ーーー≪ある英雄の日常≫ーーー  前編  


 
いきなりでなんだが俺の名はゼフィール・グラード。一応イギリス人ではあるが、三歳のころから
日本に住んでいるため思考は完璧に日本人だ。どちらかと言えば英語が苦手である。
これといった特徴も無く何でも人並みにはこなす何処にでもいる高校生…のはずだった。
しかし、やりたいことも無く、成績だけで受験する大学を決め、なんとなく受験勉強をしていた俺に
突然、人に言ったら精神科へまっしぐらな事態が起こった。

                『異世界への召喚』  

確かによく聞く言葉ではある。しかし、それはあくまで漫画やアニメの話だ。現実に自分の身に
起こるなんて思ってるやつなんていないだろう。いたらそれこそ危ないやつだ。そんな事が現実に、
しかも俺の身に起きてしまった。


異世界アーカイア、そこに俺は召喚された。女しか存在しない世界で現在、奇声蟲と呼ばれる化け物の脅威に
晒されおり、それに対抗するために俺達の世界から大量の人間が召喚されたそうだ。
召喚された者は絶対奏甲と呼ばれるロボットを操り、奇声蟲を退治しアーカイアを守るのが役目だそうだ。
最初に聞いたときは流石に信じられなかったが、説明された直後に奇声蟲を見てしまった為、
信じざるをえなくなってしまった。
正直、絶対奏甲を初めて見たときは感動してしまった。
他の英雄と同じようにポザネオ島に向かい、集会場を防衛し、女王討伐に参加し、
地味に生き残ってきたのだが、白銀の歌姫の演説によりアーカイアを二分する戦争が始まってしまった。
俺には大層な思想や功名心も無く、もとより戦争などという面倒臭そうなものに参加する気は毛頭無かったので、
トラベラーとなり各地をブラブラすることにした。
絶対奏甲があればとりあえず仕事に困る事は無かったので今までなんとかやってこれた…

「ゼフィールさ〜ん、お茶はいかがですか〜?」

ああ、紹介しておかねばなるまい。こいつが俺の歌姫であるテール・フィルマートだ。
俺が言うのもなんだが顔立ちは整っている方だと思う。スタイルもいい。家事も人並み以上にこなせる。
…これだけ聞くと理想のお嫁さんみたいだが、あいつにはそれを補って余りあるほどのものがある。
……黒い…限りなく黒いのだ。いや、別に色がとかではない。
あいつは現代で言うマッドサイエンティストみたいなものなのだ。
俺の体を実験台にし、新しい薬を試すことをこの上ない喜びとしているようなやつなのだ。
今までどれだけの薬を試されたのか数えきれないほどだ。
そのおかげで薬物への耐性はかなり強くなった。
この前も、下手をすれば死に至るという毒蛇に噛まれたというのになんともなかった。
おそらく、今の俺には麻酔も効かないだろう。…それはそれで嫌だ…。
まぁそれは置いておいて、そんなやつと今まで旅をしてきて生きているのが奇跡だと思う。
しかし、これまでもそうだったように、これからもきっとどうにかして生きていけるのだろう…


テ「もぉ、なにをブツブツ言ってるんですか?」
ゼ「うるせぇぇぇ! 現実逃避ぐらいさせろぉぉぉ!」
テ「この程度のことで何言ってるんですか? お茶でも飲んで落ち着いたらどうです?」
ゼ「どうやったら『インゼクテンバルト』のど真ん中で優雅にお茶を飲めるって言うんだぁぁぁっ!」

そう、俺達は今、初めて奇声蟲が確認されたことで有名なインゼクテンバルトにいる。言うまでも無く危険な場所だ。
依頼ならともかく、好き好んで入るやつなんていないだろう。…いや、ここに一人いたか。
まぁとにかく、そんな場所で俺の歌姫は優雅に紅茶を飲んでたりする。

テ「紅茶がダメなら、コーヒーですか?」
ゼ「そういう問題じゃねぇ! そんな暇があったら帰り道を探せ! このままじゃ確実にここで野宿だぞ!」

そして、入ったはいいが帰り道が分からなくなってしまった。俗に言う遭難である。

テ「ここに来るのは二度目なのに、ゼフィールさんが道を覚えていないんですもの…」
ゼ「覚えてるかぁぁぁ! あのときは召喚直後で頭が混乱してたし、いきなり奇声蟲に襲われるし、
    
そんな余裕がある分けないだろ! 大体、あの人が案内してくれたから出られたんだろうが!」
テ「まあまあ、目的の物も手に入ったんですし、少し落ち着いてください」
ゼ「くっそ〜、まさか水のなかに『アレ』が入ってたとは…」

 何故俺達がこんなところに来たのかというと、すべては朝のテールの一言から始まる。

 
             …朝、フェアトラークの宿屋にて…

テ「ゼフィールさん、必要な薬草があるので取りに行きたいんですが…」
ゼ「また、新しい薬かよ…はぁ、もう何言っても無駄なのは分かってるからな…で、何処に行けばいいんだ?」
テ「インゼクテンバルトです♪」
ゼ「ああそう、インゼクテンバルトね……って、何ぃぃぃ!? またあそこに行けって言うのか!?」
テ「幸いここからは近いですし、今から行けば日が暮れるまでには帰ってこれますよ」
ゼ「お前、あそこは最近新種の奇声蟲が出るから危険だって言われてるんだぞ! そんな場所にわざわざ行けるか!」
テ「どうしてもですか?」
ゼ「どうしてもだ! 何処に自分の首を絞めにわざわざ危険な場所に行く馬鹿がいるんだ!」
テ「そうですか…では仕方ありませんね…」
ゼ「?(やけにあっさり引き下がったな…)はぁ、叫んだら喉が渇いたな…すいませ〜ん、水下さい」
従業員「は〜い……どうぞ」
ゼ「どうも…(ゴクゴク)…プハァ!………ひゃ〜っはっはっはぁ! テ〜〜〜ル! 蟲ケラどもを叩き潰しに行くぞ!」
テ「はいはい、お供しますよ」
 
ちなみに『アレ』とはテール特製栄養ドリンクの事で、飲むと
このようにハイになるなどの激しい副作用のある飲み物である。
そしてハイになった俺はインゼクテンバルトに突入。
散々暴れまわった挙句、正気に戻った時には現在位置が分からなくなっていた、ということである。

テ「無味無臭の薬を調合しましたから。効果が薄くて、有効な時間が短いのが難点なんですけどね」
ゼ「大体、どうやって入れたんだよ。水貰ってからすぐ飲んだんだぞ」
テ「ああ、それは宿の水瓶に入れておいたんですよ」
ゼ「………っつ〜ことは他の客も…(合掌)」


「ゼフィールさ〜ん、マスタ〜、辺りには人っ子一人いませんでしたよ〜」

そういえばこいつもいたか。こいつはテールの使い魔の白玉二号。
バレーボールに羽と手足が生えたような外見をしている。
俺は魔術には詳しくないが、こいつはアーカイアでも珍しい存在らしい。
基本的にテールにこき使われている。何故二号なのかは知らないが、おそらく何かあったのだろう。
…ゼフィール二号なんてならないといいが…。

テ「ご苦労でした。あなたもお茶にしなさい」
白「わ〜い♪ それじゃ〜砂糖たっぷりでお願いします〜」

こいつらは…人の気も知らんで…いや知っててやってるのか?

テ「ゼフィールさんも、ブツブツ言ってないでどうぞ〜」
ゼ「はぁ…まぁ気分転換にはなるか…」

これまでのあらすじと人物紹介をしちまうなんて相当参ってるからな…一休みすれば妙案でも浮かぶだろう…多分…
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と、言うわけでここから先はナレーターが。
そんなこんなで一休みしたあとゼフィール達は帰り道を探し始めたが、
もともと道らしい道も無いので二時間経っても同じような森の中にいた。

ゼ「はぁ…こりゃ本気で野宿する事になりそうだな…」

既に日はかなり傾いており、ただでさえ薄暗い森がよりいっそう暗くなっている。

テ「そうですねぇ、今日中に薬の調合をしておきたかったんですが…」
ゼ「そっちの心配かよ! もうちょっとこう…危機感みたいなものは無いのか?」
白「人間、いざとなったら何でもできるもんですよ〜」
ゼ「お前は人間じゃねぇだろうが!」


そんな事を話していると、一行は開けた場所に辿り着いた。
その一帯だけは木が無く久々に空を見ることができた。
その中央付近には池があり、周りはすべて丈の低い草が生えていた。

テ「あら、ちょうどいいところじゃないですか。今日はここに泊まりましょう」
ゼ「そうだな、水もあるみたいだし、食料は持ってきた分で足りるだろう」
白「明日中に脱出できればの話ですけどね〜」
ゼ「………」

ゼフィールは顔を引きつらせつつ、奏甲を池のほとりに向かわせた。ちなみに乗っている奏甲はグラオグランツである。
特に目立つ改造はされておらず、装備もロングソードにシールド、サブマシンガンといたって普通である。
池の脇に奏甲を座らせ、手に乗せていたテールを下ろす。白玉は飛べるため奏甲の上を飛んでいた。

テ「池の水も十分きれいです。これならそのまま飲めますね」
ゼ「そうか…じゃ、帰り道が分かるまでここを拠点にするか…」
テ「そうですね。…それにしても汚れてしまいましたねぇ。ご飯の前に水浴びでもしましょうか」
ゼ「…はい?」

そう言うとテールはいきなり服を脱ぎだした。

ゼ「!! ちょっと待てい!今入る気か!?」
テ「そうですけど…ゼフィールさんも一緒にどうです?」
ゼ「お、俺は、た、薪でも拾ってくる!」
テ「???」

その場をダッシュで逃げ出すゼフィール。
悲しいかな、彼女いない歴=年齢であるゼフィールはこんな状況には全く免疫が無い。
対するテールはゼフィールが男であると言う事を全く気にしていない。そのためこのように無防備なのだが、
ゼフィールにとっては心底心臓に悪い話である。

ゼ「はぁ、はぁ…あいつワザとやってるんじゃねぇだろうな?」

テールの性格を考えると十分あり得る話ではあるが、
そんな事を考えていても仕方が無いのでゼフィールは薪を拾い始めた。
10分もすると十分な量の薪が拾えた。しかし、まだテールが水浴びをしているだろうと予想し
食料になりそうなものを探し始めた。

ゼ「…食えるかどうか分からん木の実とかキノコばっかりだな…」

ゼフィールの持っていた袋の中には、色とりどりの、言い換えれば毒々しい色の木の実やキノコが詰まっていた。

ゼ「…まぁ、あいつなら分かるんだろうけど…分かってて食わせる可能性が…」

一抹の不安を抱えつつ、ゼフィールは池のほとりに戻ってきた。

テ「あら、お帰りなさい」
白「お帰りなさ〜い」
ゼ「…!!」

別にテールが裸だったとか、そういうことではない。
池の縁に座って、濡れた髪を拭いていただけなのだが、腰ほどまである長く青みがかった髪を拭いている姿は
妙に色っぽく、ゼフィールは思わず赤面してしまった。

テ「? どうかなさいましたか?」
ゼ「…何でもねぇよ。これ、適当に木の実とか拾ってきたから…」
白「わ〜い♪ いっぱいです〜♪」
テ「あらあら、ありがとうございます。それじゃあ、すぐご飯の支度をしますね」
ゼ「じゃ、俺は奏甲に積んである分を取ってくる…」

照れを隠すようにぶっきらぼうに言い、奏甲に向かう。さっきから調子が狂いっぱなしなので少し落ち着こうと
思いつつ奏甲に上り、腰の辺りにある食料を入れてあるコンテナを開けようとした…が、

ゼ「! コンテナがねえぇぇぇぇぇ!」

そこには何かに引っ掻かれたような痕があるだけで何も無かった。
ゼフィールは知る由も無いが、暴走している最中に奇声蟲と交戦したときにちょうどその部分を攻撃されてしまったのだ。
もちろん、奏甲の装甲板よりも遥かに脆いコンテナは粉々になってしまった。
未練がましく辺りを見回すが、当然の如く何も無い。
ゼフィールはがっくりと肩を落としテール達の下へもどった。

ゼ「…食料入れておいたコンテナが無くなってた…辺りにも何にも無かったよ」
テ「あらまあ、こちらも食べられるものは殆どありませんでしたよ、困りましたねぇ」
白「大変です〜どうしましょう〜」

全然大変そうに聞こえないが、それが今のゼフィールにはありがたかった。
いつもと同じ調子のテールと白玉を見ているとなんとかなるんじゃないか、という気がしてくる。

テ「仕方ありませんね…『コレ』を使いますか」
ゼ「ん? 何だそれは!?」
テ「まあまあ、見ていてください。白玉、コレを飲みなさい」
白「え゛っ! うぅ〜分かりました〜」

ちなみに白玉も数々の実験の被害者である。

白「(ゴクゴク)…プハ〜………えっ!? 痒い〜背中が痒いです〜!」
ゼ「な、何だ!?」
テ「うふふふふ…」

ぽんっ!

ゼ「…へ?」

突然、白玉の背中からキノコが生えた。

ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽんっ!

続々と生えるキノコ

ゼ「うわぁ…」

最終的には白玉の背中にびっしりとキノコが

テ「これなら食べられますし、栄養もありますよ」
ゼ「…正直、食欲は沸かないが…背に腹はかえられないか…って、白玉どうした!」
白「………(ピクピク)」
テ「白玉の養分を吸ってキノコができましたから」
ゼ「…白玉、お前の死は無駄にはせんぞ…」
白「…まだ死んでません〜」

げっそりとした白玉をよそにゼフィールとテールは夕食の支度を始めた。
白玉の背中に生えたキノコは予想以上に旨かったようだ。
白玉は放っておけば回復するとのことで当面の問題が解決され、ようやくゼフィールは一息つくことができた。

ゼ「ふう…とりあえず腹も膨れたし、あとは帰り道だけか…」

そう、それが最大の問題である。
太陽の位置から方角を特定してひたすら真っすぐ進めば森から抜けられるはずなのだが、
いかんせん森に入ってしまうと太陽の位置が分からなくなってしまう。
白玉に木の上までいって見てきてもらうというのも試したのだが、木の上に行って戻ってくる間に
方角が分からなくなるというボケぶりを発揮されてしまい、失敗に終わった。
さらに奇声蟲の問題もある。
ゼフィールの操縦の腕は中の下程度のため、一匹、二匹ならまだしも集団で襲い掛かられたらひとたまりも無い。
最近確認された新種にも歯が立たないだろう。
幸い、奇声蟲の出現はテールが感知できるのでうまく避けつつ進めばなんとかなるだろう。
「う〜ん…」と唸って考えているゼフィールに

テ「今日はもうお休みになったらいかがです?」

と、テールが進める。

テ「何かあったら起こしますから」

今日は精神的な疲労もさることながら、『アレ』を飲んだ副作用で肉体的にもかなりの疲労が溜まっている
ゼフィールにとって、この申し出は非常にありがたかった。
女の子に見張りをさせる事に引け目を感じつつも迫り来る眠気には勝てず、ゼフィールは
先に休む事にした。

テ「おやすみなさい」

「おやすみ」と返事をし目蓋を閉じると、あっという間にゼフィールの意識は暗闇のなかに沈んでいった…



あとがき
 とりあえず、ここまで自分の稚拙な文章を読んでくださって誠にありがとうございます。
 このたび、初めてSSというものを書かせていただきました。思いつくままに書いていたら無駄に
 長くなってしまい、前編、後編の二本立てになってしまいました。ここまで読んだ方は是非後編も
 読んでください。それでは、続きは後編で…

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