第十字学園の亡霊・後
 

(チェス・・勝てない)
 
「お前は考えている事が単純すぎるんだ」
 
(そう?そうかな)
 
「いいか、まずは相手の立場になって物を考えろ、自分が敵ならどうしてくるか、敵が自分の立場ならどうするのか・・」
 
(難しい・・)
 
「ゆっくり考えろ、時間はいくらでもある」
 

      ※      ※      ※
 

わずかな明かりの中で、光が瞬く。
 
マリー「なかなかやるわね、それほどまでに死ぬのが怖い?」
 
桜花「死を恐れない人はいません。必要なのはその恐怖に打ち勝てるかどうかです」
 
マリー「ふふ、面白い娘ね。でもあなたはあれに歴然とした力の差を感じているわね」
 
桜花「本当に兄ならばの話しです」
 
マリー「道化は何にでもなるわ、話しを面白くするためならね」
 
桜花「それだけわかっていて何故あなたは・・」
 
マリー「私は私の大切な人を奪った元凶のあれが許せないのよ」
 
桜花「そんな事をしてもあなたの大切な人は戻ってきません、あなたはわかっている筈です」
 
マリー「それは承知の上よ。でもね、人を高みから見下して弄ぶあれが私は許せない」
 
桜花「悲しい人、人を憎む事でしか生きていられなかったのですね」
 
マリー「私は生きなければならなかったのよ!」
 

      ※      ※      ※
 
〜体育館〜
 
忍「いい動きだ、どこでいじくられた」
 
レグニス「無駄口が多い奴だ」
 
忍「退屈なんだよ、口を開く余裕も無いか!」
 
レグニス「おまえに語る事は無い」
 
忍「ならば俺から言ってやろうか、人外であるお前がここにいる意味を!」
 
レグニス「口にした所でどうなる?」
 
忍「口にしない事で何とする?」
 
レグニス「・・・・」
 
忍「俺達は駒だ、結局大きな流れにのるしかない」
 
レグニス「一握りの存在を除けば全てが無力だ」
 
忍「そう無力だ、それを感じる暇も無いほどにな。それは安穏と暮らす人間も一緒だ」
 
レグニス「俺には関係の無い話しだ」
 
忍「俺にも関係は無いな。だが、まがりなりにも関係の無い者達に囲まれている」
 
忍「認めろ!お前はお前が思うほど周りから隔絶されてはいない」
 
忍「それを知った上で、ここで死ね。戻るべき場所を思いながら・・」
 
レグニス「今ここで止まろうが、未練など無い」
 
忍「まだわかっちゃいないな。お前がここで周りに与えて物の大きさが・・」
 
レグニス「俺は何もしていない」
 
忍「はたして他の者が全員そう思っているかな?」
 
忍「お前が有り、そして無くなる事で生じる事象はそんな単純じゃない」
 
レグニス「御託はいい。そろそろ身体がもたないのではないのか?」
 
忍「ふん。身体の心配をされるとはな・・忍が怠けていたからこうなる」
 
レグニス「不完全なものが、大見得きったわりにはそんなものか?」
 
忍「それは挑発のつもりか?のってやってもいいが今日はお前の顔を立てよう」
 
レグニス「勝負を決めず、目的も示さず、茶番だな」
 
忍「なんでも白黒つけようという思考が短絡的なのだ、過程より生まれる物もある・・。
  我は道化、流れる時を揺らす人形。人を煽り静め、より大きな振幅を刻む」
 
レグニス「はた迷惑な奴だ」
 
忍「駒は動いた。風は凪をすぎまた何処かへ拭く、事象の螺旋が重なる時に現れよう、人がより深く時を刻めるように・・」
 
突然、忍の身体は糸が切れたように崩れ落ちた。
 
レグニス「・・・・道化・・」
 
レグニスはしばらく倒れた忍を見つめる。死んではいない呼吸がある。だが危険がさったとは思えない。
 
???「こんな所にいたのか・・」
 
体育館に影が一つ増える。
 
レグニス「おまえは・・」
 
丹羽「学園用務員、丹羽兵衛(にわひょうえ)。特組の坊主共なら知っていると思ったが」
 
レグニス「特組にもいろいろある」見た事はなかったが、男の雰囲気から余計に警戒がとけない。
 
丹羽「まあいい、今はこれに用がある」ヅカヅカと忍の側まで歩く。
 
丹羽「いつまで寝てやがる!お前にはまだ役割が残っているだろうが!」
 
そう言って遠慮無く忍の腹を蹴り上げた。
 
忍の身体が浮き上がり再び床に落ちる。鈍い音と共に呻き声が聞こえてきた。
 
丹羽「事情はだいたい聞かせてもらった。不本意だが俺は俺のけりを付ける、
   お前はお前で巻きこまれた者達を丸く治めろ。いいな?」
 

      ※      ※      ※
 

男の前には長く連れ添った少女が立っていた。
 
「そんなものか?お前はその程度で自分を見失うのか?」
 
男は無防備に少女に歩み寄る。全身血だらけの男は淡々と言葉を吐出す。
 
「俺と一緒に来るんじゃなかったのか?このままだと俺は死ぬぞ」
 
少女の目は虚ろでその瞳に男を映しているかは疑わしい。
 
「いいのか?俺は避けないぞ。お前がそうしたいのならするがいいが・・」
 
少女は無言で男に手の平をかざす。
 
「それがお前の答えか?後悔はしないか?後で泣いたりしても俺は戻ってこないぞ」
 
少女がビクッと揺れる。唇がわずかに動く。
 
「ここに俺の意思は無い。おまえの意思が俺を殺す。俺はお前を助けない逃げもしない。
 あるのはお前の導く結果のみだ」
 
少女の全身が震えだす、しかし手は複雑な印を結び始める。
 
「今までは俺が守ってやってきた。お前では無理だったからだ、籠の中の鳥は籠の中でしか生きられない」
 
右手の印を結ぶ動きを左手が抑える、少女は震えながら小声で何かを呟いていた。
 
「しかしいつかは巣立つ時が来る。お前は籠からどう出る?扉を抜けるか?籠ごとブチ破るか?」
 
少女の声が徐々に大きくなる、
 
「もう一度言う。今ここに俺の意思は無い。好きなように羽ばたいて見せろ」
 
声は呪文の詠唱だった。完成した術は男を貫いた。
 

      ※      ※      ※
 

〜音楽室〜
 
小雪とラルカを交えて歌い奏でていたマリーが突然止まる。
 
小雪「どうしたのですか?」
 
ラルカ「?」
 
二人とも演奏を止めてマリーを見る。
 
マリーは突然、音楽室を出ようとする。
 
ラルカ「いっちゃうの?」マリーの服の袖を掴みながら言う。
 
小雪「ダメですよ、マリーさんもいろいろあるのでしょうし・・」
 
ラルカ「マリーの歌好き。もっと聴きたい」
 
小雪「ダメですよ・・マリーさん困ってます」
 
ラルカ「嫌、今行ったらマリー帰ってこない」
 
マリーは少し寂しそうにラルカを見つめる。
 
ラルカ「お願い、帰ってきて、約束」
 
しばらくの沈黙後・・
 
マリーは小さく頷いた。
 
ラルカ「約束してくれる」
 
コクコクと再び頷く。
 
ラルカ「それじゃ嫌、秘密の約束」
 
コクコクコク
 
ラルカ「本当に?」
 
コク
 
ラルカ「大切な人にも?」
 
・・・・コク
 
ラルカ「わかった、じゃあ約束」
 
二人は指切りをする。
 
小雪「いいんですか?無理をするような事は無いですよね?」
 
小雪の言葉に優しく微笑みながら音楽室の戸を開けてマリーは姿を消した。
 
間を置かずにカイゼルとサレナが開いた戸から入ってくる。
 
カイゼル「やっぱりここだったか」
 
サレナ「もっとはやく来るべきじゃなかったですか・・」
 
カイゼル「まあ、二人とも無事なにより、美人の幽霊も見たい気がしたが・・」
 
サレナ「そんなもの居るわけ無いじゃないですか、みんなと別れてからここまで誰ともあってないですし」
 
小雪「え?女の子を見ませんでした?」
 
カイゼル「?いいや見なかったぞ、ここに誰か居たのか?」
 
小雪「それは・・」
 
ラルカ「秘密、何も無い。でも秘密」
 
小雪の言葉にラルカが間髪入れずに割りこむ。
 
小雪(マリーさんの事、確かめた方がいいと思いますよ?)
 
ラルカの約束を察して小声で話す。
 
ラルカ(マリーは秘密の約束を守った。だからラルカも守る、小雪も守る)
 
小雪(・・・なるほど、そうかもしれませんね)
 
ラルカ(うん、きっとそう。マリーは約束を守った、だから必ず戻ってくる)
 

      ※      ※      ※
 
〜学園廊下〜
 
全てが収束する中でマリーと桜花の勝負も終わりに近づいていた。
 
桜花「っ・・刀が・・」
 
マリーの鋭い突きで刀が弾かれる。
 
マリー「勝負あったようね。あなたに恨みは無いけど死んでもらうわ」
 
桜花「私は・・まだ・・」
 
マリー「自分の生まれを呪いなさい・・」
 
桜花の首に狙いを定める。
 
???「またそんな事をしているのかお前は」
 
振りかえるマリー、廊下の奥から丹羽が歩いてくる。
 
マリー「・・・・デッド」
 
マリーの剣が床に落ちる。
 
丹羽「前よりも幾分マシのようだな」
 
マリー「・・・デッド・・何で・・」
 
丹羽「マリー、お前は悪い夢を見ている」
 
マリー「夢・・」
 
丹羽「そうだ、お前は誰も憎みも呪いもする必要は無い」
 
マリー「でも・・私はあそこからあなたを奪った者を殺すためにここに・・」
 
丹羽「馬鹿な奴だ、すぐに人を信じるなとあれほど言ったろうに」
 
マリー「・・・ごめん・・でも」
 
丹羽「『でも』じゃない。背が伸びても中身は子供のままか?」
 
マリー「そんな事はない・・よ、そんな事は・・」
 
丹羽「やれやれだ、だから夢だと言うのだ。俺が起こしてやろう、来い」
 
マリー「・・・ごめん・・」
 
丹羽に駆け寄るマリー、そのまま丹羽の胸に飛び込む。
 
マリー「デッド、私『イイ女』になった?」
 
丹羽「ああそうだな、見違えた」
 
マリー「そう、良かった・・」
 
そしてマリーはそのまま倒れた。
 
忍「デッドさん!」
 
後ろで見守っていた忍が駆け寄る。
 
忍「何をしているんです!あなたはマリーさんを・・」
 
丹羽「気絶させただけだ、『それ』を回収するのがお前の役目だろう」
 
忍「『それ』だなんて・・あなたはマリーさんがどんな思いでここに来たのかを・・」
 
丹羽「あれはマリーじゃない、ただのバグを起こしたプログラムだ」
 
忍「あなたを思ってここまで来たのをただのバグだと言うのですか・・」
 
丹羽「ではそれ以外なんだ?電子体用のプログラムにそういった感情は無いのだろう?お前がいい例だ」
忍「そんなのまだわかりません!予想外の事を全てバグでかたずけないでください」
 
丹羽「あれを勝手に動かした奴がいるんだろう?だったらそいつが何かしたんじゃないのか?」
 
忍「・・なんでそんなに否定したがるんです」
 
丹羽「うっとうしいんだよ!人形に何がわかる!」
 
忍「そうですか・・なら言わせてもらいますが、あなたほど冷酷な人に思う人がいる事の方が僕から言わせれば異常です!その方がバグですよ!」
 
丹羽「言いやがったな、人形!」
 
忍「ええ人形ですよ、どうせ人のことなんてわかりませんよ!全て経験からの形態反射ですよ!ですけどね
    マリーさんは顔も声も違うあなたを『デッド』と呼んだんです。その事を覚えておいてください」
 
丹羽「・・・いいからさっさと、『それ』を持って帰れ・・」
 
忍「デッドさん!話しはまだ・・」
 
丹羽「後はあそこで気を失っているのも何とかしろ、俺は部屋に戻る」
 
動かない桜花を一瞥すると丹羽は廊下の奥に消えた。
 
忍「・・・デッドさん・・」
 

※久しぶりの後書き
 
少し修正・・マリーはまだ喋ってはいかんのだ・・。
 
だいぶあけてますがとりあえず自分は生きてます。
 
で、今回も見きり発射2回目です。
 
最初の桜花とマリーや紫城とレグニスの会話は戦いながら行っています。
 
全然戦闘描写がありませんが・・。
 
今回の話しは次で最後です。ちゃんと終わると思いますたぶん・・。

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