その1

なにやら雑記に使えそうなノートを手に入れたので、せっかくだから色々と書いてみることとする。
いつまで続くかわからぬし、毎日書けるのかどうかもさだかではないが、
なるべく頑張ってみようと思う。

何事も挑戦してみるべきである。
それにこうしてノートに書くことで新たな境地を見出したり、
新たな発見があるやも知れぬしな。

ただ、ノートがレグに対する愚痴で埋まらぬよう、気をつけてはおこう……。


その2 学園からの帰り道の話である。 なんとなくスーパーに立ち寄ったのだが、そこでアジが凄く安く売られていたのだ。 鮮度も身のしまりも申し分なく、どう考えてもこれはお買い得であろう。 躊躇なくこれを購入し、私はにわとり荘へと帰宅することとした。 しかし帰り着いたにわとり荘には誰もいなかった。レグはおそらく帰ってないと思っていたが、 ミノルカさんもどうやら出かけているようだ。 ならばここは私が夕食の支度を済ましておくべきだろう。 買ってきたばかりのアジを用意し、さてどのようにコレを調理してレグに振舞おうか…… と思案していたところに玄関から物音が。 「今帰宅した」 「おかえりレグ。少し遅かったようだ……な」 出迎えた私が目にしたのはレグと、レグが持つ不審なビニール袋。 なんとなくいやな予感がするのだが…… 「安売りしてたからな。購入しておいた」 レグが渡してきた袋の中の物体は、予想通りというか、どこからどう見てもアジだった。 確かにあのスーパーはココと学園を結ぶ道の途中にある。 私がしたように寄り道するのは全然不思議なことではない。 だがまさかレグが寄り道し、魚を買ってくるとは予想だにもしていなかった。 「どうした、ブラーマ」 「い、いや、なんでも……」 なんとか笑ってみせつつ、内心どうするかと考えていたら、再び玄関が開く音が。 「ただいま二人とも。閉めててごめんなさいね、お買い物行ってたの。  でもお魚が安かったから……あら?」 ……どうやら今日から数日、ミノルカさんとともに魚のレパートリーを考える事となりそうだ。
その3 「うむ、スリーカードだ」 「……ワンペアだ」 今日はレグとちょっとトランプをやることとなった。 何故こんなことになったかというと、昨日学園で優夜殿に言われたことが原因であるからだ。 「レグ君ってさ、賭け事すっっっごい弱いんだよね、特にトランプ系」 それは存じている。優夜殿がそれを利用し、ちょくちょくレグから巻き上げている事も。 まあ、持ちかけられるたびに律儀に付き合うレグもレグだとは思うが…… 「いやさ、それがもうやばいぐらい凄いの。具体的に言葉にできないくらいやばい」 「それはつまり……どのような?」 「うーん、ブラーマちゃんも一度相手してみたら? そしたらわかるから」 ということで、レグとちょっとトランプ勝負をしてみる事となったのだが…… 「ツーペアなのだが」 「役なしだ」 まずい。 本当にレグは弱い。 あまりに弱いので気になって調べてみたのだが、札の取捨選択などに問題はなかった。 他の技術も極普通、ポーカーフェイスいたってはむしろレグの得意技の部類である。 つまりレグの弱さの原因は、その異常なまでの『引きの悪さ』にあるようだ。 なんというか、ココまで悪い人間も珍しいぞ、レグよ。 優夜殿によくカモられているのもうなずけるものである。 だがここで、ちょっとしたイタズラ心が私に囁きかけてきた。 「じゃあレグ、次の勝負に私が勝ったら……次の休みに一日私に付き合ってくれぬか?」 「……わかった、いいだろう」 よし、乗ってきた。というより断る必要がレグには無いだけだろうが。 だがこれでちゃんとした理由をもってレグと休日が過ごせるというものだ。 ……弱みに付け込んでるとか、優夜殿と同レベルとか言わないで欲しい。それは全くの誤解である。 これは実際にレグがどのくらいカモられているかを確かめる為の実験なのだ。 その結果、私がちょっとした役得に預かれるというのはあくまで副産物であって、目的ではないのだ。 そしていよいよ今日の大一番。次の休日のデート……ではなくて付き合いをかけた勝負! 「スリーカードであるな。そっちはどうだ、レグ」 「……フラッシュだ」 ……どうやらレグのここ一番の勝負運は決して悪い物ではないようだ。 そういえば優夜殿と勝負してる時も大きくカモられたことはないようであったな。 ならば一応は安心だ。レグ自身、自分から勝負を持ちかけるタイプではないであろうしな。 なんだ、私が心配する事は無かったというわけであるか。よかったよかった………… デートはお預け……無念。
その4 昼休みに、何故か皆で集まってボール遊びをすることとなった。 ベルティ殿がどこからかボールをちょろまか……頂戴してきたらしい。 まあ、昼食後の適度な運動は体に良いし、断る理由も無いのであるがな。 ちなみに参加したのは桜花殿にシュレット殿、ベルティ殿、ルルカ殿に私だ。 校庭の隅っこに陣取ると、全員で小さな輪を描く。 なおルールは実に簡単。しりとりをしながら決められた順番通りにボールをパスするだけである。 「よっし、じゃあ行くよ。……スパナ!」 まずはシュレット殿。 「な……名札!」 次は桜花殿。 「だか……大胆不敵!」 そして私。 「き、きなこもち!」 ルルカ殿らしい答えであるな。 「超美人なわたし!」 …………ベ、ベルティ殿? 一瞬皆の動きが固まるが、何事も無かったかのようにシュレット殿が続ける。 私もそれに習い、聞かなかったことにしておこう。 「し、シルクハット」 「では……とんぼ返り」 「む……粒粒辛苦」 「えっと、く、クリーム」 「無茶苦茶美人でモテるわたし!」 「もう、いいかげんにしてよね!」 さすがにシュレット殿が抗議の声をあげた。 それも当然であるな。あの調子で続けられてはゲームにならぬ。 「わかったわよ。別のにすればいいんでしょ」 「まったく、ちゃんとやってよ。……仕返し」 「し、州都」 「……東南アジア」 「あ、アップルパイ!」 「未だにオネショしてるチビスケ!」 ……またしてもシュレット殿の動きが止まったのだが。 こころなしか、ボールを持つ両手に力がこもってるようにも見えるが…… 「そ、それはどういう意味かな?」 「アラ、聞いての通りよチビスケ。ルームメイトだけが知ってる秘密ってヤツ」 「むぎーっ! ボクはオネショなんてしてないーっ!」 激昂と共に飛び交うボール。結局最後はぶつけ合いとなるのか。 この二人らしいといえばこの二人らしい展開ではあるのだが。 ただ、私にまでとばっちりは勘弁してほしいものである。痛い。
その5 忘れられてるような気もするが、一応私は第十字学園特組の学級委員でもある。 まあ例え皆がそのことを忘れていようと、 私自身はその役割を全うしてみせるだけであるがな。 というわけで、私は日ごろから細々とした雑務をこなしている。 今日はソード先生から宿題のプリントを回収するよう命じられた。 まずは手近にいた由宇羅殿から行くとしようか。 「由宇羅殿、宿題のプリントを……」 「んーっと、この日の収入がこれですから、純利益は……」 「由宇羅殿?」 「あ、ああプリントですね、そこに……」 机の上においてあったプリントを取ろうとした由宇羅殿が固まった。 プリントの余白にはびっしりと書き込まれた数字の羅列が見て取れるのだが。 「……これは英語の宿題プリントであられたと思うが?」 「ええ、そうですね。ソード先生は英語の教師ですし。意外ですけど」 「…………………」 「……消しときますから、後回しにしてください……」 「うむ」 さて、次は……優夜殿から回収することとしよう。 「やあブラーマちゃん、元気かい。レグ君のことで色々溜まっちゃって、  つい若さに任せて暴走とかしてないかい? お兄さんに教えて欲しいなぁ」 「その辺は心配いらぬ。それよりプリントを提出して欲しいのだが」 「プリントかぁ……俺のプリントは当の昔に旅立ったよ。  その白の平原を黒き軍勢で埋めるという使命を果たした後、  新たなる若者にその力を伝えるという新たな役目を担ってね」 「それは、つまり……」 忘れたのであるか……と言おうとしたところで、優夜殿が後ろを指し示した。 そちらを見てみると、ルルカ殿が必死になって机に向かっていた。 二枚のプリントを机の上に広げて。 「……ルルカ殿」 「はわっ、ブ、ブラーマさん。こ、これは違うんです、あの……  昨日はついうっかりやる前に寝ちゃっただけでして……」 「まあ、かまわぬが……なるべく手早く済ませてくれぬか」 宿題は自分でやるのが無論正しいのだが、そうも言ってられない時もあるであろう。 「ほら桜花、早く見せてよ。集め終わっちゃうじゃない」 「ベルティ、たまには自分でやったらどうですか?」 「たまには、ね。でもそれは文字通りたまにであって今回じゃないのよ」 「そう言って、今までやってきたことないでしょう、貴女は……」 ……ただ、反省はするべきであるよな、うむ。