〜強奪!ズィーベント・ギガンティア〜(後編)

研究所のはずれにある馬小屋
百合菜「調子はどうルピナス。今日は活躍してもらうわよ」
灰色の毛並みを整えながら愛馬に話し掛ける百合菜
ルピナス「ブルッ、ヒヒン」
百合菜「そう、やる気充分ってわけね。頼むわよ」
百合菜はサレナのように動物や奏甲と話せるような能力はない。
しかし、研究所に連れ去られてからずっと世話をしているので言いたい事はなんとなくわかるのだ。
研究員A「おい、時間だぞ。何をしてる、早く来い!」
小屋の外から怒鳴り声がする。百合菜は適当に答えると最後にまた愛馬に話し掛けた。
百合菜「無事に逃げられたらご褒美をあげるわ。頑張って」
言いながらルピナスを拘束している綱を緩めると、百合菜は小屋を出て行った。

研究所。奏甲格納庫
???「今日は本格的な模擬戦をしてみようか」
研究員B「そうですね。昨日の数値を見る限りでは大丈夫かと」
???「よし決定。準備はいいかなC−4」
ズィーベント・ギガンティアのコクピット内にいるガルフに向かって確認する。
ガルフは通信されてくるその言葉を聞いて露骨に顔をしかめ
ガルフ「そのような粗末な名で我を呼ぶな」
???「名前などどうでもいいのだよ。準備はいいかと聞いているのだ」
ガルフ「知ったことか。そもそも準備など貴様らがする事であって我がすることなどないだろう」
???「ほう、わかってるね。まぁ心の準備はどうかというせめてもの情けのつもりだったのだがね」
ガルフ「情けだと。笑わせるな。そんなものいらん」
???「そう、じゃ模擬戦開始。あ、実弾だから手を抜くなよ」
ガルフ「腐れが」
???「M−3、起動だ。歌え」
百合菜「・・・・・・」
???「M−3!」拳を振り上げる
ガルフ「歌え、歌姫」
百合菜「・・・はい・・・」
???「・・・ふんっ!」拳を下ろしおもしろくない顔。
起動のための歌術が歌われる。ガルフは不敵に笑い。皮肉に満ちた眼差しを送った。
ガルフ「いつまでも思い通りになると思うな」
呟くと同時。起動したズィーベント・ギガンティアの周囲をクロイツフィールドが覆う。
???「パターンE。実戦試験スタート」
研究員B「了解。各奏甲は持ち場につけ。戦闘開始」
奏甲兵A「模擬戦といっても実戦に限りなく近くしろとの要請だ。死んでも恨むなよ」
ガルフ「雑魚が。調子に乗るなよ」
模擬戦が開始される。ガルフはいとも簡単に相手の奏甲を破壊していった。

???「素晴らしい。よし、ドームの扉をを開けろ。外での武装テストに入る」
研究員B「了解。C−4、外へ出ろ。」
ガルフ「下っ端が我に命令するな!」
研究員B「口答えするなぁ!」怒声を発しながら手元のスイッチを押す
ガルフ機のコクピットに内蔵された電気ショックが起動
ガルフ「ぐっ、がぁ!」
研究員B「死にたくなかったら早く外へ出ろ!」
ガルフ「っく、くそが・・・」
渋々巨大な体育館のような施設から出るガルフ機。

研究所の外は見渡す限りの荒野であった。
???「武装の安全装置を解除する。だからといって妙な考えは起こすなよ」
ガルフ「約束はできんな」
研究員B「まだ言うか!」またも手元のスイッチを押す
ガルフ「ぐっ、ぬぅぁあ!」
???「やめろ、そんなことより早くターゲットを出せ」
研究員B「はっ。了解しました」
皿が浮いているようなものがガルフ機の周囲を取り囲む。ターゲットといわれたものだ。
???「C−4、その機体には小型ミサイルが多数装備されている。それでターゲットを打ち落とせ」
ガルフ「ふんっ」
ガルフ機の全身のハッチが展開する。小型ミサイルの発射体勢が整った。
???「素直になったな、利口な判断だ」
しかし、???の解釈は間違っていた
百合菜(・・・作戦開始です・・・わかっていますね・・・)
ガルフ(わかっている。貴様こそしくじるなよ)
昨夜の会議、互いに意見を交わし決定された作戦を行動に移すときが来たのだ。
念話で確認を取り合うところまでは順調だ。
あとはガルフが操作ミスを偽り暴走すれば強奪作戦開始だ。
???「小型ミサイル。発射しろ」
ガルフ(いくぞ!)
百合菜(どうぞ・・・)
ガルフ「全弾発射!」
バシュバシュバシュバシュバシュ!
次々と発射される小型ミサイル
ターゲットを貫くもの、馬小屋の方へ飛んで行くもの、研究所施設の方へ飛んでいくものと軌跡は様々だ
ゴガァァァン!
研究施設に当たった小型ミサイルが施設全体を揺らす
???「何をしている!妙な考えはやめろと言ったはずだ!」
ガルフ「我に命令するなと言ったはすだ!」
バシュバシュバシュバシュバシュ!
なおも発射され続ける小型ミサイル。研究施設を次々と爆煙が包む。
???「調子に乗るなぁ!」手元の電気ショックスイッチを叩き押す
ガルフ「がぁぁぁぁぁぁ!」電気ショック装置が発動し苦しむガルフ
ガルフ(早くしろ・・・流石にキツイぞ・・・)苦しみながらも百合菜に念を飛ばす
百合菜(はい・・・こちらも動きます)

???の後ろ、専用の座席に両手両足を拘束されていた百合菜は低出力の攻撃歌術でそれを壊す。
自由の身となった百合菜は???に向かって突進した。
百合菜「はぁっ!!」
突進の勢いを乗せての鉄山靠。衝撃に飛ばされる???。
研究員B「貴様ぁ!なにをしている!」
突然の反乱に銃を構える
百合菜「ちぇいやぁ!」
身を限界まで低くしての高速踏み込み。そこから一気にサマーソルトキック。
翻る和服の裾。
研究員B「ごはぁ!・・・桃色だぁ・・・意外とかわいい系・・・がくっ」
百合菜「くッ・・・」下着を見られた事に気付き少し赤らむ
百合菜「せいッ!」怒りの踏みつけ攻撃
研究員B「げきゃッ!!」かなりの衝撃に肺から空気が全部出た音。
???「ごふっ・・・よくも・・・げほっ・・・やってくれたな・・・」
百合菜「・・・それはこっちの台詞」
???「ふん、実験体風情が何を言う」ガルフの電気ショックの横のボタンを押す
百合菜「くぅぅぅぅぅう!ああああ!」
百合菜の首についている首輪のような装置から電気ショック。苦しむ百合菜。
???「おとなしくしてればいいものを。馬鹿なやつだ」
ガルフ(くそっ・・・遅いぞ歌姫・・・何をしている・・・)
ガルフの電気ショックボタンも押されたままになっていた。そのため限界が近い。
百合菜(もう少し・・・もう少しです・・・)
???「馬鹿共が。余計な事は考えられんよう明日からは洗脳メニューに変更する必要があるようだな」
百合菜「くぅ・・・もう少し・・・」座り込み苦しみ続ける百合菜
???「何がもう少しだ!貴様らに助けなどこない!」
バゴォォーーーーン!
百合菜や???のいる観測室のドアが蹴破られる。
ヒヒーーーーーン!
???「馬ぁ!?」
突然の襲撃者。それは百合菜の愛馬ルピナスだった。
ルピナス「ヒヒィィイイイン!」ドアから???まで飛ぶとバックキック。
???「ごげはぁ!」馬のバックキックをくらったとてつもない衝撃で反対側の壁まで吹っ飛ぶ
ルピナス「ブルルッ!」百合菜とガルフの電気ショックのスイッチにもバックキック。砕け散る端末。
百合菜「ありがとう!よくやったわ!」
電気ショックから解放されルピナスのもとへ走り寄る百合菜。頭をなでてやるとルピナスは嬉しそうに鳴いた。
ガルフ(なんとかなったみたいだな・・・遅すぎるぞ・・・)不満に満ちた声だ
百合菜(・・・でも成功です。脱出しましょう・・・)
ガルフ(ふん・・・とにかく合流するぞ早く来い)
百合菜(はい)
ルピナスが蹴破ったドアを抜け走り去る百合菜
???「脱走だぁ!つかまえろー!」研究所の各所に備え付けられたスピーカーから怒声が響く
百合菜「そう簡単にはいきそうにもないわね」
研究所の通路は天井が低くルピナスに乗っての移動はできない。一人と一頭は横に並んで走る。
警備兵達「いたぞぉ!逃がすなぁ!」
百合菜「みつかった!?仕方ない、ルピナスッ!」
ルピナス「ヒヒン」鞍に付けられた鉄扇を口にくわえると百合菜に渡す
百合菜、鉄扇を受け取りバッと広げると
百合菜「強行突破!」
ルピナス「ヒヒーン!!」
警備兵C「馬と女が突っ込んでくるーー!?」
警備兵D「ひるむな!構えろ!」
剣を構える総勢5名の警備兵。
百合菜「せぃやぁ!」かなり遠い間合いから跳躍。着地際に鉄扇一閃。2人撃破。
ルピナス「ヒヒヒーーーン!」
百合菜の突撃により乱れた陣形に向かって突進。体を起こし、前足で踏みつける。
百合菜「残り2人!担当は一人づつ!いくわよルピナス!」
警備兵E「うわぁあぁ!」百合菜に向かって切りつけてくる。
警備兵F「ぜぃやぁあぁ!」ルピナスに向かって突きをくりだす。
百合菜「遅い!甘い!」鉄扇を広げ剣を受け流し弾きとばす。すぐさま鉄扇をたたみ相手の腹に鋭い突き。
ルピナス「ブルルッ!」突きを鞍でガード。驚いている相手にバックキック。
警備兵達「ぐほぉ!」昏倒
百合菜「さぁ!急ぐわよ!」
ルピナス「ヒヒン!」
施設の出口に向けて走り出す一人と一頭。

施設の外。荒野にたたずむ一機の奏甲とそれを囲む12機の奏甲
ガルフ「まぁこれくらいなければ楽しくないというものだ」
奏甲兵B「逃げ出そうなんて馬鹿な事考えやがって」
奏甲兵C「いらん仕事を増やすなよ」
ガルフ「うるさい奴等だ。まとめて滅べ!」
全身の各部ハッチ展開。残弾が残り少ない小型ミサイルを全弾打ち切る。
奏効兵達「がぁぁ!」半分程行動不能におちいる研究施設側の奏甲
ガルフ「骨がない奴等だ・・・つまらん」
奏甲兵D・E「偉そうにぃぃ!」2機で一列になって突っ込んでくる
ガルフ「偉そうではない。我は王だ!」負けじと突進。パンチを放つ
奏甲兵D「ぐおおおお!」カウンターをくらいひしゃげる相手の奏甲
奏効兵E「甘いなぁ!そいつを倒してもスグに俺がいるんだぜぇ!」
前の同僚の奏甲を飛び越え空中から襲撃しようとする。
ガルフ「王に刃向うな愚か者めぇ!」一体目を破壊したパンチの勢いを殺さずそのまま貫く
奏効兵E「なにぃ!?」仲間の奏甲を貫き拳が迫ってくる
ガルフ「滅べ!」2体を貫くガルフ機の拳
奏効兵達「化け物めぇええええ!」
前衛は全て倒した。後衛をしていた射撃戦部隊達が一斉砲火をガルフ機に浴びせる。
ガルフ「効かん」
ガインガインガインガインガインガインガインガイン!
クロイツフィールドによってことごとく弾かれる弾丸。
百合菜(ガルフ様!)ルピナスにまたがり駆けてくる百合菜
ガルフ(ようやく来たか。早くフィールド内に入れ)
百合菜(入りました。早く脱出しましょう)ガルフ機の足元から念を飛ばす
ガルフ(ただ逃げるというのはおもしろくない)
百合菜(ガルフ様?)
ガルフ「まとめて消え去れ」
百合菜「!?」
バクン!
ガルフ機、ズィーベント・ギガンティアの肩が上方に展開し真っ赤な宝玉が現れる
ガルフ「さよならだ」
バシュゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!
ガルフ機の両肩から幻糸の奔流がほとばしる。
それは残っていた奏甲をまとめて貫き後ろの研究施設をも吹き飛ばした。
ガルフ「はっはっはっはっ!我に命令などするからこうなる!」
百合菜「・・・・・・」廃墟と化した施設を見つめる百合菜
ガルフ「どうした?」
辛く悲しい思い出しかなかった場所。でも自分が確かに過ごした場所。百合菜の心境は複雑だった。
百合菜「いえ、なんでも」

ガルフ、コクピットから出て百合菜の前へ
ガルフ「さて、これからどうするか」
百合菜「この世界でも王になるのではないのですか」
ガルフ「ああ、しかしどう手をつけていけばいいやら。そこがはっきりしないのでな」
百合菜「町へ行ってみませんか?」
ガルフ「町?」
百合菜「まずはこの世界を知ったほうがいいと思いますわ」
ガルフ「そうだな。よし、案内しろ」
百合菜「・・・はい、お供します・・・」
百合菜(家と呼べるものではなかったけど私の居場所、束縛はなくなった。ならあの子を探す)
考え事をしている百合菜にガルフは話し掛けた。
ガルフ「いい馬だな。名はなんという」
百合菜「あっ・・・ルピナスです」反応が少し遅れたがきちんと答える
ガルフ「そうか。ルピナスか」ルピナスを触ろうとするガルフ
ルピナス「ブルッ!」警戒をあらわにしあとずさる
ガルフ「ふむ、誰でもなつくというわけではないか。気に入った」
百合菜「ガルフ様?」
ガルフ「気に入らなかったら捨てていこうと思ったが気が変わった。ミサイルのハッチにでも乗せておけ」
百合菜「はっ、はい」手綱を引き。残弾がなくなった事でスペースの空いたハッチにルピナスを繋ぐ。
ルピナス「ブヒヒンッ」変な所にいれられ不安な声を出すルピナス
百合菜「大丈夫」なでてやると落ち着いたようだ
ガルフ「おまえはこっちに乗れ。どうやら2人乗りができるらしい」
百合菜「・・・はい」ルピナスをなでていた手を離すとガルフに付いてコクピットに乗り込んだ
ガルフ「ではいこうか」
ガルフ機は空に浮かび上がると町の方へ向かって飛んでいった。
見知らぬものだらけの空。
しかし最近見知った顔がそばにいる事はガルフにも安らぎだった


はい、というわけで後編も無事?終わりました〜。
もうちょっと百合菜の戦闘シーンとか書きたかったかも。まぁ今回はこのぐらいで。
百合菜とサレナの関係は近々明らかになる予定です。こうご期待。しないか?
馬のルピナスはそのうち本編にも出てくるかも。ヒヒンとかブルッしか言わないけど・・・。
出会い系wてのも書いてて楽しいかもですねぇ。
ではまた〜

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