の乗った機体を見る。
 「あれが、最後のクラフトシリーズ『イェフ・ハウンド』。後方支援に特化された機体
 よ」
 「最後?そういえば、他の2体とか言ってたね」
「クラフトシリーズは全部で3体しか作られなかったのよ。200年前の戦争終結間際に作
られた機体だったから…」
と、そんな話をしているうちに試合が始まっていた。
2体の奏甲が激しく銃撃戦をしている。
「あの赤い奏甲、確かラッキーアイゼンっていったわね」
「見たところ近・中距離型ってところですね……げふぅ!?」
「アオイおねえちゃん!?」
葵の言葉に続いた雷華が再び宙を舞い、ディーが悲鳴を上げる。
「敬語は?」
「ダメ……だったね…」
激戦が繰り広げられる奏甲戦をよそに、傍から見れば明らかにおかしな光景が展開され
る。
「おおっと、ここでラッキーアイゼンが動いたぁぁぁ!!」
 司会が言うようにラッキーアイゼンが背部のブースターをふかし、一気にイェフ・ハ
ウンドに接近しソードランチャーで切りかかる。制限時間内に相手の武器により受けたダ
メージ量で勝敗の決するこの試合では装甲が厚いからと言って迂闊に防ぐのは危険である。
しかし、次の瞬間誰もが驚いた。
 「ナイフで受け止めたぁぁぁ!何処から出してきたんだぁぁぁ!?」
 よく見ると腕の装甲からナイフが飛び出しており、それでソードランチャーを受け止め
ていた。だが、ナイフでソードランチャーを受け止めるのは無謀だったのか次の瞬間ナイ
フがあっさりと折る。誰しもがこれによるダメージは致命的と感じた。
 「惜しい!!残念ながら防ぎきれずにダメージを受けてしまったぁ!!」
 再び会場に実況の声が響く。
 「あの、葵さん。クラフトシリーズにはクロイツシリーズ同様、自己再生能力があった
 のでは?」
 「あのね、そんなの使ったら反則じゃないの。あれは、第一段階戦闘起動よ」
 その状況を見ていた雷華が抱いた疑問を葵に訊ねる。
 「第一段階戦闘起動?」
 「今のイェフ・ハウンドの状態がそれ。この状態でも並の絶対奏甲相手なら負けない
 わ」
 雷華の問いに葵が説明する。
 「アオイおねえちゃん第一段階ってことは、その次があるの?」
 ディーがもっともな疑問を投げかける。
「第二段階まであるわ。その段階まで起動させると、奏甲の色が変化してクロイツ並の
能力を発揮するわ。その状態で、MAX起動させることができたら華色奏甲のように光輝く
のよ」
葵がその問いに自慢げに答える。
「だけど、重量級の後方支援タイプであるイェフ・ハウンドじゃ、ラッキーアイゼン
には敵いそうに無いと感じるんだけれど」
雷華は試合を見ながら言う。実際、誰が見てもイェフ・ハウンドの方がおされていた。
「言ったでしょ、並の絶対奏甲相手なら負けないって」
「それじゃあ…」
葵が雷華の言葉に返答し、それを聞いたディーが心配そうにイェフ・ハウンドを見る。
「でも、伊達に『荒野の猟犬』って意味の名前を冠してないわよ」
その言葉を聞いて、雷華とディーがイェフ・ハウンドが何かやってくれるのかもしれな
いと期待して顔をそちらに向ける。
 しかし、期待にそう光景を見ることはできなかった。なぜなら、突如何処からか砲撃を
受けたからだ。
 「え?なに!?」
 司会・実況をしていた女性も驚きの声を上げる。客も皆パニックを起こす。
 「しまった、これじゃ奏甲を取りにいけないじゃない!!」
 その騒然とした状況を見て、葵が悔しげに言う。
 《雷華、俺らに任せとけ!》
 イェフ・ハウンドの搭乗者がそう言って、闘技場を跳躍して実に見事に飛び越え、その
後にラッキーアイゼンが続いて行く。
 「あの声……やっぱりあれに乗ってるのは」
雷華がそう呟いた頃には、2体の絶対奏甲は既に視界から消え去っていた。


 「げ、何だありゃ!?」
 一矢は驚きの声を上げる。それもそのはず、目の前には5体の衛兵種と1体の貴族種が
おり、それらをひきいるように1体の絶対奏甲がいたのだ。
 ≪おいおい、なんじゃありゃ?≫
 ≪うわ〜、奇声蟲を引き連れてるように見えるよあの絶対奏甲≫
 ラッキーアイゼンからそんな声が流れてくる。
 <あれはぁ、捜してた人たちみたいですよぉ>
 「みたいだな…」
 一矢は頭の中に響いてきたシルキー舌ったらずの声にそう返す。ツインコックピットの
おかげか、かなり鮮明に聞こえる。
 ≪おい、あんた達はあの絶対奏甲に様があるのか?≫
 「そうだ、できるならお前らに奇声蟲のほうは頼みたい」
 ラッキーアイゼンからそんな風に通信が入り、それに一矢が答える。
 ≪そうですか〜、ではお任せくださ〜い≫
 そんな、明るい歌姫の返事が返ってきた直後、ラッキーアイゼンは加速して一気に奇
声蟲に接近する。それに気付いた敵の絶対奏甲が止めようと動くが、逆にイェフ・ハウン
ドの射撃に阻まれる。
 「あんたの相手は俺だ。いろいろと教えて貰いたい事があるからな」
 外部へ聞こえるようにして一矢が言う。
 <第二段階戦闘起動しましたぁ>
 それと、同時にシルキーの声が頭に響き、奏甲の色が淡い緑から濃い緑へと変化する。
 ≪き、貴様らあのお方の敵か!?≫
 やや震えた声で敵が言ってくる。
 『敵の外見はクロイツタイプに酷似してますが 、細部が異なります。コピー機体の可能
 性があり、クロイツシールド等の装備も考えられます』
 同時にイェフ・ハウンドの擬似人格イェフが敵の解析結果を述べてくる。
 「解析結果とお前の口ぶりからすると、間違いなさそうだな」
 ≪ぐ…≫
 一矢の言葉に相手が口ごもる。
 ≪貴様ら相手では分が悪いので失礼する≫
 「は?」
 敵がいきなりそう言って、その場から高速で走り去った。その予期せぬ事態に、
一矢は呆気に取られ思わず止まってしまい。実にあっさりと逃げられてしまった。
 <一矢様ぁ、逃げられてしまいましたねぇ>
 「のんきに言うな!!ええい、憂さ晴らしにあっちを手伝うぞ!!」
 一矢はくやしそうに言って、ラッキーアイゼンの援護を始める。
 ラッキーアイゼンの方はカスタム機の性能を見せ付けていた。試合中にも見せた背部
のブースターを使用した素早い動きで敵に近づき、特徴的な武器のソードランチャーで衛
兵種をあっさりと静めている。その動きで敵も攻撃を当てられないのか、ダメージはほと
んど無く、たまに敵の攻撃がかする程度であった。
 イェフ・ハウンドの助けもあり、あっさりと衛兵種は駆逐される。
 ≪今日の俺は調子がいい。ミルフィー、一気にやるぞ!!≫
 ≪了解!スプライナーMD、A・Cモード起動!アーク・クリスタル活性率良好…≫
調子づいたのか、キョウスケとミルフィーがノリにノリだす。
「あいつら何言ってんだ?」
 <さぁ?なんでしょうぅ?>
 『ラッキーアイゼンの歌術効果数値に上昇が見られます』
 口々に疑問の声を上げる一矢とシルキーにイェフが情報を伝える。
 ≪これでおわりだぁぁぁぁ!!≫
回線が開きっぱなしのようなので、キョウスケの声がイェフ・ハウンドの中に響き渡る。
そして、ラッキーアイゼンが貴族種の後頭部にソードランチャーの一撃を叩き込む。する
と、次の瞬間貴族種の頭がずり落ち。胴と頭が切り離される。
 「な!?なにぃぃぃぃ!!」
 <はわぁ…、一撃ですよぉ>
 あまりの事に驚くが
 ≪うぉ!?一撃だ…≫
 ≪うそ〜…≫
 ラッキーアイゼンからそのような言葉が流れてくる。
 「ま、まぐれだったのか……?」
 <そうみたいですねぇ…>
 会話を聞いて当然、2人の驚きの声はすぐに呆れたものへと変貌した。
 「俺らカッコつけてきたわりに…」
 <何もしてませんねぇ〜>
 一矢とシルキーはため息と共にそんな言葉をこぼした。

 「ん」
 一矢の前で目つきの悪い青年、キョウスケが手を差し出す。
 「なんだ?」
 うすうす感づきながら一矢が訊ねる。
 「お礼を希望する。あんたら何もしなかったろ?だから、お礼」
 キョウスケの言ってることは正しかった。敵の奏甲を逃がしてしまい。奇声蟲掃討時に
援護はしたものの、とどめは全てラッキーアイゼンがさしていた。
 「一矢様ぁ、ここは仕方ないとぉ」
 シルキーも諦めた顔で言う。
 「わかったよ」
 そう呟いて、一矢はキョウスケ達に一泊分の宿代を礼として払う。
 「まいど〜。それじゃあな」
 「さようなら〜」
 そう言って、キョウスケとミルフィーの2人はラッキーアイゼンに乗って去っていく。
 入れ替わるように、雷華達が一矢達の前に現れる。
 「やっぱり君か、与一」
 「ひさしぶりだな、ハル」
 雷華と一矢がそう言葉を交わす。
 「ハル?」
 「与一…ですかぁ?」
 「ハルってライカおにいちゃんのこと?」
 葵、シルキー、ディーがそれぞれ疑問を口にする。
 「現世の弓の名手が『那須野与一』という名前で、彼も弓道で最高の成績を収めていた
 ので、そのようなあだ名に」
 「コイツの場合は、春日だからハル……って、お前『おにいちゃん』てなんだよ」
 それぞれのあだ名の由来を説明し、一矢は訝しそうな目で雷華を見て言う。
 「えっと?何かまずいのかい…?」
 雷華は理由が分からないらしく、不思議そうに見返して答える。
 「そうだったよ。お前はそう言うやつだった…」
 呆れた顔で一矢が呟くのを更に不思議そうに雷華が見やる。
 「葵ちゃん、お久しぶりぃ」
 「シルキーも久しぶりね」
 2人の歌姫も再会を喜ぶ。
 「で、ハル金を貸してくれ」
 「は?なんなんだい、藪から棒に」
 いきなりの一矢の言葉に雷華が訊ねる。
 「さきほどぉ、手持ちのお金でぇお礼を払ってしまったのでぇ…」
 「お金がないの!?」
 シルキーが雷華の疑問に答え、その答えに葵が驚く。
 「いや、これには聞くも涙、語るも涙な事情があってだな……」
 一矢がそう言って話し始める。どうやら、再会をちゃんと喜べるのはまだまだ先になり
そうである。

つづく


あとがき
 凄く久しぶりの投稿の気がします。(汗
 こんにちは、Akiraです。
 それもそのはず、実に前に投稿してから約四ヶ月の月日が……(滝汗
 キョウスケさん、遅れてすみません。ようやくクロスSSできました。
  例によって例のごとく不満、苦情その他なんでも承ります。もし、ここは
 違うんじゃないかというところなどがあれば、仰ってください。
 それと、この話は止めて欲しいと思われましたら、遠慮なく言って下さい。即抹消
 いたします。
  久しぶりにこの話を書いたのでキャラがずれてないかが心配の種です。
 とりあえず、今回は『雷華が現世での友人と再会する』ということと、『絶対奏甲同士
の戦闘を創造しやすいように書く』ということを目標に書いてみました。が、後者のほう
は上手くいったのかどうか……
 そ、それはそれとして、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、自分のホームページ
を作りました。まだ、いらしたことの無い方は一度覗いていただけると嬉しいです。
 それではこのへんで。
また、次回のあとがきでお会いしましょう。
Akiraでした。

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