日常と言う名の妙
Chapter.1
朝。
どう考えても、朝だ。
だが琉都は起きる気にはなれなかった。
と言うのは、寝たのが遅かったからである。
寝足りないのだ。
それにまだ、目覚し時計(改造済)も鳴りそうにはない。
朝と言っても、日が昇ったと言うだけの意味での朝、だからだ。
時刻は6時よりかなり早い。
琉都はため息をつくと、寝返りをうって、二度寝する事にした。
ここは大十字学園。
の指定寄宿舎の一つ、玄流。
相部屋すれば24人まで寄宿可能だが、今の所まったく経営不振と言って問題無い。
と言うよりも、ほとんど休業状態か。寄宿者は副管理人を入れても7人しか居ない。
まあ、これくらいで丁度いいのではあるのだが。
朝。
今度こそ、本当の意味で、朝。
青い瞳をした金髪の少女が1階の食堂で料理を作っていた。
彼女の名は、ソフィア・エルファイム。303号室の住人である。
今の所、彼女とレイしか、まともな料理を作る女子は居ない。無論、副管理人・ルィニアも含めてである。
6人分の弁当と、7人分の朝食。そして作りおきできる昼食。これを作るのが、彼女の朝の日課だ。
ソフィアはふと壁に据え付けられた時計を見ると、もう6時半である事に気付いた。
急いで火の元を閉じ、耳栓をする。
と。
ぐわあぁぁぁあん!
もはや衝撃としか言えないような大音響が、1階の副管理人室から3階まで響き渡った。
朝に弱いルィニアが起きようとして改造した、大音響目覚し時計の音である。
数秒もすると目覚し音が止まった。コップの水が揺れなくなったのを見て、ソフィアは耳栓を外す。
そして料理が粗方完成している事を改めて確認すると、エプロンを外し隣の副管理人室に向かった。
そして問答無用に副管理人室の扉を開く。
何も知らない者が見たら「殺人事件!?」と叫びたくなるような格好で、改造済目覚しを持ったまままた爆睡しているルィニア。
ソフィアとよく似た金髪が地面に向かって垂れ顔を隠しているが、恐らく小丸眼鏡をかけたまま寝ているだろう。ちなみに瞳の色は青緑色である。
「ルィ姉ぇ、朝だよー。」
ソフィアのそんな呼びかけにも、もちろん応じるはずが無い。
switch構文は式の評価がcase文だった場合にその命令を実行しそうでなければdefault文を実行、などとかなり長い寝言を呟きながらもそもそと布団に戻ってしまった。
目覚し時計が鳴って数分後。
まず最初に階段を下りてきたのは、左目の瞳が白銀色、右目の瞳は黒色、セミロングの黒髪の少女。
305号室の住人、レイ=ミナヅキである。
「おはよ、ソフィア。」
「おはよー。」
軽く挨拶を交わし、暫くの間他愛も無い会話で時間を潰す。
そうしてさらに数分たった頃、2人ほぼ同時に男子が階段を下りてきた。7人の住人の内、男は彼らのみである。
片方は赤黒い髪で、青含みの黒色の瞳の青年。あまり制服を真面目に着こなして居ない。
彼はアルゼ・クオンゼルン。205号室の住人である。
そしてもう片方は黒い髪黒い瞳で、腕には篭手を着けている。アルゼとは違い、制服を真面目に着こなしている。
彼は仙仁 琉都。201号室の住人である。
「おはよーさん。」
「おはよう。」
ほぼ同時に、ソフィアとレイに挨拶する。
「おはよー、アルゼ、琉都兄ぃ。」
「あ、おはようございます。」
ソフィアとレイもほぼ同時に返事した。
このやり取りももう慣れたもので、タイミングが掴めずおろおろしていた琉都も今やその面影を残していない。
少し話をして待つ事1分足らず。
黒い長髪の、黒い瞳の少女が階段を下りてきた。ちなみに体つきは上から順に“中途半端・引き締まっている・中途半端”だ。
彼女はアメルダ=エングローリス。301号室の住人である。
「おはよ。」
「あ、アメルダ姉ぇ。おはよー。」
「おはようございます。」
「おぅ。」
「おはよう。」
さて。これらを見て、どれが誰のセリフか識別できるだろうか?
難しいのはアルゼと琉都の識別だろう。
「お、今日はみそ汁の具が…?」
「うぇ、何このネバネバ!」
「うん。いつものワカメ豆腐じゃなくて、納豆ワカメにしてみたよ。」
「あー。納豆って健康にいいって言うしね。」
「オレはあんまり納豆は好きじゃねえなぁ。」
会話がはずみ始める頃になって、やっと副管理人ルィニアが起き出して来る。
上から順に“大・締・大”の擬音が付くナイスバディの持ち主だが、それも寝間着ジャージ姿では様にならない。
「ぅおはよー…」
声もまだどこか眠たげで、前をきちんと見れているのかどうかすら疑わしい。
現に琉都の座っている椅子の脚に足を引っかけ、転びそうになった。
「おはよう、ルィ姉ぇ。」
「おはようございます。」
「おはよ。実はまだ寝てるんじゃないの?」
「おぅ、おはようさん。」
「おはよう。」
少し毒のある言い方をしたのは、アメルダである。
もちろん敵意がある訳ではなく、事実を訊ねているだけだが。
しかしルィニアは気にした様子も無く、黙々と食べ始めた。
「うわ! 何、このネバっと食感は?!」
「さっきオレも同じ事を聞いたぜ…」
「納豆入り、だとさ。」
「……おいしいと思うんだけどなあ……」
「わたしもそう思うけど…まあ、好みがあるみたいだから。」
「私は嫌いね。」
そうこう話しながら食し終わる頃には、学園に向かえば丁度いい時間となる。
玄流は学園指定寄宿舎の中では、最も遠い部類に入る。そのためバス通学か自転車通学、どちらかを択ぶ必要があった。
ルィニアが食器を洗っていると、2階から誰かが下りてきたようだ。
ふと振り向くとそこには黒猫の化物──もとい、ネコミミのような寝癖のついた女性。
碧色の瞳と黒のロングヘアー、そして必ずネコミミ型の寝癖のつくこの女性、実は学園の体育教師である。
304号室の住人、寝古川 琥露鬼である。
「おはよーございます…」
「あぁ、おはよう。」
琥露鬼は食堂を見回し、誰も居ない事に気付いた。
「あれ、生徒どもは?」
「もう行っちゃったけど。寝古川センセは行かなくていいのかい?」
そう言い、ルィニアは時計を指差した。
時計の短針はしっかりと8を指している。
「……ぅわ、遅刻確定だわ。」
そう呟くと琥露鬼は、どうやって他の先生方の口撃(字違いにアラズ)を躱そうか考えながら、冷めかけた朝食に手を出した。
あとがき
どうも。センジン リュウトです。(バスの中。制服なので通学生に見えるが、他には誰も乗っていない。)
(バスが停まり、誰かが乗り込んできた)
「はー…何とか間に合ったわね…」
お疲れ様、寝古川さん。
「あら、作者じゃない。…って事はあとがき?」
まあ、ね。
「ところで。本来の設定──ルリルラ用の設定に一部引用されている設定と、かなり違うみたいね。」
ああ、苗字とか、能力とかね。
「ええ。」
現実に即した物語を書く以上、そう言う細かい所から詰めていくのが、自分の方法ですから。
「大変ねぇ。本当は、話の全体像から、必要な設定を割り出すんじゃないの?」
あー、まぁ、普通はね…。自分の作風が『行き当たりばったり出た所勝負』で構成されてるから、どうにも……。
「苦労するわよ。」
もうしてる。実の所、今(2005/04/17/23:45)ちょっとルリルラSSのが詰まっててね。
「あら、そう。まあがんばってね。」
ありがと。 さて、それはそうと琥露鬼の苗字の『寝古川』。あれは何の捻りも無いんだけど…
「あと半捻りは欲しい所だわ。」
何を言うか。元々は自分のリアル妹(HN・猫田 そまり)の“猫田”を流用する予定だったんだぞ。
「あら、そう。でも琉都クンが“仙仁”なのに私が“寝古川”って…ヒロインとしてちょっと、ねぇ?」
ねぇ、じゃなくて。それにヒロインは寝古川センセじゃないから。
「じゃ、アメルダ?」
さらに離れたな。まあ、今回は顔見せもしてないから、わからないだろうが。
「つまり…面倒かつ煩雑な心理描写を避けるために、わざと玄流に寄宿させなかった、と。」
うぐっ…(図星)
「ヘーェ。ルリルラSSじゃあ三角関係にまで拗れてるって言うのに、大丈夫なの?」
知るか。っつーかここでルリルラSSの話をするな、今は学園モノだ。
「はいはい。」
と言う事で、今回のゲストは寝古川 琥露鬼さんでした。はい、さようなら。
「さようなら、ってね…。 学園はまだまだ先よ?」
…。今こそ作者力を──(と、アヤシゲな万年筆を取り出す。)
「違反よ。齟齬が生じるじゃないの。」
──あぅ。
「それはそうと最近、だんだん荒くなってない?」
何が?
「作品の完成度が、よ。最初は当社比でも絹織物のような出来なのに…」
ほっとけ。だんだん焦るし、最近は休みの日も忙しいからな。
「あぁ…カレーの油と格闘してるんだったわね。1時間750でよくやるわよ。」
食事付だからな。それはどうでもいいんだが。
「で、何に使うの?」
バイト代か? ま、全額貯金して──
「呆れた。」
──幾らか溜まったらデスクトップパソコンを買う。
「1年以上かかるじゃないの。大丈夫かしら?」
……。まぁ、飽きっぽい性格と言うのは否定せんけどさ。 とりあえず平日のバイトも探してみるさ。
(「大十字学園前、大十字学園前でございます。お降りの御客様は──」)
「あら、もうついちゃったわ。(言いつつ、壁の『次に停まります』スイッチを押す)」
お疲れー。そしてがんばれよ、寝古川センセ。
「作者もね。寝不足で授業中に寝ると、平常点に響くわよー?」
わかってる。電車の中で寝るさ。
「そう言えば作者、本当は電車通学だったわね。」
まーな。
「乗り過ごしちゃだめよー。 じゃねっ(バスの降り口に向かって歩いて行く)」
おぅ。じゃあな。
と言う訳で、今回の所はここまで。それでわ次に会うときまで、さらばーッス。