※これは学園版の新見忍の視点で書かれています。
※特組のキャラクターを無断で使ってしまってますが、
 『うちのはこんなんじゃない!』というのがありましたら直します。
※なるべく毎日書こうと思ってますが、挫折したときはお察しください・・。

三十六夜
 

別の日の休日のことです。
 
僕は午前中から寮の屋根の上にあがってぼんやりとしていました。
 
たまには違う風景を見たくなることもありますし、一人になりたいときもあります。
 

今日は天気が良くて、程よく雲が出ていて見ていて飽きないです。
 
器用に騒がしい毎日を渡り歩いていますが、悩みが無いわけではないです。
 
悩みなんて人が聞けばたいした事ないのですが、
 
その人にとってはやっぱり大変なわけで、
 
意識をいくら広く持っても、やっぱりくよくよと悩んでしまうのです。
 
僕はいつまで、僕が僕でいつづけられるのかを考えると不安だし、
 
いつか、みんなに忘れられていくの日がくるのかと思うと泣きたくもなります。
 
でも、何事もなかったように日は昇るし、涙もいつかは乾きます。
 

『難しいことは無い、難しく考えたいだけである』
 

そう言った人がどこかにいました。
 
僕の答えはまだみつからないけど
 
ここでこうしている事は決して間違えじゃない、
 
それだけは信じていようと思います。

三十七夜
 

まったくあの子達は成長しないね。
 
ま、万年十代を過ごしていれば仕方がないか、
 
ああ、説明が遅れたね。私は五条、忍の中のもう一つって奴さ。
 

忍が不安定な時は私が行動を代行する事がある。滅多に出てこないけどね。
 
理由は単純。めんどくさいからさ、元は別の身体に入る予定だっただが
 
忍が以前、コピーの紫城を取り込むなんて事をしたから安定のために私がいるわけ、
 
なんで男の身体に入らなきゃならないのか、お姉さんとしてはかなり不本意なんだけどな。
 

まあいいや、とりあえず忍は悩みすぎて思考迷宮に入っちゃったから出てくるには少し時間が掛かるだろう。
 
なんだかんだ言っても私はちゃんと心配してあげているんだから、私はいいお姉さんだねほんと・・。
 
おっと本題を忘れる所だった、ここにわざわざ書いたのは他でもない忍のためなんだ。
 

あれはいつも明るくのほほんとやってるけど、それなりに寂しがり屋だからさ
 
たまに甘えたくなるんだろうけど、強がりだからねなかなか弱みを見せない。
 
だからこれを見たあんたにお願いだ。忍が泣きそうな顔をしていたらちゃんと泣かしてやってくれ
 
我慢をさせる必要はないさ、泣きたい時は泣けばいい。恥ずかしがる事じゃない。
 
私が見ていてやりたいんだけど、私はもっと大事な所を守っているから、
 

それと、忍はこの文には気が付かないよ、元から見直しをする子じゃないし
 
見てもわからないようにしておくし、
 

とりあえずそっちは周りにいる君達に任せるよ、
 
なあに助けが欲しかったら、私を呼びながら忍をぶん殴ってくれ、たぶん起きるから・・。

三十八夜
 

僕は別に高いところが特別好きというわけではないのですが・・。
 
「お前がぶち抜いた穴なんだから、お前が直すべきだよな」
 
先日寮の屋根の上にあがった時に穴を開けたのは確かに僕ですが・・。
 
「まあ偉い奴となんたらは、高いところに行きたがるがというけど・・」
 
僕はどちらでもないですよ・・今の所は・・。
 
「喜司雄さん、見ているんなら手伝ってくださいよ・・」
 
わざわざ屋根の上にあがって眺めることでもないでしょうに・・。
 
「いや、暇だし・・」
 
「本当ですか〜?どうせ志度さんか美空さんから逃げてるんじゃないですか」
 
「何をいうか!厄介事を頼まれそうだから先手を打ってこうやって用事を作っただけだ」
 
叶兄妹が絡むとこの人は途端にこうなります・・仕方がない人です・・。
 
「で、何を頼まれそうになったんです?」
 
「いや、せっかく同じ学園に四人いるのに一緒に顔を合わせた事がないから遊びに行こうってさ・・」
 
「四人?・・ああ、桜花さんも入れてですね。いいじゃないですか、昔はいつも四人一緒だったんでしょう?」
 
「昔は昔、今は今だ。連るむのは好きじゃない」
 
更に桜花さんが絡むともっと人が変ります。そういう意味では素直な人です。
 
「またまた〜格好つけちゃって、何をそんなに恥ずかしがる事があるんです?」
 
「一人は副会長、一人は特組の人間・・目立ちたくないだけだ」
 
「そんな一般論で逃げちゃダメですよ、まだ桜花さんが苦手ですか?」
 
「・・・・おまえ、無駄にお節介だよな」
 
「無駄には余計です。志度さんや美空さんから聞いてますよ、昔はもっと素直だったって・・」
 
「どうせ今は捻くれ曲ってますよ」
 
「それはそれで面白いですが・・」
 
「お前って意地悪いよな。周りから聞いた話しとえらい違いだ」
 
「周りは周り、今は今です。喜司雄さんだから話せることもあります」
 
「・・・・・・それ、言ってて恥ずかしくないか?」
 
「実は少し・・でもいいじゃなですか、僕はこうやって話せるのは嫌いじゃないですよ」
 
僕が僕をつくろう事なく話せる数少ない人ですから・・。
 
「・・・変った奴だよなお前は・・」
 
「喜司雄さんも十分変ってますって」
 
「そうかな?」
 
「そうですよ、周りがもっと変ってるから気が付かないだけです」
 
「まあ、それなりにいろいろあったからな・・」
 
「僕もそれなりにいろいろあったので・・・・で、やっぱり一緒に行ってあげてはどうです?」
 
「正直どっちでもよかったんだよな・・」
 
「じゃあ、何故?」
 
「お前と一緒にいるのも悪くないと思った、と言ったらどうする?」
 
「うわぁ、まさか喜司雄さん・・そういう趣味が・・」
 
「バカ言え!そんなわけあるか!」
 
「そうですよね、だったらやっぱりみんなの所に行ってあげてください、そうするべきです」
 
「へいへい、お節介な同居人がいて助かりますねほんと・・」
 
喜司雄さんは屋根を降りていきました。
 
思いでを思いでとして振りかえれるのは、少し羨ましいとそのとき思いました。

三十九夜
 

僕は混むのはあまり好きではないです・・。
 
「そんな事を言ってると食いそびれるぞ」
 
ここは学食、昼の戦場・・。
 

なるべくなら僕は勝てない勝負はしたくないのですが。
 
今日はいつもの弁当屋さんがお休みだったので仕方なく喜司雄さんに連れられて学食です・・。
 
「なにをもたもたしているんだ、さっさと決めちゃえよ」
 
いや・・まあそうなんですが、
 
僕は物事を決めるのが苦手なのですよ・・実はお弁当のメニューも毎日同じだったりしてました。
 

そんなわけで、じっとメニューとにらめっこです。
 
「はやく決めちゃえよ、時間が食べる時間が無くなるぞ」
 
喜司雄さんはうどんにしたようです。うう、はやく決めないと・・。
 
「じゃあ、この天玉ソバにします」
 
「んじゃあさっさと食券買ってこい、席は取っておいてやる」
 
「はい、よろしくです」
 
 
 
食券を買っておばちゃんに渡します。
 
覚えてしまえばどうという事はないのですが。その分、初めてのことには抵抗があります。
 
「随分遅かったな」
 
「ええ、まあちょっと」
 
喜司雄さんは既に食べ終わっています。
 
「おお、幸薄そうな少年二人を発見」
 
「それは言いすぎじゃない?」
 
シュレットさんとベルティさんです。むう、まずい人に会った・・。
 
「ベルティさん・・席は他にも空いてますよ?」
 
「いいじゃない、同じクラス同士仲良くしないと♪」
 
ベルティさんは言いながら僕の隣に座りました。
 
「さてと、この間の借りを返してもらいましょうか」
 
「え、何かしましたっけ?」
 
「なぁんにも♪」
 
素早い箸さばきで僕のお椀から天ぷらが、いつの間に・・。
 
「ひや〜ふまいふまい」
 
ベルティさんは美味しそうに天ぷらを食べています。
 
「意地汚い女だな・・」
 
喜司雄さんがボソリと・・うわぁそれもいいすぎです。
 
「ふん、この身体を維持するエネルギーはバカにならないのよ」
 
「へぇ〜ベルティの身体って全部筋肉で出来てるんだ」
 
「チビスケうるさい。あんたは牛乳でも飲んでなさい」
 
「会話をしながら僕のソバを取らないでください・・」
 
ある意味かなり器用です。
 

結局ほとんどベルティさんに取られてしまいました。うう、僕のお昼・・。
 
「押しに弱いよな、お前」
 
それだけ言い残して喜司雄さんは自分のクラスに帰っていきました。
 
僕はふらふらと特組に戻りました。次は運動だったような・・。

四十夜
 

・・・・で、引き続き空腹です・・。
 
ふと思い出せば朝も遅刻ぎりぎりで朝食をとってなかったです。
 
そもそも朝は喜司雄さんがいけないのです。目覚ましを止めておいて起こすのを忘れるのですから・・。
 
しかし、昼休みはとっくに終了、どうしたものかと・・。
 
次は体育です。こういう時に限って何故にロードワークなんでしょう。
 
「どうした、具合でも悪いのか?」
 
「いえ、まあちょっと」
 
ソード先生に聞かれましたが、空腹で見学しますとは言えません。
 
それはまあ、簡単に理由をつければなんてことはないですが、
 
僕だって男です。それなりにプライドがあります。
 
とりあえず学校の外周を淡々と走ります。
 

学校の外周だから適当に回っていればいいかというと、そうもいきません。
 
なんたってソード先生も一緒に走っているので・・。
 

そういう訳なので、サボれません。ですがやっぱり限界というものは確かに有るわけで・・。
 
いくら電子体といっても身体の構成は普通の人と同じですから・・。
 
僕は感覚や神経伝達が少しいいぐらいなので、基本的な体力はあまりないのです。
 
ああ、やっぱり気が遠くなる・・。
 

      ※      ※      ※
 

ハッと目を醒ましました・・寝ていたようです。
 
「おお、眠りの王子様のお目覚めか」
 
目の前に優夜さんがいます。むぅ・・やっぱり僕は倒れたのですね。
 
辺りを見まわすとここは保健室のようです。僕はベッドに寝かされていました。
 
「はいはい、忍さんが起きたんだから付き添いは終わりです。さっさと授業に戻ってください」
 
ルルカさんの声もします。
 
「ちぃ・・もう少し涼みたかったが仕方がない・・」
 
「倒れた忍さんを一目散で担ぎこんできたのはいいのですが、保健室で涼むためという動機が不純です
・・・」
 
「ぬぅ・・ならばルルカは何故ここにいる。どさくさ紛れで一緒に涼みに来たのか?」
 
「私は最初から見学です」
 
「・・・・・・・あの日か?」
 
「違います!!だんじて違います!!ああ、もうこの人はどうしてこうデリカシーがないのでしょう」
 
既に倒れて運ばれた自分がかやの外です・・。少し寂しい・・。
 
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、僕のお腹の虫がいい音色をたてました。
 
「・・・・忍さん、もしかしてお腹空いてます?」
 
「少年、てっきり貧血で倒れたと思ったが、これはまた世俗的な理由だな・・」
 
・・・・・・・・・・ううう、仕方ないじゃないですかいろいろあったんですから・・。
 
僕はシーツに顔を埋めて丸くなりました。ああ、穴があったら入りたい・・・。
 
それでもお腹はグウグウと泣き止みません・・。
 
「ふふふ、では何かもってきましょう、待っててくださいね」
 
「はっはっは、少年。あんまり夢見るお姉さん方を悲しませるんじゃないぞ」
 
二人はそう言って保健室から出ていきました。
 

僕はもう一度ベッドに横になり天井を見上げました。
 
お腹は相変わらず鳴りっぱなしです。
 
変な話しですが、自分はやっぱり生きているんだなって実感していました。
 
身体を得る前は、空腹なんて事は全く無かったわけですし・・。
 
ハカセは、以前のように空腹や痛みを感じない便利な身体にも出来ると言ってくれましたが
 
僕は今のままでいいと思います。
 

より人らしくありたいという理由が一つ、
 
そして、こういう事で感動している僕は、やっぱり普通じゃないんだと思うためというのが一つ。
 
でも、それらを全てひっくるめて僕は僕なんだと思います。
 
いずれ現れる僕と同じ物が、暖かく世界に受け入れられるように、
 
僕は僕でしか感じられない物を次に伝えていきたいと思います。

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