その3.0【野戦食】
今日、奇声蟲の群れを突破して何とか集会場に到着しました。
フォル「皆の者、大義であったぞ」
遼平 「しかし、酷い有様だな」
フォル「我等の到着が今少し早ければ、救えた命もあったであろうに……」
しかし……状況は悪く、犠牲となった人たちは少なくはありませんでした。
私だって泣くわけにはいきません。
でも……ほんのちょっとだけ泣いちゃいました。
フォル「さて、それではそろそろ夕餉にするぞ。マリーカ、味噌玉を持て」
マリー「はい。少々お待ち下さい」
遼平 「お前なぁ。この状況で、よくメシなんか喰う気になるな」
フォル「当たり前じゃ。死んだ連中は知らんが、生きている人間は腹が減るものだぞ」
こんなときに……いえ、こんな時だからこそ、遼平さんたちが頼もしく見えます。
まだ悲しんでいるときではありません。犠牲者をこれ以上出さないためにも、私たちも頑張らなくてはいけません。
という訳で、野戦食です。
実は……私は今まで病床に伏せていたので、料理をしたことがありません。
他の皆さんは料理をしたことがあるというので、私も倣ってみたいと思いました。
しかし……
シェフ「え、だって哲也様は明日からも奇声蟲と戦われるんだから、しっかりと栄養を取っていただかないと♪
その薬草、死ぬほど苦いけど栄養がすごいんですよ〜〜」
哲也「………………」
なんとなく納得のいかないようでしたが、シェフさんの笑みに負けて、渋々ながらも納得した様子でした。
シェフ「さあさあ、がばっと!」
哲也「がつがつ……………」
この後、哲也さんは何故か倒れてしまいました。
レグ「……(もぐもぐ)」
ブラ「……よく食べられるな、そんなもの」
レグ「俺の胃腸は強化されている。効率よく吸収しつつ、泥水ですら平気な強固さをもつようにな」
ブラ「だからといって……あれらの料理は……さすがに……」
和馬さんが地面に倒れて痙攣している哲也さんと、お裾分けを食べているレグさんを見て慄いているように見えましたけど……何故でしょう。
そして、シェフさんが私たちに持ってきてくれたお料理を壮絶な表情で断っていたのは何故でしょう。
私がシェフさんのお料理を食べようとすると……
ブラ「やめておけ……それは食べないほうがいいぞ……」
和馬「フィー……料理にはいろいろあるけど……ああいうのは手を出したら駄目」
何ででしょう?
その3.5【もう一人いる!?】
食事も終わり、皆さんがそれぞれの時間を過ごしていると、フォルさんと遼平さんが私たちの奏甲を見学に来ました。
フォル「これがシュピルドーゼが誇る巨人機、リーゼ・ミルヒヴァイスか。真に大きいのぉ〜」
遼平 「誰かさんとは、大違いだな」
フォル「どういう意味じゃ、ソレは?」
遼平 「別に」
フォル「ふん。まぁ、よい。しかし、これを操る和馬殿も、大したものだ」
確かに……私たちが操るリーゼ・ミルヒヴァイスは、高出力のためか操縦が難しいそうです。
それを易々と操る和馬さんはやはり凄いのでしょうか?
遼平 「…………」
奏甲を見上げている遼平さんと目が合ったんですけど……何故か目を逸らしてしまいました。まぁ……理由は分かってますけど。
とりあえず……改めて書くのも気が引けますのでは、気になる片は2.0を思い出してください。
???「だぁ〜」
ありがとうございます。こんな私の心情を察してくれる人がいるんですね。
…………「だぁ〜」?
他の人たちもその声に気づいたのか……いっせいに一点を見ていました。
そこに件の人たちがいました。
???「だぁ〜、う〜」
ブラ 「よしよし・・・コニー、今日も元気だな・・・はっ!」
レグ 「どうかしたのか?」
ブラ 「今周囲から妙な視線が・・・」
???「だぁ〜あ?」
………………………………。
メンバーの全員(私も含みます)がレグニスさんとブラーマさんに驚愕の視線を向けたまま凍りついてました。
沈黙は、すぐに破られました。
哲也 「親子、だな」
シェフ「親子、ですね」
哲也 「……似てるな」
シェフ「…………似てますね」
哲也 「姓はどっちなんだろな?」
シェフ「姓はどっちなんですかね?」
私も気になります。
その4.0【育児?】
今日も奇声蟲を集会場から排除すべく、私たちは戦場に出ました。
しかし……皆さん気になるところがあるのでしょう。それこそ、疾風迅雷の勢いで奇声蟲を倒してしまいました。
私だって気になってます。今日も「火花のマドリガル」が炸裂して、奇声蟲を粉砕しました。
今日に限っては『主砲』とか『大砲』など……私にとっては結構気にしている二つ名を受け入れる覚悟です。
という訳で、レグニスさんとブラーマさんを囲んで、赤ん坊――コニーちゃんの事情を説明してもらうことにしました。
ブラ「いや、この子は……なんと説明するか……」
レグ「ブラーマの娘だ」
……………………はい?
とりあえず、周りを見回してみると案の定、皆さんもレグニスさんの発言に凍り付いてました。
ブラ「ち、違う! 確かに娘だが、養子だ。キャラバンの生き残りを引き取っただけだ!」
レグ「間違いではないだろう」
ブラ「誤解を招くような言い方をするな!」
とりあえず大まかな事情は把握できたのですが……偶然とはものすごいもので、まさか赤ん坊が同行していたとは誰も気づきませんでした。
それにしても……皆さんの適応能力は凄いものです。
事情を説明してもらってからは、私もコニーちゃんと遊んだりしてます。
フォル「うむ。健やかに育つがよいぞ。さすれば必ず、レグニス殿のような立派なモノノフになるであろう」
遼平 「なるわけないだろ。その子は女だ」
フォル「・・・だ、だが、努力次第では」
遼平 「努力で性別が変わるか!」
フォル「・・・無理なのか、マリーカ?」
マリー「恐れ多き事ながら、少々無理がございますかと・・・」
フォル「・・・致し方ない。立派なモノノフは、フォルが作るとするか」
遼平 「お前・・・意味判って言っているのか?」
フォルさんは既にコニーちゃんの人生設計を組み立てているというほどです。
遼平さんは凄く焦っていたようですけど……なんででしょう?
その5.0【誤報?】
今日から集会場の防衛…………だったんですけど。
正直なところ、退屈に過ぎました。
しかし、平和であることはいいことです。
ということで、私はまた私を『主砲』呼ばわりした和馬さんを適当に括り付けて、「火花のマドリガル」の練習を行ってます。
たまに惜しいときはありますけど……大丈夫です。当たってても和馬さんですから大丈夫です……多分。
シェフ「あらフィオナさん。相変わらず凄いですね。……もしかしたら哲也様も和馬さんと一緒に歌術の的になったら強くなれるかも」
とりあえず……それはないと思いますけど、死の恐怖は味わうことは出来ると思います。
それで強くなるかどうかは謎ですけど……
和馬 「とりあえず……この砲撃をやめてくれー!!!」
そんな悲鳴が聞こえたような気がしますけど……気のせいにしておきます。
シェフ「それじゃあ、私たちも見張りなんで……練習頑張ってくださいね」
満面の笑みを残してシェフさんは、哲也さんに出す料理をどうするかと一人呟きながら奏甲のほうへ歩いていきました。
練習を続けていると、通りかかったフォルさんとマリーカさんがこちらに気づき、歩み寄ってきました。何故だかフォルさんは少し不機嫌そうです。
マリー「あら、フィオナ様。練習ですか?」
フォル「練習とは、フィオナ殿は努力家だな。……………まったくリョーヘイも見習わなくてはな」
フォルさんたちが来たほうを見てみると、遼平さん(らしき物体)が倒れてました。どうやらフォルさんの訓練で疲れて倒れてしまったようです。
フォル「そういえばマリーカ。リョーヘイがいつも額に巻いている、布はなんだ?」
マリー「額当ててございましょう。あの布には鉛が縫いこんであり、敵の太刀を受け止める事ができるのでございます」
フォル「まことか!?」
マリー「まことでございますとも。試しにささ、この木刀をお使い下さい」
フォル「うむ!」
そういうと、マリーカさんはどこから取り出したのか、木刀をフォルさんに手渡して、遼平さんのところに戻っていきました。
遼平 「ぎゃあああああああああああ!!!」
フォル「なんだリョーヘイ。そんな声を上げる元気があるなら続けるぞ」
木刀を手にして遼平さんを追い回すフォルさんは、なんとなく楽しそうだったんですけど……気のせいでしょうか?
さて、余談なんですが、奇声蟲の襲撃があったらしいです。
私もよく分からないのですが……レグニスさんが慌しく飛び出して、すぐに帰ってきました。
レグ「やれやれ……」
ブラ「どうしたのだ、レグ?」
レグ「……敵出現の報をうけて出撃したんだが、戦場にはすでに残骸しか残ってなかった」
ブラ「……うーむ、誤報か、それとも誰かが事前に倒したか……」
ふと、ブラーマさんと目が合ってしまいました。数秒間だけ視線をはずしてくれなかったんですけど……
レグ「どちらでもいいが、二度はあって欲しくないな」
レグニスさんが、やれやれと言わんばかりにその場を去っていくのを見てブラーマさんは慌てて追いかけていきました。
和馬「なぁ……あれって奇声蟲だよね?」
いつの間にか縄を抜け出した和馬さんが指差した先には奇声蟲の死骸。
まるで「火花のマドリガル」を受けたような……
和馬「流石、『主砲』」
そんなことはないと思いつつ、和馬さんを再び縛り直して、私は「火花のマドリガル」の練習に戻りました。
???「ぎゃあああああああああ!! 奴はあっちだ、こっちじゃねええええええ!!!」
誰かの悲鳴が聞こえた気がしますけど……気のせいです。
その5.5【給料日】
今日は給料日です。
異世界から突然召喚されて、奇声蟲と日々戦っていても何らかのお礼をもらえることは嬉しいものです。
なんだか皆さん、初めての給料で嬉しそうなんですけど……
「給料」を見た瞬間、皆さんが一斉に凍り付いていました。
まぁ……結構な量のお金が入っていたのはいいんですけど、
哲也 「……………短剣、ねえ」
シェフ「短剣ですねえ」
給料と一緒に渡されたのは、何の変哲もない奏甲用の刺突用の短剣――グラディウスでした。
聞いた話によりますと、他のPTはタワーシールドなどといった役に立ちそうな支給品が渡されたそうです。
レグ 「あまり質のいい短剣ではないようだな、これは」
ブラ 「ん……まぁ、ただでさえ用途の低い短剣を、さらに特化させたもののようだからな」
遼平 「ったく、こんな役にも立たない短剣なんぞ寄こしやがって。評議会の連中は、アホ揃いか?」
フォル「なにを愚痴をこぼしているかと思えば……。情けないぞ、リョーヘイ」
マリー「まったくまったく」
哲也 「こんな愚にもつかない役立たず四本も生産するより、その分の鉄使ってソードとか作った方がいいと思うんだが」
シェフ「評議会の方々って、結構いい加減ですねぇ……」
他の皆さんもこの報酬には不満なのか、口々に給料に対する愚痴を漏らしていました。
和馬 「ねぇ……フィー。評議会の報酬の基準って……結構適当だったりしない?」
和馬さんがいきなり私の思っていることをずばり言い当ててしまい、冷や汗ものでした。
何とかその場を誤魔化したものの、私も……まさか世界の中心たる評議会がこんなにドンブリ勘定なのかと疑ってしまったくらいです。
せめて、次の給料はマトモなものを支給してくれることを、議事堂があるほうに切に願った瞬間でした。
和馬 「まさか、評議会の人って……サイコロ振って報酬の内容を決めてるんじゃないの?」
こんなサボり魔英雄にもこんなに言われるくらいですから……本当にお願いします。
その6.0【奏甲選択 〜その壱〜】
今日も皆さんが獅子奮迅の活躍をしてくれたお陰で、奇声蟲に快勝する事が出来ました。
……といっても、衛兵種相手で、ですけど。
あと……例によって和馬さんは確信犯的にサボっていて皆さんに迷惑をかけていました。
挙句、私が和馬さんの代わりに前線に立って「火花のマドリガル」で奇声蟲を倒していた始末です。
あとで、歌術の練習台になってもらうにします。
しかし、その一方で、
シェフ「哲也さんが奏甲に乗ってると……なんだかお飾りに見えますね〜」
哲也 「…………」
哲也さんも活躍する場もなく、シェフさんに精神的にぼこぼこにされていました。
和馬さんが言うには「KO寸前のグロッキーなボクサー」らしいんですけど……よく分からないです。
夕食のときに、マリーカさんは疑問に思っていたのでしょうか……
マリー「ところで皆様。……皆様の奏甲を選んだ理由をお聞きしてもよろしいですか?」
その問い掛けが口火となって奏甲の話題が上がりました。
遼平 「ところでなんで俺の奏甲はシャルTなんだ? 性能向上型のシャルUじゃなくって?」
遼平さんが乗るシャルラッハロートは、実はフォルさんが用意した奏甲ということです。
評議会から支給された準備金がなくなっていることに気づいた頃には、フォルさんとマリーカさんが支給された準備金を全額使って、ブロードソードを買っていたそうです。
フォル「リョーヘイ……。お主は本当に、うつけよのぅ」
遼平 「なんだその、哀れむような眼差しは!」
フォル「シャルUよりもシャルTの方が、遙かに「モノノフ」らしいイデタチであるからに決まっておろう。そんな事も判らぬのか?」
遼平 「判るかぁー!」
その問答を見ていたブラーマさんはなにやら感心したかのようでしたが……
ブラ 「なるほど、フォル殿はそのようなことを念頭に奏甲を選んでいたのか」
レグ 「俺はもっと簡単な基準でこの奏甲を選んだんだがな…」
レグニスさんは遼平さんと同じく、シャルラッハロートに乗っています。
装備は、シンプルに短剣一本だけですが……ブラーマさんとの連携もあってか、獅子奮迅の活躍をしている私達の中でもっとも頼りになる人です。
しかし……
ブラ 「して、その理由とは?」
レグ 「整備性だな。基本的に」
ブラ 「そのわりには機体の消耗が激しい気がするが……」
レグニスさんの操縦に耐えられず、奏甲の関節や骨格部分がよく故障してしまうそうです。
レグ 「やわな機体だ」
私は知っています。
コニーちゃんの養育費とレグニスさんの壊す奏甲の整備にかかるお金を遣り繰りして、ギリギリな資金繰りをしているブラーマさんの苦労している姿を、
頑張ってくださいブラーマさん。
困ったときには低金利の消費者金融機関を紹介しますので……。
さて、すこし長くなりそうなので……続きは次回に。
その7.0【奏甲 〜その弐〜】
今日は休暇です。
連日、奇声蟲との戦闘が続き、正直なところ休んでいるどころの話じゃないんですが……
評議会からの通達により、ほとんど強制的に休暇を取る事となり、ポザネオ市に戻ることとなりました。
評議会から言い渡された休暇の日数は、たったの一日です。
今まで忙しかったこともあってか、正直言って誰もが暇を持て余していました。
それでも、噂話程度に聞こえてくるものはありまして、いい話も、悪い話も嫌になるほど聞こえてきます。
昨日に引き続いて、今日の夕食のときも奏甲の話題が上がりました。
哲也 「そういえば、何でヘルテンツァーなんだ?」
シェフ「え?」
哲也さんは、レグニスさんと遼平さんとは違い、歌術奏甲であるヘルテンツァーに乗り込んでいます。
シャルラッハロートとは違い、なにやら歌術を増幅させるための機構があるそうですけど……
シェフさんが歌う前に戦闘が終わっていることが多く、なんだかシェフさんも不満そうです。
哲也 「ああ。こいつお世辞にも直接戦闘には不向きだろ?何でだ?」
シェフ「もう、お日様の下にも出れない虚弱体質が何をいってるんですか」
哲也 「………アレルギーと肉体の強度は関係ないと思うんだが、前にも言ったけど」
その矛先が常に哲也さんに向いていることは……言うまでもないと思います。
フォル「ところで……和馬殿はどうしてその奏甲に乗っておるのだ?」
それは私思っていました。
工房には、遼平さんとレグニスさんの乗っているような操縦性に定評のあるシャルラッハロートでもありましたし……
哲也さんの乗っているような歌術機であるヘルテンツァーも、工房にはありました。
では、何で奏甲は厚いですけど鈍重で扱いづらいリーゼ・ミルヒヴァイスなんでしょう……
皆さんの視線が集まる中、
和馬 「阿弥陀籤」
…………………はい?
いろんな意味でとんでもない人です。
確信犯で愉快犯でどっちかと言ったら紙一重のこっち側にいる人ですけど……安全な人かと思っていました。
まさか……アミダクジというものが如何なる籤なのか分かりませんけど……自分の命を左右する選択を籤で決めるなんて……
和馬「だって……面倒だったし」
その言葉を聴いて、胃が痛くなりました。
…………いえ、本当にキリキリと。
ブラ 「むぅ……奏甲の部品交換にコニーの養育費。それと食料品……。拙いぞレグ。このままじゃ赤字だ」
コニー「だぁ〜」
ブラ 「こら、コニー」
その隣では、ブラーマさんが背中にコニーちゃんを背負って、家計簿をつけていました。
本気で、ブラーマさんに低金利の消費者金融機関を紹介すべきか迷っています。
その7.5【続・野戦食】
シェフ「さあ、ご飯の時間ですよ♪」
今日の戦闘が終わり、皆さん、それぞれの仕事をしていました。
和馬さんとレグニスさんは、このあたりの周辺警戒を。
遼平さんは、フォルさんといつものように訓練を。
哲也さんは、なにやら用があるといって、どこかに行ってしまいました。
それでも、約束した時間通りに帰ってきた途端に――
シェフ「みなさ〜ん。ご飯ですよ〜」
和馬 「…………」
遼平 「…………」
哲也 「…………」
レグ 「そうか」
和馬さんと哲也さんと遼平さんが凍り付いていました。
今日は、シェフさんが料理当番です。
何故だか分かりませんが、シェフさんが料理当番の非に限って、皆さんほとんど同じ表情になります。
哲也 「…………!!」
シェフ「前回はトンデモない事になっちゃったから、今日は腕によりをかけて……、あれ? 哲也様?」
和馬さんと遼平さんと哲也さんが、なんだか音速を超えんばかりの勢いで、走り去っていきました。
三人とも共通して顔を真っ青にして、涙目だったんですけど……なんででしょう。
シェフ「もう……、ちゃんと食べないといけないのに」
そういいつつ、シェフさんは自分の作った料理を味見します。
シェフさんの作った料理は、どこから材料を調達してきたのか……大きなお肉と、新鮮そうな薬草のサラダでした。
見た目は本当においしそうなんですけど……
シェフ「あは、おいし♪」
何でシェフさんの料理を食べようとすると、止められるのでしょうか……
さて……それはともかくとして、
フォル「リョーヘイ? リョーヘイは居らぬのか?」
三人から少し遅れてフォルさんが帰ってきました。
いつも通りというか、遼平さんの上達具合に満足がいかなかったのでしょうか。なんだか不機嫌そうです。
マリー「いかがなされましたか、フォル様?」
フォル「マリーカか。リョーヘイの姿が見えぬが、知らぬか?」
マリー「遼平様でしたら、酷い腹痛の為、医療テントに向かわれました」
フォル「なんと……。イジキタナイ奴め。大方、その辺に落ちていた食べ物でも拾ったのであろう」
マリー「はぁ……」
マリーカさんにしては珍しい、曖昧な受け答えでした。
マリーカさんもお料理を作っていたそうで、ブラーマさんの勧めで私もマリーカさんの食事を頂いてます。
レグ 「どうした?」
ブラ 「いつも思うのだが……本当に平気なのか?」
シェフさんが作った料理を黙々と食べ続けるレグニスさんは、何故か皆さんの驚愕の的です。
何故かと聞いても、誰もその理由を教えてくれません。
和馬 「ふぅ……。あ、マリーカさん。僕の分ももらえますか?」
マリー「分かりました。すぐに用意しますね」
和馬 「助かります」
和馬さんはすぐに戻ってきて、食卓に加わっていました。
その表情は……例えるとするなら何かをやり遂げたような、そんな表情をしていました。
フォル「ところで……他の者はどうしておるのかの? リョーヘイは、罰が当たって寝込んでおるし……哲也殿も姿を見せぬし……」
マリー「シェフィーリア様もそういえば見かけませんね」
レグ 「あいつならなにやら突然、向こうのほうに走っていったが……?」
レグニスさんが指した方向から――
???「……の馬鹿――――っ!! 私をほっておいて、別の英雄様と密会なんて――――っ!!」
???「誤解だ――――っ!!??」
なにやら遠くから「ドスッ」という肉を叩くよう様な重い音が何度も聞こえてきましたけど……あれはなんだったんでしょう?
和馬 「ごめん、哲也さん」
フォル「和馬殿、どうかしたのか?」
和馬 「いえ、なんでもないです」
また一つ。「ボグゥ」という重々しい音が重々しい音が聞こえたような気がしますけど……
和馬 「気のせいだよ。きっと」
和馬さんもそう言う事ですし……気のせいでしょう。――多分。
その8.0【進撃】
さて……休暇も終わり、私達は再び集会場に戻ってきました。
気力も体力も十分に充実してます。
聞く話によると、奇声蟲の頂点――『女王種』が闇蒼の歌姫の居城、紫月城に居ることが判明しました。
そのため、多くの部隊を集会場に舞台を集結させて紫月城に向かうとのことです。
フォル「女王種か……」
哲也 「そういうわけで、俺も前線にでる事にする」
シェフ「って、何お金殆ど使ってアーマープレート買ってるんですか――っ!?」
皆さんも奏甲も万全の体制で、取り組んでいます。
哲也さんにいたっては、肩部の増加装甲を搭載していました。
哲也 「いいだろ別に。どうせいつかは買うんだし」
シェフ「そういう問題じゃありません! これ以上足遅くしてどうするんですか!?」
哲也 「しかしグラディウスをここで使うとはな」
シェフ「両手塞がっててもいいからライトボウにしてくださいよっ!?」
そういって、今日も戦闘に向かいます。
出てきた敵はやはり衛兵種。私達の敵ではありません。
今日も、レグニスさんの短剣が閃き、遼平さんの剣が敵を切り裂き、和馬さんの大斧が砕きます。
それでも……
哲也 「…………」
シェフ「で、結局――」
哲也 「…………」
シェフ「出番ありませんでしたね♪」
哲也 「…………」
増加装甲を用意してまで、哲也さんはシェフさんの毒舌から逃れることは出来ませんでした。
もはや……哲也さんは「ダウン寸前のグロッキーなボクサー」を超えて「真っ白に燃えつきかけている人」に変わろうとしています。
すみません。哲也さん……今日は珍しく働いた和馬さんが悪いんです。
和馬 「さてと……頑張るか」
本当に……妙な病気にでもかかったかと思うほどに、和馬さんが働いてます。
その8.5【鍛錬】
遼平 「衛兵ばっかりで物足りねぇーぜ」
遼平さんのその言葉が発端でした。
進行部隊を苦しめている奇声蟲の『貴族種』。その強敵に巡り合うことも無く、私達は衛兵種の群れの討伐を連日続けています。
流石に同じ相手を倒し続けていれば……慣れというものも生まれてくるものです。
フォル「ほぉ。リョーヘイも言うようになったではないか。ならば、マリーカ。リョーヘイのシャル1から、全ての装備を外すのだ」
マリー「はい♪ 仰せのままに」
遼平 「ちょ、ちょっと待てぇー! 武器もなしで戦えってのかぁ?」
遼平さんの抗議に、フォルさんはなんだか呆れたように溜息を一つ吐いて、
フォル「武器がないと戦えぬと申すのか、お主は?」
遼平 「そりゃどういう意味だ?」
フォル「お主はイクサ場で武器を落とした時、拾わせて下さいと敵に懇願するのかと聞いておるのだ」
遼平 「そ、それは……」
フォル「体術の稽古は、そのまま剣術に繋がる。よい機会だ。この装備で存分に戦って参れ」
マリー「頑張って下さいね、遼平様」
遼平 「…………(涙)」
その一言で、遼平さんの奏甲から全ての装備が降ろされました。
全ての装備が降ろされた遼平さんのシャルラッハロート。遼平さんは自分の口が滑らせたことを思いっきり後悔しているようでした。
和馬「衛兵ばかりだけど……『主砲』さんが頑張って倒してくれているから……大丈夫かな?」
とりあえず、こんなことを言った英雄さんは……あとでちょっとコニーちゃんには見せられないお仕置きをしておく予定です。
和馬さんも遼平さんの奏甲から装備が降ろされるのを見て、笑みを浮かべてました。
和馬 「……フィーも、いつまでも楽器に頼ってちゃいけないよ?」
それを言われると痛いのですけど、私はそれしか取り得が無いんですから……
そんな光景を少し離れた日陰で見ていた哲也さんとシェフさんは、
哲也 「ふむ、和馬も遼平もよくやる」
シェフ「そうですねー」
哲也 「ここは一つ、俺も試練を受けてみるか」
シェフ「はい?」
哲也 「目指すはグラディウス一本で蟲撃破!」
シェフ「でもきっと出番ないでしょうねー」
哲也 「…………………」
やっぱり、シェフさんの毒舌に哲也さんは崩れ落ちてました。
その9.0【鍛錬は続く】
今日から、実戦形式……というか実戦での鍛錬の始まりです。
相手は例によって衛兵種が数体。
飽きるほどに遭遇した敵では相手にならないということを証明するかのように、皆さんは獅子奮迅の活躍で戦果を上げました。
遼平 「ど、どうだ。これで文句ねぇーだろ。早く装備を返せ!」
『無手』の奏甲から降りる遼平さんは、それでも血の気を失ったかのようでした。
マリー「あらあら、まぁまぁ。お顔が真っ青ですわよ、遼平様?」
遼平 「無手で戦場に放り出されりゃ顔だって青くもなるわぁ!」
フォルさんはそんな遼平さんの姿を見ても、厳しい表情を変えることはありません。
それどころか、つまらなそうにそっぽを向いてしまいました。
フォル「なにを偉そうに申しておる。リョーヘイが倒したのは、フィオナ殿が『主砲』で痛めた衛兵一匹であろう。あんなものは数に入らぬ」
なんか、少しだけ引っかかるものがあったような気がするんですが……
まぁ……その辺は、気のせいだと思います。
哲也 「…………なんで」
シェフ「瞬殺されちゃいましたねぇ、二匹とも」
哲也 「……ふ、俺は永遠に脇役という事か」
シェフ「え? あ、ちょ、哲也様、お気を確かに――っ!!??」
哲也さんがとうとう「真っ白に燃え尽きたボクサー」のようにぐったりと、啜り泣きを始めてしまいました。
フォル「うむ。今は、泣くがよい、哲也殿よ。その涙が……っとと……哲也殿を、より強くし、いつかその『力』が、我等の、大道を、切り開く、ナタともなろう」
遼平 「ひ、人の、背中で、いい気なもんだぜ、ったく!」
毎度のごとく、遼平さんとフォルさんが食後の鍛錬(内容は背中にフォルさんを乗せて腕立て伏せ三〇〇回だそうです)を始めていました。
フォルさんもバランスを取るのが難しいのか、時々慌てたように遼平さんの肩や脇腹の辺りを掴んでバランスを立て直してたりしてます。
遼平 「っていうか、いい加減、降りろ!」
フォル「何を言っておるか。これは重心の悪いオモリを背に乗せる事によって、身体全体の筋肉とバランス感を鍛える鍛錬だぞ。文句を口にする体力があるなら、腕を動かすがよい」
そうは言ってますけど……実は結構楽しそうに見えるのは気のせいでしょうか?
フォル「楽しく、なんかないぞ。……フォルもリョーヘイの……っとと……鍛錬を仕方なく手伝ってる、だけだぞ!」
マリー「頑張って下さいね、遼平様。残り283回ですわ」
遼平 「畜生〜〜〜!(涙)」
ふと、今日の警戒当番から戻ってきたレグニスさんとブラーマさんが、遼平さんたちの姿を見て、
レグ 「どういった手段、目的であれ、日ごろの訓練は怠るべきでないな」
ブラ 「そういえば、お前は朝早くから起きて何か訓練をしているようだが……」
驚くことに、あのレグニスさんも鍛錬を欠かさないそうです。
人間……意外と分からないものです。
レグ 「しているが……それが何だというんだ」
ブラ 「なら訓練の指導などをしてやった方がいいのではないか?」
シェフ「じゃあ、レグニスさん。哲也様の訓練お願いしていいですかー?」
レグ 「駄目だな」
ブラ 「? なぜだ」
レグ 「人間では、耐えられん」
ブラ 「………」
シェフ「大丈夫ですよ。哲也様って割と頑丈そうですし♪」
人間では耐えられない訓練って一体……
哲也「………俺を殺す気か?」
そして、そんな訓練に笑顔で参加させようとしているシェフさんの笑顔がなんだか怖く見えた日でした。
マリー「遼平様、残り283回ですわ。頑張ってくださいね〜」
気のせいでしょうか……遼平さんの腕立て伏せの回数が、さっきと残り回数が変わってないような気がします。