〜幻想戦記〜 第一章 Flug 第三話 飛び立つ 工房より南西に50qほど離れた草原地帯、町や村などが無い見渡す限りの平原、 今日は天気もいいその平原の上には一羽の鳥が抜ける様な青空を飛んでいる、 鳥は一羽、近くにはその鳥以外飛ぶ者は居ない、 ついさっきまで、 鳥から見て右方向、遠くから何かが轟音と共に飛んできた、紅く輝く青い“鳥の様な人が” 鳥は本能的にその場を離れるように急降下していった、 アレに関わってはいけないと本能がそうしたのだろう。 * * * 俺達は今、奏甲三機編成で長距離の警戒飛行を行っている、編成は、ファルケ 1、 シュヴァルベ 2、工房より編隊を組んで飛行してきた。 「今のところ異状は無いな、」 一昨日ファルケを受領し、今日処女飛行を兼ね出撃した。 『ベルクートさん、そろそろシュヴァルベの行動限界が近づいてます、 この辺で切り上げて引き上げましょう』 ファルケ受領時に急遽随伴機として、今では数少ないシュヴァルベを愛機にしている兄妹英雄の兄、 庵璃・ベーグルから声をかけられた。 「ん?、あぁそうか、シュヴァルベはこの辺りが限界だったっけ、じゃぁ工房へ戻ろう」 『『了解』』 この二人、召喚時は女王出現に伴う出撃率が増加している時に、誰も気づかないような所に召喚 されたから暫く発見されないまま鉄骨の上で気絶してたんだ、発見されてからも救出に工房中が 大変な騒ぎになったのを覚えてる、 コンダクターとしての能力も高く二人の外見と先の召喚時の印象もあって工房でも知らない者が 居ない位の有名人だ。 『あの〜ベルクートさん、そのファルケって奏甲はまだ飛べるんですか?』 今度は妹の葵・ベーグルだ。 「ああ、まだしばらく飛べる、シュヴァルベよりそれぞれの性能が格段に違う、実際に試して 無いけど感じるんだ力が溢れて来る感覚を」 『それなら私達ここで待っていますから試してみてはどうですか?性能、』 『僕も見てみたいですその特別機の性能!』 シュヴァルベの二人の英雄が、珍しい奏甲のデモンストレーションを要求してくる、 オレだって是非ともコイツの性能を試したいところだけど、 「と言う訳だけど、どうかなリーラ、オレもちょっと試してみたいと思うんだけど?」 〈少しだけならいいですよ、ただまだ調整が完全では無いですからあまり無茶はしないで下さいね〉 ケーブルから感じ取った事や少しも考えるそぶりを見せなかった返事からリーラも現状どの位なのか 知りたいのだろう、一番気にしてるのは俺かもしれないけど、結局は皆この奏甲の事が気になってる みたいだ、オレはやや速度を速めた、随伴していた二人は高度を下げ近くの適当に見晴らしのいい 丘へ着地した、二人が着地したのを確認してオレはアクロバットを開始した、自機の体制、高度、 何処にGがかかって次に何処に向かうかetc.…挙げればキリが無いが伊達に飛行時間千時間を越えてる 訳じゃ無い、ここに来てシュヴァルベだって乗りこなしていたオレは初めて乗る機体でもごく自然に 複雑なコントロールを行いファルケを操って行った、曲芸を披露しているうちに新しい機体との奇妙な 一体感を感じ段々と自分の物になっていく感じからいつの間にか顔に笑みを浮かべていた。 丘の上からその様子を見ていた二人は、不意にファルケの動きが変わりそれまでの優雅な中に機敏を 併せ持った軌道から一転してより激しいものへと変わった事に驚いた、とにかく無軌道に思えるそれは 明らかにシュヴァルベでは不可能な飛び方だった、それまで高速で上昇していると思ったら次の瞬間には 遥か下方でまったく違う軌道を描いていたのだ、下で見ている二人には一瞬消えたように見えていた、 見間違えだろうとも思ったが一回や二回ではなく何回もそう見えればやはり違う事に気がつく、 瞬間加速が尋常では無いのだただでさえ人型である奏甲があんな高速軌道をして空中分解しないだけでも 異常なのに中のベルクートはまったく意に返さないようにファルケを操り続けていた。 あまりの空中軌道に下の二人はスゲーとかふわぁ〜とか声に漏らしながらその様子をただ見つめていた。 〈べ、ベルクートさん…もうその辺にしておいて下さい…〉 ケーブルを伝ってリーラの弱々しい声が響いてきた、その声でハッとなりついついはしゃぎ過ぎた事を 後悔する、感じられるリーラの状態は酷い乗り物酔いになったみたいでとてもこれ以上織り歌を歌う事 など出来そうも無かった、 「ごッ御免リーラ、完全にやり過ぎたすぐに休もう!」 やってしまった、(ついこの前決意を決めたばかりだと言うのに初飛行でこのザマでどうするんだ) オレは自分の迂闊さを呪いながら慌てつつもゆっくりと奏甲を下で待つ二人の元に向かわせた。 * * * 「貴方達はそれで本当に良いのですね?」 工房執務棟、開発長室第二と書かれた部屋(メレーアの執務室だ)の中から誰かとの話し声が聞こえる、 「はい、私達はトロンメル軍の軍人ではありますが現状の評議会からの命令などには今一つ納得が 出来ません、白銀様のあの演説が嘘にせよ真実であるにせよ今は安易に答えを出す時ではないと、 黄金の歌姫様の御考えを聞いたその時にどうするべきかを決めるとそう思っている者も隊の中にも 多くいます、ですから議会軍に合流する意思の無い者達は軍を抜けここに残り、あくまで黄金の歌姫様を 支持すると言うこの工房に留まり行動をしたいと言う事です」 メレーアと話しているのは奏甲部隊長のリアンだ。 「話は分かりました、こちらとしても随分と人や物資が減ってしまい正直困っていたところです、 本部の後ろ盾が無い現状ではまともな工房運営は出来ません、そこにこの申し出には正直にとても嬉しく 思います、これからの激動の世を生き抜いていくため共に頑張りましょう」 「快く迎えて頂きありがとうございます、共に頑張りましょう」 他に誰もいない部屋の中、二人は静かに握手を交わした。 「それでは早速ですが見せたい物があります、此方へいらして下さい」 「見せたい物ですか?」 「ええ、これからこの工房の運営について関係ある物です、奏甲部隊の皆さんにそれの護衛を して頂きたいと思っています、では此方へ」 メレーアがリアンを連れて行った先はファルケの保管されていた建物だ、既に以前ほどの警備は 見られないそこに二人は入っていく、エレベーターを降りた先幾分スッキリとしてしまった広間に その威容を誇る巨大構造体があった、一つではなく殆んど同じ大きさの物が五つほどこの広間にあった、 その構造体一つ一つの周りでは工房に残った技師と整備士達が忙しく動き回っている、 (かつてそこにあった三機のファルケは既に運び出された後だ、工房の重役達がここを離れる際 無色の工房の回収命令に従い運び出してしまったのだ、もちろんリーラ達は反発したが《この工房施設の 独立を認める代わりだ》と言われその時の状況では頷かざるをえなかった) 「これはなんです?」 リアンがこう聞くのは無理もなく、知らない人間が見れば誰しも同じ反応をしただろう。 「これは奏甲を速く効率良く戦線に展開できるように考えられたプランの一つで奏甲用簡易型整備 アンヘンガー(トレーラー)として建造中だった物なのだけど開発自体あまり進められなくて ポザネオ戦には間に合わなかったのよ、だけど世界が戦争状態になって工房も知っての通り手薄に なって運営が難しくなって来た、そこで思いついたのがこれを使って各国を巡らせてその地その地で 協力者を募りながら蟲や戦争の余波を受けた人たちを救済しようと考えた訳なのよ、だけどそれを 実行しようとするとそれまでの設計では十分では無くなってしまってねやむなく設計を変更して いったらこれだけ巨大な物になったわけ」 「はぁ…で、つまりは何になったのですか?」 「コホン…つまり、改造した奏甲用簡易型整備アンヘンガーの五つをそれぞれの位置で展開させる事 によって移動式展開型整備工房にスケールアップしたのよ、名前はハインドよ」 「イマイチ想像がつきにくいですがそれは凄いですね、ではそこで我々奏甲部隊の護衛が必要になると いうわけですね」 「ええそう、よろしくお願いするわね」 「任せてください」 その威容を誇るハインドを見つめていた二人はどちらからともなくその場を後にした。 あとがき 二話掲載からもうすぐ一年経っちゃうよ!?と言ったところでようやく三話目の掲載となりました。 相変らず自分の文才の無さに気が振れそうではありますが…… それでは今回も駄文に最後まで付き合っていただき真にありがとうございますを最後に、あとがきと させていただきます…。 ではまた第四話でお会いしましょう。←(早く書け! ベルクート |