天凪優夜 致命的にヤル気の少ない、19歳の機奏英雄。 のほほんと、徒然なるままにアーカイアを探索中。 一見、お人好しのようだが、本当にお人好しかどうかは意見が分かれるところ。 困っている人を見ると、もっと困らせたくなるトラブルメーカー。 現世に帰る事には、あまり執着心がない様子。 ルルカ ヤル気はあっても致命的に体力の少ない病弱の歌姫。15歳。 温かな家庭と家族に大切に育てられてきたが、いつも誰かの負担になっている事に、 いつも心苦しさを感じていた。ところが優夜の歌姫になった事で、状況は一変。 誰かの負担になっていた日々から、全ての負担をその身に背負い、 自分がしっかりしないとその日の宿さえままならない日々に突入する。 毎日に張り合いが出来たのはいいが、果たしてそれが幸せなのか不幸なのかは微妙。 最近、生来の病弱に加えて、頭痛・胃痛も絶えないらしい。 ……タンッ! タタタンッ! タタタンッ! 断続的に轟く絶対奏甲の銃声が、荒れた大地の上に幾度となく響き渡った。 優夜 「ええいっ! コイツ、いい加減に往生しやがれ!」 吐き捨て、優夜は正面の奇声蟲に向かってマシンガンを乱射する。 タタタンッ! タタタンッ! しかし、銃弾は無意味に大地を掘り起こすだけで、肝心の奇声蟲には命中しない。 優夜 「クソッ! 全然、命中しねぇ〜〜〜!」 弾が当たらないのは、まぁ、ある意味いつもの事である。 が、今日はいつにも増して命中率が悪かった。 優夜 「どうなんてんだ、ルルカ!? 奏甲の反応が、いつもより鈍いぞ!?」 堪らず優夜は「ケーブル」越しに状況を確認する。 奏甲の反応が鈍いのは、歌姫の織歌がちゃんと届いていない証拠だからだ。 ルルカ『……って…さい………夜さん……今、歌術を使い………』 すると返ってきたルルカの声に、いつものようなキレがない。 どこか熱っぽく、まるでうわ言のようですらある。 優夜 「ああ!? なんだって、ルルカ!? よく聞こえねぇーぞ!」 と、その時だった。 ルルカ『クシュン!』 ……ガクン。 ルルカのクシャミに合わせるように、シャル3の片膝が唐突に崩れた。 優夜 「ル、ルルカ!? おい、ルルカぁ!」 ルルカ『………ふぁい?(ジュル)』 優夜 「ふぁい、じゃなくて歌! 鼻水なんか啜ってないで、織歌が途切れてるぞ!」 ルルカ『わ、わたし鼻水なんか……ケホ、ケホ……啜っていません! ケホ、ケホ!』 とかなんとかやっている間に、奇声蟲がシャル3の上に飛び掛る。 優夜「うわ! うわ! うわ!」 必死に奇声蟲を引き剥がそうとする優夜。 が、思うように奏甲が動かない。 瞬く間に押し倒され、コックピットの正面に奇声蟲の禍々しい牙が映った。 ガジガジガジ! 優夜 「齧られてる! 齧られてる! 齧られてるぅぅぅ!」 ルルカ『ま、待ってて下さい! 今、歌を……ケホ、ケホ…ケホッ』 ニュルニュルニュル〜〜〜。 奇声蟲はコックピットを覆う装甲板を噛み砕くと、亀裂の隙間から触手をこじ入れた。 ヌルヌルと光るソレは、本来なら歌姫を縛り、拘束し、そして…………… まぁ……色々と、アレな事に使われる器官だったりするのだが………、 優夜 「うわあああ、触手が! 触手がぁぁぁ!」 取りあえず優夜は『男』なので、まずは安心だろう。 優夜 「安心なものかぁ! や、やめろ! オレにそんな趣味は………」 ルルカ『ゲホッ……す、すみません、優夜さん……逃げ…ゲホッ! ゲホッ!』 優夜 「あ、こら、どこ触ろうとしてんだ!? ズボンを引っ張るな! う、うわぁぁ〜〜〜!」 病弱姫に花束を 『歌姫の休日 闘病編』 優夜 「………37度6分。ま、軽いカゼだな」 ルルカ「ううぅ。ごめんなさい………ケホッ」 体温計を眺める優夜に、ルルカは赤味の差した顔を、恥しげにシーツの下に隠した。 その後、どうにか無事に町まで帰還した優夜。 が、出迎える人々の中にルルカの姿は見当たらなかった。 それもそのはず、ルルカは熱を出して倒れてしまっていたのだ。 ルルカ「あの、怒ってないんですか、優夜さん?」 優夜 「怒るも何も、病気なのはルルカのせいじゃないだろ? さすがに戦闘中だったから、 ビックリはしたけどな。しかし、ルルカが倒れるのも久し振りだな。五日ぶりくらいか?」 ルルカ「わ、わたし、そんなに頻繁に倒れていません! 多分、一週間ぶりくらいです………」 毅然として否定しようとしたルルカだったが、その語尾は次第に弱々しく萎んでいった。 ルルカは、生まれつき病弱な体質だった。 産声を上げたその年に、医者から最初の冬は越せないと宣言されたほどである。 何度も流行り病を患い、その度に生死の境を彷徨ってきた彼女にとって、 微熱やカゼは日常茶飯事のレベルに近い。 もっとも、体力の乏しいルルカなので、熱に慣れるという事はないので、 些細な熱でも出ればしっかり倒れてしまうのが常だった。 それが今回の場合、たまたま戦闘中だったという事である。 ルルカ「……でも、優夜さんが無事でよかったです」 優夜 「危うく卵を植え付けられるところだったけどな……」 言いながら、擦り切れた笑みを横顔に浮かべる優夜。 全身をベトベトした『卵』まみれになった状態を、どこまで『無事』と表現するかは、 人それぞれの主観によって微妙に異なるだろう。 が、どうにか町まで帰還した優夜を迎えた住民が、顔を引き攣らせていたのは事実である。 それもどちらかというと、「うわ! 近寄るな!」的な雰囲気で。 ルルカ「あ、あの、優夜さん……?」 優夜 「オレ……汚れちゃった………」 ルルカ「だ、大丈夫です! 優夜さんは以前からヨゴレですから!」 優夜 「だったらルルカもヨゴレみるか? んん?」 ルルカのこめかみをグリグリと、ゲンコツで挟む。 ルルカ「ああああ、すみません、すみません、すみません〜〜〜!」 優夜 「ったく。ダビング・システムが起動しなかったら、今頃どうなっていたことか……」 ルルカ「うぅぅ。まさかその機能が、本当に役に立つ時が来るなんて………恥ずかしい」 優夜 「まぁ、過ぎた事を今さら言ってもしょうがない。 オレもまぁ、取りあえずは無事だったわけだし………。 折角だから、たまにはじっくりとルルカの看病でもしてやろうか?」 ルルカ「え、えええ〜〜〜!?」 予想外の言葉に、ルルカは素っ頓狂な声を上げた。 ルルカ「ケホッ、ケホッ! そ、そんなタダのカゼくらいで……ケホッ…悪いです」 優夜 「ククククッ。まぁ、そう遠慮しなさんなって」 ルルカ「な、なんでしょうか、その意味ありげな笑い方は……?」 ジリジリと近づいてくる優夜の笑みに、ルルカは頬の上に汗を滑らせた。 それでも毅然として断れないところが、ルルカのルルカらしいところだろう。 優夜 「さて、それじゃナニから始めようか? して欲しい事があったら、お兄さんになんでも言ってごらん?」 ルルカ「じゃ、じゃあ……あの………その………」 モジモジと、ルルカはシーツの下で指をくねらせた。 俯く顔が、完熟トマトのように真っ赤に染まる。 ルルカ「………(い、言えません。眠るまで手を握って欲しいだなんて、 恥しくって言えませんよぉ〜〜〜)」 優夜 「取りあえずメシにでもするか? レバニラ炒めとかスタミナ定食とか、体力がドカンとつきそうヤツ」 ルルカ「き、気持ちは嬉しいんですけど、もうちょっとこう、アッサリ系の方が………」 優夜 「んじゃ、カゼを直す為に一緒に寒風摩擦でもするか?」 ルルカ「そ、それはカゼの予防方法で、治癒方法じゃないような……」 優夜 「ぶら下がり健康器」 ルルカ「それとカゼと、どんな関係があるんですか?」 優夜 「ならばオレの国の伝統的な民間療法、タマゴ酒なんてどうだ?」 ルルカ「い、いけません、お酒だなんて! わたし、まだ十五歳なんですよ!?」 優夜 「おいおい、前にも言っただろ? オレの国じゃ、お酒は十五歳からオッケーだって」 ルルカ「……確かあの時は、十六歳からって豪語していませんでしたか?」 優夜 「細かい事は気にしない、気にしない。 あ、そうだ。なんだったら、さっき手に入れた蟲の卵で……」 ルルカ「絶対にいりません!」 優夜 「美味しいかもしれないのに」 ルルカ「かもってなんですか、かもって! ううぅ〜。本当は優夜さん、仕返しをするつもりなんでしょう?」 優夜 「ハハハ。ナニをバカな。こう見えてもオレは看病のプロ。向こうの世界に居た頃は、 妹がルルカみたいによく熱を出してたから、ずっと面倒をみてやったくらいだ」 ルルカ「優夜さん、妹さんが居たんですか?」 優夜 「おうよ。寝たきりの妹の身体を拭いてあげたり、着替えを手伝ったり、 下着を選んであげたり……他にも色々と、感謝されたもんだ」 ルルカ「……それ、絶対に感謝されていないと思います」 優夜 「あの時はよく「この、お兄ちゃんのエロス人(びと)!」って言われたっけなぁ」 ルルカ「エロス人ってなんですか、エロス人って!」 優夜 「なんだったら、ルルカの身体も拭いてやろうか? 背中からがいいか? 前からがいいか? それともマニアックにお尻から?」 ルルカ「遠慮します! っていうか、わたしに触れようとしたら、 泣き叫びながら窓から飛び降り……ゴホッ、ゴホッ!」 優夜 「ほらほら、無理するから」 ルルカ「ハァ、ハァ……。看病はもういいです。薬を飲んで、大人しく寝ますから、 薬を持ってきて下さい」 優夜 「よし、判った」 ルルカ「一応、念を押しておきますけど、 イモリの墨焼きみたいな古典的なヤツなら要りませんからね」 優夜 「…………(チッ)」 ルルカ「いま、チッて言いましたね、チッて!」 優夜 「あ、そうだ。オレの田舎じゃ熱冷ましには、ネギの芯をお尻に詰めればたちまち……」 ルルカ「絶対に却下です!」 そして翌日、ルルカの熱は完全に下がったのだが……。 優夜 「ハァハァハァ……。く……油断した」 ルルカ「自業自得です。え〜と熱は……わっ、39度もありますよ!」 優夜 「ちょ、ちょっと待て……。なんでルルカは37度だったのに、オレは39度なんだ?」 ルルカ「知りません」 優夜 「………保菌者(ボソ)」 ルルカ「何かいいましたか!」 優夜 「ゴホ、ゴホ! いや、気のせいだろ。ゴホ、ゴホ!」 ルルカ「それじゃあ、お粥を作ってきましたので、食べて下さいね。はい、ア〜〜〜ン」 優夜 「い、いや、今は食欲が………」 ルルカ「ア〜〜〜ン」 優夜 「だから、その………」 ルルカ「ア〜〜〜ン」 優夜 「た、食べるから、せめて自分の手で………」 ルルカ「ア〜〜〜ン」 優夜 「………(パク)」 ルルカ「美味しいですか?」 笑顔で訊ねるルルカに、優夜は精一杯の気力を使って憮然とした面持ちを作るのだった。 病弱姫に花束を 『歌姫の休日 闘病編』(終) 後書き ルルカが「病弱な歌姫」だったので、実は一番最初に思いついたネタがコレでした。 でも、書き上げたのは四番目……。 まぁ、細かい点はさておいて、このコンビで描きたいシーンて、 どうしても「戦記・英雄」っぽい部分から離れていってしまうんですよね〜。 『宿縁』の意味を「護る・護られる」ではなく、「必要としたい・されてい」と自分なりに定義した時、 優夜・ルルカがお互いに足を引っ張りながら日々を送る姿しか思い浮かばなくて……。 そんな『宿縁』の意味にとことん拘ってみたのが、次回から投稿した長編、 「君が見る夢 詠う歌」です。 一応、ラストまでのプロットは頭の中で完成しているので、途中で挫折する事はないと思いますが、 できれば暖かく応援してくれると嬉しい限りです。 ではでは。