しろつるぎの記憶 篇 》


           「 Interlude 2 」


アーサー・ディオールは、部下である奏甲乗りのロウより手紙を受けとった。
「……」
文面に目を通してから、ロウに告げた。
「オルトルートは?」
「既に」
「そうか……」
ここはいつも彼が生活しているオルトルートの屋敷ではなかった。
数日前からアーサーと歌姫のキサラは、ポザネオ海峡を越えてエタファに来ている。
ここに本来、特務隊『ドミニオンズ』の面々は駐留している。
指揮官はアーサーという事になっているが、最近の彼は体調がすぐれないのを理由に、第一線から退いていた。
現在の実質的な指揮権は最先任隊員のロウが有している。
「誰を派遣したか知っているか?」
「ロスロフ隊だと聞きましたが。……何か?」
「いや……」
アーサーは薄く笑った。
まぁ、ロスロフならばを任せても安心だ。
「あの……隊長?」
「何でもない。それより、イクスたちが飛び出していったそうじゃないか」
手紙をヒラヒラと振りながら、アーサー。
「そのようですね。まったく……ドクターは何を考えているのか」
「ドクターが教えたわけでは無い。彼らは自分たちで知ったんだ。仕方があるまい」
アーサーは体調がすぐれないという割にはしっかりとした足取りで大きな採光用の窓へ近づいた。
レース状のカーテンを僅かに持ち上げて外を窺う。
外はどんよりと曇っていた。
「嫌な空だ……一雨来るか」
ぽつりと呟く。
「隊長。我々はどうしますか」
「この手紙の命令どおり待機するさ。ロスロフ隊ならまぁ、問題は無いはずだ」
「もっとも」と彼は付け加えた。
「もしもの為に準備はしておくがな」
アーサーは壁に掛けてあった愛剣を手に取ると、ロウを従えて出口から廊下へと出た。
他に誰もいないのか、石造りの廊下はしんと静まり返っていた。
二人の硬質な足音が周囲に響く。
「その時は私も出る事になる。整備の者達に、私の奏甲も準備しておくように伝えておいてくれ」
「了解」
二人の姿は、やがて足音と共に暗がりへと消えた。



       ----------つづく----------