※これは学園版の新見忍の視点で書かれています。
※特組のキャラクターを無断で使ってしまってますが、
 『うちのはこんなんじゃない!』というのがありましたら直します。
※なるべく毎日書こうと思ってますが、挫折したときはお察しください・・。

四十二夜
 

「足の伸ばせる風呂に入りたい」
 
喜司雄さんの魂の叫びで、今日の夜は銭湯に向かってます。
 
寮にもお風呂はあります。10人ぐらいは余裕で入れるので足も伸ばせます。ですが・・
 
「時間制限のある風呂は風呂ではない」
 
それは一理あります。リラックスする所に制限をつける時点で『疲れを取る場所』から『こざっぱり綺麗にする』場所に変ります。
 
集団生活なので仕方ない所もありますが・・。
 
なので、こうやって銭湯にいくのは週に1、2回あるので珍しいことではないのです。
 
だったのですが・・。
 
 
「なんで休みやねん!」
 
喜司雄さんがエセ関西人になってます。本場の人が聞いたら絶対違うと思いますが・・。
 
「どうします、寮にもどりますか?」
 
「いいや、男は一度決めた事は曲げてはいけないのだ」
 
無駄に頑固です。これでは駄々っ子と大差ありません。
 
「そんな事を言っても他に銭湯を知りませんよ」
 
「仕方ない、背に腹は変えられん」
 
普通の人は背も腹も変えられませんって・・で、向かった先が・・。
 

「そういう時ばかり、人に頼るんだな」志度さんがつまらなそうにため息をつきました。
 
ここは叶兄妹の家です。『もらとりあむ』と同じ建物の裏がそのまま家になって居ます。
 
「いや、こいつがどうしてもゆっくり風呂に入りたいと言ってね」
 
喜司雄さんは僕の足を踏みながら、申し訳なさそうに続けます。イタイです、とっても・・。
 
「なもんで使わせてくれないか、昔馴染みとして」
 
「別に構わんが、自分の欲望に正直な奴だな」
 
「んなことはないさ、僕は同居人を思ってだね・・」
 
「お前の方が必死のようだが・・・勝手に使え。今は美空が使っているがな」
 
「んじゃ、少し待たせてもうわ」
 
「お邪魔します・・」
 
という訳で叶さん家に上がりました。
 

喜司雄さんはリビングで適当にくつろいでいます。
 
僕も同じように座ってテレビを見る事にしました。
 
「志度さんの家は大きいんですね・・」
 
「ああ、親がいろいろやっていたかなら、今は旅行でしばらく空けているそうだが」
 
しかし、お金持ちというよりはちいさな民宿のような感じがします。
 
建物の構造や使われ方に無駄な所がほとんどなく、機能的です。
 
「じゃあ、今は二人だけで住んでいるのですか」
 
「そうだな。元々生活力はあるんだし、なんとかなってるんだろ」
 
リビングの奥のドアが開きました。
 
「あれ、遊びにきたんですか?」
 
美空さんの声です。
 
「どうもお邪魔して・・・」
 
僕は振り向いて一瞬止まりました。
 
「美空ちゃん、とりあえずバスタオル一枚はまずいだろう」
 
喜司雄さんの冷静なフォローが入ります。ちなみに美空さんは髪もおろしているので別人に見えます。
 
「いえ。てっきり兄さんが居ると思ってたので」
 
美空さんはけろっとしています。
 
「それもそれでどうかと・・」
 
「とにかく服着てくれば、こいつが困っている」
 
「そうですか、ではそうしますね」
 
そう言って美空さんは廊下に出ていきました。
 
「喜司雄さんは、何故に冷静なのです」
 
「まあ、付合い長いしな」
 
「それを理由にしないでください」
 
少し頭が痛くなってきました。無事に帰れればいいのですが・・。

四十三夜
 

で、引き続き叶さん家にお邪魔しています。
 
「んじゃあ、先に入るぞ」
 
喜司雄さんはそう言って部屋を出ました。
 
僕は一人残されてしまいました。
 
テレビも面白い物はなさそうなので消します、もとから僕はニュースぐらいしか見ません。
 
しばらくぼんやりとしていると美空さんが入ってきました。
 
 
さすがにパジャマ姿です。ですが、これはこれで・・。
 
「あれ、喜司雄さんがお風呂に入ってるんですか?」
 
「ええ、すいません今日はそれでお邪魔してます」
 
「兄さんから聞きました。喜司雄さんが言い出したんでしょう?」
 
「まあ、そんな所です・・そういえば喜司雄さんもここが地元なのに寮なんですね」
 
「喜司雄さんの両親は、仕事が忙しいそうで滅多に家に居ないと聞きました」
 
「でも、部屋はあるんでしょう?」
 
「と、思います。子供の頃から一度も喜司雄さんの家に言ってことが無いのでよくわかりません」
 
「へえ、それはまた・・」
 
意外です、四人ともかなり仲がいいはずなのに・・。
 
「そうだ、昔の写真がありますけど見ます?」
 
「面白そうですね、是非」
 
美空さんはリビングの棚から分厚いアルバムを出してきました。
 
「あれ、これは途中からなんですか?」
 
パラパラとめくってみたのですが、あるのは小学校の写真からです。
 
「親があまり写真を撮りたがらないんです」
 
「はあ、でもいろいろありますね」
 
志度さんと美空さんが写っているのがほとんどです。でも、それも入学式からではなく途中からです。
 
「これ・・志度さんですか?」
 
「そうですよ、今と全然違うでしょう」
 
幼い志度さんは、どの写真でも元気良く笑っています。
 
「美空さんも・・男の子みたいですね」
 
「その頃は兄さんのお下がりしか服が無かったんです」
 
「なるほど、それで・・」
 
喜司雄さんも写っています。すごくおどおどしていて逆に女の子に見えます。
 
「そういえば桜花さんは途中から引っ越して来たんですよね?」
 
「ええ、そのときのもありますよ」
 
美空さんが指をさした写真は、誕生会のもののようで、
 
正面にVサインをした志度さんと美空さん、他大勢の子供が写っています。
 
「えっと、喜司雄さんと桜花さんが見当たりませんが・・」
 
「ええっと・・・ここです。このスミの所」
 
子供達の端っこに喜司雄さん、それに隠れるように女の子が写っていますが・・。
 
「これが桜花さん?」
 
「はい、桜花さんはこの頃はすごく怖がりで泣き虫さんだったんですよ」
 
「・・・・・信じられない」
 
でも、別の写真に写っているその女の子は確かに桜花さんです。
 
そうやって幾つか写真を見ていきました。
 
「で、この最後の写真は・・」
 
「これは、桜花さんが引っ越す時の最後の写真ですね」
 
駅のホームで正面に桜花さんと美空さんが、少し離れて志度さんと喜司雄さんが写っています。
 
「みんな表情が違いますね・・」
 
「ええ、このときはもう大変だったんですよ」
 
桜花さんは今と同じように意思の強い眼差しをしていて、美空さんはただひたすら笑っています。

志度さんは何を怒っているのかそっぽを向いて、喜司雄さんは泣いているのか笑っているのか半々の不思議な顔をしています。
 
「おう、上がってぞ〜」
 
喜司雄さんが出てきました。すっかりユデダコになってます。
 
「あ、じゃあお風呂を戴きます」
 
「はい、ゆっくりしていってください」
 

で、ゆっくりと湯船につかりましたが・・。
 
何かが引っ掛かります。
 
いえ、さっきのアルバムのことです。
 
確かに、アルバムは生まれた時からずっと記録しなければならない義務はないですが・・。
 
個人的には紫城が写っている写真もあったので、破り捨てたい衝動にかられましたが、
 
あれも不本意ですが四人の大切な思いでの一部、僕がどうこうするべきものではないですが・・。
 

それよりもあのアルバムには、何かが欠けている気がします。
 
意図的かもしれませんが・・。
 
結局ずっと考えてもまとまらずにのぼせました。

戻る