「『ハウリング・システム』。こいつを作った技術者は、そう名付けたらしい。
 歌術的に筒の中に歌姫のアストラル体を詰め込んで、死ぬまで……いや、その魂魄が尽きるまで強制的に歌術を歌わせ、
 共振現象を発生させて、飛躍的な歌術性能の向上を実現したシステムだ。
 もっとも、デリケートな共鳴現象を歌術に利用した結果、ノイズには極端に弱くなっちまったみたいだがな。
 まぁ、対奏甲戦を想定された期待には、大した弱点にはならねぇーんだろうが……」
「そんな! 何の為に、そんなヒドイことを!」
「なんの為にだと?」
 エドはうろんげな眼差しをルルカに向けた。
「決まってるだろ。この世界から、アーカイア人が現世人を、一人残らず殺し尽くすためにだ。
 それがコイツを作った開発者、ユーディーの目的だからさ」


病弱姫に花束を   アナザー・メモリー

〜君が見る夢 詠う歌〜



第六楽章   護るべきもの




「ユーディー……? 自由民の方なんですか?」
「まぁ、連中と強いパイプを結んでいつのは間違いないが、以前は『黄金の工房』で奏甲の開発を手がけていた人間だ。
 中でも突撃型奏甲の研究にかけては第一人者でな、キューレヘルトの起動システムも、彼女の研究が基になって完成したそうだ」
「キューレヘルトって、歌姫同士のペアでの運用に初めて成功したっていう、あの?」
「そうだ。ペアさえ見つければ、お嬢ちゃんだって動かせる奏甲だ。
 もっとも、その性能は同クラスの奏甲と比べると、随分と劣るみたいだがな。
  歌術性能が低いせいで、対奇声蟲戦ならともかく、奏甲同士の戦いはどうしても乗り手を選ぶ。
 だからユーディーも、キューレヘルトには満足してなかったんだろう」

 キューレヘルトが完成した後も、ユーディーは新型の突撃型奏甲の研究に没頭した。
 それも歌姫同士、もしくは歌姫のみで完璧に稼動できる奏甲システムの研究に。
 その意味するところは、現世人をアーカイアから駆逐する為であるのは間違いない。

「少なくとも、コイツの性能と機体特性は、ソレを裏付けていると俺は思っている」

 エドはシュヴァルツローザの『ハウリング・システム』を、拳で叩いた。

「彼女は元々、トロンメルの出身でな。幻糸の研究者としての才能が認められて工房に入った職人だったそうだ」

 本来、工房の職人は世襲制であり、外部の人間が入る事はもちろん、彼女らがボサネオ島を出る事すらない。
 それほど『黄金の工房』は隔絶した存在であり、その技術は門外不出として扱われている。
 この点からでも、いかにユーディーの才能が高く評価されていた事が窺える。

「それから数年後に起こったのが、奇声蟲の大襲来だ。
 大量の奇声蟲に、大量の現世人。当初から彼女は、現世人の力を借りる事に懐疑的だったらしい。
 まぁ、だから歌姫ペアで起動するシステムを開発しようとしたんだろうが、工房は工房でリーゼやらヘルテンツァーやら、
 今まで通りの機奏英雄と歌姫のペアで起動する新型を、次々に開発したのは知っての通りだ」

 しかし、新型が実際の戦場で設計通りの性能を発揮できるかどうかは、工房の中からだけでは判らない。
 詳細な「生」のデータが、今後の新型開発のためにはどうしても必要になってくる。
 そこで工房から前線の町で待機中の試作奏甲部隊に、職人を一人派遣する事になった。

「どういう心境の変化かは判らないが、ユーディーは自らソレに志願したそうだ。
 わざわざ研究室を離れて、嫌っているはずの現世人たちに自分から近づき、一緒に行動するっていう仕事をな。
 それが丁度、『女王』が討伐される前後の話しだ……と、言えば、おおよその想像はできるか?」

 エドの問いに、ルルカはコクリと頷いた。

「………あの夜の事、ですよね」
「そうだ。白銀の歌姫がこの世界の秘密をブチ開けちまった、あの夜の出来事だ。
 あの言葉に混乱して騒動を起こした現世人は大勢いたが、特に酷かったのがユーディーの派遣された部隊だった。
 自暴自棄になった連中は奏甲を使って町を略奪し、燃やし、殺し尽くした。
 ユーディー自身は無事に救出されたんだが、彼女も「無傷」ってわけじゃあなかったそうだ」
「………!」

 淡々とした醒めた口調で、エドは語った。
 ユーディーは殺されなかった。
 けれども「無傷」ではなかった。
 その言葉の意味に、重さに、ルルカは血色の喪失した面持ちで細い肩を震わせた。

「その現場でユーディーが何を見て、何を体験したのかは話す気にもならなぇ。
 けれども、コイツだけは言える。
 ユーディーは確信しちまったんだ。
 俺たち現世人の存在自体が、この世界にとってはとてつもない災いなんだってな」
「そんな……ことって…………」

 ルルカはか細く搾り出した声を、蒼白に震わせた。

 ……吐き気がした。
 いつもの目眩や貧血ではなく、純粋な嫌悪感のみがルルカの胃壁を締め付けた。
 自分が立っているのか座っているのか、それすらルルカには判らなかった。

「以来、彼女は以前にも増して、現世人を必要としない絶対奏甲の開発に没頭するようになった。
 その頃から、自由民との接触もあったみたいだが、確かな証拠は見つかっちゃいねぇ。
 そして一ヶ月前、最新の研究資料と一緒にどこかに消えちまった。
 消えたって事は、裏返せば研究の成果……シュヴァルツローザの開発に目処が付いたって事だったんだろうな」
「………」
「このシュヴァルツローザが驚異的な部分は、その性能自体にあるんじゃねぇ。
 コイツの部品の七割が通常型のローザリッタァと共通で、機体の量産化が容易だって事にあるんだ。
 狂気が生んだ奏甲には違いないだろうが、確かにユーディーってヤツは天才には違いねぇーな。
 一機や二機の華色奏甲に頼るんじゃなく、まとまった数を揃えられる事を考慮して設計されてやがる。
 俺たちの世界にはなぁ、こんな格言があるんだ。『兄貴! 戦は数だよ!』ってな」
「………?」

 ルルカは意味が判らず、首を傾げた。
 残念なことにアーカイア人のルルカには、用兵学上の金言を鋭く射抜いた、名言中の名言を理解できなかったらしい。

「あ〜〜〜。ん、ンンッ。
 つまり、コイツは歌姫のみで完全起動する、次期主力奏甲すら凌駕できる量産可能な奏甲ってワケだ。
 こんなものが自由民の手に渡ってみろ。どうなると思う?」
「それは、その………」
「現世人なんて、アッという間に刈り尽くされちまうって事だよ」

 恐ろしく冷やかな……まるで自分自身すら含む全ての現世人を嘲笑するかのような口調で、エドは言った。

「………」

 ルルカは視線を落とし、拳をギュッと握った。
 エドの語っている意味も、ユーディーが現世人に対して深い恨みを持っている事も、ルルカには判る。
 判るのだが、何かが「違う!」と心の中で叫ぶのだ。
 仮に現世人が災いの種だとするなら、その被害を受けるのはアーカイア人の命だ。
 そのアーカイア人の命を護る為に、アーカイア人の命を奏甲の部品のように扱う。
 そんな矛盾した発想に、どれだけの意味と価値があるのだろう。

 それとも………。

 理非善悪を超えたところに、ユーディーは彼女だけの『何か』を選択してしまったのだろうか。
 彼女だけの、彼女だけにしか価値のない、たった一つの『何か』を。
 ルルカには理解できない、深い憎悪と情熱の果てに………。

 それでも『違う』と……何かが『違う』と、誰かが叫んでいる。

「これは三日前の話しだ。トロンメル軍の奏甲部隊の宿営地が、三機の黒いローザリッタァの襲撃を受けた。
 宿営地には最新型の華色奏甲カルミィーンロート四機を含む、十機の奏甲が駐屯していたにも関わらず、
 あっという間に全滅しちまったそうだ。ま、辛うじて一機を撃破したそうだが、その間に駐屯地は滅茶苦茶。
 挙句に歌姫が全員さらわれて、行方不明ときた」
「それって、まさか………」
「ま、そういう事だ。回収された機体は滅茶苦茶に破壊されちまってたが、収穫もそれなりに多くてな。
 工房に僅かに残っていた資料から、そいつが歌姫のアストラル体を利用したシステムの可能性大って事までは判った。
 だとしたら、何の為に歌姫がさらわれたのかも、簡単に説明がつく。しかも、だ」
「ま、まだ何かあるんですかぁ!?」
「あるっていうか、簡単な計算だ。
 襲撃者は三機の奏甲に六人の歌姫の命を使い、三人の搭乗者の内、一人を失った。
 対するトロンメル軍は十人の現世人と、十人の歌姫を失った。
 しかもさらわれた十人の歌姫から、新たに五機分のシュヴァルツローザが完成する。
 どうだい? 実に効率的な話しじゃなぇーか」
「そんな……! ひ、人の命を、そんな数字だけの計算で考えるなんて、間違ってます!」

 ルルカは怒りに頬を染めて叫んだ。
 叫んだ瞬間、ルルカは胸の片隅で燻っていた違和感の正体が、少しだけ判ったような気がした。

 それは人の、命の重さだった。
 尊いはずの人の命が、何よりも軽んじて語られている事への、純粋な憤りだった。
 
 二人、六人、十人と、エドはこともなげに歌姫の命を語った。
 多分、ユーディーも同じように考えているに違いない。
 十人が百人、百人が千人に増えたとしても、それは「シュヴァルツローザ五百機分」として計算されるのだろう。
 けれども、ルルカは既に知っている。
 自分よりも小さなラルカですら、重く、温かい事を。
 その十倍、百倍、一千倍の重さが、温かさが、無機質な数字としてのみ語られる、そんな狂気が………。

「赦せない、って顔だな、お嬢ちゃん」
「当たり前です!」
「だったら、こういう話は知ってるかい? ガトリング砲って武器が生れた話しを」
「え? ガトリング砲?」

 突拍子もなく話題が飛び、ルルカは瞳をパチクリさせた。

「ま、簡単に言えば、マシンガンの先祖みたいなもんだ。
 鉄砲に弾を一発一発こめていた時代に作り出された、大量の弾を湯水のように吐き出す兵器だ。
 開発者の名前にちなんでガトリング砲って名付けられたわけなんだが、
 コイツを開発したガトリングってのは何者で、どんな目的があって作ったと思う?」
「え、えっと………。やっぱり軍人さんが、敵をたくさん殺すためになんじゃないんですか?」
「そう思うのが普通なんだろうが、答えはむしろ、その反対だ。
 ガトリングは軍人どころか、兵器開発とは全く無縁の……普通の医者だったんだよ」
「お医者さまだったんですかぁ!?」
「そうだ。それも慈悲深い医者でな、戦争で大勢の人間がバタバタ死んでいくのに、心を痛めていたそうだ。
 だから彼は考えた。
 戦場で百人の兵士が死ぬのは、戦場に百人の兵士がいるからだ。
 一人の兵士が百人分の働きをすれば、残りの九十九人は故郷の家族の元に生きれ帰れる……ってな。
 その思想を具現化した兵器が、たった一人で百人分の銃弾を吐き出すガトリング砲ってワケよ」
「………」
「だが、ガトリングは気付かなかったのさ。
 一人で百人の敵を殺す兵器が誕生すれば、失われた百人の代わりに新たに一千人の兵士が駆り出される事になる。
 そんな武器を双方が持つようになれば、戦場で失われる命は飛躍的に多くなるっていう、単純な図式にな」
「………それと今までの話しと、何の関係があるんですか?」
「善意から生れた兵器ですら、無意味な死を大量にバラ撒く。
 ましてや悪意や憎悪からのみ生れた兵器なら、それが背負う業は自ずから深い。そういう話しさ。
 コイツに関わっちまった以上は、覚えておいた方がいいぞ、お嬢ちゃん。
 シュヴァルツローザは、現世人への憎悪が具現化した、その象徴だ。
 そこに善意や好意的な解釈、ましてやお嬢ちゃんのような感傷の入り込む余地は全くないんだ。
 ソイツを忘れていると、お嬢ちゃんの大切なモノをこいつに奪われちまうかもしれない。……言ってる意味は、判るな?」
「………はい」

 ルルカははっきりと頷いた。
 自分の大切なもの……護りたいもの。
 例えどんな理由があろうとも、ソレをこんな『兵器』に奪われるような事は、絶対にさせない。
 そう。絶対に、だ。

「後、コイツは忠告とうか、心配ごとなんだが………」
「………?」
「ラルカ、っていたかな、あのチッコイお嬢ちゃんは」
「はい。そうですけど?」
「ああ、そのラルカなんだが………まぁ、その、なんだ。
 ………彼女の身体に、呪印みたいな妙なアザはできてなかったか?」

 言いにくそうに何度も目線を切りながら、エド。

「アザ、ですか?」
「どうなんだ? あったのか? なかったのか?」

 身を乗り出し、睨むように顔を近づけるエドに気圧されて、ルルカは記憶の糸を手繰り寄せてみた。
 だが………。

「なかったと、思いますけど?」
「そうか……。そいつは良かった」

 するとエドは、安堵するように強張った面持ちを弛緩させた。

「さっき言った、回収されたローザの乗っていた歌姫には、全身に呪印が浮かんでいたんだ。
 どうやら搭乗していた歌姫は、歌術的にもシステムに拘束されるみたいでな。
 逆流したシステムの負担が精神的、肉体的に歌姫を侵食するらしい。
 仮にその歌術がアザになって浮かんでいるようだったら……その歌姫は、手遅れだ」
「手遅れって、そんな!」
「ま、アザが浮かんでいないなら大丈夫だ。油断は禁物だろうが……。
 だが、あの子に二度とコイツに乗せるな。触らせるな。近づけさせるな。
 コイツのシステムは、搭乗者すら食い殺す」
「そんな危険な奏甲なんて要りません! エドさんに差し上げますから、どこか遠くに持っていって下さい!」
「そ、そうか。いや、そうしてもらえると、コッチもありがてぇー話しなんだが………。
 ついでにあの子も渡すして貰えると…あり…が……」
「〜〜〜!」
「判った。判ったから、そんなコワイ顔で俺を睨むな。
 奏甲がだけでも手に入ったんだから、ソッチの方はお嬢ちゃんたちに任すとするよ」
「その言葉、信じていいんですね」
「ここまで話したんだ。少しくらい、信じてくれてもバチは当たらねぇーだろ。
 それにお嬢ちゃんの『宿縁』からも、あの子は渡せないって言われているからな」
「優夜さんが!? って、そういえば優夜さんはどこに居るんです?」
「あのボウズなら、確か町の人間に呼ばれて酒場の方に行っちまったと思ったが……。
 なにせこの町を奇声蟲から救った、英雄………って、おい! お嬢ちゃん!」

 背中から呼び止める声を無視して、ルルカは夜の町に駆け出した。




「優夜さん!」
 
 バンッ!

 蹴破るような勢いで酒場の扉を開き、ルルカは酒場に飛び込んだ。
「お〜〜〜。ルルカァ〜〜〜。こっち、こっち」
「って、もう出来上がってるし!」
 
 視線を巡らせるまでもなく、ご機嫌で手を振る優夜がそこに居た。
 しかも、その左右・前後には町の若い女性をはべらせて。
 瞬間、ルルカの中で何かが『ブチッ!』と音を奏でた。

「ん〜〜〜? どうした、ルルカ。苦しゅうない。ちこう、ちこう」
 言われるまでもなく、無言で優夜に近づくルルカ。
 と、優夜の前に立つや否や、手近なお盆を両腕で抱え、

 バイィィィ〜〜〜!

 渾身の力で、振り下ろした。

「では、失礼しました!」

 呆気にとられる一同を無視して、ルルカは優夜を引きずりながら店を出る。

「……ったく、ちょっとヒドイんじゃないか、ルルカ? 頭が凹んだぞ、今のは?」
「今さら少し凹んだところで、どうなるオツムでもないでしょ!
 それに心配しなくても凹んでません! むしろ立派なたんこぶで膨らんでます!」
「いや、そんな風に威張られるにも、どうかと思うのだが……?」
「ああ、もう!」

 ルルカは半ばヤケクソ気味に優夜を立たせ、キッと鋭い眼差しを投げつけた。

「起きているなら起きているで、どうして一言声を掛けてくれないんですか!
 一人で酒場で宴会だなんて、信じられません!」
「………ルルカ?」

 ルルカの剣幕に、優夜は驚いたように目を丸くする。

「優夜さんのバカァ!
 ちょっとくらい顔を見せてくれたって、いいじゃないですか!
 ラルカの事だってあるのに………わたしがどんなに……どんなに…………」

 詰りながら、ルルカは目頭が熱くなってゆくのを感じた。
 つられるように咽の奥も熱くなり、次第に視界がグニャグニャにぼやけてゆく。
 不安と安堵と情けなさと憤りがごちゃ混ぜになって、ルルカ自身、自分が何に怒っているのか判らない。
 けれども気がついた時には、ボロボロと大量の涙が頬の上を流れていた。
 今まで堪えてきたものが、その顔を前にした途端、一度に溢れ出してきた。

「わ……わたしが……っく………どんなに…………不安……ひっく……優夜さんが………」

 そこから先は、もう言葉にならなかった。
 優夜は、そんなルルカに詰られるまま立ち尽くし、

「………悪い」

 少したってからポツリと口にして、ルルカの髪を押えるように手を置いた。

「悪い。悪かったから、もう泣くな。な?
「………ひっく。本当に……悪かったと思ってますか?」
「思ってる。もう二度と、ルルカを置いていかない。ちゃんと側にいる。約束する」
「……本当に本当ですか?」
「本当に本当だ」
「だったら………今回だけは、赦してあげます」

 言って、優夜の服をルルカは掴む。
 失いたくないもの………本当に、大切だと思うもの…………。
 誰もが持っているハズの、自分だけの大切な誰か。
 それを奪おうとする暗い憎悪が、今、こうしている間にも、どこかで蠢いている。

 だから、放したくなかった。
 だから、離れたくなかった。

 欠けた二つの月が照らす夜。
 この乱れに乱れた世界の中で、この場所だけが彼女の居場所なのだから。

「………行くぞ、ルルカ。いつまでもこんな場所に突っ立っていると、カゼを引いちまうぞ」
「……はい」

 この世界の果てまで、どこまでも、一緒に………。

「二次会も盛り上げるぞ!」
「はい………」

 どこまでも、どこまでも………。

「って、はい!?」

 ルルカは素っ頓狂な声を上げた。
 と、その襟首を優夜が掴み、酒場に向かってズルズルと引きずる。

「いやぁ〜、知らなかった。まさかルルカが、そんなに宴会が好きだったなんて」
「え? え? え〜〜〜!?」
「エライぞルルカ! 騒ぐ時は騒ぐ! 宴会なくして、なんの為の人生か!」
「そ、そうじゃなくって、だから、あの、わたしお酒は!」
「大丈夫、大丈夫。お酒は十五歳になってから」
「ち、違います! っていうか、また前より制限年齢が下がってます!」
「今夜は無礼講だぁ! 飲み明かすぞ!」
「で〜〜〜す〜〜〜か〜〜〜らぁ〜〜〜!」

 バタンッ!

 ジタバタと暴れるルルカの悲鳴は、酒場の扉を潜った瞬間、盛り上がる喧騒に掻き消された。

 そして翌朝。

「ルルカお姉ちゃん? 大丈夫?」

 ルルカは生涯初めての、二日酔いに悩まされるのだった。




病弱姫に花束を   アナザー・メモリー

〜君が見る夢 詠う歌〜


第六楽章   護るべきもの(終)



後書き

う〜〜〜ん。
どんどん筆が重たくなってきました。
それに合わせるように、話しも重い、テンポも重い。
まぁ、次回からは、またいつもの軽さに戻るんじゃないかと……思いたい。
その次回ですが、舞台がガラリと変わります。
そしてようやく三人娘の出番です。
使う使うと言っておきながら、新見さん、お待たせしました。

それでは次回の更新を、お持ち下さい。



登場人物・設定


天凪優夜   致命的にヤル気の少ない、19歳の機奏英雄。
       のほほんと、徒然なるままにアーカイアを探索中。
       一見、お人好しのようだが、本当にお人好しかどうかは意見が分かれるところ。
       困っている人を見ると、もっと困らせたくなるトラブルメーカー。
       機奏英雄としての戦闘力は、平均値を遙かに下回る。
       現世に帰る事には、あまり執着心がない様子。
       実は美人には弱いらしい……?


ルルカ    ヤル気はあっても致命的に体力の少ない病弱の歌姫。15歳。
       温かな家庭と家族に大切に育てられてきたが、いつも誰かの負担になっている事に、
       若干の心苦しさを感じていた。が、優夜の歌姫になった事で、状況は一変。
       誰かの負担になっていた日々から、全ての負担をその身に背負い、
       自分がしっかりしないとその日の宿さえままならない日々に突入する。
       毎日に張り合いが出来たのはいいが、果たしてそれが幸せなのか不幸なのかは微妙。
       最近、生来の病弱に加えて、頭痛・胃痛も絶えないらしい。


ラルカ    漆黒のローザリッタァの中で気を失っていた、記憶喪失の歌姫。
       銀色の長い髪と琥珀色の瞳を持った、推定年齢は十二歳前後の少女。
       記憶を失っているせいか、感情の起伏に乏しく、万事控え目気味。
       助けてくれたルルカを「お姉ちゃん」と慕う一方、優夜は若干苦手気味(?)


エド     身長二メートルを越える筋骨隆々の機奏英雄。49歳。
       元の世界では長年、軍で航空機の整備部隊に勤務し、将校にまで昇進した。
       機械いじりが好きだが、本当はパイロットになりたかったらしい。
       アーカイアに召喚されてしばらくは、機械いじりの腕を見込まれ『黄金の工房』で
       新型奏甲の開発・研究に携わっていた。
       『黄金の工房』が『無色の工房』に独立した後、長年の憧れだった「巨大ロボット」の
       搭乗者になるべく、トラベラーになる。


アルジェナ  エドの歌姫。23歳。
       他人の『死』を見ることに異常な興味を示す、変わり者の歌姫。
       様々な『死』を研究して、自分自身の理想的な『死』を実践するつもりらしいが……。
       黙っていればそれなりの美人なのだが、口を開くと誰もが引く。
       最近は『宿縁』であるエドの、その溢れんばかりの生命力に興味をそそられている。
       この巨漢の男がどんな死に様を見せるのか、興味津々であるらしい。


シャルラッハロート3  優夜の愛機。
            見た目は普通のシャル3だが、実は中身も普通のシャル3。
            幻糸炉もノーマル。
            右腕・ロンゴソード  左腕・マシンガン
            右肩・グレネード   左肩・???
            攻撃力偏重な上に重量オーバーな装備は、単なる優夜の趣味。
            戦術的には機動力の低下を招いているだけで、意味はない。


シュヴァルツローザ   ラルカが乗っていた漆黒のローザリッタァの正式名称。
            その開発理念は、「歌姫のみで稼動し」「評議会の新型奏甲を撃破できる優位性を獲得した」
            「量産が可能な対奏甲戦用突撃型奏甲」。
            基本フレーム・幻糸炉を含む七割以上のパーツは、通常型のローザリッタァと共通化されているので、
            幻糸精度・転嫁率・装甲値は通常型と変わらない。
            「ハウリング・システム」を搭載する事により、常に『ザ・トッカータ』が掛かっている状態で稼動する。
            主兵装は両腕に内蔵されたマシンガンと、両手用の巨大な鎌

戻る