Ru/Li/LU/Ra ストーリー 〜エルシーア・ブライトン編〜 第一話『召喚』 エルシーア・ブライトンは今、一人の男に押し倒されていた。 エルシーアは必死にもがくものの、両腕を押さえつけられた状態では、どうにもならなかった。男との、力の差がありすぎるのだ。 「こ、こんな……ッ」 目の端に涙を滲ませつつ、エルシーアは呻く。 それは、エルシーアは予測もしていなかった事態であった。 「逃げられないぜぇ……エルシーアちゃん……」 『猫なで声』とでも言うのだろうか。どこか甘ったるい、しかしながら敵意に満ちた声で、男が言う。 「諦めて、オレと一つになろうぜぇ……」 エルシーアに覆いかぶさろうとする男に、彼女は気丈にも言う。 「やめて下さい!何で……こんな、ことをッ!」 「何で、って……お前が、好きだからだよ……」 男の論理は、もはや成層圏にまで吹っ飛んでいるような、ムチャクチャなものだった。 ……そもそも、なぜこういう状態になったのか、順を追って説明していこう。 エルシーア・ブライトンは、フランスは華の都・パリにある大学の、数学の講師だ。 二十四歳であるエルシーアは、まだ講師に成り立て。 しかしながら、適切な講義と明快な説明で、学生たちにはなかなかの評判であった。 加えて、エルシーアは美人の部類に入るだろう。 背中の中ほどまで伸ばした金髪は、波打つ金色の海のよう。 蒼い双眸には、穏やかさと確かな意志を備え。また、その白き肌は、あたかも降り積む白雪のようであった。 胸は、大きくはないものの、さりとて小さくもなく、167センチという背丈に見合った大きさを確保していた。 性格の面においても、優しいお姉さんといったカンジで、決して粗野ではなく、かと言って高飛車でもない、好感の持てるものであった。 顔良し、スタイル良し、性格良し。 この三つを満たしたエルシーアには、自然人気が出てくる。 学生たちには『エルシーア姉さん』という愛称と共に、恐らく、大学で一番親しまれている講師であろう。 とにかく、エルシーア・ブライトンとはそういう女性であった。 そんなエルシーアであるから、男性講師たちにも人気があるのは、普通のことなのかもしれない。 他の講師たちに対しても柔和に接するエルシーアは、職場の同僚たちにも好感を与え、 赴任して間もないということを感じさせないほど、打ち解けることが出来ている。 中には、エルシーアに対して『愛情』を抱く者がいるほどに。 エルシーアの性格に惹かれたのか、はたまた容姿に惚れたのか。 彼女の許には同僚の男性講師たちが、よく告白に来る。 曰く、 『君は僕の天使だ』云々、 『俺と付き合ってくれねぇか?』云々、 『君という一輪の華を、私の心の庭園に咲かせたい』云々。 あれや、これや。 しかし、彼らに好意を持ちこそすれ、愛情は持っていなかったエルシーアは、誰かが告白に来るたび、やんわりと断っていた。 講師に成り立てであるエルシーアには、まだ講師としてやっていくだけで精一杯だったからである。 だが……ある日。起こってはならないことが起こった。 その日もエルシーアは、一日の講義を終え、帰宅の途に就こうと、大学の校舎内を歩いていた。 そのとき。 「よう、エルシーアちゃん。ちょっといいかい?」 そう声をかけてきたのは、同僚である歴史学の講師だ。 以前エルシーアに告白し、フラれたことがあった。確か、モルガンとかいう名前だ。 「はい。何か用ですか?」 微笑しつつ聞くエルシーアに、モルガンは言う。 「見せたいものがあるんだ。ちょっち付き合ってくれねぇか?」 大学の敷地のハズレにある、夕暮れの備品保管庫。 申し訳程度に設えられた窓からは、もう落ちつつある夕陽の光が、わずかながら差し込んでくる。 蛍光灯は点けなくとも、まぁ本などを読むのでなければ問題ない、といった程度の明るさだ。 「ここに、何かあるのですか?」 先に、備品保管庫に到着して、まずエルシーアはそう切り出した。 「ん。ああ、ちょっと、な」 歯切れ悪く答えるモルガン。保管庫の扉をピシャリと閉める。 「?」 怪訝な顔になるエルシーアに、モルガンは鼻息荒くにじり寄る。 「……エルシーアちゃん」 「な、何です?」 異変を悟ったエルシーアが、少し後ずさりしつつ聞く。しかし、後ろには壁しかない。 「……エルシーアちゃん」 「…………」 「……俺は、君が好きだった……」 にじり寄りつつ言うモルガン。 「……君のその顔を見るだけで、心がドキドキしたものさ……」 「も、モルガン……?」 ここで、モルガンはいきなり声を荒げた。 「だが!お前は……その俺の気持ちを踏みにじった!お前にわかるか!?この俺の気持ちが!!」 恐らく、エルシーアがモルガンの告白を断った件を言っているのであろう。 逆恨みも、ここまで来れば立派ではある。 「モルガン……」 「……だが。俺は、まだお前のことが……」 トン………。 「………!」 後ずさっていたエルシーアの背中が、壁に触れる。 「一緒になろうぜぇ、エルシーアちゃん」 そして、モルガンはエルシーアに襲い掛かった。 エルシーア・ブライトンは今、モルガンに押し倒されていた。 エルシーアは必死にもがくものの、両腕を押さえつけられた状態では、どうにもならなかった。モルガンとの、力の差がありすぎるのだ。 「こ、こんな……ッ」 目の端に涙を滲ませつつ、エルシーアは呻く。 それは、エルシーアは予測もしていなかった事態であった。 「逃げられないぜぇ……エルシーアちゃん……」 『猫なで声』とでも言うのだろうか。どこか甘ったるい、しかしながら敵意に満ちた声で、モルガンが言う。 「諦めて、オレと一つになろうぜぇ……」 エルシーアに覆いかぶさろうとするモルガンに、彼女は気丈にも言う。 「やめて下さい!何で……こんな、ことをッ!」 「何で、って……お前が、好きだからだよ……」 モルガンの論理は、もはや成層圏にまで吹っ飛んでいるような、ムチャクチャなものだった。 「誰か……助けて……」 力なく呟くエルシーアに、モルガンは勝ち誇ったように言い放つ。 「無駄だぜ、エルシーアちゃん。この時間帯は、もうほとんどのヤツは帰っちまってるからなぁ。 増して、こんなハズレの備品庫に来るヤツなんていねぇよ」 全く、そのとおりであった。 すでに講師たちも帰り始めているこの時間に、わざわざこんな離れた備品庫に来る人間は、いなさそうであった。 大声を出そうとも、聞こえるハズもない。 ――もう、ダメ。 エルシーアがそう覚悟し、目を瞑った、そのとき! まばゆい光が、エルシーアを包んだかと思うと、彼女の身体は、一瞬にして消え失せていた! これには、モルガンもただ唖然とするしか無かった………。 第二話に続く |