・登場人物
 
 「菊池 紅音(きくち くおん)& 紫音(きくち しおん)」
 14歳。女の子。召喚国は共にハルフェア。
 双子の姉妹で、紅音が姉、紫音が妹という関係。
 
 紅音……ショートの黒髪の活発な女の子。
     得意科目は運動全般。特に陸上が得意。
     反対に1箇所に留まっていられないのが短所。
     現世では陸上部のエース。
 
 紫音……ロングの黒髪の大人しい女の子。
     趣味は読書。
     運動は苦手で走ったら必ず転ぶほどの運動音痴。
     現世では聖歌隊のホープ。
 
 
 「マイカ・エレクトラ & ナノカ・エレクトラ」
 17歳。ハルフェア出身のシュピルドーゼ軍人。
 こちらも同じく双子だが2卵生で、あまり似ていない。
 姉がマイカ、妹がナノカ。
 
 マイカ……長い金髪をきっちりと結い上げ、軽甲冑を身にまとう騎士然とした女性。
      剣の腕を磨くために母国ハルフェアの剣術大会に出場中に宿縁の相手、紅音に出会う。
 
 ナノカ……長い銀髪をそのままたらしている。
      マイカが武を極めんとしているのに対して学問、特に歌術を極めようとしている。
      マイカのサポートのため同じくハルフェアを訪れていた所で宿縁の相手の紫音に出会う。
 
 
 
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       ケース4(番外編シリーズその@)「双子*双子」
 
 闘技場は熱い歓声に沸いていた。
 その闘技場の真ん中で2人の剣士が互いにその剣を撃ち合わせ、一進一退の攻防を展開していた。
 1人は大柄な体格で鎧の様な筋肉を身に纏った男だった。
 アーカイアにおいて男とは、即ち機奏英雄の事。
 女性ばかりのアーカイアにおいて腕力では圧倒的に有利な存在だった。
 対するもう1人は小柄とまでは行かないものの、相手の男に比べれば遥かに小さく華奢だ。
 紅を基調とした服装に白銀の軽甲冑を着けたそのアーカイア人は、見るものの目を奪う
 美しさを持っていた。白い肌にやや幼さの残った美しい顔立ち。
 髪は金色。動きの邪魔にならないように、長い髪は束ねられて結い上げられている。
 相手を見据える瞳の色は深い翠。
 その美しき少女はその手に剣を携え、自分よりも遥かに大きな相手に立ち向かっていた。
 
 「おやすみぃ」
 眠たげに目をこすりながら紅音は双子の妹、紫音に言った。
 「あ、紅音。歯磨いた?」
 「え〜みがいたみがいた〜」
 「もう。磨いてないんだね?」
 紫音は呆れたように腰に手を当てた。
 
 熱気を帯びたアリーナの一角に一陣の風が吹いた。
 その風は銀色の長い髪とアンバーの瞳を持っていた。
 「マイカ。余裕?」
 同じく風の調べのような美しい声で囁いた。
 “中々面白い相手だ”
 「そう。でもおいたはいけませんよ?機奏英雄さんがかわいそうだから」
 “分かってるけど。それはこいつが弱いのが悪い”
 「でも向こうの世界では剣術は既に衰退しているとお聞きしたことがあるから
 仕方が無いわよ」
 周りの人間の視線が集まり始めた事をその風は感じ始めた。
 「あの……どうかなさいましたか?」
 風は美しくそよいだ。
 反応は無い。
 周囲の人間はその美しい少女の虜となっていた。
 
 「んー、一日くらいいいじゃない」
 「ダメ。ちゃんと毎日磨かないと」
 歯ブラシを適当に口に突っ込んでかき回す紅音に紫音がタオルをわたす。
 「ふぃふぉんふぁ?」
 「もう磨いたよ。…ほらほらもっとちゃんと磨かなきゃ」
 「ふぉーうぃ」
 
 「オォォォォッ!」
 荒れ狂う猛牛の如く重量のある剣を振り下ろす男。
 その破壊的な衝撃を上手く利用する。
 自らの剣で相手の剣の刃を滑らせ衝撃のベクトルを受け流してやった。
 「うわっ!」
 男が驚きの声を上げた。
 男の剣は深々と地面に突き刺さり、当人もバランスを崩してつんのめる形となってしまう。
 「まだまだ甘いな」
 少女は剣の腹で男の背中を「トン」と押してやった。
 「うわわわわっ」
 背中を向けていたが後の事は予想できた。
 自分の剣で押してやった男はこのまま完全にバランスを失い無様に倒れて……。
 「わわわっ!?」「きゃっ!」
 ドドドシン!
 「グエッ!!」
 「……?」
 予想以上の大音響にマイカの頭には疑問符が4つほど浮かんだ。
 「なんだ、今のカエルのつぶれるような悲鳴は……?」
 振り向くマイカ。
 そこには一体いつ現れたのか少女が二人先ほどの男の上にのしかかっている。
 「いったたたた……」
 「……誰だ、貴方達は。…客席から投げられたにしてはよく飛んできたな……」
 「客席?投げられた?」
 少女達のうち髪の短い方が頭をさすりながら尋ねる。
 水を打ったように静かになる場内。
 「ふむ。この男のふがいなさに怒った客によって投げられたのではない……の…か…?」
 自分で言いながら最後の方は自信がなさそうに声が小さくなるマイカ。
 場内の静けさにたじろいだようだ。
 「えっと…。ここ何処ですか?」
 今度は髪の長い方が尋ねてきた。
 「まて、そのいでたちといいいきなり現れたことといい、もしかすると……」
 マイカは剣を地面に突き刺して顎に手をやる。
 そして何度か頷いて言った。
 「となると、貴方達が我が宿縁の英雄殿か」
 
 目をパチクりさせる紅音と紫音。
 「え、英雄?」
 「うむ。英雄とは即ち機奏英雄(コンダクター)の事。機奏英雄はその宿縁(フェイト)たる
 歌姫(メイデン)と共に………………」
 訳のわからない単語が次々と出てくる。
 あーかいあ?こんだくたー?ふぇいと?めいでん?
 目の前のお姉さんは何を言っているのだろうか?
 いや、そもそも先の質問の答えをもらっていない。
 「つまり英雄は絶対装甲で奇声蟲を……」
 「えっえっえっ?」
 とうとう限界を超えた理解力が悲鳴をあげ、2人の頭上に大量の『?』を浮かべ始めた。
 そしてそれが日光をも遮ろうかというほどに達したとき新たな声が聞こえた。
 「マイカ。いきなり多くのことをご説明してもお二人を混乱させてしまいますよ」
 その声に紅音は全ての疑問を忘れた。
 そしてその声の虜になった。
 すぐ横の紫音も同じようだった。
 「う…。そ、そうか」
 「はい。それにここではお客さんの目もありますし、それに…」
 声の主は微笑んだ。
 「それに、このままだとそのお方がかわいそうですから」
 全員の視線が紅音たちの下、つぶされたカエルのように倒れて泡を吹く男に集中した。
 
         ●
 
 状況を説明された紅音と紫音は最初は混乱していたが、少しずつ状況を理解していった。
 「そういえば、自己紹介がまだだったか。すまない、こういった事には不慣れでな」
 そう言って少し顔を赤らめる金髪の女性。
 ちなみに現在4人は闘技場から程近い酒場の1席に腰を下ろしていた。
 「私の名はマイカ。マイカ・エレクトラと申す。栄光あるシュピルドーゼ軍人だ」
 「同じく、ナノカ・エレクトラと申します」
 銀髪の女性は軽く頭を下げた。長い銀髪がさらっと揺れる。
 「私は菊池紫音です」
 「……」
 「…ちょっと、紅音」
 「…ふぇ!?」
 飛び跳ねるように驚く紅音。
 「どうした?」
 マイカが尋ねるが紅音は首を細かく横に振って「なんでもない」と答えた。
 本当はナノカの髪と声にいささか集中力を欠いていたようだ。
 「えっと、菊池紅音です」
 声が裏返る。
 顔を真っ赤にして紅音は沈黙した。
 「くすっ。かわいいですね」
 ナノカの言葉にさらに紅音の顔は紅潮する。
 「それより、貴方達は双子か?」
 「え?そうですけど。…やっぱりお二人もですか?」
 マイカに尋ねる紫音。
 「ああ。…よく分かったな。あまり似ていないのに」
 「?」
 紫音は首をかしげた。
 「そうですか?よく似ておられますけど。声も雰囲気も」
 マイカとナノカはお互いに顔を見合わせた。
 揃って驚いた表情だ。
 「あの…。何かお気に触る事でも言いましたか…」
 申し訳なさそうに尋ねる紫音に二人は笑って言った。
 「いや、そうじゃなくてな」
 「珍しい事を仰るものだから」
 「はい…?」
 再び首を傾げる紫音。
 「私達の声や雰囲気が似ているなど、今まで他人から言われた事など無かったからな」
 「いつも瞳の色や髪の色が正反対だと言われますから…」
 確かに二人の容姿は、まるで正反対のものだった。
 髪の色は金と銀、髪型もどちらもロングだがマイカは結い上げているから実際は短く見える。
 瞳の色もまたジェイド(翡翠)とアンバー(琥珀)と全く違う。
 唯一共通なのは、その白く透き通るような肌か。
 「紫音は聖歌隊に入っていたから歌声とか声には敏感なんだ」
 ようやく落ち着いた紅音が会話に入ってきた。
 ただ、まだ少し頬が紅いが……。
 「聖歌隊とは?歌姫で構成された特務隊か何かの事か?」
 がくっ、と傾く紅音。
 「ちがうちがう」
 聖歌隊とはどういったものかマイカに説明する。
 説明を聞いたマイカは「ああ」と納得した風である。
 「…で、紫音はそこのホープなの」
 胸を張って自分のことのように自慢する紅音を他所に、今度は紫音が頬を紅く染めて沈黙する
 番だった。
 「すると、紫音は歌が上手いのか?」
 マイカは好奇の視線で紫音に尋ねる。
 やや近寄りがたい雰囲気の彼女だが、こういった仕草は妙に子供っぽく、
 とても剣の達人とは思えない。
 「え、えっと…上手いというほどでも…」
 「またまたぁ、謙遜しちゃって!」
 控えめに言う紫音を肘でつついてそう言う紅音。
 そんな二人を見てナノカがまた上品に「くすっ」と笑った。
 「仲がよろしいのですね。少しうらやましい……」
 「え?でもナノカさんたちだって仲よさそうに見えるけど?」
 「でも…マイカはこんな感じだから…。姉妹でじゃれあった事なんてないの」
 心底うらやましいのだろう。ナノカはうっとりとした目で二人を見つめている。
 紅音たちも他の人なら「はぁ、そんなモンですかねぇ」なんて言えただろうが、
 ナノカの視線はあまりにも反則過ぎた。
 “や、ヤバい。ドキドキしてきた……”
 紅音は自分の頬が赤くなるのが分かった。
 
 
        ------つづく------
 
      
          ※お約束なキャラ設定に関して一切の苦情は受け付けません(笑)

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