「あの〜〜〜。また、なにかロクデモない事を考えていませんか?」

 頬の上に乾いた汗を滑らせて、ルルカは訊ねた。
 優夜が凝視しているのは、せり出した崖の頂。
  その真下には自由民の拠点と、五機のシュヴァルツローザが並んでいる。 

「はっはっはっ。ロクデモないとは、何を根拠に? オレはただあの崖を崩して、真下の連中を一泡噴かせてやろうと………」
「……嘘です。そんな普通っぽいアイデアなんか、考えていないハズです」
「後、崩れる土砂の上に乗って、一気に雪崩込んでやろうかなぁ〜って」
「それがロクデモないって言っているんです! っていうか、無茶です!
 大体そんな事をしたら、トロンメル軍の歌姫さん達まで生き埋めになっちゃうかもしれないじゃないですかっ!」
「大丈夫、大丈夫」

 優夜の「大丈夫」ほど、当てにならないものはない。
 というよりも、むしろ地獄の合言葉。

「何を根拠に、そう言い切れるんですか?」
「オレの勘」
「その勘が外れて、わたし達まで土砂の下敷きになったり、トロンメル軍の歌姫さんを巻き込んでしまった時は、どうするんです?」
「その時は、その時」

 しれっと言い切る優夜に、ルルカは深く嘆息した。
 こうなるともう、誰が何を言っても優夜の耳に入らない事は、他の誰よりもルルカが知っている。

「こう見えてもサーフィンもスノボも得意だし、オレの計算だとそこまで大きな崖崩れにはならないハズだ。
 後はどうやって、あの崖を崩壊させるかなんだけど………」

 と、その時、ルルカはビリオーンの足元で動く大きな影に気付いた。
 長く細いその影は、まるで魂を刈り取る巨大な鎌のようであり………。
 刹那、ルルカは叫んだ。

「優夜さん!」
「うおっと!?」

 ブォンッ!

 ビリオーンの頭上を、巨大な鎌が通り過ぎる。
 後半瞬、首をすくませるタイミングが遅れていたら、ビリオーンの全高が頭一つ分、低くなっていただろう。

「シュヴァルツローザ!?」

 丸く見開かれたルルカの瞳に、漆黒の奏甲が映った。

「チッ、いつの間に追いかけてきたんだ!? せっかくレグニスと桜花に押し付けてきたはずなのに!」
「そんな情けないセリフと力一杯飛ばさないで下さい!」
「にしても、あの黒薔薇。降伏勧告とかはしてくれないのかなぁ〜」

 ボヤキつつ、硬い岩盤の上を滑るように移動するビリオーン。

「……してきたら、どうする気なんです」
「いや、だって進められてもないのに降伏するのってのも、ちょっとだけ恥ずかしいだろ?」

 同意するのもバカバカしいボヤキを両断するかのように、ローザの巨大な鎌が目前に迫る。
 稲妻のような鋭い斬撃。
 一撃で奏甲を破壊できる猛烈な旋風を、しかしロングソードで受け止めるような愚行を優夜は犯さなかった。
 そんな事をして動きを止めれば、瞬く間に腕のマシンガンの一連射で蜂の巣にされてしまっただろう。
 受けずに弾く、もしくは受け流す。
 そのいずれもが間一髪のタイミングであり、一方的に押しまくられているのはルルカの眼にも明白だった。

 しかし<ケーブル>からは、優夜の焦りや恐怖は伝わってこなかった。
 絶体絶命のピンチにも関わらず、むしろ優夜はその状況を楽しみ、鼻歌でも唄い出しそうなフシすらあった。
 豪胆だからはない。勇猛とも、違う。
 この人には恐怖という言葉を、生れた瞬間からどこかに落としてきたのだろうか?
 初めて間近で『観る』優夜の戦いに、ルルカは『織歌』を紡ぎつつも唖然とせざるをえなかった。

 そしてルルカが苦悩している間にも、優夜とシュヴァルツローザとの戦闘は続く。

 既に幾度となく弾ける金属音。
 乾いた岩盤の上に降り注ぐ無数の火花。
 先に焦れたのは、シュヴァルツローザだった。

 いささか強引とも思える斬撃が空を切った瞬間、優夜はビリオーンを相手の懐に滑らせた。
 それはまさしく、絵に描いたような鮮やかなタイミングだった。
 次の瞬間、自らのソードを左から右上に滑走させて、ローザの首筋を跳ね上げた………ハズだった。

 ガンッ!

 が、寸前のところでローザの膝蹴りビリオーンの胸を直撃。

「んがぁぁぁっっ!」
「キャアッ!」

 決して重量級とは言い難い機体が、背中から岩盤の上に引っくり返る。
 そこへトドメとばかりに、大鎌を構え直したローザが躍り掛かる。
 咄嗟に機体を横に転がし、最初の一撃を回避する優夜。
 そのまま地面の上を転がり、起き上がりざまにマシンガンのトリガーを絞る。

 ………絞らなかった。
 
「優夜さんっ!?」

 驚くルルカの背後で、何かの部品が接続されるシリンダー音が響いた。

「やるぞルルカ! 歯ぁ喰いしばって両耳を塞げ!」
「えっ!? えっ!? え〜〜〜っっっ!?」

 続いて<ケーブル>が切断され、ルルカとビリオーンを繋ぐ歌術が強制的にシャットダウンする。
 目前に迫る、大鎌を構えなおしたシュヴァルツローザ。
 瞬間、ビリオーンの背中から、頭蓋骨の内側を掻き乱すような高音域の奇声が放射された。



病弱姫に花束を   アナザー・メモリー

〜君が見る夢 詠う歌〜


第十一楽章   決戦! リーズ・パス 『中篇』



「さっきの瞬間、どうしてマシンガンを射つのを止めたんですか?」

 機能を停止したシュヴァルツローザに細工をする優夜に、ルルカは疑問をぶつけた。

「ん? だってここで銃声がしたら、下の連中にオレ達が隠れている事、バレてしまうでしょ?」
「それはそうかもしれませんけど、利くかどうかも判らない新装備を、あの場面で使うなんて………」
「いや、言いたい事は判る。ああいう装備は二時間映画のラスト十五分くらいの、最後の最後で使用してこそ華である、と」
「もちろんです。でも一回目は上手くいかなくって、続く絶体絶命のピンチでイチかバチかの………って違います!」

 ルルカは柳眉を逆立てた。
 机が置いてあったら、叩くどころか引っくり返してやりたい気分だった。

「まぁまぁ、たぎってまた貧血を起こしても知らないよ、ルルカ。
 結果として上手くいったワケだし、崖を崩す爆弾も手に入った事だし、万事オッケーでいいじゃないの。
 ……それよりもそろそろ始めるけど、覚悟はいいか?」
「も、もちろんです………多分」

 若干、声が震えていた。
 これから半身を地中に埋めたシュヴァルツローザの幻糸炉を暴走させて、その爆発でせり出した崖を崩そうというのだ。
 しかも、爆発させて崩落させる部分に、ルルカ達は立っているのである。
 崩れ落ちる土砂と一緒に、崖下の拠点に奇襲を仕掛ける為にだ。
 普通の神経や常識の持ち主なら、声の一つや二つ、震えてしまってもおかしくないハズだった。
 約一名の、神経がアーク・ワイヤーよりも丈夫にできている機奏英雄を除けば………。

「そんじゃド派手に、ドカ〜ンといきますか。上手くいったら、きっと連中の度胆を抜けるぞ」
「………でしょうね」

 なげやり気味に、ルルカは応えた。
 虚勢でも開き直りでもなく、嬉々として『自爆』の準備に取り掛かる優夜の姿に、キリキリと胃が痛む。
 いつの間にやら計画の目的が、奇襲を仕掛けてラルカを助け出す事から、相手の度胆を抜く事にすりかわっていた。

「そんなに気に入らない? この計画」
「気に入らないなんて事はありません。……ただちょっと、気が進まないだけです」

 その二つの言葉の間に一体どれくらいの隔たりがあるかなどという問題は、優夜にとっては些細な事なのだろう。
 
「んじゃ、覚悟が変わらない内に、行ってみよう〜〜〜!」

 ズダダダッ!

 三点射で吐き出された焼夷徹甲弾が、装甲を剥がされむき出しにされたローザの幻糸炉を食い破り………。

 純白の閃光が視界を埋め尽くし、轟音が弾けた。

 爆風に煽れら、危うくブリッツが転倒しそうになるほど斜めに傾く。
 が、傾いたのはブリッツではなかった。
 幻糸炉の爆発という強力な楔が打ち込まれ、深い亀裂が幾本も走り、優夜の狙い通りにせり出した崖をズタズタに引き裂いたのだ。
 まず、巨大な岩盤を支えていた土砂が、小規模な地滑りを起こした。
 保水性のほとんどない乾いた土が大量の土煙を巻き上げて、滑り出す。
 その地滑りが周囲の地盤の地滑りを誘発し、それがまた別の土砂崩れを引き起こしてゆく。

「わわわわっっっ!」
「うひょぉぉぉぉ〜〜〜〜!」

 <ケーブル>を介して交差する悲鳴と奇声。
 さながら氾濫した大河のように崖の下へと殺到する土砂の上で、奇跡的にも転倒せずにバランスと取り続けるビリオーン。
 ビリオーンの足元には肩幅ほどしかない岩盤が、土石流の上をまるでサーフィンのように乗っていた。

「わははは! さすがビリオーン・ブリッツ。シャル3だったら、間違いなくコケていた!」

 もちろん、そのビリオーンを優夜にでも使いこなせるほど操縦性をアップさせたエドの腕も無視できない。

「きゃぁぁぁ! や、やっぱり恐いです! 止めて下さいぃぃぃっっ!」
「そいつは無理ってもんだ。だってコイツ、ブレーキなんてついてないし」
「じゃ、じゃあどうやって止まるつもりなんですかぁ!?」
「心配無用! 地面にぶつかれば、イヤでも止まる!」
「優夜さんのばかぁぁぁっっっ〜〜〜〜〜!」

 重さ数十トンにも及ぶ、土砂の津波。
 転倒すれば、待ち受けているのは紛れもない『死』だ。

 一方、崖の下でもこの大災害……もしくは人災……に、誰もが唖然と眼を丸くした。
 あちこちから上がる怒号と悲鳴。
 勢いのついた土砂の流れは瞬く間に崖下に到達し、施設の一部と一緒に五機のシュヴァルツローザを呑み込んだ。

『こ、これは一体………?』

 砂崩れに巻き込まれなかったキューレヘルトの一機が、濛々と立ち込める土煙を呆然と見上げた。
 と、そこへ突然、土煙を突き破るようにビリオーンが姿を現す。

 ガシャーーーンッッ!

 ビリオーンを乗せた岩盤が、キューレヘルトを直撃した。
 その衝撃は絶対奏甲といえども耐え切れるものではなく、不幸なキューレヘルトはバラバラに砕けて吹き飛んだ。

「はい、到着。どうだルルカ? オレの計画通りに、上手くいっただろ?」
「ハァ、ハァ、ハァ……も、もう絶対に……優夜さんの操縦する奏甲には………二度と乗りたくないです…………」

 悲鳴を叫び疲れ、息も絶え絶えにルルカは言った。
 正直、言葉を喋るのも億劫で、このまましばらく休んでいたいくらいだったが、そうもいかない。
 ビリオーンはまだ、敵の本拠地に乗り込んだダケなのである。
 優夜の狙い通り、敵は混乱しているようだが、いずれ体勢を整えて反撃してくるだろう。
 その前にラルカを見つけ出し、この危険極まりない場所から逃げ出さなければならないのだ。
 
「……よし、見つけた。喜べ、ルルカ。トロンメル軍の歌姫達は、全員無事みたいだぞ」
「ほ、本当ですか? だったらソッチに向かって下さい」
「了〜解、っと」

 周囲を警戒しつつ、ビリオーンは縄で縛られた歌姫達の元へと向かった。

「ご無事でなによりでした、皆さん」

 危なっかしい足取りでルルカは奏甲から降りると、手にしたナイフで歌姫達の縄を次々と切断した。
 彼女達は例外なく、突然の出来事に混乱している様子だったが、幸いにも誰一人としてケガ人は見当たらない。
 ルルカは心底、全員の無事に安堵した。
 これで誰か一人でも土砂の下敷きになっていたりすれば、目覚めの悪い事この上もない。

「貴官達は、一体………?」

 最年長の士官と思われるクリーム色の髪を短く切り揃えた歌姫が、困惑を隠しきれないでいる面持ちで訊ねてきた。

「助けてくれた事には感謝するが、その………他にも方法は、なかったのか?」
「それはその………と、とりあえず、悪気があってこんな事をしでかしたワケじゃないんです。本当なんですよ?
 ただちょっとだけ派手好きというか、常識とか慎重という言葉が欠落しているというか………」
「……それは土砂の下敷きになった我等の魂にとって、何かの慰めになるのか?」
「あは、あははは………」

 士官の冷たい眼差しに、ルルカは乾いた笑みを張り付かせた。
 彼女の言葉は、被害妄想のソレではない。
 実際、崩れてきた土砂た岩石の一部は、彼女達から十メートルも離れていない位置にまで達していたのだ。

「そ、それよりも、銀色の長い髪をした女の子を見かけませんでしたか?」
「銀色の長い髪の女の子だと?」
「歳は十二歳くらいで、背丈はこれくらいなんですけど」

 と、ルルカは自分の肩の位置に手を置く。
 しかし、その歌姫は申し訳なさそうに頭を横に振った。

「いや、悪いがそのような少女は見ていない」
「そうですか………」
『お〜〜〜い、ルルカぁ。悪いんだけど、ちょっとコッチに戻ってくれないかぁ?』
「あ、はい。どうかしましたか、優夜さん?」
『いや、ちょっとな。武装したキューちゃんが二機、コッチに向かって突進中だ』
「判りました。もう少し待って……って、ええっ! それって一大事じゃないですか!」
『なんだったらソッチに残って、そこで織歌を詠ってくれても………』
「今すぐ戻ります! コックピットの位置を下げて下さい!」
「敵か!?」
「はい、敵です。だから安全な場所に………」

 言って、ルルカは自分が自分がバカな言葉を紡いでいる事に気付いた。
 指揮官も同じだったのか、ルルカと一緒に視線を周囲に巡らせる。
 介抱されたトロンメル軍の歌姫達は、肩を寄せ合い震えているような醜態を晒してはいなかった。
 既に武器を奪い、中には激しい銃撃を加えている者もいた。

『わははははっ! 止まってる標的にゃあ、さすがに外しゃしねぇーぞ!』

 そして、優夜のビリオーンも。

「見ての通りだ。我等とて軍人。捕囚の辱めを受けたとはいえ、トラベラーごときに心配されるほど落ちぶれてはいない」
「………」
「お前達は、お前達がここに来た目的を果たせ。助けが必要なら力を貸そう。もっとも自分の伴侶すら護れなかった軍人の力など、必要ないかもしれないがな」

 ルルカの前で、その歌姫は、擦り切れた笑みを一瞬だけ、滲ませた。
 その顔がルルカには、泣いているように見えた。

「………わかりました。でも、無茶はしないで下さいね! せっかく助かった命なんですから!」

 銃声と怒号が飛び交う喧騒の中、ルルカはビリオーンのコックピットへよじ登る。

 そこに、ルルカの運命の伴侶が居た。

「おかえり、ルルカ」

 いつかは離れ離れになるとしても、今はまだ、確かにそこで待っていてくれた。

 その意味と、奇跡を噛み締めながら、ビリオーンの奏座に身を滑り込ませる。

「いきますよ、優夜さん!」

 紡ぐ言葉に願いを織り込め、ルルカは詠う。
 その旋律に合わせるようにビリオーンの幻糸炉が高らかな咆哮を奏で、純白の奏甲が輝き唸る。

 まぁ、もっとも………。
 どれだけ奏甲のパワーが上がっても、あんまり関係のない機奏英雄が『宿縁』なので、詠いがいがないのが玉にキズだが。

「で、ラルカの居場所は掴んだのか?」

 マシンガンを掃射しながら、優夜が問う。

「それが、まだなんです。だから闇雲に施設を壊すのは、できるだけ避けて下さい」
「………悪い。半分、手遅れ」
「はい?」

 見れば、施設の内の半分は既に炎上しているか、倒壊していた。

「な、ななな、なんて事をしてくれたんですか、優夜さん!」
「って、言われてもなぁ。……まぁ、ものは考えようだ。このまま敵のボスをいぶり出して、ソイツからラルカの居場所を訊き出そう」
「そんな事を言って、そのボスの方に返り討ちに遭ったら承知しませんからね」
「まぁ、その前に、面倒臭いけど雑魚から片付けないとな」

 迫り来るキューレヘルトに向けて、ビリオーンの牽制射撃。
 たちまち長刀しか装備していなかったキューレヘルトの装甲に、幾つかの小さな火花が散った。
 が、致命的なダメージには到らず、そのまま猛然と突っ込んでくる。

「わ、わ、わ! コッチに来ますよ、優夜さん!?」
「クソッ! 命中してんだから、さっさと倒れやがれ!」

 しかし、キューレヘルトは頑丈そうな肩の突起をビリオーンに向けて、尚も突進を挑んでくる。
 優夜は回避運動を取りながら射撃を続けるが、お互いに激しく動きあっているので、益々命中弾の数が減ってゆく。
 ギィンッ!
 キューレヘルトの長刀が、ビリオーンの左肩を掠めた。
 普通なら、腕ごと断ち切られていたであろう一撃を、しかし優夜も華麗とは程遠い動作ながらなんとか躱す。
 と、躱したハズの切っ先が、飛び跳ねるように真下から胸元を襲った。

「ほい、っと」

 優夜は、ヤル気があるようなないような声を短く発し、機体にたたらを踏むような動作をさせて後方に退く。
 胸部を切り裂くはずだった一撃は、またしても空振りだった。

 続けて浴びせられるキューレの連撃を、

「よっ! ハッ! なんとっ! せいっ!」

 奇妙な掛け声と一緒に、次から次へと躱す優夜。

「って、さっきから避けてばっかりじゃないですか! 少しは自分から攻撃して下さい!」

 とはいえ、この天下一品の回避能力こそが、機奏英雄として優夜が唯一誇れる武器なのだ。
 一対一であるのなら、例え相手がシュヴァルツローザであっても優夜が引けを取らないのは、崖の上での戦闘で既に証明済みである。

「ははは。それは無理。例えて言うならレベル1の遊び人に般若の面だけ装備させて、バラ●スに特攻させるくらい無謀」
「あああ、もう、何がなんだか………」

 戦闘中だというのに、ルルカは頭を抱えたい衝動に駆られた。
 が、優夜の言葉は正しい。
 彼が機体を損傷させる時は、無理に攻勢に転じた時なのだ。

 だから優夜は戦わない限り、ある意味において無敵なのである。

 もっとも、戦わない機奏英雄にどれくらいの存在価値があるかといえば、それはまた別の話しだ。

「とか、言いながら、とうっ!」

 ガキィンッッ!

 ビリオーンの突き出したロングソードが、キューレヘルトの右肩を貫いた。

「おおっ!?  当たったぁ!?」
「ええっ!?」

 途端にガクンと垂れ下がるキューレヘルトの右腕に、ルルカは眼を丸くして驚いた。
 が、紛れもなくこの一撃は、優夜の繰り出したソードが命中したのだ。
 右腕にしか武器を持っていなかったキューレヘルトにとって、駆動系を完全に破壊されたこの一撃は致命的だった。
 ジリジリと後退するキューレヘルト。

 と、その時だった。

 キューレヘルトの背後に漆黒の旋風が猛然と迫り、銀色の軌跡を一閃させて………

 バキィィィンッッッ!

 キューレヘルトの首が、宙に舞った。




第十一楽章   決戦! リーズ・パス 『中編』 (終)

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