病弱姫に花束を 『奏甲選び受難編』 天凪優夜 致命的にヤル気の少ない、19歳の機奏英雄。 のほほんと、徒然なるままにアーカイアを探索中。 一見、お人好しのようだが、本当にお人好しかどうかは意見が分かれるところ。 困っている人を見ると、もっと困らせたくなるトラブルメーカー。 現世に帰る事には、あまり執着心がない様子。 ルルカ ヤル気はあっても致命的に体力の少ない、病弱の歌姫。14歳 温かな家庭と家族に大切に育てられてきたが、いつも誰かの負担になっている事に、いつも心苦しさを感じていた。 ところが優夜の歌姫になった事で、状況は一変。誰かの負担になっていた日々から、全ての負担をその身に背負い、 自分がしっかりしないとその日の宿さえままならない日々に突入する。 毎日に張り合いが出来たのはいいが、果たしてそれが幸せなのか不幸なのかは微妙。 最近、生来の病弱に加えて、頭痛・胃痛も絶えないらしい。 ルルカ「………」 優夜 「あれ〜? ひょっとしてまだ怒ってんのか、ルルカ?」 ルルカ「……怒ってなんかいません。呆れているだけです」 優夜 「なんで?」 ルルカ「なんでって……! どこの世界にプルパァ・ケーファに乗って、たった一匹の衛兵に負けちゃう機奏英雄がいるんですかっ!」 優夜 「いやぁ〜。昨夜、寝不足だったんだから、つい」 ルルカ「だからって戦場で……奏甲の中で………イビキかいて寝る人がどこにいますかぁ!」 優夜 「ここに」 ゲシッ! 優夜の鳩尾に、ルルカの肘が突き刺さる。 ほんの数ヶ月前まで病の床に臥していたとは思えない、鋭い肘が。 優夜 「ゲホッ……ゲホッ……!」 ルルカ「わたしがどれほど、周りの歌姫さんから白い目で睨まれた事か……。優夜さんも舌噛んで恥て下さい! ……ケホッ、ケホッ!」 優夜 「ホラホラ。そんなにたぎると、また吐血するぞ?」 ルルカ「わ、わたしそこまで、身体を壊していません!」 プリプリと肩で風を切りながら、ボサネオ市の工房に入るルルカ。 その後を、少し遅れて優夜が続く。 先の戦闘でケーファを修理不能なまでに壊してしまった、優夜とルルカのペア。 次の戦闘に備えて、とにかく次の奏甲を入手しないと話しにもならない。 そういう意味では、ここボサネオ市は都合のいい場所とも言えた。 現在、奇声蟲退治の最前線であるボサネオ島最大の戦略拠点であるこの街には、他の都市に比べて優先的に大量の物資と、そして新型奏甲が送り込まれているからだ。 そんな中、一際目立つ金色の絶対奏甲に、ルルカは目を丸くして驚いた。 ルルカ「わっ! 優夜さん、優夜さん! アレを見て下さい、アレ!」 『マリーエンツ・グランツ』。 華色奏甲とも呼ばれる、旧大戦時代の上位機種だ。 シャルラッハロートと同様、既に建造から二百年が過ぎている機体だが、新型のフォイアロート・シュバルベやプルパァ・ケーファを遙かに凌ぐ性能を有している。 優夜 「……なんか、趣味の悪そうな奏甲だな」 ルルカ「ったく、コレだから優夜さんは……。あれは華色奏甲といって、本来なら貴族とか高級軍人さんしか乗れない、貴重な奏甲なんですよ!? アレに乗れば優夜さんだって……ケホ……大活躍が出来るはずです! ケホ、ケホ」 優夜 「つまり、オレとルルカの黄金奏甲による、黄金プレイが可能だと?」 ルルカ「オ、オウゴンプレイ? なんですかその、アーカイアにはない言葉の響きは……?」 優夜 「気にしない気にしない。それよりもアッチの、新しい奏甲なんかどうだ?」 優夜の視線が、マリーの隣りに佇む青い奏甲に向けられた。 ルルカ「アレは……どうやらシャルラッハロートの新型のようですね。でも、止めておいた方がいいですよ。 ウワサによると、色々な機能が追加された割には前作もよりも出来が悪くて、特徴のないのが特徴の典型的な汎用……いえ、凡庸奏甲だそうですから」 優夜 「典型的な凡庸奏甲……いいなぁ、ソレ」 ボソリと零れた不穏な言葉に、ルルカは柳眉を逆立てた。 ルルカ「な、何を言っているんですか優夜さん! あんなのに乗って、また衛兵ごときに撃破なんかされたら……笑い者になるのはわたしなんですよ!? ケホッ、ケホッ!」 優夜 「いや、その特徴のないのが特徴ってのが、妙に気に入ったし」 ルルカ「そんないい加減な趣味で奏甲を選ばないで下さい!」 優夜 「それにホラ、仕様書に「新搭載されたダビングシステムによって、歌姫が力尽きてもしばらくの機体活動が可能となっている」ってあるだろ? コレってオレとルルカのコンビにピッタリの機能だと思わないか?」 ル「……優夜さんは、わたしが歌唱中に力尽きると思っているんですね?」 ニコリと微笑むルルカ。 しかし、その額には怒りのマークが浮かび上がっていた。 優夜 「んじゃ、そういう事でシャル3に決定だな」 ルルカ「な、なにがそういう……こと…………」 フラフラフラ〜〜〜。 血圧が上がりすぎた為か、ルルカが軽い目眩に足元をふら付かせる。 優夜 「な? こういう時とかに、役立ちそうだろ?」 ルルカ「………もう、好きにして下さい」 優夜 「うん」 即答、だった。 ルルカ「ううぅ、なんだかとっても、胃が痛いです……」 優夜 「どうした? 今度こそ本当に、吐血しそうなのか?」 ルルカ「誰のせいだと思っているんですか!」 烈火の如く怒るルルカだったが、この機能が本当に役立つ時が来るのだが………。 それはまた、後日のお話し。 病弱姫に花束を 『奏甲選び受難編』(終) 後書き はじめまして……の方もいるのでしょうか? 天凪優夜と申します。 これは公式hpの掲示板「勝手に物語る」に初めて書き込んだSSに、ちょっと手を加えて書き直してみたものです。 何を隠そう、SS自体がコレが初めてでした。自らの文書能力のなさに舌を噛みつつ、現在精進の日々を送っております。 この後も何作かの短編と、そして無謀にも初めてしまった長編を掲載させていただく予定です。 どうか見捨てずに、読んでもらえたらなぁ〜と思っています。 ではでは。 |