〜幻想戦記〜

第一章 Flug

第二話 その名はファルケ


蟲達の女王が討伐され“白銀の歌姫の演説”によりもたらされた混乱により世界は今、
評議会と白銀の暁の二大勢力によって戦争状態に突入していた、
黄金の工房内でも志の違いから赤銅の歌姫に賛同し“無色の工房”へと参加する者、
各勢力に参加する者、黄金の歌姫を信じ行動を共にしようとする者、様々な意思や主張が入り乱れ
沢山の人が去って行くきっかけにもなった、そしてトロンメル軍が工房に駐留する様になって
一週間ほど過ぎたここ、黄金の工房では未だに続く蟲の襲撃に本日二度目の戦闘が開始された。

「シュヴァルベ隊の全機へ、我々は奇声蟲群の右側を回りこみ奇声蟲群の後方より攻撃を開始する、
第一目標貴族種、いつもどうりだが気を抜くな」

『了解!!』
第二話イメージカット
空に何本もの軌跡を書いて、猛然と突き進む奇声蟲群の上空を優雅に旋回し攻撃位置に到達した
シュヴァルベ隊がまるで夜空に咲く花火の様に各機がそれぞれの定めた目標に向かって
散開して行った、これが戦場でなければ素晴しいエアショーが見れただろう。

「まずは、お前から!」

オレは目標を一番近くにいた一匹に決め、右の鞘からブロードソードを引き抜きつつ機体を
反転急速降下、ブロードソードを両手でホールド加速し、とてつもない衝撃とともに貴族種の
硬い背中の甲殻を貫く、オレはブロードソードが貴族種を捉えた瞬間全力で機体の翼や手足を操り、
まるでバク転をする様に悶え苦しむ貴族種の目の前に対面する様に着地、
間発を入れずに左の鞘から二本目のブロードソードを一気に引き抜きそのままの勢いで
貴族種の首を跳ね飛ばした。

「く、まずは一匹、貴族相手にもだいぶ慣れてきたけどまだまだキツイな、」

「大丈夫ですか?ベルクートさん?」

「オレは大丈夫、ゴメン、リーラこそ大丈夫か?」

「私も大丈夫です、ちょっと目が回りましたけど、」

どうやら今の戦闘軌道でオレが感じた物をケーブルで少なからずリーラにも
負荷を与えてしまったらしい。

「もう少しで戦闘も終わる、あと少し頑張ってくれ」

「はい、私なら平気ですから存分にどうぞ!」

「わかった、けどむりするな、行くぞ!」
第二話リーラ歌術イメージカット
左手に持ったブロードソードを鞘に収め、貴族種の死骸に刺さったままのブロードソードを引き抜き、
敗走を始めた奇声蟲群に向け追撃を開始した、

今回戦場にいた貴族種はほぼ駆逐され敗走を始めた奇声蟲などは最早何の脅威でもなくなっていた、
速度の速いシュヴァルベが敗走中の奇声蟲の退路を塞ぎ、
シャルラッハロート系の機体の多い陸上部隊がこれを包囲、
逃走を決め込んでいた奇声蟲にはなす術もなく、あっという間に殲滅されていった、


          *           *           *


工房、戦闘部隊用奏甲ハンガー、先の戦闘から帰還した奏甲がぞくぞくと割り当てられたハンガーに
固定されていく、その奏甲の状態は様々で、外見上の傷だけで済んでいる機体もあれば、
機体の一部が丸々無くなっている機体もある、後者の場合英雄も歌姫もタダでは済まない筈だ、
おそらく大怪我をしている英雄も歌姫も何人もいるだろう。

「ベルクート様、お帰りなさいませご無事で何よりでした」

「ただいま、リーラ」

最近のリーラは戦場へ行く時と帰って来た時はいつも口調が少し固くなっている、
オレが普段通りに接してくれればいいと言っても
『いえ、これが私なりの歌姫としてのケジメなんです、貴方を送り出して、
無事に帰ってきてほしい、自分に対してただそれだけに集中する為にも言うんです、
我儘ですけど許して下さい』と言って聞かないのでオレもそれ以上は何も言わない事にした。

「ん?リーラ、少し顔色が悪いぞ大丈夫か?」

「これくらいは何でも無いです、ちょっと体がだるいですけど少し休めば大丈夫です、」

「そうか、辛いならおぶってってやるぞ?」

「え?、えぇ!、イ、イイですよ!大丈夫です!平気です!ぜ、ぜんぜんオッケイなんですよ!?」

「おちついてって、大丈夫ならいいんだよ、それじゃ行こうかゆっくり休憩しよう」

(本当はおんぶして欲しいなんて、恥ずかしくて言えないじゃないですか)

「ん?今度は顔が赤いぞ、ほんとに大丈夫か?」

「だっ、だいじょうぶです!」

「?何をそんなムキに…」

(それはベルクートさんがいきなり顔を覗き込むからです)

「…不意打ちなんて卑怯です」

「?何か言った、って!!あぶない!!」

「ぇ?」


バギン!!ガガガ…ゴガアアァァーーーンン!!!!


突如ハンガー内を襲った凄まじい轟音と衝撃にその場は一瞬にして騒然となった

「ててて、いったい何が?、リーラ大丈夫か?怪我は無いか?、!」

「ぁ、はい、ベルクートさんが庇ってくれたので私は…?ベルクートさん?」

様子のおかしいベルクートさんが見ている視線の先を見て私も意識が固まりました、
この場にいる人が見ている光景、

それは、殆ど無傷で戻ってきたベルクートさんのシュヴァルベが足を折り手を折り
無残な状態で倒れていたのです。

数時間後、事故調査結果が出たと言うので私達は今お母様…
工房第二開発長メレーア・サーバイトの執務室に来ています、
部屋には奏甲部隊長のリアン・トゥーネさんも居ました。

「というわけで、今回の件は、整備不良による人為的過失は見受けられない為、
人員への処罰などは無いというのが最終的な結果だ、報告は以上」

「そぅ、さて困ったわね〜処罰が無いのはいいけど、あのシュヴァルベはもう駄目だそうよ、
精密検査で機体の殆どの稼動箇所から目では見えないくらいのダメージが広がってるらしいの、
修理をするより一から建造した方が早いらしいわ、
でも今はシュヴァルベの予備パーツのストックも一機組上げるほど無いし、パーツを一から作って
揃えるのも時間が掛かりすぎてとても現実的ではない、
貴方がシュヴァルベにこだわる気持ちは分かるけど、私達にはこれ以上のことは出来ないわ」

「そうですか、残念です…」

〈丁度搬入されたばかりの新型機があるから代わりにそれを使ってみてはどう?〉と提案もされたが、
正直どうしようかとも思ったが(仕方ない無い物はないか)と思い口を開きかけたその時
ベルクートの横でリーラが静かに自分の考えを口にした。

「お母様、いえ、メレーア開発長、是非ともお願いがあります」

「何かしら?リーラ」

リーラの只ならぬ面持ちにメレーアの表情も強張る。

「はい、先日完成したファルケを一機、貸し出しをお願いしたいのです、」

「ファルケ?何ですかそれは」

リアンの疑問に答えるようにメレーアが口を開く。

「フォイアロート・ファルケ、リーラを筆頭にこの工房で極秘に開発した準華燭奏甲、
リーラ、貴女本気で言ってる?」

「はい、ベルクートさんには他の奏甲では役不足です、恐らく現在可動中の奏甲では
また今回の様な事故が起きるかも知れませんし、私なんかの権限でファルケを独断で
どうこうできるとは思っていません、ですから…」

見るからに必死で説得しているリーラの言葉をメレーアは片手でさえぎり。

「リーラ、私はそうゆう事を聞きたいんじゃないの、今アレを動かす事がとても危険な事は良く
知っているでしょ、それにファルケはまだ誰にも整備できない、
なにせこの工房にいる開発関係者は私とリーラだけ、この工房にいる者はファルケみたいな特殊機を
扱った事の無い技師が殆んど、誰も手助け出来ることが解らないから貴方はファルケの整備管理を
一人でやって行かなければならないあまり賛成出来る選択では無いわ、そこまで考えて覚悟を決めた
上でファルケを使いたいと言っているのね?」

「はい!」

「………」
シュヴァルベが使えないと分かって他の奏甲でもいいと安易に思ってしまったオレはオレに対する
リーラの親身な思いに触れた気がして、その時既に涙ぐんでいたリーラに声をかける事は出来なった。

少し前に“白銀の歌姫の演説”以降今まで以上に頑張り続けているリーラの負担を減らそうと
奏甲を降りてリーラの手伝いに専念すると提案した事もあったがその時もやんわりと却下された、
それでも「本当は行かせたく無いんですから死んではイヤですからね」とは度々聞いている
リーラの口癖だ、
奏甲を作る事、整備をする事、オレも少なからずリーラの手伝いをしているからわかる、
奏甲を整備する事がどれだけ大変な事かオレも良く知っていた。
このご時世正規の歌姫であるリーラには工房内外に権限もあるが同時に責任もある、
戦わせたくないけど、戦っていかなければならず、蟲がいる限り奏甲は必要な物だそしてその奏甲には
英雄が乗る、戦場で少しでもオレが生き残れるように歌姫として戦場で戦うオレのサポートも全力で
している、何より早く平和になって欲しいという思いで懸命に頑張り続けている、ずっとそう、今もそう、
おそらくこれからも。

(だけどファルケって奏甲を使う事が危険ってのはどう言う事だろう?)

「分かったわ。ベルクート君、貴方にも聞いておくわ、
聞いての通りファルケはとても難しい奏甲よ、リーラの決意は聞いたわね、
貴方はどうかしら、リーラの気持ちに応えられる?生半可な気持ちでファルケに乗ってもきっとまとも
に戦えないわ、それに戦闘起動中にダメージを受ければ今まで乗っていた奏甲より大きな
ダメージフィードバックがリーラを襲う、強大な力と引き換えに英雄、特に歌姫の安全が保障されてない
アレはそういうまだ使うには早すぎる奏甲なのよ、
リーラの負担も危険も今迄の三倍くらい増えるわよ、それでも貴方はファルケで戦う気はある?」

リーラはオレを信頼してくれて危険であると言うにも拘らずファルケという機体の使用を願い出ている、
良く解らない奏甲に不安が無いといえば嘘になるけどリーラの造った奏甲なら大丈夫だと思う自分も居る
二人一緒に頑張れば何とか成るんじゃないかと思えて来た、いや、思えるじゃ無く確信に代わってきた、
ならばオレの出す答えは決まってる。

「乗ります、信頼してくれるリーラの為にもオレはファルケに乗ります!」

ありったけの気持ちを乗せてハッキリと答えたオレとリーラに向かって、メレーアさんはそれまでの
真剣な面持ちから一転いつもの優しい笑顔に戻っていた。

「分かりました、二人とも付いて来なさい今から機体を渡します」

「ぇ?今からですか!?」
「ぇ?お母様、それは一体どう言う?」

「ふふっ二人ともいい反応ね、リーラならきっとファルケを使いたいって言うと思ってね、
こっそり先手を打って許可を貰ってるのよ♪」

「え、じゃあもし言わなかったらどうしたんですか?」

急な展開に面食らいつつも素朴な疑問を聞いてみる。

「でも私の予想通り使いたいって言ってきたでしょ?ねっリーラ」

「ぅぅ、じゃあどうしてあんな質問をしたの?」

「私は貴女の母親よ、娘の成長が見たくなるのは親として当然よ、
だからちょっとね意地悪く尋ねてみたの〜」

「お母様…イジワルです」

先程までのあの緊張感は一体なんだったのだろうと思わせるような状況の変化にオレはその場に
完全に置いて行かれてた。

「ベルクートさん行きましょう?」

「あ?ああ、そうだね」

やや放心しかけた意識を引き戻しリーラと一緒に先に行ったメレーアさんの後を追いかけていった。

  


既に夜も更けて辺りが暗くなった通路をこの工房の最奥部に在る厳重な警備の建物へと
連れてこられた、一部の関係者しか入れないその建物にファルケは保管されてるのだと言う。

「さあここよ、二人とも中に入って下に降りるわよ」

少し狭いエレベーターに乗って長い距離を降りた先、広い空間があった、巨大な構造物などで
狭く感じるほどの広間の通路を歩き奥まで来た所でそれに気がついた。

「これが…」

「ええ、これがフォイアロート・ファルケよ」

薄暗い空間の中、それは確かな力強さを秘め佇んでいた。



あとがき

はい、第二話です、今回は色々加筆修正などを行って再掲載いたします、

現在は三話目をボチボチ書き進めているのですがと言うかまったく進んでおりません、
自分の文才の無さに愕然としつつ何とかジリジリとでも書き進めようと孤軍奮闘している
次第でありますですはい、
では次回をどうぞ首を長くして(ホントに長いよ…)待ってやって頂ければ幸いです。

それでは、今回も駄文に付き合って下さりありがとうございました。

                                ベルクート

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