病弱姫に花束を 『陣営選び、宿縁編』 天凪優夜 致命的にヤル気の少ない、19歳の機奏英雄。 のほほんと、徒然なるままにアーカイアを探索中。 一見、お人好しのようだが、本当にお人好しかどうかは意見が分かれるところ。 困っている人を見ると、もっと困らせたくなるトラブルメーカー。 現世に帰る事には、あまり執着心がない様子。 ルルカ ヤル気はあっても致命的に体力の少ない病弱の歌姫。15歳。 温かな家庭と家族に大切に育てられてきたが、いつも誰かの負担になっている事に、 若干の心苦しさを感じていた。が、優夜の歌姫になった事で、状況は一変。 誰かの負担になっていた日々から、全ての負担をその身に背負い、 自分がしっかりしないとその日の宿さえままならない日々に突入する。 毎日に張り合いが出来たのはいいが、果たしてそれが幸せなのか不幸なのかは微妙。 最近、生来の病弱に加えて、頭痛・胃痛も絶えないらしい。 その日、ボサネオ市の内外はかつてない混沌の渦に巻き込まれていた。 白銀の歌姫の突然の裏切り。 アーカイアに召喚された機奏英雄を待ち受ける、蟲化という呪われた現実。 加速を続ける時の流れは、機奏英雄とその宿縁である歌姫の想いを無慈悲に蹂躙しつつ、 その勢いを一層加速させつつあるかに見える。 そして世界は二つに分かたれた。 白銀の歌姫が率いる「白銀の暁」軍。 彼女を反逆者と裁こうと集結する「評議会」軍。 その構図は現世人なら誰しもが見慣れた、異なる主張を武力によって討伐する手法…… すなわち『戦争』だった。 ある者は自分の正義と指導者の大義を重ね合わせ…… ある者は最終的な勝者になるであろう陣営を見極め…… そしてある者は自暴自棄の果てに、自らを災厄の種として世界を乱しながら……。 アーカイアの大地を麻のように乱してゆくのであった。 そんな混乱の中、機奏英雄・天凪優夜もまた騒然とするボサネオ市の校外にて、 落とした肩を夜の帳に抱かれながら、自らの岐路に深い苦悩の色を滲ませていた。 ………かに、見えるのだが。 優夜 「カモメがそらを飛ぶぅ〜よ……まぁるでかぜぇ〜のよぉ〜に………」 ルルカ「あの、優夜さん?」 街の外で星を見上げ、呟くように抑揚のない歌を口ずさむ優夜の背中に、ルルカは遠慮がちに 声をかけた。 優夜 「………そぉ〜らは黙っていぃ〜ても……なにかを教えてくぅ〜れた…………」 ルルカ「優夜さん……優夜さんってば! 優夜 「………」 ルルカ「もう、そんな音程もリズムも滅茶苦茶な歌を唄ったところで、何も変わりませんよ?」 優夜 「………」 ルルカ「……と、とにかく元気を出して下さい! まだ蟲になっちゃうって、決まったわけじゃないんですから! 優夜 「……………かもね(ボソ)」 ルルカ「ああ、もう! だから、そんな暗い顔をしないで下さい! 心が沈んでいると、わたしみたいに直ぐに病気になって身体を壊しちゃいますよ!?」 優夜 「ゲッ、そいつはマジでヤバイな」 ルルカ「…………(クッ、即答ですか!)」 拳をふるふると震わせて、ルルカはグッと堪える。 ルルカ「何はともあれ、とにかく陣営を選びませんと!」 優夜 「……陣営? 選ぶ?」 ルルカ「そうです! 陣営です! この世界の秘密を明かした、白銀の歌姫の軍に参加しますか? それとも評議会を信じて、このまま母姫様の元に残りますか?」 優夜 「………」 ルルカ「ちなみにわたしは、優夜さんが選ぶならどちらでもいいです。 どちらを選んでも、わたしはちゃんと、お供しますから………」 言いながら、何かを決意するように、ルルカは小さな拳をギュッと結ぶ。 仮に優夜が「白銀の暁」に身を投じるというのなら、 それは母姫たる黄金の歌姫に叛く事にも繋がりかねない。 例えルルカ自身にそのつもりがないとしても、世界はそうと見てくれないだろう。 この世界で暮らす全てのアーカイア人にとって、母姫に対する裏切りは最大の禁忌であるのだから。 だが、それでもルルカは構わないと宣言したのだ。 自らの『宿縁』を信じて、付き従うのだと………。 優夜 「……ルルカ、お前………」 ルルカ「へ、変な意味に勘違いしないで下さいよ!? 機奏英雄に付き従うのは、 歌姫としての義務だから、仕方なくお付き合いするだけなんですからね! わたしと優夜さんは……その……『宿縁』で結ばれているわけなんですから。 だから………だから、離れ離れになっちゃいけないんです。絶対に……」 優夜 「ルルカ………」 驚いたような優夜の眼差しを受けて、ルルカは自分の顔が真っ赤に染まってゆくのを自覚していた。 何故、こんなに顔が熱くなるのかは判らない。 けれども、優夜と離れ離れになりたくないという気持ちだけは、ハッキリと判る。 ルルカ「この広いアーカイアの大地の中で、優夜さんのお役に立てる歌姫はわたしだけなんです。 そのわたしが優夜さんを見捨てたら、誰が優夜さんを救ってくれるんですか? 優夜さんみたいに大して強くもない英雄なんて、誰も救ってはくれないんですから」 ギュッ……。 赤くなった顔を俯かせ、ルルカは優夜の袖を握った。 離れないと、放したくないという自分の想いを、行動によって表すかのように。 優夜 「………(なにやら激しく罵倒されているような気もするが) ま、確かにルルカが居なくなると、困るよな」 居なくなると困る。 その一言に、ルルカの顔がパッと輝く。 ルルカ「ええ、そうですとも! わたしが居ないと、優夜さんは絶対に困っちゃいます! それにもし優夜さんが蟲になったとしても、わたしは優夜さんを守り続けます! (……ゴメンナサイ、優夜さん。わたし、ウソをついてます。本当に助けて欲しいのは、 わたしなんです。病弱で、いつ死ぬかも判らないわたしみたいな人間を、 「歌姫のルルカ」として必要としてくれるのは、この世界で優夜さんだけだから……。 誰からも必要とされない「歌姫じゃないルルカ」に戻ることが、わたしはとても……… ……怖いんです)」 優夜 「………ありがとよ、ルルカ」 優夜がポンっと、ルルカの金色の髪に手を置いた。 ルルカ「あっ……」 首をすくめるように俯くルルカ。 不意に訪れた沈黙の隙間に、冷気を帯びた夜気が流れる。 それは上気したルルカの頬の上を優しく撫でて、柔らかな髪を静かに揺らした。 子供扱いされているはずなのに、ルルカは不思議な心地よさを感じた。 例え世界中からこの想いが間違っていると批難される事があったとしても、 今なら胸を張ってそんな事はないと言い切れる自信すら湧いてくる。 そして、これこそが『宿縁』の意味なのだと、ルルカは深く確信するのだった。 優夜 「でも、オレが本当に蟲になっちまった、その時は………」 ルルカ「………その時は、なんですか?」 優夜 「その時は………っていうか…………」 ルルカ「………?」 不意にその場の空気がガラリと一変するのに、ルルカは気がついた。 心地よかった風の流れは止まり、なにやらねっとりとした生温かい雰囲気が四肢に絡み付いてくる。 優夜 「…………(じぃ〜〜〜)」 ルルカ「な、なんですか優夜さん? その微妙に鳥肌の立つ、無言の眼差しは?」 頬の上に汗を滑らせ、ルルカは訊ねた。 優夜 「……いや、見れば見るほど襲いがいのない身体つきだなぁ〜って」 ルルカ「……………はい?」 優夜 「肉付きが薄いっていうか……特に胸の辺りとか、あるいは胸の辺りとか、 もしくは胸の辺りとか」 ルルカ「優夜さん……」 ぴきぴきと、ルルカの額に血管が浮かび上がる。 優夜 「いや、待てよ。確か蟲には触手がったハズだから………。 どうせなら、アレをコレして………触手でギュッと押し出すように縛り付ければ、 ルルカみたいな起伏の乏しい身体にも起伏が生れて………みたいなシチュエーションに 持っていけば、コレはコレで………萌え」 ルルカ「………あ、あなたって人は〜〜〜!」 優夜 「ってなワケで、蟲化した時もイロイロとヨロシク。 後、オトナな歌姫を紹介してくれると、お兄さん嬉しいなぁ〜」 ルルカ「爽やかな顔でナニをほざきますか、この人は!」 優夜 「アレ? ひょっとして嫉妬?」 ルルカ「そんなわけありませんっっっ!」 バキィッ! ルルカの握った小さな拳が、天を衝く勢いで優夜の顎に叩き込まれ、 優夜 「ぐはぁ……!」 そして優夜はアーカイアの夜を彩る流れ星の一つとなった。 こうして混乱の夜に新しい朝が訪れた後、 ルルカと優夜は「白銀の暁」軍・「評議会」軍のいずれにも参戦する時期を喪失していた。 やむなく二人は、トラベラーとして無色の工房へ身を寄せた。 決められた拠点を持たず、何処の組織からも命令されない、自由な旅の風となる為に……。 優夜 「でも、社会的に見れば『住所不定無職』だよな、オレ達って」 ルルカ「誰のせいでそうなったと思っているんですかぁ!」 病弱姫に花束を 『陣営選び、宿縁編』(終) 後書き どうも天凪です。 これが一応、公式掲示板では第二話でした。 この時点から、機奏英雄・天凪優夜は最弱のキャラで、「やる時はやる」ではなく、 「やる時もやらない(出来ない)」というポジションを、明確に意識したような記憶があります。 こんな漫才コンビで、戦雲たなびくアーカイアの大地を渡っていけるのか? 渡っていけたら、それはそれで面白いかも。 そう思って、次の第三話では「輸送キャラバン護衛」というオンラインのイベントとクロスさせた エピソードに、挑戦する事にしたのですが………。 それでは次回の更新を、お楽しみに。 |