病弱姫に花束を 『キャラバン救出、伝説編』

 

 

天凪優夜 致命的にヤル気の少ない、19歳の機奏英雄。

     のほほんと、徒然なるままにアーカイアを探索中。

     一見、お人好しのようだが、本当にお人好しかどうかは意見が分かれるところ。

     困っている人を見ると、もっと困らせたくなるトラブルメーカー。

     現世に帰る事には、あまり執着心がない様子。

 

 

ルルカ  ヤル気はあっても致命的に体力の少ない病弱の歌姫。15歳。

     温かな家庭と家族に大切に育てられてきたが、いつも誰かの負担になっている事に、

     若干の心苦しさを感じていた。が、優夜の歌姫になった事で、状況は一変。

     誰かの負担になっていた日々から、全ての負担をその身に背負い、

     自分がしっかりしないとその日の宿さえままならない日々に突入する。

     毎日に張り合いが出来たのはいいが、果たしてそれが幸せなのか不幸なのかは微妙。

     最近、生来の病弱に加えて、頭痛・胃痛も絶えないらしい。

 

 

 

 

アーカイア最大の国家であるトロンメルの首都、「麗しの都」エタファ。

ボサネオ島から大陸に渡った機奏英雄の大半が、まずはこのエタファを経由する。

そしてこの街で旅の準備を整えた後、夢と野心を胸に抱え、広大な大陸の各地に散ってゆくのだ。

 

そんな多くの英雄の中に、天凪優夜の姿もあった。

ただ、彼が他の英雄と違う点があるとすれば、それは次の拠点に移動する為の、

路銀を持ち合わせていない事だろう。

 

そんな優夜が見つけた仕事が、輸送キャラバンの護衛であった。

 

ルルカ「あの〜。本当に大丈夫なんですか、優夜さん?」

優夜 「あ〜? なにが?」

シャル3の肩にちょこんと座る歌姫に、優夜はのんびりとした声で応えた。

ルルカ「だって護衛ですよ、護衛。いくら報酬が良いからって、優夜さんの腕でこんな荒っぽい

仕事を引き受けるなんて、自殺行為に近いんじゃないかと……」

優夜 「相変わらず判ってないなぁ、ルルカは」

ルルカ「そのお言葉は、そっくりそのままお返しします」

優夜 「いいか、ルルカ。護衛の仕事なんてものは、張子の虎でいいんだよ」

ルルカ「……どういう根拠ですか、ソレは?」

優夜 「そんな毎回毎回、強盗事件なんて起きないってこと。

    この手の仕事はな、ただ突っ立っているだけで終わっちまうものなの」

ルルカ「そうなんでしょうか?」

訝しげに呟き、ルルカは後方に輸送隊の本体を振り返った。

ルルカ「でも、随分と曰くのありそうな積荷のようですよ? 本当に大丈夫なんですか?」

全体を布で覆われた積荷は、どうやら絶対奏甲であるらしい。

試作段階の新型か……或いは、発掘された未知の華色奏甲か………。

優夜 「いずれにしても、人目に晒す事が憚れるような代物だ。

それだけに、なんともいえない不安が、ルルカの薄い胸を過るのだった」

ルルカ「もっともらしく変なナレーションを入れないで下さい!

    っていうか、誰の胸が薄いんですか!」

優夜 「わははははは!」

ルルカ「笑わないで下さい!」

優夜 「あっ、そうだ。後でちょこっと、どんな奏甲か覗いてみないか?」

ルルカ「い、いけませんよ、そんな事をしたら!?」

優夜 「とか何とか言っちゃって、本当はルルカも覗きたいくせに」

ルルカ「それは……ちょっとくらいは………って、ダメですってば!」

優夜 「チッ……。いいか、ルルカ? そんな生真面目な生き方は、後で絶対に損するぞ?

    もっと人生に浪漫とか夢を持たないと」

ルルカ「そんなの関係ありません! 夢なら寝てから見て下さい!」

優夜 「寝てみる夢は、夢じゃないのさ……」

ルルカ「じゃあ起きて見る夢も、夢じゃありませんよね?」

優夜 「……だんだん小癪になってきたな、ルルカ」

ルルカ「誰かさんと一緒に居れば、イヤでもそうなり………って、なんですかあの土煙は?」

優夜 「ん〜〜〜? どれどれ……って、どうやら絶対奏甲みたいだぞ?

おお、よく見りゃアッチにもコッチにも……随分と居るみたいだなぁ〜」

ルルカ「そ、それってまさか………」

サァーっと、ルルカの顔が蒼ざめる。

優夜 「ああ、どうやら引継ぎの護衛部隊が到着したみたいだ。

いやぁ〜、楽な仕事だったな、ルルカ」

ルルカ「どういう頭の構造をしているんですか、優夜さんはっ!」

 

 

砂塵を舞い上げ、次々とキャラバン隊に襲いかかる謎の襲撃者。

不意を衝かれ、他の護衛奏甲部隊も混乱している中、一機の奏甲が優夜の前にも迫る。

ルルカ『き、来ましたよ優夜さん! 敵はハイリガー・トリニティーのようです!』

前衛部隊を突破したハイリガーに、「ケーブル」を通すルルカの声色も硬く上ずっている。

優夜 「……なぁ、やっぱり護衛を引き継ぎにきた連中って可能性は」

ルルカ『ありません! いつまでも脳ミソのゆるい事を言ってないで、

お給料分はしっかりと戦ってください! もう前金は頂いているんですからね!』

優夜 「やれやれ、貧乏人はツライねぇ〜」

ルルカ『判っているとは思いますけど、奏甲を壊したら今日のご飯はありませんからね。

誰かさんが無駄遣いばっかりするおかげで、本当にお財布がピンチなんですから』

優夜 「……そのワリには、エタファで随分と買い物してなかったかぁ? 

『あ、新製品のハーブ!』とか『こののど飴はカリンの味がするんです』とか

『このペパーミントの香りはリズム感をよくするんですよ』とか」

ルルカ『うっ……』

優夜 「他にもルルカには早い『口紅』とか『口紅』とかも」

ルルカ『い、いいじゃないですか、そんな話しは!』

と、そこへハイリガーの長槍が、シャル3を貫くべくコックピットに迫る。

ギィィィンッッ!

ルルカ『優夜さん!?』

ルルカの悲鳴に、シャル3の装甲版から飛び散る激しい火花が重なった。

優夜 「っと、アブねぇアブねぇ。ムダ話はここまでだ、ルルカ。

しっかりとオレの為に織歌を紡いでくれよ。バッチリ歌えたら、

後でお兄さんがルルカにピッタリのカスタネットを買ってあげるから」

ルルカ『いりません!』
ズダダダダ!
ルルカの織歌を受けて、シャル3のマンシンガンが大量の弾丸をハイリガーに向かって吐き出す。

分厚い鋼鉄で覆われたプルパァ・ケーファの装甲すら撃ち抜く焼夷徹甲弾の弾列は、

しかしその殆どが荒野の上に虚しい弾痕を穿ったにすぎない。

僅かに数発の弾丸がハイリガーを掠めたが、その突撃を妨げるには程遠かった。

猛然と長槍を突き出すハイリガーに、優夜のシャル3は瞬く間に劣勢に陥ってしまった。

ルルカ『なにやってるんですか! しっかりして下さい!』

優夜 「クソッ! なんかコイツ、衛兵よりも手強いじゃねぇーのかぁ!?」

ルルカ『当たり前です! ハイリガーはシャル3よりも上位機種なんですよ!? 

  (っていうか、衛兵よりも弱い奏甲なんてあるワケないじゃないですかぁ〜)』

貧血とは違う軽い目眩に襲われて、ルルカは眉間に浮いた苦悩のシワを細い指先で押えた。

エタファで買った頭痛薬が、さっそく役に立ちそうである。

優夜 「納得いかん! ヒトデを擬人化したような当たり判定の甘そうな奏甲のクセに!」

ルルカ『納得いかなくてもそうなんです! それに苦戦しているのは優夜さんダケです!』

 

 

ルルカの指摘通り、乱戦の中で倒されているのは敵奏甲が殆どだった。

一時の混乱から立ち直った護衛部隊は、ブリッツ、マリーエンは言うに及ばず、

シャル3より旧型のシャル2ですらハイリガーを駆逐しはじめていた。

ハイリガーは奏甲の調律不足か、それとも機奏英雄と歌姫の錬度が低いのか、

本来の性能をまるで活かしきっていない。

そんな動きの鈍い相手にも関わらず、優夜のシャル3だけが苦戦している理由は一つしかなかった。

無論、歌姫の織歌が悪いわけではない。

それは懸命に織歌を紡いでいる少女の名誉の為に、明記しておくべきだろう。

その状況をどこまで理解しているのかは不明だが、自軍が有利と気付くや否や、

優夜はハイリガーを倒す事よりも攻撃を躱す事だけに集中しはじめた。

 

 

優夜 「よしよし。コッチが圧倒的に優勢なら、オレが無理する必要はねぇーよな」

ルルカ『まぁ、確かに優夜さんが無理しても、周りのみなさんの邪魔なだけですから……』


優夜 「そうと決まれば話しが早い! ルルカ、『姫と英雄による二重奏』を頼むぜ!」

ルルカ『……どうせ逃げ回るタメに、なんですよね?』

もはやルルカの声色は、悟りと諦めの成分のみで構成されていた。

現実とは、かくも残酷で辛いものなのだと、ルルカは身に染みて感じるのだった。

優夜 「もちろん! 敗走させたら右に出る者はいないと言われたオレの伝説が、今ここに!」

ルルカ『頼みますから、そういう恥ずかしいセリフは大きな声で口にしないで下さい!』

周りの歌姫たちの白い眼差しに囲まれる中、ルルカは耳まで赤くしながら歌術の詠唱を開始した。

キリキリと痛む胃の上を、その小さな掌で押えながら。

そして……

この戦闘を無事に怪我なく切り抜けられそうな宿縁の姿に、少しだけ安堵しながら……。

 

 

こうしてハイリガーは戦場から駆逐された。

キャラバン隊は無事に輸送中の絶対奏甲を守り抜く事に成功したのだ。

ちなみに依頼の報酬を受け取る際、顔を引き攣らせるキャラバン隊のリーダに、

「み〜ちゃったぁ、み〜ちゃったぁ〜♪ コガネとア〜カのカラーリング〜♪」

という謎の歌詞を大声で歌った某機奏英雄は、戦果もないのに他の機奏英雄よりも、

何故か割増しの報酬金を得たという。

 

 

もっとも、ホクホク顔の機奏英雄に対し、

???「お願いですから、これ以上恥ずかしいマネはしないで下さい!」

と、涙混じりに訴える歌姫の声が、エタファの街に響き渡ったという。

 

 

優夜 「はい、カスタネット♪」

ルルカ「本当に買わないで下さい!」

 

 

病弱姫に花束を 『キャラバン救出、伝説編』(終)

 

 

 

後書き

第三弾ですが、楽しんでいただけたのでしょうか?

元ネタの舞台が戦記ものでありながら、主人公が最弱キャラだと戦闘もこんな感じになります。

ちなみに優夜のパラメータを紹介すると、

力・1 情・1 意志・8

っと、言ったところでしょうか。

意志が異常に高いのは、コレが回避に関係するパラメータだからで、

決して優夜が「何ものにも挫けない、鋼の意志を持った英雄」というワケではありません。

ちなみにオンライン上では、この辺りから優夜・ルルカの絆がMAXになりました。

一度でいいからSSの方でも、ルルカに

「優夜さんの強さを受け止めて……私も頑張れる!」

って言わせてみたいものなのですが………無理だろうなぁ。

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