●この物語は、ROL第3クール開始を記念して創作されたSSです ●この物語の時間軸は、各SS作家の作品とは異なるパラレルワールドとご理解下さい。 ●この物語の元ネタは、PT[そこいらの旅人」のPT掲示板での会話や戦闘結果を、 天凪優夜が勝手に脚色し、SS風味に仕上げたものです。 ●よって各キャラの発言が、そのまま文章に反映されています。 ●時々、ネタの鮮度に若干の時間差がありますが、製品上の問題はありません。 ●尚、原材料に遺伝子組み換え食品は使用されておりません。 その71 今日はノルディキュステに道すがら、フラッカ農園に立ち寄りました。 あ、フラッカ農園といっても、「フラッカさん」の農園って意味じゃないんですよ? この辺りの地名が「フラッカ」と呼ばれているのです。そしてここは、ヴァッサァマイン有数の酪農業地帯なのです。 結構有名なんですよ。フラッカ産の農産物って。 ここで収穫された農産物は一度、ノルディキュステの港に移されてから、海路を使ってヴォレアインカウフェへ運び出され、 ヴァッサァマイン全国や、一部は東海貿易で輸出されたりするのです。 まぁ、そんなワケで、折角フラッカ農園に来たのですから、果実園に寄ってみたのですが………。 ルルカ「見事なまでに、誰もいませんね………」 ナシ園を管理する人も、収穫をする人も、どこにも見当たりません。 せっかく収穫時期を迎えたナシが、野生動物に好き放題荒されていました。 ひょっとしたら、こんな時勢ですから、なんらかの理由で農園を営めなくなったのかもしれません。 でも、だからって………。 優夜 「ナシ狩りだ〜♪ ナシ狩りだ〜♪」 いきなり無断で農園に入って行って、ナシをもぎ取るのはどうかと思いますよ!? ラルカ「バナナはオヤツに入らない」 おまけにラルカまで一緒になって………ああ、もう、どこでラルカの教育を間違えてしまったのでしょうか。 ルルカ「子供ですか、あなた達は!?」 キョウ「それは違うぞラルカ! バナナは本当はおやつに入ったはずなんだ! だが、それはかのにっくきミカン派の人間によって……」 ミル 「なんでバナナの事でそんなに熱くなれるわけ?」 しかも、キョウスケさんやミルフィーさんまで、一緒になって収穫をしている有様です。 レグ 「意外と人がいないな……」 ブラ 「このご時世だ。のんびり農作業に打ち込む者もすくないのであろう」 レグ 「だから、ああいった火事場泥棒が増えるわけか……」 感心なんかしていないで、お願いですから止めて下さいよ………。 ベル 「やっぱり、もぎたてはうまいね〜」 桜花 「ちゃんと断って持ってきたのでしょうね?」 ベル 「あったりまえじゃない、もうはりきって手伝ったわよ」 シュレ「さすがに、食べ物のことになると本気だね」 と、コチラはちゃんと農家さんが管理している農園で、清く正しいリンゴ狩りを愉しんできた桜花さん一行です。 ああ、この人達の良心の半分をお湯で割って薄めたくらいの分でもいいですから、優夜さん分けてもらいたいです。 優夜 「ところでルルカ? その背中に隠しているリンゴの籠は何かなぁ〜?」 ルルカ「これはパイを焼く材料に、桜花さん達に頼んで持って来てもらった分です!」 ラルカ「お姉ちゃんのパイ、好き……」 ルルカ「はい♪ 後で一緒に作って、食べましょうね」 優夜 「ルルカが作れる、数少ない料理だしねぇ〜」 ラルカ「優夜さんは皮で齧ってて下さい!」 その72 優しい笑顔が人を癒す。 間違ってはいない言葉だとは思いますけど、何故でしょう? この言葉を優夜さんが口にしたら、とてつもなく胡散臭く聞えてしまうのは………。 ノルディキュステに到着したわたし達を、一人の英雄さんが呼び止めました。 最初は噂に訊いたナンパかとも思いましたが……優夜さんには真っ先に笑われましたけど……少し様子が変でした。 何かを必死に訴えてくるのはいいのですが、何をしゃべっているのかサッパリ判りません。 首を傾げていると、優夜さんがレグニスさんに何かを耳打ちし、レグニスさんが一歩前に進み出ました。 レグニスさんは、相手の側に近づくや否や、 レグ 「取り敢えず、落ちつけ」 手刀で首筋を叩き、その英雄さんを強制的に落ち着かせました。 ………。 ルルカ「って、もう少し穏便な方法はなかったんですか?」 レグ 「いや、優夜がこれが一番、手っ取り早いと……。俺も同感だ」 ブラ 「………」 ブラーマさんがこめかみを押さえて、何かを呪詛めいた言葉を呟いていました。 レグニスさんはしっかりした方なんですが、何というか……この道中、その生真面目さを遊ばれていたような気がします。 さて………。 暫くして、英雄さんが目を覚ましました。 先程と違って落ち着いた様子なのは、ケガの巧妙というやつでしょう。 自慢げに鼻を高くする優夜さんは無視して、お話しを訊いたところ、つまりはこういう事らしいです。 自分の歌姫とうまく話すことができないのだとい。 もちろん相手を嫌っているわけではないし、相手も自分を大事に思ってくれている。 しかし、いざ顔を合わせるとどんな会話をしていいのかさっぱりわからなくなり途方にくれてしまう………。 優夜 「………ヘタレ?」 ルルカ「優夜さん!」 スパァーン! 言ってはならない台詞を口に優夜さんに、すかさずスリッパ炸裂です。 だってこの人は、本当に自分の歌姫さんの事を、大切に想っているんですよ? ただ、それを表現する方法に困っているだけなんです。 それをどうして、笑ったり茶化したりする事ができるでしょか。 レグ 「……で、俺に一体何をしろと?」 レグニスさん、何も判ってません。 さすが「朴念仁」である事にかけては、右に出る事のない英雄さんです。 ブラ 「何を………と改めて聞かれてもな」 レグ 「なら俺に助言できることはないな。こちらは歌姫との関係は良好だ」 ブラ 「レグ。お前それを本気で言っているのか?」 レグ 「? 何か違ったか」 ブラ 「いや……他からみれば良好……でも私的にはもっとこう………」 ブラーマさんの悩みは、どうやらまだまだ今後も続きそうですね。 優夜 「ま、どうしても助言が欲しいというのなら、一つだけアドバイスをあげよう」 どうせまた、ロクでもないアイデアを披露するつもりなんでそうが、一応発言を許可しました。 優夜 「ギクシャクした関係を円満にするには、優しい笑顔で相手を癒す。これしかないよ?」 ルルカ「まぁ、正論かもしれませんけど………ちなみにつかぬ事を伺いますけど、それは一体、どういった笑顔でしょうか?」 優夜 「よし。ではラルカくん。教えた通りにやってみたまえ」 ラルカ「ん………」 ルルカはトコトコとわたしの前に進み出ると、おもむろにわたしの靴先に視線を落とし………。 ラルカ「……………(ニヤリ)」 無言のまま、唇の端っこダケを微かに吊り上げました。 優夜 「う〜〜〜ん。パーフェクト!」 ルルカ「め、目眩が………」 激しく頭が痛いです。 っていうか、こんな事を教えないで下さい! その後、英雄さんは桜花さん一行に預ける事にしました。 これが一番、この英雄さんにとってタメになると思ったからなんですが………甘かったです。 桜花 「いいですか、本当に相手の事を考えれば答えは出るはずです。あなたは自分の弱さに負けて………」 以下、桜花さんのアドバイス(お説教)が、夜の遅くまで続く事になりました。 ましてやベルティさんに居たっては………。 ベル 「そんなの簡単じゃない、鍵の着いた部屋が一つあればすむわよ」 と、見も蓋もない提案をする始末。 しかも何気に、盗聴の用意までしているところが、流石です。 シュレ「あ〜、二人ともああ言ってるけどさ。特別なにかすることなんてないよ。 うまく話せなくても、一緒に居てあげなって。思いがあれば、それで十分なんだよ?」 わたしもシュレットさんの言う通りだと思います。 思いますが、その言葉が英雄さんに届くのは、多分、明日の朝になるでしょう………。 桜花 「そもそも、あなたが恐れているのは、相手の気持ちを傷つける事であるように見えて、実は自分自身を………」 本当に、災難です。 その73 自分の歌姫とうまく話す事ができない。 そう悩んでいた英雄さんと知り合ってから、一日が過ぎました。 昨夜から続いていた桜花さんのお説教………じゃなくってアドバイスは、結局朝まで続きました。 で、辿り着いた結論はと言いますと………。 優夜 「プレゼントだ! 物で心を釣り上げろ!」 ルルカ「違います!」 スパァーーーン! 夜明けの朱い空に、小気味の利いたスリッパの音色が響きます。 全く、どうして朝から、こんな事をしなくちゃいけないんでしょうか? 桜花 「判りましたね。真正面から、ぶつかるのです!」 ベル 「ガッツよ!」 シュレ「根性!」 ブラ 「当たって砕けろ!」 ルルカ「直球勝負です!」 ミル 「え、え〜と、え〜〜〜と、あわわわ………」 キョウ「はい、時間切れ」 ミル 「そんなぁ〜〜〜」 それでも、とても無理だと不安そうに言う英雄さんの背中を、わたし達は無理矢理に押しました。 レグ 「いい加減に、行け。行って実行してこい。敗れるのなら仕方ないが、敵前逃亡は………判っているな?」 と、レグニスさんがナイフを煌めかせたのが、利いたのかもしれません。 でも、どんな形であれ、キッカケであれ………あの英雄さんが、自分の口で自分の言葉を、自分の歌姫に届ける事実は変わりません。 あたふたとした足取りで走って行く英雄さんの後姿に、わたしは彼と彼の歌姫の幸せを、心から祈るのでした。 ブラ 「うまくいってくれることを切に願う。私もがんばらねば」 レグ 「結局精神論か……。別にかまわんがな」 ブラ 「頼むからお前ももう少し理解してくれ………」 レグ 「? 精神論の重要さも理解しているぞ。いざという時の気合の入り方によって、結果はかなり違ってくるからな」 ブラ 「……お前は駄目だ。精神も、技術も」 レグ 「………なぜだ?」 首を傾げるレグニスさんに、ブラーマさんは眉間に苦悩のシワを刻みました。 ………え〜〜〜と。 取り敢えず、ファイトです。ブラーマさん。 ルルカ「大丈夫ですよ。お互いを信じる心があれば、きっと………」 優夜 「いやいや、オレなら絶対に、プレゼントだな」 ルルカ「ハァ〜〜〜。これだから優夜さんは、ダメダメさんです」 優夜 「そうかそうか。んじゃ、しょうがない。この髪飾りは、ラルカにプレゼント」 ラルカ「………?」 懐からおもむろに取り出した青い光石が埋め込まれたシラバーの首飾りを、優夜さんがラルカの銀髪に手渡しました。 それはキラキラ輝いていて、ラルカの銀髪にとっても栄える………って。 ルルカ「ちょ、ちょっと、何ですかそれは!?」 優夜 「おんや? 何か御用ですか? プレゼント否定派のルルカくん?」 ルルカ「うぅ〜〜〜! 優夜さんの、バカァ〜〜〜!」 ベル 「なんかつまらない。結局落ち着く所は最初から決まってるんじゃない」 シュレ「まあ、そんなもんじゃないの」 桜花 「悩みというのは、解決策がないから悩むのではなく、見えている解決策に向けて動く勇気が無いから悩むのです。 私達は少し彼の背中を押してあげただけです」 ベル 「だったらもっと盛大に騒げば良かったな」 優夜 「だったらオレと騒がない。今から、明日の朝まで二人っきりで♪」 ラルカ「………夜、明けたばかりなのに?」 ベル 「だ・れ・が・ア・ン・タ・な・ん・か・と〜〜〜〜〜!」 ………結局、この人達って、ただ騒げればそれでいいですね。 それにしても、この人とわたしとの『絆』って、一体なんなのでしょう? 深く考えると頭がイタクなるので、今日はこの辺りにしておきます。 その74(最終回) 数日前から、優夜さんが変でした。 確かに以前から、オツムのネジが「普通」とは違う人だとは思っていましたけど、最近、輪をかけて変でした。 いきなり壁に貼り付く。 そのままカサカサと動き出す。 挙句に「ブブブブブ」と嫌な擬音を声に出し、ベルティさんに飛び掛り、桜花さんに撃墜されたりもしました。 そして………気付いてしまったのです。 袖の下の両腕が、硬い外皮でビッシリ覆われていた事に………。 優夜さんの奇声蟲化は、PTの中で誰よりも進んでいたのでした。 そして今朝になって、優夜さんが、優夜さんが………。 まさかあんな行動に出るなんて! 優夜 「離せルルカ!」 ルルカ「離しません!」 優夜 「このまま奇声蟲になるくらいなら、潔く死なせろ!」 ルルカ「ダメです!」 わたしは行かせまいと、優夜さんの背中にしがみ付きました。 死んでも離すものかと必死でした。 だって、この手を離したら……離したら………! 優夜 「いいからにオレに! ベルティちゃんの胸の中で窒息死させろぉぉぉっっ!」 ルルカ「それがダメだって言ってるんですっっっ!!!」 もうイヤです、この英雄さま………。 レグ 「あそこまで自決したいというのなら、させれやればどうなのだ?」 ブラ 「ダメだ」 ああ、レグニスさん。 判ってない故の発言だとは思いますけど、薄情すぎます。 っていうか、見てないで止めて下さい。。 レグ 「なら、いっそお前が胸を貸してやるのはどうだ?」 ブラ 「断固断る!」 キョウ「お前が代わってやるのは?」 ミル 「絶対に嫌ッ!」 ティセ「やはり、抹殺するしか………」 でしょうね、普通。 でもティセさん。ガトリング砲では、多分、この人は死なないと思います。 シュレ「あそこまで自分の欲望に素直だと、いっそ潔いと思うなぁー」 ベル 「黙れチビ助! 判ってるわねルルカ!? その腕を離したら私は舌を噛み切るからね!?」 シュレ「そんなに邪険に貸してあげれば? 減るもんじゃないんだから」 ベル 「減るの! 減るし穢れるし、もうお終いなの!」 桜花 「あの………。その、ルルカさんの胸で我慢する事は、できないのでしょうか?」 ルルカ「いっ………?」 わ、わたしが優夜さんを、胸の中に抱き締める!? そ、それはまたなんてナイス………あいやや、とんでもない発言を!? 優夜 「………おれはオレに、大根オロシで削り死ねという趣旨でしょうか?」 ルルカ「どういう意味ですかそれは!」 優夜 「……や、物理的にそうなるかなと」 スパァァァーーーンッッ! 優夜 「ぶべっ!」 石詰めスリッパ一閃! 潰れた優夜さんは、床に突っ伏しました。 ………と、ここまでは今までと一緒だったのですが、 ルルカ「………!?」 ベル 「ひっ………」 ブラ 「ゆ、優夜殿、その血は………!?」 桜花 「血が………白い………」 優夜さんの額から流れた血の色は………『白』でした。 優夜 「………」 無言でご自分の血の色を確認した優夜さんは、落胆し、ゆっくりと振り返り……… 優夜 「やっぱりベルティちゃんの胸の中でぇぇぇーーー!」 スパパァァァーーーンッッッ! 石詰めスリッパ×2です。 なんかもう、激しくどうでもよくなってきました。 ちなみに白い血の正体は、袋につめた牛乳でした。 ど〜〜〜して優夜さんって人は、こういうタチの悪い冗談のタメなら、あらゆる労力は惜しまないのでしょう。 そして脱力した午後の空気の中で………。 ルルカ「………え?」 ブラ 「!?」 ミル 「へ?」 ベル 「あ……」 『何か』が『変わり』ました。 この変化がボサネオ島決戦による、二大歌術の激突である事には直ぐに気付きました。 そして世界の中から『幻糸』が消えうせ、優夜さんの蟲化が無効になった事も。 でも………。 ラルカ「お兄ちゃん、無事?」 優夜 「いや、もうすっかり。これも全部、ベルティちゃんの愛の奇跡♪」 ベル 「違うわぁ!」 この人だけは、相変らずです。 ご自分の身体が間違いなく『幻糸』に蝕まれ、蟲化が進んでいたというのに、以前と何も変わりません。 達観しているのか、悟っているのか、或いは何も考えていないのか………。 さて、世界から『幻糸』が消えた事で、絶対奏甲は無用の長物となってしまいました。 この瞬間、機奏英雄は『機奏英雄』でなくなってしまったのです。 なので機奏英雄のPTである「そこいらの旅人」も、取り敢えず解散となりました。 だからこの旅の日記も、今日が最後の1ページ。 でも、なんとなくですが、予感があります。 いずれ皆さんとは、どこかで必ず再会できるという予感が。 その時まで………いえ、きっとその後も、私とラルカは優夜さんと一緒に旅を続ける事でしょう。 色々と苦労が続く事は、当然予想できますが………でも、多分、ソコがわたしの一番の居場所ですから。 わたしの幸せって、結構単純なんです。 美味しいものが食べられて、側に居たい人の側に居る………。 それだけで、充分なんです。 きっと皆さんの幸せも、こんなわたしと五十歩百歩。 五十歩百歩の幸せに、みんな必死に生きているから………。 だからどうか、その時まで、みなさんお元気で。 ルルカ・ソロ・エンフィール ボサネオ徒然放浪記 〜優夜と愉快な仲間たち〜 (終) |