※これは学園版の新見忍の視点で書かれています。 ※特組のキャラクターを無断で使ってしまってますが、 『うちのはこんなんじゃない!』というのがありましたら直します。 ※なるべく毎日書こうと思ってますが、挫折したときはお察しください・・。 二十六夜 「・・まあ、今のでだいたい理由はわかったけど」 「ええ、多少の無理は承知です。ハカセも危険だと思うでしょう?」 暗い部屋、複数のディスプレイの明滅だけがその場所を照らしています。 「だからって、1週間も学園を休むこともないだろうに・・。『危険は承知で楽しむ』と言ったのは 他でもない君だろう・・それともまた0と1の世界に戻るかい?」 「ここに居たいからこうするのです・・それに、6年も時間がたてば忘れていると思ったのです・・」 ハカセはディスプレイの方を向いたまま話しています。カチャカチャとキーを叩く音が響きます。 「君はまだまだ、人の心ってものを甘く見ている。五条あたりが聞いたら、しばかれるぞきっと」 「それは認めます、それにわかりたいからここに居るのだし・・」 「『今を計らず、今向かう意思を計らん』・・か、いいよ。 君のこちらでの行動は概ね目を瞑ることにする約束だしね。・・で、1週間どうするの?」 「ええ、少し考えたのですが。いい機会なので溜まっている『アルバイト』をこなしておこうかと・・」 「っそ、まあ頭を冷やすにはいいか。丁度、製作中のネットワークゲームのプログラムを荒らしてるのがいるから何とかして欲しいと依頼が着てるよ」 「それでいいですよ、好きにやってしまっていいのですね?」 「ああ、それ事態がその会社での初めての試みだったようでね、 時間も予算もなく穴だらけなプログラムだからまあゲームマスターを育成するためだけには役にたったのかな?」 「まだまだ、安定させるのは大変ですね。では、すぐ初めてください」 「そう言うだろうと思っていたよ。今、接続の準備は終わった適当にがんばってきて」 「わかりました」そこで自分の意識は一端途切れました。 ※ ※ ※ 舞起こる砂煙、強い日差し。見渡す限り荒涼とした大地。そこに今の僕はいる。 「殺風景な所ですね・・」 (オブジェクトを満足に置く暇も無かったのだろう、目標はそこから西に1k先の所にいるから、んじゃあとよろしく) ハカセの声が頭の奥で響きます。 「まったく・・マイペースな人だ・・」僕の周囲に幾つも光の線が浮かび上がります。 「これも、久しぶりですね」 ワイヤーフレームのような光が球場に展開され たくさんの記号や数字がそれにそって浮かび上がり目まぐるしく変化しています。 レイヤーキューブ・・正確に説明すると長くなりますが僕のオプションみたいなものです。 「では、巻いていきますか」 ハカセは僕に憂さを晴らして来い、と言っているようなのでその好意にのっておきましょう。 僕は西に向かって走り出しました。 二十七夜 ほどなくそれは見つかりました。 こちらをさして警戒しない所を見ると、素人ではないようです。 「ここにこうしてこれたのは大したものですが、もっとうまくやるべきでしたね」 「・・・・・」 それはノイズが酷く、こちらが語りかけても何も答えません。 かろうじて人型を保っているその影は、突然攻撃を仕掛けてきました。 黒い矢が数本僕に向かって飛んできます。 「利きませんよ、見つかってしまったことを後悔してください」 矢は僕に届く前にレイヤーキューブに弾かれました。 「・・・・・退散」 影は攻撃が利かないのを見ると逃げる体制を取りました。 「やはり・・同業の企業スパイですか」 影は僕には目もくれず逃げて行きます。 「させません!」 とりあえずは、ここで手に入れたであろうデータを守らないと、 僕はキューブの効果範囲は最大限に広げました。これぐらいの簡単なプログラムの世界なら数百メートルはいけます。 影は僕の効果範囲に捕らえられて動けなくなりました。 「僕はあなたみたいに、折角の新しい可能性を無駄に潰す人が大嫌いなんですよ」 光の糸に絡めとられた影がこちらを睨んでいるようです。 「あなたに命令した人も同じです。自分で創造する力がありながら何故他の人の邪魔をするのか・・」 糸が僕の意思をくんで、影をきつく締め上げます。 「自分で創造し物語る力があれば、その力で他と競えばいいでしょう」 「他をおとしめる事でしか自分を保てないのなら」 影が苦しみ出します。 「そんなことは、最初から止めてしまいなさい!!」 影は霧散し光の糸は行き場を失い落ちました。 僕はしばらくそのまま立ち尽くしていました。 風が吹き抜けます。そこに最初から何も無かったように・・。 (ん、かたずいたようだね、こちらでも確認した。さっさとログアウトした方がいい。そこは時期に消えるよ) ハカセの声が聞こえたきました。 「ハカセ・・人は何故新しい物を欲してやまないのですか、それの本質を理解しようともせずに・・」 (ふむ、まあなんだ。時間が掛かることだよ。それらに心が追いつくまではね) 「まるで理解するのが怖くて、新しい物を見つけているように思います」 (それでも、それは無駄じゃない。君だってそう信じているんだろう) 「ええ、僕はこの先の可能性のためにこうしてここに有る事を決めました。たくさんの物を見て明日に語り継ぐために」 (それがわかっていれば今はいいだろう、簡単なことじゃないのも承知したはずだしね) 「はい、そうでしたね」 二十八夜 ふと気が付くとクラクションの音がしました。 目の前にバスが止まっています。 僕は慌てて運転手さんに手を振り、乗らない意思を伝えます。 バスは乗降口の扉を閉めるとゆっくりと発進していきました。 ここは第十字学園近くのバス停です。 で、僕は朝からずっとここにいるのです。あのバスで何台目かな・・? 1週間のお休みはとうに過ぎました。 でも、あそこに戻るべきではないのではないかと思いずっとここに居るわけです。 何故って言われてもうまくは言えないけど・・。 ときどき、こんな風に全てがどうでもよくなってしまうことがあります。 何もかもを投げ出してどこかへ行ってしまいたくなる。 その事をハカセに言ったら、 「出て行くのはいつでも出来るんだから、今でなくてもいいんじゃないか?」 って言うんです。後押ししているのか引きとめているのか・・。 ここにいて楽しい事ばかりだったけど、それだけで良かったのかなって思うのです。 たぶん僕が一人がいなくてもあの人達のことだから、うまくやっていけると思うし、 僕は僕のために成すべき事があるわけだし、 それはここでなくてもできるし、ここでもいいのだけれど、 たまにいつもと違う歯車を回してみたくなるんです。 気が付くとまたバスが通り過ぎて行きます。 それをぼんやりと見送っていると・・ 「よう・・」 少し離れた所に喜司雄さんがいました。 「どうも・・」 「しばらくだな」 「そうですね・・」 距離をあけたまま会話が続きます。 「何してた?」 「まあ、いろいろと・・」 「もう帰ってこないんじゃないかと思ったぞ」 「いやだな・・そんな事あるわけないじゃないですか・・」 「・・そうだな、そう思うよ」 「そうですよ、後で寮に行きます」 「そうか・・・先に戻ってるぞ」 「・・・・はい・・」 それから、3台ほどバスを見送ってから僕は寮に帰りました。 もう少しだけここにいてもいいかな・・・と思います。 二十九夜 昨日寮に戻ったので今日から学園に復帰です。 「なんか、気恥ずかしいですね・・」 久しぶりに袖を通す制服はまた違った感じがします。 「今更、恥ずかしがるたまか」 喜司雄さんが小突きます。 「いいじゃないですか、少し人が懐かしがるぐらい・・」 「爺くさいんだよ、老けるのはやいぞきっと」 「年齢は喜司雄さんの方が上じゃないですか・・」 「見た目だ、見た目。白髪とか早かったりしてな」 「だったら、尚更、喜司雄さんですよ・・」 一瞬、止まった後しみじみと会話をはじめます。 「そうだな、変人ばかりでいつも苦労してるしな」 「そうそう」 「まあね・・そりゃ素直になれば楽だとは思うけどさ・・」 「そうそうそう」 「どこぞのガキが面白半分に人の人間関係をほじくり返すから・・」 「そうそうそう」 「おまえの事だ、バカたれ!」 イタイ、おもいっきりグーで殴られました。 相変わらずいいボケ突込みです。 で、学園に着きましたが、 「んじゃ、変人共と久しぶりの友好を暖め合うがよい・・」 「そうさせてもらいます」 学園の入口で喜司雄さんと別れました。 で、特組の教室前に来たわけですが・・。 入りにくいなぁ・・。 どんな顔をして入ればいいのやら・・。 と入口の前でまごまごしていると、中からドアが開けられました。優夜さんとラルカちゃんです。 「おまえ・・誰だ?」 「だれだ?」 ・・・え、や、そんな・・・。 僕の頭の中である単語が浮かび上がりました。 暗示性記憶障害。 僕がこちらに居られるかわりに、課せられた咎。 電子体という特秘事項を守るために、僕を見た人は知らないうちに暗示に掛かるようになっています。 僕を見ない時間が長くなればなるほど、僕という存在を忘れやすくなるのです。 もちろん元が暗示なので、掛かりにくい人もいると聞いてましたが・・。 昨日、喜司雄さんに会ったときもそれが不安だったのですが、 まさか特組の人が・・。 「いやだな・・冗談はやめてくださいよ・・」 「どこの学年かしらないがクラスを間違えちゃいけないな」 「イケナイナ」 やっぱり戻ってくるべきじゃなかったのかな・・。 電子の海の中で僕はたくさんの人と会ってきました。 その人達は僕を覚えている事は無かったけど、僕はそれでも平気だった。でも・・。 でもなんで今はこんなにつらいのでしょう・・。 僕はその場にへたり込んで動けなくなってしまいました。 ラルカちゃんと目が合いました。 涙が自然とあふれて視界がゆがみます。 「シノブ、泣いている?」 ラルカちゃんは、ペンペンと僕の頭に手を置きました。 「そうか、そうか、泣くほど再開が嬉しいか」 優夜さんがウンウンと腕組みをして頷いています。 「そんなわけありますか!!!」 奥からルルカさんの声が聞こえてきます。 「泣くな、シノブ、どこかイタイ?」 ラルカちゃんが心配そうに覗き込みます。 「うわぁ、忍さん泣いてるじゃないですか!忍さん、嘘ですからね、嘘!全部いつもの優夜さんの嘘!」 僕の予想外の反応にルルカさんもあたふたしています。 「大丈夫です・・馴れてますから・・」 僕はそれを言うのがやっとで精一杯笑ったつもりが、安心したらまた涙が出てきました。 「優夜さん!当事者が何を明後日の方を向いてますか!」 「いや、女泣かせの称号よりも男泣かせの方が特殊かなって思って・・」 「バカ言ってないで謝りなさい!ラルカもです!」 ルルカさんが珍しく本気で怒っています。 「うん・・シノブ、ゴメン・・だから泣くな・・」 「むう、悪いな。みんなで話して決めたのだが、まさかこれほど喜ぶとは・・」 他の特組のみんなもやれやれといった感じで見守っていました。 僕はそこで初めて本当のかなしみを知りました。 三十夜 なんとなく僕の中で前のような日常が戻りつつある頃・・。 「なあ、土手で花火をやるんだが来ないか?」 と喜司雄さんに誘われました。 断る理由もなかったので、夜一緒に出かけたのですが・・。 「なんでロケット花火だけなんですか?」 喜司雄さんが持っているのは数えきれないほどのロケット花火です。 「うるさいぞ、忍二等兵!今から始まる戦に勝てんぞ」 「戦・・?」 喜司雄さんがいつもながらちょっと変です。 と対岸がら何かが飛んでいました。 「む、あちらは既に戦闘態勢にはいったか・・」 「え、え、なんなんですか」 見るとそれはロケット花火です。 「こちらも負けられん、やるぞ忍一等兵!」 「ええ、誰が向こうにいるのですか」 せっせと地面に花火を刺すと喜司雄さんがニヤリと笑いました。 「相手は志度だ!」 え、副会長!? こうして、夜の川を挟んでロケット花火合戦が始まりました。 「ガキの頃から、10勝10敗でここで負けるわけにはいかんのだ!」 「・・どうやって勝ち負けを決めてるんです?」 話している間にもロケットは飛ばしたり飛んで来たりしています。 「・・・その場のノリで・・」 真顔で喜司雄さんが言います。 「・・・無茶苦茶ッすね・・」 そこでふと気が付きました。 「2対1では卑怯ではないですか?」 「馬鹿言え、あちらには美空ちゃんもいるんだ」 おおう、叶兄妹が相手ですか・・。 もくもくと花火を設置する志度さんと、無駄に嬉しそうに火を付ける美空さんが目に浮かびます・・。 「で、いつまで続くんですかこれ・・・」 「弾が尽きるまでだ・・」 見るとこちらの残弾はあまりありません。 それに引き換えあちらは絶えず飛んできています。 「こんなのでよく10勝10敗でしたね・・」 「今まではジャンケンで美空ちゃんがどちらに付くか決めていたからな・・」 なんかそのジャンケンで今までの勝負が決まっていたっぽいのですが・・。 しばらくして、全て打ち合ってしまいました。 「むう、今回は痛み分けか・・忍軍曹何か手はないか?」 「ないですよ〜、お金だって元からありませんし・・」 僕のアルバイトではお金は出ないのです・・。 「そんなあなた達にビックニュース!」 いきなり後ろから声が掛かりました・・え、由宇羅さん? 「今、ここに商品化前の試作品の花火が大量に・・」 と言ってバラバラと怪しげな花火が大量に・・・。 「すごいな、で幾らだ」 喜司雄さんの目が輝いています。 「今なら、特別プライスで千円ぽっきりでどうです」 「よし、買った。ふふふ、戦だ。これでまた戦ができる」 そして、再び戦が始まりました・・。 「由宇羅さん・・随分と間がいいですね・・」 「ちょっと、流しで花火を売ってるの、夏の土手沿いはよく売れるわよ」 「さいですか・・・」 と、対岸から花火が飛んできます。 「むう、あちらもやる気だな・・忍曹長はやく手伝え!」 「あ〜はいはい、そういえば悠然さんは一緒ではないのですか?」 「悠然さんは対岸で同じく売り歩いてもらってます」 え・・・と言う事は。 「むぉぉ、なんだあの花火は〜」 喜司雄さんの悲鳴が聞こえます。 「あ、あれうちの商品だ・・」 悠然さんもあちらで志度さん達に花火を売ったようです・・。 その日は久しぶりにいろんな意味で楽しい夜でした。 |