※これは学園版の新見忍の視点で書かれています。
※特組のキャラクターを無断で使ってしまってますが、
 『うちのはこんなんじゃない!』というのがありましたら直します。
※なるべく毎日書こうと思ってますが、挫折したときはお察しください・・。

十一夜


そろそろ何故この日記が一夜二夜と数えるかを書いておきましょう。
 
「どうせ、思いつきだろう」
隣で喜司雄さんが呟いています。むっときたので日記に書いちゃいます。
 
噂では人気投票なるものがあるらしいので、
ここである事ない事書けば、喜司雄さんの人気はガタ落ちです。
 
「それを書いているお前の人気が落ちると思うぞ」
 
・・・・・やっぱり、止めます。
 

・・・・・と、いうわけで何故一夜二夜と数えるようにしたかの話しですが。
 
ぶっちゃけて言えば、シャーラザードの千夜一夜物語からとっています。
まあ、この日記は物語ではありませんが。
 
「ほほう、ならば千一夜までつづけるのか、約3年かかるぞ」
 
ふっふっふ、そうくると思ってましたよ。
 
実はとっくにこの日記は千一夜を越えているのですよ!
 
段階をおって説明しましょう。
 
@この日記はパソコンで書いている。
 
Aパソコンは2進数で動いている。
 
B1001は実は2進数だ。
 
C2進数の1001は10進数の9だ。
 
というわけで、九夜でとっくに1001夜は越えているのです。
 
「おまえ、やっぱり人気落ちるぞ・・」
 
う・・・ちょっとしたパーティージョークなのに・・・・。

十二夜


という訳で、選挙公示日を過ぎて投票結果を待つような妙な空気の特組ですが・・。
 
「むきー、なんでこうゆう時に限って何も起きないのよ!
 ここで私の活躍がババンとのって人気が急上昇って思ってたのに」
「今更、あがいてもねぇ・・」
と、これはベルティさんとシュレットさんの会話です。
 
「で、一位には何か出るのか?」
「さあ、詳しい事は知りませんけど・・」
「そんじゃあいいや、これで賭けをやっても面白く無さそうだし・・」
「不謹慎な事はやめてください!」
優夜さんは相変わらずです。ルルカさんは何か動きがぎこちないです。
 
ちょっと聞いてみると、
「あまり、こうゆう風に人に見られた事は無いので・・」
 
なるほど確かに、
 
「何をカマトト振るかなルルカよ、いつも奇異の目で見られているのに・・」
「それは優夜さんです!」
 
たぶんセットで見られてます・・・。
 
しかしまあ、どちらかというと気にしていない人の方が多いですね。
 
「どうせ私は影が薄いのだから、まあ勝手に盛り上がってくれ」
アールさん、もう少し協力的に・・。
 
「これは私達にも投票権があるのか?」
「さあな、もしそうだとしたらお前はどうするのだ」
「私は・・・それよりレグならどうするのだ」
「俺か・・特に考えてないが」
「・・・・・そうか・・そうだよな」
ブラーマさんとレグニスさんは・・・がんばってください。
 
「私はあまり気が進みません、結果を見て気を落す人の事は考えないですか?」
桜花さんはやっぱり桜花さんです・・。
 
「それは、余裕の発言ってやつですか?桜花さん」
おおう、生暖かい目のベルティさんが絡んでいます。
 
「私は、別に・・」
「いいっすよね、桜花さんは写真や何かでいろいろと露出してますからね・・・」
「あれは頼まれたので・・」
「それに人気者っすからね特に年下の女の子から・・・ふう、午後ティーでも買ってきやすか?」
「ベルティ・・あまりからかわないでください」
桜花さんはベルティさんの愚痴に付き合っています。やっぱりいい人です。
 

「よし!いい事を思いついた!」
突然、優夜さんが叫びました。
「結果が一票だけの奴を予想しよう!」
 
またとんでもない事を・・・。
 
その発言に、ザナウさんや悠然さん、カイゼルさんまでのってます・・。
 
と、こんな感じで盛り上がってます。結果はどうなる事やら・・。
 
え?僕は気にしないのかって?そりゃ気になりますよ。
 
僕は紫城に勝てればそれでいいです。と格好をつてけみたり・・。
 
「お前は一様主人公なんだから、上位にいないと格好悪いぞ〜」
喜司雄さん・・・・外野は黙ってください・・・。

十三夜


その日、アールさんからクラスの備品を買ってくるように頼まれました。
 
そもそもこういうものは、普通は生徒が買ってくるものではないのですが、
特組は物を壊すので発注が追いつかないそうです・・。
 
耳が痛い話しです・・。
 
で、買い物を終えて帰ってきたのですが・・。
 
「む。忍よ個数がかなり多いぞ」
品物を確かめていたアールさんが言いました。
 
「ああ、そういえば確認しようと思って電話したけど繋がらなかったんだ」
確認は大事です。が、これぐいらい大丈夫かなと思っていました。
 
「さっきまで委員会に出ていたからな。しかしこれは・・・返品してもらうしかない」
 
「え〜少しぐらい多くても、すぐ使うんだしいいじゃない」
自爆的な発言ですが、事実ですし・・。
 
「そうもいかん、決められた予算枠でしか買い物はできん。それに領収書も提出しなければならないし」
「じゃあ少しぐらいなら、僕が立て替えるから置いておこうよ・・」
アールさんは管理する立場だからしょうがないですが、なるべく手間は増やしたくありません。
 
「忍・・・」
そこで、アールさんは僕に向き直りました。何か悪いことを言ったかな?
 
「たしかにお前の言うことにも一理ある。だが、これは私のミスであり、おまえ自身のミスでもある」
 
「それを帳簿上無かった事にする事も簡単だ、しかしそれではお前のためにならん」
アールさんはじっと僕を見ながら続けます。僕というよりその先を見ているようです。
 
「どうせおまえことだ、買いに行った店の人に悪いと思ってそう言っているのだろう。
 それではお前は間違えた事から何も学ばない」
 
「おまえは、なんでも器用にこなす事ができる。それらを応用して更に複雑な事も力技でやってのける。
 が、それは『失敗をもみ消すための技術』ではあるまい。もっとその先の粋にある者でしか
 出来ない事をやるためのものだろう」
 
「そんなつまらない事に力を使うな、それよりも『それだけやれるお前が何故間違えたのか』を考える
、事のほうがよっぽど面白い。と私は思うな」
 
それだけ言ってアールさんは黙ってしまいました。
 
さすがアールさんらしい洞察です・・・確かに、買っていった店の人に悪いと思いました。
余計な仕事をアールさんや店の人に増やしたくは無かったし、僕がうまくやってなんとかなるならと思ってましたが・・。
 
それに裏を返せば、僕が失敗を認めたくないという部分もあります。
誰しも失敗はあります、そういう時に『その人そのもの』が出るとアールさんはよく言ってました。
 
アールさんは指摘しませんでしたが、そうした僕の人間的な弱さも暗に言っているのだと思います。
これだけの事が言える人が、そこまで気が付かないわけはありません。
 
あえて口に出さない事で伝わる事もある。やっぱりたいした人です。
 
「で、買い物中に何かあったのか?」
「別に・・何も・・」
 
う、この理由はあまり言いたくなかったのですが・・。
 
「別に減るものでもないだろうに・・」
「そりゃ・・・そうだけど・・」
 
ふう、仕方ありません。
 
「・・・・・なかったから」
「ん、よく聞こえないぞ」
 

「電話が繋がらなくって、不安に思ったから!」大声で言ってあげました。
 
ああ、もう恥ずかしいなあ。それだけ言って僕はその場を逃げ出しました。
 
どこまでわかっててやってるんだろう・・・あの人は・・。

十四夜


喜司雄さんは相変わらず桜花さんを避けているようです。
 
以前何があったかは二人から少しづつ聞いているのですが、
いっこうに話しが見えてきません。
 
なので、多少強引ですが会わせてみる事にしました。
 
特組の誰かに協力をお願いしようと思ったのですが・・。
困りました。あまり変に騒ぎにはしたくないし、だからといって穏便に協力してくれる人は・・。
 
「で、私の所に来たと」
そういう事です、ルルカさん。桜花さんとよく話していて、
自分から騒ぎに起こさずにのってくれそうな人・・・だと思ってます。
 
「わかりました、私もそれは気になります」
桜花さんの方はこれでOKっと・・。
 

次に喜司雄さんですが、僕が言っても怪しむでしょうし・・。
 

「で、私の所に来たと」
お願いします、美空さん。喜司雄さんが話しを聞いてくれそうな人で、僕が頼めそうな人は・・。
 
「そうですね、兄さんに頼むと後が大変ですよ」
そこはあまり深く聞きません・・。
 
「でも、それで簡単に聞くのも面白くないので、今度私達のお店を手伝ってください・・」
「まあ、それぐらいなら」
簡単な話しです。
 
「・・せっかくなので女装でお願いします」
むう、あの兄にしてこの妹ありですか・・。
 
 
 
    ※      ※      ※
 
 
 
僕の三園喜司雄は屋上に向かっている。
 
美空ちゃんに「昼過ぎに屋上に来てください、必ずです!」と言われたからだ。
 
あの目で言われるとどうも逆らえない。
 
しかし、美空ちゃんも女の子らしくなったよな。
昔は志度のお下がりしか着てなかったけど。
 
そんな事を考えながら屋上に続く扉を開ける。
 

暑いのは嫌いなんだけど相変わらずいい天気だ。
自分以外は誰もいない、と思ったら・・。
 
「喜司雄・・・さん?」
 
長い黒髪が風になびいている。
振りかえったその影は・・。
 
「お、桜花・・・!?」
な、なんで?よりによって、桜花なんだ。
 
「えっと・・・美空ちゃん・・来てない?」
ええい、ここは適当に話してさっさと立ち去ろう。
 
「ずっとここに居ましたが、来てませんよ」
桜花は相変わらず礼儀正しい。
 
「そう、呼ばれたんだけどな。ちょっと捜してくる」
そうだ、こう言えばこの場はきり抜けられる。
 
「あの・・」
きびすを返した僕に桜花の声がかかる。
 
「私は喜司雄さんに呼ばれたと聞いて来たのですが」
 
僕はそのとき正直、めんどうな事になった、と思った。
 

    ※      ※      ※
 
 
相変わらずいい天気だ。
僕は屋上のフェンス越しにグラウンドを見ている。
 
隣には桜花が居る。
桜花は僕と反対を向いてずっと遠くを見ていた。
 
「あれからどれくらい経ったのかな・・」
今の僕には桜花と向き合うほどの勇気は無い。
 
「6年と3ヶ月程、でしょうか」
「そう・・そんなになるんだ」
 
グラウンドでは何人かの生徒がボールで遊んでいる。
 
「桜花・・さ」
「はい」
「その・・・綺麗になった・・よね」
「ありがとうございます」
「・・うん・・綺麗になった」
 
言葉だけ聞いていればあの日に戻ったようだ。
 
「・・僕がここにで避けてたのは、やっぱりわかってたよね」
「はい」
「・・怒ってる?」
「いいえ、いつかこうして話せると思っていましたから」
「そう・・そうか・・そうだね」
 
遠くから笑い声が聞こえてくる。
少しだけ自分をはなす勇気がでた。
 
「あのさ・・6年前。みんな一緒だったあの頃・・」
「はい」
「僕は・・君が好きだったんだ・・・」
「・・・・・」
「いや、そう思おうとしていたのかも・・・でも、今になって一つだけわかった事がある」
本当は言いたくは無かった。誰のためでもなく自分が傷つきたくないために。
 

「僕は『誰かを好きでいたかったんだ』・・・だから、それは誰でもよかった」
 

一度口に出してしまえば後は簡単だった。
「結局、弱いままなんだよな・・・僕は。それが嫌で僕もここを離れた」
 

桜花は何も言わない。それが嬉しくもあり辛くもあった。
「離れても結局変らなかったけどね・・・」
もでって来てようやく踏ん切りをつけたはずだった。
 
「それで、桜花に会っちゃっただろ?なんか、自分の情けなさを感じちゃってさ・・」

自分で何を言っているのだろうと思った。
 
暑さを感じさせないほどの沈黙。
 

「今は・・・どうなのですか」
 
不意に桜花の声がする。
振り向いて桜花を見る。桜花はまだ反対を側をむいたままだ。
 
「それを知った今は、昔とは違うはずです」
 
ゆっくりと振り向く桜花は、やっぱり桜花なんだなと思った。
 
「今は・・どう思っているのですか?」

十五夜


「少し強引だったかもしれないですね」
美空さんが窓越しに屋上を見上げて言いました。
 
僕とルルカさんと美空さんは学食で落ち合いました。
 
美空さんが自己紹介で、「副会長の妹です」
と言ったらルルカさんが少し引いていましたが・・。
 
ルルカさんが桜花さんを、美空さんが喜司雄さんをそれぞれ呼び出してもらったのです。
古典的な手段ですが、今回は手段よりも結果が大事なので・・。
 

「私も少し悪い気がしてしまいます」
お茶をすするルルカさんも、どこか釈然としないようです。
 
「でも、喜司雄さんがああではきっと何日たってもあのままですよ、きっと」
僕だって、これが最善だとは思ってません。
ただ、ああいう形で過去にこだわりすぎるのは良くないと思ったので・・。
 

「そういえば、特組での桜花さんはどんな感じなんですか?」
美空さんが思い出したように言いました。
 
「それは・・・」
ルルカさんが簡単に説明してくれました。
 
「・・なるほど、昔と全然変らないんですね」
美空さんは頷きながらどこか満足げです。
 
「でも、その喜司雄さんはともかく。桜花さん自身はどう思っているんでしょうね」
ルルカさんのその発言で、三人共考え込んでしまいました。
 
すごく失礼な話しですが、その・・・あまり釣り合いがとれてないと思います。
お茶をすする音だけが響く沈黙。それが三人の意見の一致を物語っています。
 
まあそれは喜司雄さんが一番よくわかっているのでしょうけど・・。
でなければ、あんな行動はとらないだろうし。
 
「変な話しですけど、誰となら『あの桜花さん』と付き合っても納得いくと思います?」
言葉にしてしまって、少し後悔しました。
 

更に長い沈黙。そこでわかったことは一つ。
 

それは誰もそれを想像できないという事、そこが桜花さんの・・こう言っては更に失礼ですが特異性なのだと思います。
 
「僕達・・あの二人にとんでもない事をしたしまったのかもしれませんね・・・」
 
 
 
      ※      ※      ※ 
 
 
 
「今は・・どう思っているのですか?」
 
会ってしまったら、結局そこに行きつくんだ。
僕は汗を拭うのも忘れて、桜花を見つめた。
 
今を見ないために、会わないようにしてきたと言ってもよかった。
桜花のならそう言うだろうと半ば予想していた事だ。
 
でも、いつかこうなるとも思っていた。
それをどれだけ先送りにできるか、そればかり考えていた。
結果がわかっていても、覆す手段を講じず。ただ延命のための今をすごす。
 

弱者を寄せる自分らしい情けなさだと思った。
 

「今の桜花は眩しすぎるんだ、それに照らされた自分の影のがいかに貧相な事か・・
 そんな僕が・・今更・・何を言えばいいのさ」
 
話しているだけなのに恐ろしく疲れる。
 

「私は・・・」
それは、苛立ちでもなく・・
 
「今、あなたが、どう思っているのかと、そう聞いています」
慰めでもなければ、同情でもない。不思議な抑揚の声だった。
 

その言葉を聞いて、自然と踏ん切りが付いた気がした。
桜花が聞く事のためでなく、自分が伝える事が出来なければ・・。
 
「うん・・・そうか・・そうだよね」
 
6年前はちゃんと言えなかった。その時の自分の思いのためにも・・。
 

「僕は今でも、君が好きだ」
 

僕は今の僕でなければならない。それだけでいい。そのさきは何もいらない。
 

「やっと、言ってくれましたね」
 

久しぶりにその笑顔を見た気がした。
 

「答えはいらないよ、今のは・・その・・違う気がするから」
聞くための言葉じゃない。僕が僕に言うための言葉だったと思うから。
 
「・・・はい」
桜花、静かに頷く。何でもわかっているんだな。
 
「でも、一つだけ・・いいですか?」
 
「・・うん」
 
「眩しすぎる光は、何故光るのだと思いますか?」
 
「・・光る訳・・う〜ん、わからないや・・」
 
「自分の影を見たくないから・・ですよ」
そう言って桜花は僕の脇をすり抜けた。
 
「え?」慌てて振り向く。
 
「私は臆病です。喜司雄さんはよく知っているでしょう」
 
「え・・ああ、そうだ・・そうだね」
 
「あなたがそれを教えてくれたから、今の私があるのです」
 
「・・・・」
 
「その事を忘れないでください」
その言葉を残して桜花はドアの向こうに消えた。
 

     ※      ※      ※
 

あの後、喜司雄さんに会ったら、こちらから聞かなくても話してくれました。
どうせ日記に書くのだろうと言ったので、僕は書かないと言ったですが。
 
せっかくだから書けと言われてしまいました。
 
理由は教えてくれませんでしたが、それでいいかなと思います。

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