※これは学園版の新見忍の視点で書かれています。
※特組のキャラクターを無断で使ってしまってますが、
 『うちのはこんなんじゃない!』というのがありましたら直します。
※なるべく毎日書こうと思ってますが、挫折したときはお察しください・・。

二十一夜


で、なんだかんだでお店を手伝っているわけですが・・。
 
「お客さん来ませんね・・」
 
「朝はこんなものです、今のうちに掃除をしてしまいましょう」
美空さんはそう言ってテーブルを拭きはじめます。
 
「僕は・・何をしましょう・・?」
 
「とりあえず、店の中で何処に何があるのかを一通り見ておけ、忙しくなってからでは遅い」
喜司雄さんがカウンターでコップを拭きながら言いました。
 
「でも・・使ってみないと、何が何やら・・」
記憶と応用は得意ですが、さすがに最初は戸惑います・・。
 
「何も見ないで、おろおろするよりはましだろ」
 
「では、新見さんは床のモップがけをしてください、それで店内の配置がだいたいわかると思います」
 
「りょうかいで〜す・・・・で、そのモップはどこに・・?」
我ながら、ど新人丸出しです・・。
 
 
      ※      ※      ※
 
 
店内のモップがけが済んだ頃、入口のドアのベルが鳴りました。はじめてのお客さんです。
 
「いらっしゃいませ〜・・・ってあれ」
こういうのは最初が肝心です・・・と思ったのですが。
 
「おお、本当に働いているんだな」
お客さんは出かけたはずの志度さんでした。
 
「おい、急な用事で出かけるんじゃなかったのか」
喜司雄さんがくってかかります。
 
「ああ、ちゃんと出かけたじゃないか。『ここ』に」
と言って、志度さんはここを指差しました。
 
「あのな・・それ、屁理屈っていわないか?」
 
「まあ。冗談は置いといて、お前がちゃんと手伝っているかの確認だ」
 
「じゃあもう済んだだろ、とっとと出かけろよ」
 
「言われなくても・・じゃあ美空、新見君後は任せる」
 
「「はい」」
 
それだけ言って志度さんはまた出かけました。
 
「喜司雄さんって志度さんの事嫌いなんですか・・?」
少し気になったのでこっそり美空さんに聞きました。
 
「そんなことないですよ、昔から兄さんと喜司雄さんはあんな感じです」
 
それならいいのですが・・。
 
 
      ※      ※      ※
 
 
喜司雄さんは何度も手伝っているらしく、料理もできるようです。少し驚きました。
「まあ、あれには負けるけどな・・」
 
『あれ』とは志度さんの事でしょう、料理をする副会長・・・多芸な人ですね。
 
ランチタイムが過ぎて僕もなんとなくなれた頃、
 
「いや〜暑は夏いね」
「アツはナツい・・?」
優夜さんとラルカちゃんが来たのでした・・・。
 
 
とりあえず、不本意ですが僕がオーダーに行きます。
「オーダーはお決まりですか?」
さりげなく、さりげなく。今日は手伝いなのですから騒ぐわけにはいきません。
 
「おや、忍君。人気がいまいちだったから新しいファンサービスかい?」
うう、人が気にしている事を・・。
 
「お勧めのメニューもございますので、宜しければ・・」
とにかく穏便に穏便に・・。
 
「いや〜よく似合ってるよ。で、ここは学割はきくのかな?」
有るわけないでしょう・・。
 
「では、お決まりになりましたらお呼びください」
とりあえず旗色が悪いのでここは一時戦略的撤退です。
 
「ああ、メニューね、決まってるよ」
良かったさっさと済ませちゃいましょう。
 
「スマイル、1グロスで。袋には詰めなくていいや」
優夜さ〜ん、スマイルってそんなにたくさんあって袋詰できるなんてはじめて知りましたよ・・・。
 
僕が心の中で血涙を流していると、美空さんがわって入ってくれました。
「可愛いお連れさんですね、妹さんですか?」
営業スマイルを感じさせない自然な雰囲気です。
 
「いんや、許婚だ」
優夜さんはしれっと言いました。
 
しかし、美空さんは全く同じず。
「お嫁さんだって、よかったね〜」
と、ラルカちゃんに笑いかけます。
 
「オヨメサン、オヨメサン」
ラルカちゃんはとにかく嬉しそうです。意味ちゃんとわかってる・・かな?
 
「・・ん、君は確か叶さんちの美空君だね」
急に真面目に優夜さんが問いただします。
 
「はい、そうですけど・・何か?」
優夜さんはじっとそのまま美空さんを眺めつづけます。
 
「よし、気に入った。忍君、この子をテイクアウトで」
 
「ここはそんな店じゃな〜い!!」
思わず叫んでしまいました。
 
「どうしましょう新見さん。誘われてしまいました」
って美空さんも何処まで本気なのだが・・。
 
「おいおい、さっきから聞いてりゃなんだいあんた!」
喜司雄さんがカウンターから出てきました。
 
「・・・・誰?」
優夜さんは、怒っている喜司雄さんを見てすずしい顔で僕に説明を求めます。
 
「僕と同じ部屋の喜司雄さんです」
 
「ほっほう君が。そうかそうか」
そして、喜司雄さんを一瞥すると・・。
 
「勝った」
と不適な笑みで言いました。
 
「なにがだ、この無礼客!」
喜司雄さんも負けてはいません
 
「ふん、君が桜花君の幼馴染を名乗るのは百億光年はやいと言いいたいのだよ」
 
「なにお〜」
 
「話しには聞いていたが、がっかりだ。これではこっちの諦めがつかないというものだ」
優夜さんはやや芝居がかった口調で続けます。
 
「あの桜花君が昔、随分世話になったと聞いたからどんな好青年かと思っていたんだがね」
 
「おい忍!おまえ特組で何を言った!」
 
「僕が言ったわけじゃないですよ〜」
それは桜花さんがそのままそう言ったのですが、優夜さんの口調だとニュアンスが微妙に変わっています。
 
「さっきからずけずけと・・そういうお前はなんなんだ!無礼客!」
 
「僕か?僕は・・とりあえず今はここの客のつもりだが」
ニッと優夜さんが笑います。
 
「何?」
 
「お客にそんな暴言はどうかと思うがね、喜司雄君?」
 
「く・・だったら、さっさと何か頼め」
拳を握り締めて喜司雄さんは絞り出すように言いました。
 
 
そこでやっとまともなオーダーを取ることが出来ました。
 
 
      ※      ※      ※
 
 
で、コーヒーを呑んで落ち着いてくれたと思ったのも束の間・・。
 
「よし、いくかラルカ」
「うん?」
そう言うとラルカちゃんの腕を掴んで出入り口にGO・・。
 
「野郎、無線飲食か!忍!追え!」
喜司雄さんが叫びました。
 
結局、あの人がいると収まらないんだよな・・・。
 
というわけで追います。ヒラヒラとスカートとエプロンをはためかせて・・って。
 
「はっは〜忍君!走るのが大変そうだね〜」
 
それが狙いですか優夜さん・・。
僕は片手でスカートの裾を掴みつつ走ります。こうなったらもう後の祭り、アフターフェスティバルです。
 
優夜さんは僕から離れすぎず近づきすぎずの一定の距離を保って逃げます。
午後の買い物で賑う商店街、人目が痛いです。
 
結局、散々走り回って優夜さんを止めたのは・・。
 
「いい加減に・・・しているんじゃありません!!!」
 
騒ぎを聞きつけてやってきた、スリッパ両手持ちルルカさんでした・・。
 
 
      ※      ※      ※
 
 
なんだかんだで『もらとりあむ』は今日の営業をなんとか無事終了しました。
 
夕暮れの斜陽だけを灯りに店内でぐったりとして休んでいると、
ピアノの音色が響いてきました。見ると美空さんがひいています。
 
走り回って疲れた身体に染渡るような曲です。
 
「ほんと〜に申し訳ありませんでした」
ルルカさんが頭を下げます。
 
「別にいいさ、ある意味この店の宣伝になっただろうし」
志度さんが軽く笑いながら対応します。
 
今店内には、僕とルルカさんと美空さんと志度さんだけです。
 
喜司雄さんはいつのまにか帰っていて、
優夜さん、ラルカちゃんはルルカさんのきつ〜いお説教の後、同じく帰っていきました。
 
「お金は私がちゃんと払いますから・・」
そう言っていそいそと財布をだすルルカさんですが、
 
「いや、お代はもう貰っているよ」
と、言って志度さんは片手で制します。
 
「え、でも・・」
 
「本当ですよ、新見さんが追いかけて行った後、テーブルに置いてあるのを見つけたんです」
美空さんが丁寧に説明します。
 
そう、僕の疾走は意味が無かったのです・・。なので、余計にぐったりです・・。
 
「ああ、もうあの人は・・聞けば店内でもやりたい放題だったそうではないですか」
 
「ええ、その事ですが・・」
テーブルに突っ伏しながら僕が呟きます。
 
「優夜さん曰く『桜花君があんまり例の彼を心配していたから自己流で元気付けてあげたと見せかけて、
 昔のラブコメ風の三角関係にあこがれつつ、ちょっと悪役を演じてみながら、忍君の困った顔が見たかったと思ってみるテスト』・・・だそうです」
 
本当にどこまで本気なのでしょう・・あのひとは・・。

二十二夜


夜、寮の食堂でのことです。
「・・・・というわけなのですよ・・」
自分の長い説明が一段落しました。
 
奉仕活動そのニ、ベルティさんにイカサマの件で詰め寄られてので、
屋上の件から今までの経緯をベルティさん桜花さんシュレットさんに説明していました。先日の『もらとりあむ』の件も含めて・・。
 
「そういう事だったのですか」と桜花さん
 
「なんでその店に優夜が来るのよ」とベルティさん
 
「別にベルティが気にする事ないんじゃないのそれ〜」とシュレットさん
 
「っさいわね!そんな面白そうな事があったなら私も居たかっただけよ」
いや・・いなくていいですよ。大変だったし・・。
 

「では、僕はもういってもいいですよね?説明することはもうないので・・」
なんだが、最近こんな事ばかりで正直ダウン気味です。
 
「甘いわ少年!私の事はこれでチャラだけど、当事者の桜花にも詫びをいれるのがスジってものじゃないかしら」
うう、ベルティさんこわ〜い。
 
「いえ、私は別に・・」と桜花さんが言いかけましたが。
 
「甘い!桜花は甘すぎるのよ!ここで桜花のお願いを聞かないと忍君は夜も眠れないと心の中で言っているわ!」
言ってないです・・・。
 
「でも、騙したわけだし良心が痛むのは事実だよね」
むぅ、シュレットさんも鋭い突っ込みを・・。
 
「わかりました、わかりましたから。もう何でも言ってください」
もう半分やけです。
 
「というわけで桜花、この心迷える少年を救ってあげて」
さすが局地災害指定、見事な会話運びです・・。
 
「そうですか、では稽古のお相手をしてもらいましょうか」
それならまだ安心・・かな?
 
「お安い御用です。で、いつにします?」
 
「今です」
・・・は?桜花さんは何の迷いも無くいいました。
 

      ※      ※      ※
 
・・で寮の裏庭です。
 
「新見さんは多少の心得があると聞きます」
桜花さんは木刀の握りを確かめながら言いました。得意の二刀ではないようです。
 
「はあ。まあ多少は・・」
僕は普段着のまま借り物の木刀を握ります。
 
「では簡単に実践形式で、寸止めは出来ますね?」
 
「ええ、大丈夫です」
お互いに距離をとり一礼。
 
「では・・・参ります!」
桜花さんは一気に距離を詰めます。そしてそのまま一振り。
 
「おっとっと」
僕はとりあえず一歩下がり様子を見ます。
 
更に桜花さんは返す刀で更に踏み込みます。
 
これは受けないとまずいですね。後がない・・。
桜花さんの打ちこみに自分の木刀を合わせて、そのまま桜花さんの木刀の上を滑らせます。さあどうします?
 
桜花さんは咄嗟の判断で木刀を離すと、そのまま僕の手を片手で掴み。もう片方で僕の腕を捻り上げます。
 
僕は捻られた腕と反対に動いて振りほどき、間合いを取りました。
 

「新見さん・・やりますね」
振り向くと桜花さんが木刀を両手に持っています。心なしか声が嬉しそうです・・。
 

「手加減は無用のようです」
ギリっと両手の木刀を握り直します・・・返してはくれないのですね。
 

そう思っているとポンと傍らに木刀が転がってきました。
「桜花相手によくがんばるじゃないか」
喜司雄さんです。
 
「まあ怪我しないうちに降参しておけ」
 
「いえいえ、まだまだこれかです・・」
そう言って僕は少し構えを変えました。
 
「その・・構えは」
 
ええ、そうです桜花さんなら見慣れているでしょう。
「紅野流総合武術・・一刀一ノ構え、でしたよね?」
 
折角ですのでいろいろ楽しんでもらいましょう。

二十三夜


で、桜花さんとの練習試合の続きです。
 
「さあ、どうします。桜花さん?」
 
「同流派同士の経験ぐらいあります」
それはそうでしょうね、引越してしばらく一番弟子の人の所に居たそうですし。
 
「そうですか、ではいきますよ」
 
 
それからしばらくは一進一退の打ち合いが続きました。
 
「そのさばき方は・・御爺様の初方・・」
 
「あ、やっぱりわかります?」
 
「どこで、それを?」
 
「さあ、秘密です・・僕を負かしたら教えますよ」
 
「わかりました・・いきます」
桜花さんの動きが更に激しくまりました。
 

「なんか、遊んでいるように見えるわね」
 
「遊びにしては危険じゃないのかな・・」
 
いつのまにか、シュレットさんとベルティさんが見学していたようです。
僕自身は真剣に試合をしているのですが、周りの声を拾う余裕はまだあります。
 
「遊ぶぐらいが丁度いいのかもな」
何故かアールさんまでいるようです。
 
「あれ、寮長・・どうしたんですか?」
 
「いや、部屋から二人の殺陣(たて)が見えたのでね」
 
「たてって、練習試合じゃないですか」
 
「これ自体はな、しかしこれが昔は真剣で行われていたのだ、今は相手を『殺す』から『勝つ』にすり替えただけにすぎない」
 
「じゃあ、遊びといっては変じゃないですか、それだと遊びで殺し合うことになりますよ」
シュレットさんのやや引いた声が聞こえます。
 
「そのとおりだ。遊びがおかしいのであれば、どんな理由なら殺されても納得がいくかな・・」
 
「寮長・・怖い事言いますね・・う〜ん、自分が生きる為とか復讐とか・・」
 
「しかし、今の世の中は直接的に生きる為に人を殺める事をそう必要としないし、復讐にしても代替の行為は幾らでもある。
 それでも人を殺める、またはそれに順じた行為が後をたたない。どうしてかな?」
 
「・・・・そんなの・・わからないですよ〜」
 
「すまない、少し意地が悪かったな、そうだな・・私の意見を言えば、結局、死と隣り合わせでしか生を知る事が出来ないのだろうな人は・・」
 
「う〜ん、そうなんですかね?」
 
「直接手を下さなくても、情報で見聞きしてそれを知るということも出来る。または・・」
 
「ああした、練習試合もまた一種の代替行為なのだしな・・故人は『試合』を『死合』とも言ったそうな・・・」
 
「ふん、そんな事でもしないと今を楽しめないなんてバカね」
 
「そうだな、世の中はそうしたバカの集まりでしかない。だからなおの事、
 今にあった生き方を模索しなければならない。そうした結果がまたあれであるとも言える」
 
「変なの?私はそんな事しなくても十分だけどね」
 
「そうだな、全ての人がそうであって欲しいものだ」
 

ブン、目の前を桜花さんの木刀がかすめます。少しアールさん達の会話に聞き入ってしまったようです。
 
それだけならよかったのですが・・。
 
「きゃあ」
 
桜花さんが倒れています。無意識で動いていたので加減ができていなかったようです・・。
しかし、それだけでは僕が立っている状況は説明できません。
 
それを説明できる理由は一つ・・。
 

紫城・・・知らないうちに彼が僕を動かしていたようです。
 
紅野流総合武術の模倣と桜花さんが相手だったこと、
それにアールさん達の会話の内容・・。
 
僕が人の心の中に『可能性』を見出すように、紫城は生死のやり取りの中にそれを見出す・・。
 
確固たる発動条件があるわけではないですが、たぶんそんな所でしょう。
 

「すいません、大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄リます。怪我は無いようですが・・。
 
「お、桜花、怪我はないか?」
 
「ちょっと、忍君!やりすぎじゃない!」
喜司雄さんやベルティさん達も後から様子を伺います。
 

「大丈夫です、私に油断があったのです」
そう言って桜花さんは立ちあがりました。
 
「とにかく、一度身体をよく診てもらったほうがいいな。シィギュン所にいこう」
アールさんが先導して桜花さんを連れて行きます。
 
「おまえ・・何やってんだ?」
複雑な表情で喜司雄さんが聞いてきます。
でも、喜司雄さんの言葉にどう答えていいかわかりませんでした。
 

「新見さん?」
去り際に桜花さんが僕を振りかえりました。
 
「はい」僕は真っ直ぐ桜花さんを見ました。
 
「新見さん・・ですよね?」
その場の時間が止まったようにだれも動きません、僕の言葉を待っているようです。
 
「・・はい」
 
そのまましばらく止まっていましたが、やがて何も無かったように桜花さんは歩き出しました。
 

      ※      ※      ※
 

翌日の学校で僕はあらためて、桜花さんに謝りましたがそのときに・・。
 
「試合は試合です、私は何も気にしてません。
 それよりも新見さんが勝ったのですから何かお願いを聞かないといけませんね」
 
「は?」
 
「ですから。試合の時に私が勝ったら、あなたが何故御爺様の技を知っていたのかを教えていただくはずでしたので・・」
 
「は、はあ」
 
「新見さんが勝ったのですから、私が新見さんから何かを聞くのがスジと思いまして・・」
 
「別にいいですよ・・試合中たまたまでてきた事だし・・」
 
「それでは私の気がおさまりません。何かあれば言ってください」
桜花さんは真剣です。
 
困りました・・。こんなはずでは無かったですが・・。
 
と、その会話を聞きつけた優夜さんが、
「なにぃ、少年!いつのまにそんなおいしい事を、俺だったらもう・・」
 
「「その先は、言わせるわけにはいきません!!」」
言い終わる前にベルティさんとルルカさんのコンビネーションが入りました。練習・・してたのかな・・。
 
それよりも困ったです・・。何か穏便に済ませる方法は無いでしょうか・・。
 
「つまらない事を言ったら、わかっているね・・・忍君」
 
優夜さ〜ん、変な事を言わないでくださいよ〜。

二十四夜


「・・何かあれば言ってください」と言った桜花さん。
 
「つまらない事を言ったら、わかっているね・・・忍君」と優夜さん。
 
今僕はこの二人の言葉に振りまわされてます。
 
いや、桜花さんに簡単なお願いをすればそれで済みますが、
優夜さんが何をするかわからないし・・。
 
かといって変な事を言って桜花さんにお説教を受けるのも嫌だし・・。
 

「・・という話しを私に持ってくる時点で間違えているだろう」
え、だめですか?アールさん。
 
「それでもし、私が答えを出してやる代わりに何かを要求したらどうなる」
そうですね・・どうどう巡りです。
 
「まあ、お前がそれで楽しんでいるのならばいいんだが・・」
 
「いいです、自分で答えを出します」
 
 
 
と言って教室を飛び出したものの・・。すぐに名案が浮かぶわけでもなく。
 
「難しい顔をしてどうしたのですか?新見さん」気が付けば美空さんがいました。
 
結局、人に相談してしまうのです。ああ、意思が弱い僕・・。
 

      ※      ※      ※
 

「へぇ〜新見さんて強いんですね」
 
丁度昼食の時間だったので美空さんと一緒に学食きました。
相変わらず混んでますが、なんとか開いているテーブルを見つけて座ります。
 
僕は蕎麦を、美空さんはセットのランチです。
 
「いや、まあ・・たまたまです」
 
「こんなに手が細くて・・」
 
と言って僕の片手をとってブラブラ、
 
「私と同じぐらいの背なのに・・」
 
更に僕と頭を見比べます。う・・背は以外と気にしているんですよ・・実はアールさんや桜花さんの方が高いのです・・。
いいんです、まだ14歳なんですから!
 
「まあ・・それは置いておいてですね、桜花さんに何をお願いすればあの優夜さんが騒がずに済むと思いますか?」
 
「手伝いに来てくれた日に会った天凪さんですね、そうですね〜面白い人でしたからね。
 でも、ルルカさんや特組の人に聞けば簡単ではないのですか?」
 
「いえ・・ルルカさんにこれ以上悩みの種を増やしたくないので・・」
他がほぼ騒動好きとはここでは言えない・・。
 
「新見さんてやさしいんですね」
・・・誰かにだけ優しいのは罪だと言う言葉があったような・・。
 
「別に・・そんなんじゃないですよ・・」
僕の対人関係は取繕ってばっかりで、ハリボテが出来そうですよ。
 
「そうだ、桜花さんと一日デートするというのはどうです?」
 
「いえ、まあそれも考えましたが」
たぶん、かなりの数の人を敵に回すと思います・・。
 
「だから、新見さんにしかできないやり方をするのですよ」
美空さんは何か思いついたようで一人でクスクスと笑っています。
 
「え、なんです?」
 
「それはですね・・」美空さんが耳打ちして教えてくれたのは・・・。
 

      ※      ※      ※
 

で、放課後・・。
「桜花さん丁度よかった、お願いが決まりました」
 
「そうですか、では何を私はしましょうか」
 
「今度の日曜日に一緒に遊びにでかけましょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・桜花さんが男装で」
デートと言うには、何処か気恥ずかしいのですよ・・。ちなみに最後は早口です。
 

「それはいいで・す・・え、ええぇ」
あ、顔が引きつった。というか聞こえたんだ・・・・。
 
いやダメならそれでいいんです、僕も美空さんにのせられている気がしてならないので・・。
 
「あ、やっぱりダメですよね。いいです、別のを考えますから・・」
顔が引きつったままの桜花さんにあわてて言いましたが、
 
「いえ、わかりました・・・約束は約束です。今度の日曜ですね」
え、マジっすか。むぅ・・更にややこしい事態になりました。

二十五夜


その話しはそれなりに特組や学園に波紋を呼んだようで・・・。
 
「え、桜花さんが。デートに行く・・嘘でしょ!!」
「どうも、本当らしいのよ」
「どこの娘よ、そんな事をしたのは!!」
 
とか・・
 
「え、新見君が・・だれと・・」
「さあ・・・でも、来週の日曜らしいわよ・・」
「どこの男なのよそれ・・(ドキドキ)」

とかとか・・・
 
「まあ。噂は振りまいておいたので、がんばれ」
天凪さん、やりおりますね・・・。

しかし、なにか周りの方が盛り上がっているような・・。

で、今日は衣装を決めるために駅ビルのデパートに来ているのです・・。
「新見さんはどんな服がいいですか?」
美空さんと・・。
 
「僕はまあ・・可愛いものなら・・って美空さんはりきってますね」
 
「ええ、こんなに面白い事は滅多にないです!」
さいですか・・。
 
一通り選んで、僕はエスカレーター脇の休憩スペースに腰を下ろしました。
美空さんは自分の服を選んでいるようです、だいぶ時間も回っているはずなのに元気な人です。
 
「なんか・・疲れた・・かな・・」
 
「ふふふ、大変なようですね」
っとその声は・・。
 
「桜花さん・・」休憩スペースの脇に桜花さんがいました。
 
「ええ、先ほど二人がいるのを見かけましたが、楽しそうだったので・・」
 
「美空さんは楽しそうです、本当に」
 
「無理もありません。昔は髪も短くて着ている服も志度さんのおさがりばかりでしたから」
 
「へえ、今はぜんぜんそうは見えませんね」
 
「ええ、いろいろありましたから」
 

なんとなくの沈黙、他の場所は賑っているのにここだけ人気がありません。
 

「「あの・・」」
 

むぅ、かぶってしまいました。僕は何をしているのやら・・。
 
「あ、なんです桜花さん」
 
「ええ、すいません。やはりあなたがあれだけの事が出来たのが気になりまして・・」
 
「誰かに似ていると思いましたか?」
 
「はい、最初は御爺様に・・・ですが、そう『似せる様』が似ていると思った人がいます・・」
さすが桜花さん、いい目を持っています。
元々、最初から僕があそこで負けていろいろと確認するはずだったのですが・・。
 
「それは、何と言う人です」自慢じゃないですが誘導尋問は得意です。
 
「紫城兄様に・・です。もし知っていれば・・」」
答えがわかっていても、それを聞いて手が震えてきます。
 
桜花さんの言葉を遮って僕は淡々と語り出しました。
「紅野紫城・・6年前に桜花さんが紅野家を継ぐ事を雪示さんから聞いた唯一の証人。
 成人前の桜花さんに代わり頭首代理を勤める・・が、現在行方不明・・でしたね」
 
「はい」
それはそうです、あのデッドコピーは僕が消したのですから。
 
「僕はその紫城の親戚です。僕も何度か会った事があります。だいぶ前の事ですが・・」
 
「そうですか・・」
正確には身体としての『紅野紫城』を消したに過ぎませんが・・。
 
「気になりますか?」
 
「ええ。唯一、勝ちたいと思った人ですから」
あなたに勝てるとは思えないけど、勝ってはだめだ。
 
「そんなにすごい人だったのですか?」
 
「・・はい、力量として越えたいと思うのではなく、ただ勝たねばならない・・と、うまく言えませんがそう思うのです」
それはあれが人の内面の壁そのものだからだ、あれはあれに関わるものにとって絶対的にな壁になる。僕だって例外じゃない。
 
「でも、どうしても適わない人というのは他にもいるものでしょう」
 
「それもわかります、ですがこう会えないと余計に気になるのです」
あなたがあれに勝つには『人外』になるしかない。いや、その『人外』の僕ですら勝てないのだからそれ以上か・・。
 
「今までずっと気になっていたのですか?」
 
「いえ、急に思い出したのです。新見さんと稽古をしたあの時に・・」
まずいですね、僕が影響を与えてしまっている。確かにあれを内に飼っているようなものですが・・。
 
「さっきも似ていたと言ってましたが、そんなに似ていましたか?」
 
「はい、あのときの新見さんの目は・・」
これは完全に僕の油断ですね。最近何も無かったから安心していたのですが。
 
兎に角、桜花さんには悪いですがあまり首を突っ込まないようにしてもらわないと、
でないと桜花さん自身によくありません、この人は『人』のままでいてほしいと僕の勝手な思いですがそう思います。
 
やはり、あまり近づくべきでは無かったようです。紫城を知る数少ない『人』なので興味はありましたが・・。
 
「そうだ、僕も言おうとしていた事があったのですが・・」
 
「はい、すいません長々と」
 
「いえいえ。でですね。自分から言っておいてなんですが日曜日に出かけるのをやめにしませんか」
 
「え、やめにするのですか?」
これ以上は不確定要素が多すぎます。
 
「ええ。すいません、桜花さんと行きたくないというわけではないですよ、ただまあ・・なんというか・・・・」
普段は適当な事が言えるのに肝心な時にダメな男です。
 
「わかりました。新見さんがそういうのならそうします。少し残念ですが・・」
 
「そうなんですか?」
 
「兄と一緒にいるような気がしていましたので、すいません。それでは新見さんに失礼ですよね」
 
「いえ、まあ元々無理を言ったのが自分だったので・・」
優夜さん達になんと言い訳するか・・・。
 
「今日はベルティが私に似合う服を捜すと言っていたのですが、こちらはこちらで言っておきますので」
 
「わかりました」
それで僕と桜花さんはその場を別れました。
 
桜花さん、あれの事はもう忘れてください、忘れた事すら忘れてしまうぐらいに・・。

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