〜強奪!ズィーベント・ギガンティア〜(前編)

気が付くとそこは見知らぬ町だった。
ガルフ「何だ、一体何が起こった」
見知らぬ町のど真ん中、ガルフはあたりを見回す。
町人A「空間からいきなり男の人が・・・英雄さまだわ!」
町人B「英雄様!?どんな人なの!?」
突然の英雄召還にざわめきたつ町人達。ガルフを中心に野次馬根性全開で包囲網を形成していく。
ガルフ「無礼者どもめ!近寄るな!」
ガルフ、腰の剣を抜き威嚇する。
町人A「まぁ!なんて乱暴な人!自警団を呼んで!現世騎士団の人かもしれないわ!」
自警団「何事だぁ!そこの英雄!おとなしくしろ!」
ガルフ「くっ、銃を持ってるのか。しかたない」
ガルフ、分が悪いと判断しその場から逃げる。
自警団「逃げたぞ!追え!追えー!」

気が付けばそこは見知らぬ路地裏だった
どうにか自警団の追撃を逃げ切ったガルフ。息を整えながら
ガルフ「わけがわからん。一体どうなっている?ここはどこだ?」
???「サンプル発見。確保しろ」
どこからか声。気付くと自警団とはまた違ったアヤシイ集団に囲まれている。
ガルフ「ここでは人を囲むのが流行っているのか?」誰に言うでもなく呟くガルフ
??達「イィィィヤァァァァァァァ!」ナイフ片手に飛び掛ってくるアヤシイ集団
ガルフ「我に刃を向けるか・・・よかろう!相手になってやる!」
腰の剣を抜き集団に突っ込む
??A「ほぁぁぁぁぁ!」ジャンプして上からの強襲
ガルフ「甘い!」自らもジャンプして打ち上げるように剣を振る
??A「あがぁぁぁぁ!」腕に深い傷を負い墜落する
??達「ィィィハァアアァ!」ガルフの着地を狙って集まるアヤシイ集団
ガルフ「阿呆共が!」剣を集団の中心、自らの着地点に向かって投げる
??達「!!」投げられた剣を避けるアヤシイ集団
着地点に包囲の穴ができる。地面に突き刺さる剣
ガルフ「その程度か!」着地と同時に剣を引き抜くと回転しながら横凪ぎ
??達「ぎぃぅぁぁああ!」それぞれに深い傷を負いうずくまる集団
ガルフ「くそ共が!我に逆らうからこうなる!」
???「威勢がいいな。合格だ・・・」
音もなくガルフの背後に現れる影。抵抗する間もなくガルフの首筋に注射器を突き立てる。
ガルフ「なっ!?・・・かはっ・・・」
倒れこむガルフ。アヤシイ集団によって馬車に乗せられ連れ去られる。

気が付くと見知らぬ操縦席らしきもの中にいた
ガルフ「やってられん・・・もうわけがわからん」
目の前のモニターには全周を壁に囲まれた広大な空間が広がっている。巨大な体育館のようだ。
???「おはよう」どこからか響く声。外部からの通信の類のようだ。
ガルフ「貴様は誰だ!ここはどこだ!答えろ!」
???「そんなことはどうでもいいのだよ。ではテストを開始する。M−3、歌え」
ガルフ「我の言葉をどうでもいいだと!貴様死にたいのか!」
???「うるさい、サンプルが口を開く必要などないのだ。M−3!早く歌わないか!」
ボグゥッ!
何か柔らかいもの、人間を殴った音がする。
僅かなうめきの後、聞いたこともないような歌が聞いたこともない美声で歌われた。
ガルフは直後、全身の感覚が広がっていく錯覚を覚える。
ガルフ「これは・・・なんだ・・・力・・・途方もない力・・・」
???「ほう、この数値は宿縁者か・・・これは思わぬ拾いものだったようだな」
???「テスト機を出せ。戦闘時のデータも取りたい」
ガルフ「何が起こってる・・・くそ!誰か答えろーーー!」
女の声「・・・逃げて・・・早く・・・」
声が直接脳に入ってくる感覚。ガルフはなれない感覚にとまどいながらもその声に向かって言う
ガルフ「逃げろだと!我に逃げることなど許されぬ!我は王ぞ!」
女の声「・・・なら・・・戦って・・・来るわ・・・」
ゴガンッ!
声が終わると同時に衝撃。目の前のモニターみたいなものには人型をした巨大な兵器群が写る。
ガルフ「なんだコイツらは!人型兵器など空想上のものだろう!」
女の声「ここはアーカイア・・・あなたのいた世界とは違う・・・」
ガルフ「異世界だと!信じられるか!」
女の声「信じなくともこれは現実・・・逃げるの・・・戦うの・・・どちらにせよ早くして・・・」
ガルフ「早くしろだと!我に命令などできると思ってるのか!」
女の声「・・・うるさい・・・早く決めて・・・」
ガルフ「どこまで我に刃向えば気が済むのだこの世界は!戦ってやるよ!こんな世界など滅ぼしてくれる!」
女の声「・・・そう・・・ありがとう・・・」
ガルフ「礼などいらん!」
ガルフ、拡大した意識に逆らわず自分の手足を動かすように奏甲を走らせる。
ガルフ「滅べ!」
ガルフ機、加速の勢いにまかせて迫ってくる奏甲群の先頭の一機にパンチ。
ゴシャア!
ガルフ機のパンチをくらっていとも簡単に砕ける先頭の奏甲。
ガルフ「弱い!滅べ!滅べ!滅べ!」
ガルフ機、勢いを殺さず片っ端からパンチで沈めていく。
???「はっはっはっ!凄い!なんという力だ!こんないいデータは初めてだ!」
狂気に笑うアヤシイ集団のボスと思しき人物
ガルフ「貴様も滅べぇぇえ!」
ガルフ、視界に???のいるガラス窓の付いた部屋を入れるとそこへ向けて突っ込む
???「おっと、調子に乗るな。そうだな・・・クロイツフィールドのテスト用意」
???が命令すると銃器を携えた奏甲がガルフ機の目の前に立ちふさがる
???「全機、発砲せよ」
ガルフ「くっ」
腕を前にまわしガードの体勢を取るガルフ機。
女の声「・・・大丈夫・・・そのまま進んで・・・」
ガルフ「なにを言っている。コイツがどれだけ頑丈にできているか知らんがあれだけの銃の弾丸をくらったらただではすまんだろうが!」
女の声「・・・大丈夫・・・進んで・・・」
銃弾の嵐がガルフ機に襲い掛かる
ガルフ「俺に!命令するなぁぁぁぁあ!」
ガルフ機、ガード体勢を解くと無防備に突っ込む
ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン!
ガルフ機の前方でことごとく跳ね返される弾丸。不可視のフィールドが弾丸を通さない。
女の声「・・・大丈夫だった・・・」
ガルフ「知るか!」
???「クロイツフィールドも安定している。よし、今日の実験はこれにて中断だ」
ガルフ「何を好き勝手言っている」
???のいる部屋に向かって拳を叩き込もうとするガルフ機
ガルフ「!!」
???と同じ部屋の中にいる女と視線が合うガルフ。攻撃のモーションが一瞬遅れる
???「ご苦労さま」
???が何かのスイッチを押すのが見える。
スイッチが押された瞬間、ガルフとガルフと視線を合わせていた女は電流を体に流されるような感覚に悶絶し気絶した。

気が付くと見知らぬベッドに寝かされていた
ガルフ「もう考えるのも面倒だ・・・」
全身を侵す極度の疲労。体を起こすのも大変な状態だ。
女の声「・・・おはよう・・・」またも脳に直接聞こえる声
ガルフ「あの時目を合わせて来た女か」
女の声「・・・正解・・・」
ガルフ「説明しろ。ここはどこで、俺はこれからどうなる」
女の声「ここはアーカイア。あなたのいた世界とは違う世界。あなたは機奏英雄で、私の宿縁者」
ガルフ「異世界か・・・ここまでくると信じざるを得んな・・・。で、その英雄だの宿縁だのとはどういう意味だ」
女の声「英雄とはこの世界を救うために異世界から召還された者。宿縁とは英雄と私達歌姫を繋ぐ特別な絆」
ガルフ「絆だと・・・馬鹿らしい」
女の声「そう・・・。で、あなたの未来だけどそれはあなた次第・・・このままではあいつらに利用されて廃人・・・」
ガルフ「利用などされてたまるか。そもそも我を利用しようなど考える事自体間違っている」
女の声「・・・なら・・・私の所へ来て・・・」
ガルフ「どうやって行けというのだ。見張りだっているだろう」
女の声「大丈夫・・・案内する・・・」
ガルフ「自信だけはあるようだな・・・まぁいい。案内しろ」
ガルフ、ベッドから起き上がると監禁部屋の取っ手に手をかける
ガルフ「鍵がかかっていない?どういうことだ?」
女の声「あいつらはあなたがそもそも動けると思っていないのよ。前まではみんなそうだったから」
ガルフ「前まで?」
女の声「話は後・・・こっち・・・」

声に導かれるままに通路を進んでいくと驚くほどスムースにそこへたどり着いた。
部屋中ケーブルだらけ、その中央のカプセルのようなものの中に声の主である女はいた。
ガルフ「貴様か・・・声の主は」
女は現世時代に極東地域の客人が着ていたような和服をまとい寝かされていた。
女の声「・・・そこのスイッチを押して・・・」
ガルフ「コレか」
言われた通りスイッチを押すガルフ。自分への命令に対しいちいち反抗する気は何故か起きなかった。
女の姿をカプセル越しなどではなく生でみたかったのかもしれない。
女「・・・ありがとう・・・」
カプセルから出てきてガルフの正面に来る女
ガルフ「礼などいらん。それより来てやったぞ。何の用だ」
女「ここを出ましょう」
ガルフ「脱走するということか、賛成したいところだがどうやって出るつもりだ」
女「私一人でも・・・あなた一人でも無理・・・でも二人なら・・・」
ガルフ「協力しろということか、とりあえず話しを聞こう。そもそもここはなんだ」
女「クロイツシリーズ7番機の量産型であるズィーベント・ギガンティア。ここはそれの研究開発施設」
ガルフ「クロイツシリーズ?」
女「1機で100機と渡り合えると言われた伝説の装甲」
ガルフ「なるほどな、量産型とはいえあのパワーは他の比ではなかった」
女「こんなものが本当に量産されたら世界は混沌と化すわ・・・」
ガルフ「だろうな」
女「だから、そうなる前に試作型であるアレを奪って逃げましょう。もう実験はたくさん」
ガルフ「どれくらいこの実験は続いているんだ」
女「そんなに長い期間ではないわ・・・でもその短い期間にもう歌姫2人に英雄5人が廃人となってしまった・・・」
悲しい過去を思い出し俯く女
ガルフ「研究に犠牲はつきものだろう。あれほどの力ならそれくらいの犠牲安いものだ」
女「・・・悲しい人・・・」
ガルフ「どうとでも言え。我は一国の王として考えなければならん事が常人とは根本的に違う」
女「・・・そう・・・」
ガルフ「しかし貴様の脱走に強力はしてやろう」
女「・・・えっ・・・」
ガルフ「あの力、他人にくれてやるには惜しい。我だけのものとしこちらの世界でも王となる」
女「・・・そう・・・ありがとう・・・」
ガルフ「して、具体的に策はあるのか?」
女「・・・あるわ・・・」

真夜中の作戦会議を終えた後。明日作戦決行という事を決めてガルフは監禁部屋に戻ろうとした。
しかし女の名前を聞いていないことを思い出し
ガルフ「女、名前はなんという?」
女「名前・・・M−3と呼ばれてるわ・・・」
ガルフ「そんな呼び難い名前などどうでもいい。本当の名はなんというのだと聞いている」
女「・・・・・・」
実験体M−3として過ごした日々。
本当の名前などとうの昔に捨てた。それを目の前の男は聞いてくれた。俯き、肩を震わす女。
ガルフ「どうした?泣いているのか?」
女「・・・いいえ・・・」
どうにか声を震わせずに言う事に成功する
ガルフ「あまり長居するのもまずい。早く言え」
女「百合菜・・・蒼月百合菜・・・」
ガルフに名前を伝えるべく上げた顔は涙に濡れていた
ガルフ「なっ!?何故泣く!?ええい名前など知らん!貴様など「歌姫」で十分だ!」
百合菜「・・・はい・・・どう呼ばれてもかまいません・・・」
ガルフ「ふんっ、明日は失敗するなよ歌姫。今宵はさらばだ」
百合菜「・・・おやすみなさい・・・」

百合菜「結局・・・本当の名前は言なかった・・・」
ガルフが去った後、自己嫌悪に陥る百合菜。その手には実験体リストの写真。
そこにはどことなく雰囲気の似た二人の少女の写真
一人は和服が似合いそうな燐とした美人
「アルメリア=ブルームーン」
もう一人は少し幼い感じで暗いが美人には変わりない
「サレナ=ブルームーン」
百合菜「どこかで生きているわよね・・・サレナ・・・」
百合菜「寝ましょう・・・明日は大事な日なんだから・・・」
百合菜は一人呟くとカプセルに戻っていった。

カプセルの表面にはM−3の文字そしてその下に小さく表記された名前は
「サレナ=ブルームーン」

つづく

はい、ということで過去話です。
いやぁ伏線作り過ぎですねぇ・・・まとめるの大変そうです。
それが楽しかったりするのですが。
センスよりやる気!自分ふぁいと〜。


次回予告
ガルフ「次回予告をしろだと!我に命令するな!」
百合菜「・・・私の愛馬は凶暴だわ・・・」
ガルフ「何が言いたいんだおまえは・・・」
百合菜「・・・知りません・・・なんちゃって・・・」
ガルフ「あー、とにかくだ。次回「強奪!ズィーベント・ギガンティア(後編)」」
百合菜「・・・おさらばでございます・・・」
ガルフ「・・・・・・」

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