〜 幻想戦記〜 第一章 Flug 第一話 戦いの序曲 トロンメル・ポザネオ島、黄金の工房製造部奏甲ハンガー ギイイイィィィガコン・・・騒然と立ち並ぶ奏甲の中、フォイアロート・シュヴァルベと 名付けられた赤い奏甲の列の一機から、一人の少女がハッチから顔をのぞかせ 下にいる人物に声をかけた。 「調整がおわりました、起動テストを行うので担当の英雄と歌姫方を呼んで来て下さい」 「分かりました、すぐに呼んで来ます」 見るからに少女より年上に見える整備員がピット背筋を伸ばし返答してその場から駆けて行った、 少女の首には青く輝くチョーカーがある、そう、この少女は歌姫であるが特例措置による歌姫ではなく、 正規の手順を踏んだ第四位の歌姫であり工房開発部の副チーフでもある、 副チーフとも在ろう者がここで何をしているかと言えば、人手が足りないのである。 少しして整備員が走って行った事務所のある方向の反対側にある巨大な扉がブザーを鳴らし ゆっくりと開き始め、ここからでは逆光でよく見えないが扉の影に翼を持った大きな人影がみえた、 (あっ帰ってきた♪) 振り向いた少女が穏やかな笑みを浮かべて見るその視線の先には、今自分が乗っている機体と同じ 赤い奏甲がゆっくりとした足取りで狭い通路、(人間サイズではなく奏甲のサイズとして)を歩いて来て 隣の空きハンガーに機体を固定させ、開いたハッチから一人の少年が出て来た。 「ただいま、リーラ、こっちは全項目クリア、稼動テスト終了だ、そっちは?」 「お帰りなさい、ベルクートさん、こちらは今からテスト予定です。」 「ん、そっか、これで初期生産分すべての機体がロールアウトか、 そう言えばシュヴァルベが次のロットで生産終わるって聞いたけど本当なのか?」 リーラの話に受け答えながらベルクートは器用な体捌きで ハンガー据え付けのタラップの梯子を滑り降りてきた、リーラも梯子を降りて来て、 「えぇ、ロールアウトしたばかりなのですけど…操縦による機体制御の難しさと、 各工房レベルでの整備の難しさから実用に耐えないと判断されてしまいましたから …ベルクートさんみたいにシュヴァルベを愛機にして下さってる エース級の方達の戦果は素晴しいのですけど…残念です」 手を腰の前で組みやや俯きながら、 本当に残念そうに話すリーラにしまったなとバツが悪くなりながらもこう言った。 「オレもシュヴァルベは好きだな〜子供の頃から空を飛ぶのが好きだったし、 シュヴァルベで空を飛んでる時も本当に自分が飛んでる様な…そんな気持ちにさせてくれる、 現世の飛行機じゃ味わえない気持ち良さだよ…それにこの奏甲、 リーラが初めて開発に携わったんじゃないか、 オレも初めての奏甲がシュヴァルベだし、愛着があるんだよな〜」 「くす…ベルクートさんって本当に空を飛ぶのが好きなんですね♪いつか私も一緒に乗せて下さいね」 リーラはそう言いながらオレの手を取って微笑みかけてきた、 そんなリーラの仕草にオレは顔が赤くなって行くのを感じていた、 少し遅れて先ほど整備員が呼びに行った英雄達がやってきたので残りの稼動テストを引き継ぎ、 オレ達は食事を摂りに工房内の食堂へ向かった。 時刻は夕方今日の仕事が終わった者、まだこれからも仕事があるもの達で食堂内はごった返している、 そんな中リーラが見知った人を見付けた。 「あっ、母さま」 「こんばんわ、メレーアさん」 「あら?リーラ、ベルクート君も、奇遇ねこんな時間に会うなんて」 「はい、今日のノルマはすべて順調に終わらせましたから」 「今日のノルマ…少し前まで納得が行くまで何時までも仕事をしてた子の言う事には思えないわね〜」 「えぇ…仕事をしてるとベルクートさんが怒るんです、 『リーラは仕事をやり過ぎだ、もっとゆっくり出来る時間を持て』って」 「初めて会った時なんか、本当に働きすぎだって…」 と言ったオレの言葉に、(ほらね?お母様)と言ってメレーアさんに同意を求める。 「あら、ベルクート君の言う事なら素直に聞くのね、リーラも可愛くなったわね〜お母さん嬉しいわ〜」 「も〜う、お母様ったら!」 「…さっ、リーラもメレーアさんも、とりあえず席に着こう、早くしないと席が無くなっちゃうよ」 このままほっといたら何時までも話していそうな二人にやんわりと声をかけた。 「あ、はい、ベルクートさん」 「それもそうね、席に着いたらゆっくり話でもつづけましょうね」 食事の後もメレーアさんの自室に招待され、お茶をご馳走になりながら会話に花を咲かせていた。 * * * 2日ほどたったある日、とうとう黄金の工房近辺にも大規模な奇声蟲の群れが現れるようになった、 最初のうちは工房警備隊と一緒に撃退して行ったが敵戦力は日増しに増えていっている、 現在の工房戦力ではいずれ奇声蟲の数に圧倒されてしまうのも時間の問題だった、 ポザネオ島の奇声蟲大襲来の幕開けである。 この事態に際し工房は評議会に増援を要請、すぐに評議会は奏甲部隊を派遣してきた、 そして現在手の空いている英雄と歌姫を集めてミーティングを行っている。 「トロンメル軍は現在ポザネオ島全域に奇声蟲の大量発生を確認しこの対応に追われている、 特に集会場が大量の奇声蟲に囲まれつつあり非常に危険な状態にある、 知っての通り集会所には宿縁の見付かっていない英雄と歌姫、乗り手の無い絶対奏甲、 評議会からも高位の歌姫方が多くおり、トロンメルを始めとする各国も集会場の救援に 多くの奏甲部隊を派遣している、 このような事態にありここ黄金の工房も守りを固めなければならないが、 今のトロンメルにはあまり多くの奏甲部隊は割けない、 よってここには我々2個中隊16機の奏甲しか配備できず、 黄金の工房の重要度を含め我々が試算した目標配備機数には達していない」 一度部屋に集まった英雄、歌姫達を見渡し、(リーラは、この場にいない)話を続ける、 集まっている者たちの表情が不安と緊張に強張って行くのを感じる、 きっとオレも同じような顔をしているだろう。 そこでここに集まってもらった奏甲テスターの英雄、歌姫達にも戦いに参加してもらわざるを得なくなった、 突然の話で混乱するのも無理ないが奇声蟲の数はこれからも増えるとの予測も出ている、 厳しい戦いになるだろうが今後の英雄殿の活躍を期待している…以上」 話が終わるのと同時に一斉に室内が騒がしくなる突然の話にやはり納得がいかないのだろう、 トロンメル軍から派遣された奏甲部隊のリアン・トゥーネ隊長は、 オレ達が集められた部屋から出て行こうとしたのをオレは呼び止めた、少し気になったことがあるからだ。 「ちょっと待った、奇声蟲の数が増えるなんて予測できるのか?それ、どこの情報だ?」 リアン隊長が振り向き 「情報は評議会からによるものだ、予測に関しては出来るから予測されたのだろう… そうだ言い忘れていたが、明日より 奏甲による戦闘訓練を始めるのでそのつもりで…」 最後にそう言い残し今度こそリアン隊長は退室して行った。 戦闘訓練という言葉に皆の表情が硬くなる、無理もない、 ここにいる英雄は戦闘をした事のない者が殆どなのだ、戦闘経験者はオレを含めてもそう居ない。 「”評議会”ねぇ、何だかやばい方向に事態が向かってるような気がするな、 まあいいや、とりあえずリーラとお茶でもしよ♪考えるのは後回しって事で♪」 頭をよぎる不安を押し込め気楽に振る舞い、オレはリーラにお茶をご馳走になろうと部屋を後にした、 お茶を飲んだらじっくりと相談でもしよう…と。 あとがき まずは一言…文章力の無い駄文をここまで読んでいただきありがとうございます。 え〜この話は第一部から順を追って行くことを予定しておりますが、 今後の話、実はまったくの行き当たりばったりでも〜どうしたもんか!ってな状態でありますが、 今後とも生暖かい目で見てやってくれれば幸いです、 それでは次回作でお会いしましょう。 ベルクート |