その10.0【実は……】 ふと……和馬さんが、弱いのではないのかと、そんな疑問が生まれました。 前回の戦闘でも、動きの悪い衛兵種を易々と倒していただけですし…… ほとんどの敵(といっても全て衛兵種なんですけど)は、レグニスさんと遼平さんが倒しています。 レグニスさんは、前にも言ったとおり短剣一つでかなりの戦果を上げています。 ブラーマさんとの連携も一糸乱れぬもので、同じ歌姫と英雄でもこんなに違うと見せ付けられています。 遼平さんは、フォルさんとの鍛錬のお陰か、レグニスさんに次ぐ戦果を上げています。 フォルさんの充実した鍛錬がこのような成果を生んでいるのでしょうか? 哲也さんは……まだ戦果を上げていませんが、正直なところまだ未知数としか言いようがありません。 これまでの相手が全て衛兵種であり、レグニスさんと遼平さんがほとんどの敵を倒してしまっていることから哲也さんの実力が掴みきれていません。 では、和馬さんは強いのでしょうか? 結論は……やはり覆りませんでした。 和馬 「それじゃ、次の戦闘は僕が戦うから……フィーはみんなの援護をお願いしていい? あ、援護も最低限でお願いね」 この自信は、一体なんなんでしょう。 という訳で今日から私も皆さんの援護に回ることにしました。 ――もちろん、歌術を増幅する働きを持つ楽器を使わず、最低限の援護だけをするつもりです。 そんな私が選んだ歌術は「剣の盾のノクターン」……奏甲の武器に働きかけて、攻撃力を向上させる歌術です。 それで、今日の戦闘も衛兵種だったんですけど…… 遼平 「どうだ! 今度こそ文句ねぇーだろ!」 フォル「つまらぬ」 無手で戦う遼平さんは、その拳の一撃で衛兵種を叩き潰してしまいました。 それでもフォルさんはどこか不機嫌そうです。 遼平 「はぁ?」 フォル「どうせなら、噂に訊く「『女王』とやらを討ち取ってまいれ」 遼平 「鬼か、お前は!」 フォル「ふん! 一文字なら『鬼』。二文字なら『悪魔』。三文字使わば『フォル』と呼ぶがいい!」 マリー「ああ、フォル様。遼平様を鍛える為に自らを『鬼』とするなんて……。このマリーカ、どこまでもお供いたします!」 遼平 「……つーか、止めろ。頼むから」 一方、和馬さんも、 和馬 「こんなもので……どう?」 事もあろうか、和馬さんは一番強そうな衛兵種を倒してしまいました。レグニスさんに続く形だったんですけど…… 無駄な動き一つ見せずに衛兵を倒してしまいました。 こんな実力があれば、私が戦わなくてもよかったのでは……? その11.0【必需品】 今日は二回目の給料日です。 今回も、皆さんが戦果を上げてくれたお陰か……多額の報酬が渡されました。 ブラ 「これは……」 フォル「ほぉ……手鏡か」 それと一緒に、嬉しいものが私達に手渡されました。 女の子の必需品、手鏡です。 今までは、シェフさんの鏡を借りていたんですけど……これで迷惑をかけることもなくなりました。 今回は評議会にお礼を言わさせえていただきます。 ふと…… フォル「喜ぶがよいぞリョーヘイ。女王戦に備えて、新しい奏甲をお主に授ける事にした」 今日の警戒から帰ってきた遼平さんが(半ば強制的なんですけど)奏甲の乗換えをしていました。 洗練されたあの姿はまさしく、 遼平 「マジ!? って、シャル3かよ!」 フォル「新型だぞ?」 遼平さん達が乗っているのは、英雄様たちから評判の悪いシャルラッハロート3でした。 新型……だと思います。 遼平 「新型は新型でも、2より性能が悪いわ!」 そう、新型にもかかわらず旧型のシャルラッハロート2のほうが、扱いやすく全体的な性能もいいそうです。 構造的な欠陥でもあるんでしょうか……? フォル「瑣末な事は気にするな」 マリー「御武運をお祈りしていますわ、遼平様」 フォル「判っておるとは思うが、装備はまだ返さぬからな」 遼平 「…………(涙)」 レグ 「乗り換えたか、遼平」 ブラ 「相変わらず徒手空拳での戦闘を余儀なくされているようだがな」 レグ 「素手での戦闘か……一つ効率のよいやり方を教えてやるとするか」 ブラ 「やめておけ」 遼平さんの『無手』戦闘はまだまだ続きそうです。 そして、レグニスさんの『やり方』は……人間に耐えられるものなんでしょうか? 少し……疑問です。 そして、その一方では…… 哲也「美しい……」 シェフ「はわー………」 工房から帰ってきた哲也さんとシェフさんがなにやら「夢見がち」なぼんやりとした表情をしています。 多分、工房にシャル3と一緒に登場してきたマリーエングランツを見たんだと思います。 綺麗な奏甲でした。黄金色に輝くその優美な曲線。 そして、従来の奏甲を圧倒的に勝る性能。まさに『華燭奏甲』と呼ぶに相応しいです。 しかし、 哲也「………だがなんだこの値段はっ!? 黄金ででも出来ているのかーーっ!?」 シェフ「はわわーー(汗)」 やはり……値段も華燭奏甲と言わざるを得ないほどに凄いです。 何せ……通常の奏甲が、二〜三機分の値段です。 誰か手を出す人はいるんでしょうか…… その11.5【決戦前夜】 フォル「皆の者、急げよ。時間は限られておるぞ!!」 今日は、女王種討伐部隊に合流して、戦闘の準備を進めています。 勿論、長期的な戦闘になると思いますから十分すぎるほどに準備をしているところです。 ポザネオ島に集結しているほとんどの部隊が、夜通しで準備を進めており、集会場に声がなくなることがありません。 我々も、フォルさんの陣頭指揮の下に綿密な準備を進めています。 マリー「ブラーマ様、必需品の手配はどうですか?」 ブラ 「手配は既に終わった。今和馬殿に頼んで奏甲に積んでもらっている」 シェフ「装備のほうはどうしましょうか?」 フォル「予備の装備は各自で持て。――それと、すまぬが和馬殿……リョーヘイの装備を預かってくれぬか?」 和馬 「まだ余裕がありますから、大丈夫ですよ」 フォル「すまぬ」 皆さんも忙しそうです。私も手配した物資の検品を行っています。 少し……というかかなり不安なんですけど食料品や日常品(それと遼平さんの装備一式)は、積載量にかなりの余裕を持つ和馬さんのリーぜに乗せることなっています。 フォルさんの言うとおり、翌朝の出撃までに準備を終わらせなければいけません。 流石の和馬さんも今回ばかりはふざけてる暇は無いようで、リーゼの整備と積み込みに忙しそうです。 本当に、普段からあんな調子でやってくれると本当に助かります。 時間は限られています。 哲也 「まさか……俺達も女王種に挑むことになるとはな」 レグ 「気を抜くなよ。死んでも骨しか拾ってやれんからな」 哲也 「死ぬつもりなんて、これほども思ってない」 レグ 「なら死ぬなよ」 レグニスさんと哲也さんもフォルさんたちとは別ですけど……綿密な準備を進めています。 今回ばかりは哲也さんも活躍の場があるといいですね。 シェフさんの毒舌で倒れそうですから……いえ、なんとなく。 フォル「よいか。次の戦いは哲也殿の援護だぞ」 遼平 「せめてプレートアーマーぐらいよこせ! それで死んだら、絶対に怨んでやるからな」 その一方で、遼平さんはこんな状況でもまだ『無手』戦闘を続けることになっています。 凄いとしか言いようのない鍛錬の内容です。奇声蟲の大群の中、奏甲の拳一つで突き進んでいくのは誰でも怖いと思いますが…… フォル「無用である。その時はフォルも一緒だ」 マリー「僭越ながら、わたくしもお供いたします」 フォル「リョーヘイを立派にするのが、主であるフォルの使命だ。臣下がその業を果たそうというに、主が命を賭けねばなんとする」 遼平 「……勝手にしろ」 マリー「案外『主砲』様が哲也様よりも先に、蟲をカタするかも」 遼平&フォル「…………」 マリー「……と、遼平様が常々言っておられました」 私の姿を見たマリーカさんは真実を教えてくれました。 フォルさんに、遼平さんをお借りしていいか聞いたら、快く承諾してくれました。 という訳で……「火花のマドリガル」の封印をといて、練習です。 遼平さん、覚悟してください。 その12.0【突撃】 今日から、我々は紫月城に突入します。 両手の指でも余りすぎるほどの数が、鮨詰めのごとく敷き詰められている光景は……なんというか想像を絶する気持ち悪さです。 しかも、勝手気ままに奇声を発したりするものですから……それはもう地獄のような光景です。 先に突入した部隊は、地面を埋め尽くすほどの奇声蟲に辟易しつつも道を切り開いています。 ???「まぁ……他のPTに任せておいていいんじゃない? そのほうが楽できるし……」 この発言は誰のものか怖くて書けません。 とりあえずこの発言をした罰当たりな英雄さまには、罰として生身で奇声蟲の群れにカミカゼアタックを仕掛けてもらうことに、今決定しました。 「ニホン」国では……成人の儀式として、「ジョシコウイシツ」なる聖地に突撃するを言うんですけど…… 和馬さんは、「ジョシコウイシツ」ではなく、奇声蟲の群れに突撃してもらいます。 なんとなく、生きて帰ってこれそうなんですけど……? …………とにかく激戦です。 遼平 「…………」 哲也 「遼平、これを使え」 流石にこの状況では、『無手』戦闘を続ける遼平さんたちが危険と判断したか……哲也さんが増加装甲の一部を外していました。 これで、遼平さんの生存率があがると思ったのですが…… マリー「フォル様。哲也様からアーマープレートが……」 フォル「要らぬ。リョーヘイの鍛錬には、不要である」 フォルさんは殆ど意固地になって、装備の供給を断っていたのですが、 マリー「恐れ多き事ながら、仲間の好意を無下に扱われるのは、モノノフの道から外れておりますかと……」 フォル「ふむ……確かに、マリーカの言ももっともだな。あい判った。アーマープレートの装着を赦すぞ」 遼平 「た、助かった……。恩に切るぜ、哲也」 マリーさんの進言で、遼平さんの奏甲に急遽増加装甲の取り付けが認められて、遼平さんはほっとした様子で取り付けを見届けていました。 というわけで、遼平さんの奏甲の装備を待って出撃することとなりました。 しかし―― 哲也 「……むう」 シェフ「どうなさったんですか?」 哲也 「いやな。遼平にプレート渡したもんだから、装備が心もとなくてな」 それはもっともなことでした。 ヘルテンツァーは歌術運用能力を高めるための装備の影響で、どうしても装甲が薄くなってしまうそうです。 シェフ「ライトボウがあるじゃないですか?」 哲也 「…………殴るのか?」 シェフ「いえいえ、斬るんです」 哲也 「き……!?」 もしかして…………気合で斬るとかじゃないですよね? その13.0【戦況報告】 紫月城での戦闘を終えて、整備のために戻ってきた英雄様たちはとても疲れているようにも見えます。 今日も衛兵種を蹴散らすだけの戦闘でしたが…… ブラ 「しかし……すごいな。いくら巨人機とはいえ、奇声蟲の只中に突っ込んで無傷とは……」 レグ 「雑魚ばかりだったからな。――流石にリーゼ級であんな動きする奴はいないだろうが」 何故でしょう……。 先日の罰として行ったカミカゼアタック――流石に生身は危ないので奏甲で――にもかかわらず、そのサボり魔英雄さんは損傷一つなく無事に生還してました。 なにか……危ないものでも付いているのでしょうか……? フォル「リョーヘイ! 今、新しい情報が入ったぞ!」 奏甲整備をしている間、情報収集に回っていたフォルさんとマリーカさんが帰ってきました。 どこか焦っている様子で、マリーカさんが止めなければすぐにでも出撃しそうな勢いでした。 遼平 「大声で怒鳴るな! うるさいだろうが!」 フォル「うるさい! 我慢せよ!」 遼平 「力一杯理不尽な台詞を言うな! ……で、どんな情報だ?」 フォル「うむ。どうやら女王と会敵したPTが居るらしい」 その言葉に私達の視線が全てフォルさんに集められました。 進撃速度が速いの知っていましたが、もう女王種と交戦するに至るPTがいるとは思いもしませんでした。 マリー「天凪優夜という英雄さまとその一行が、現在も交戦中だとか……」 フォル「急げリョーヘイ! 手柄を取られるでないぞ!」 遼平 「……」 哲也 「天凪……優夜か……」 シェフ「どうなさいました?」 哲也 「いや……、何かこー、月が語りかけてくるんだ。その男には近づくな、と。いろんな意味で」 シェフ「………奇遇ですね。私も昨晩、その英雄様について神託を受けました。いわく、近づくことなかれ、と」 ………… 哲也・シェフ「「………触らぬ優夜にたたりなし、か」」 追記。 実は……私、その英雄様にお会いしたことがありまして…… 今回和馬さんの罰として行った「ジョシコウイシツ」なる聖地にカミカゼアタックするという話はこの英雄様から教えてもらったことなんですが…… まさか、和馬さん「以上」な人だとは……思ってもいませんでした。 その14.0【戦果】 レグ 『和馬、そっちに行ったぞ。三時方向、二匹だ!』 和馬 『了解――こっちにもいるのに……!!』 フォル『リョーヘイ! 和馬殿を援護せよ! 急げ!』 遼平 『わぁってるよ!』 レグ 『ちっ……数が多すぎる。ブラーマ、支援頼む!』 ブラ 『わかった!』 和馬 『フィー。もう一発お願い!』 遼平 『この! この!!』 フォル『皆の者。こちらが押しておるぞ。もう一息だ!』 今日も女王種目指して進攻しているんですが、進めば進むほど奇声蟲の数が多くなってきている気がします。 激戦……なんですが、 哲也 『…………』 シェフ『…………』 哲也さんだけは戦闘に参加できないで居ました。 哲也さんの奏甲と装備が、今回のような室内戦かつ乱戦には向いていないこともあってか、哲也さんは歌姫陣地の守備に当たってもらってます。 今日も哲也さんが動くことなく戦闘が終結しようとしたとき―― レグ 『哲也! そっちに行ったぞ!!』 フォル『哲也殿。頼む!』 突如として飛び出した衛兵種の一匹が私達の陣地に向かってきました。 衛兵種一匹とはいえ、絶対奏甲なしでは対処できないのが現実です。 正直、怖かったです。 和馬さん達は少し離れた場所に居て、とても間に合いそうもありません。 目の前に居るのは哲也さんだけです。 チャンスは一発。 哲也 『……くっ!!』 シェフ『哲也様……落ち着いてください。……大丈夫。チャンスは一度だけですけど……外したらレグニスさんの『人間では耐えられないトレーニング』とフィオナさんの『主砲の的』になってもらうだけですから』 哲也 『どう考えても落ち着けないんだが……やるしかないか』 哲也さんは弓に矢を番えて引き、狙いを定めます。 引きつけます。 一直線に向かってくる奇声蟲を、確実な撃ち抜くために…… 引きつけます。ギリギリまで引きつけます。 これほど時が長く感じられたことはありませんでした。 哲也 『……!!』 解き放った矢は、眼前に迫っていた奇声蟲を貫き―― 哲也 『やった……』 初めての戦果を上げていました。 その14.5【役割】 いよいよ紫月城攻防戦も大詰めです。 女王種も追い詰められて、多くの部隊が果敢に挑んでいるそうです。 紫月城の最前線から少し遠のいた防御陣地の中で、私達は奏甲整備を受けていました。 レグ「どうやら出遅れたようだな……」 多くの衛兵種に足止めを食らっていた私達は、女王種との戦闘に加わることが出来ませんでした。 しかし、やるべきことは多く、私達には一時も休む暇はありません。 戦況が有利といっても、いつ覆されるか分からない以上は常に油断は禁物です。 女王種と退治している英雄様たちを含めて全ての英雄様に役割があります。 それを果たすお手伝いをするのが私達、歌姫の役割だと思います。 ブラ 「どうするのだ、レグ?」 レグ 「ここで露払いを続けるべきだろうな。敵の増援を絶ち、女王戦に挑んでる奴らを少しでも有利にする」 遼平 「それもそうか……。おいフォル」 フォル「わかっておる。リョーヘイ、マリーカ……参るぞ。それとリョーヘイ、装備を戻したといっても油断するなよ。」 マリー「わかりました」 ブラ 「レグ……くれぐれも無理はするな」 レグ 「平気だ。一匹でも多く潰してみせる」 哲也 「シェフ」 シェフ「行きましょう。哲也様」 和馬 「フィー。行こう」 そして、皆さんがいっせいに奏甲に乗り込みます。 いつものごとく、無駄の無い動きで奏甲を駆るレグニスさん。 和馬さんから奏甲の装備を返してもらって、感覚を確かめるように柄を取る遼平さん。 矢筒に入るだけの矢を入れて、奏甲で直接弓の調子を確認する哲也さん。 愛用の大斧を手に取り、巨人機特有の重さを感じさせることの無い動きの和馬さん。 私達は、出撃します。 フォル「判っているとは思うが、味方の足を引っ張るでないぞ?」 マルー「晩ゴハンの前には、お帰り下さいな♪」 遼平 「……お前らなぁ〜!」 出撃……してます。 その15.0【おわりとはじまり】 女王種が倒されました。 その最後は壮絶なものであったらしくいくつものPTと対峙してもその勢いを止めることは出来なかったそうです。 しかし、女王種は倒されました。 哲也 「だーーーー、何だこりゃーーーっ!!」 シェフ「真っ暗ですぅううう!」 奏甲に乗ったまま哲也さんが暴れてます。どうやら奇声蟲の肉片が頭部に張り付いて周りが見えていないようです。 乗り込んでいた(?)らしいシェフさんも、なんだか悲鳴を上げているんですが、なんとなく嬉しそうです。 哲也 「現状はどうなってるんだーーっ!?」 シェフ「下手に活躍するとこーなるんですねーー」 フォル「……つまらぬ。ザコばかりではないか」 マリー「まぁまぁ、フォル様」 この戦いが終息してもなんだか不満そうなフォルさんは、戦果を書き連ねていたりしてます。 私もそれを見せてもらったんですが、「私」の戦果もかかれてました。 ――ちなみに、私が前線にいたのは……奏甲の中で居眠りしてる確信犯的なサボり魔英雄様のせいです。 お陰で……この戦いの中で、五体もの衛兵種を私が倒していました。 フォル「これではリョーヘイの鍛錬にならぬ」 マリー「まぁまぁ、フォル様」 フォル「致し方あるまい。こうなってはフリーに属して、人助けを兼ねて困難な依頼に受けまくるぞ」 マリー「はい。フォル様」 遼平 「って、そこで頷くな!」 そうです。 この戦いの直後、白銀の歌姫様の「言葉」によりポザネオ中の英雄と歌姫が混乱に晒されています。 最高評議会はこのことを否定して、北へ逃れる白銀の歌姫様を討たんと討伐隊を派遣するそうです。 いずれかの勢力に付く英雄様もいます。 レグ 「フリーか……まぁ、悪くないな」 ブラ 「そうだな……」 和馬 「……戦争は面倒くさいからね。フリーで賛成」 一部、問題発言がありますが、フリーに属することが決定しました。 ……。 哲也 「誰か、教えてくれー!!!!!」 シェフ「はわーーーーーーー!!」 誰か……あの二人を止めてください。 その16.0【不具合】 今日から私達は、フリーの英雄と歌姫です。 赤銅の歌姫様がその頂点に立つ「無色の工房」は、我々のようなフリーの英雄を全面的なサポートをしてくれるそうです。 和馬 「うーん……なんだかきな臭いんだけどね。まぁサポートしてくれるんなら歓迎だけど」 レグ 「後ろ盾があるだけいいと思え」 和馬 「それもそうですね」 まぁ、それは置いといて…… 遼平 「どういう事だ、コレは?」 その工房から、シャルVの搭乗者を対象にした無償の整備が行われていました。 整備に来た工員の人はなにやら、口々に「こいつもか」とか「またここか」とかぼやいていたのを覚えています。 ブラ 「戦時中とはいえ……杜撰な」 不具合、だそうです。 フォル「うむ。何を隠そう、このフォルがシャル3の手足に、重りを括り付けておくよう工房に頼んでおったのだ」 遼平 「なんていうか、また古典的な特訓方法を……!」 マリー「あらあら。武術家の基本でございます」 フォル「これでリョーヘイも、少しは良い動きが出来るようになったはずだ」 遼平 「素直に喜べん」 フォル「よい。口ではいかように述べようと、心では百万の謝辞を紡いでいる事くらい、フォルはお見通しだ」 遼平 「……」 どうやら……遼平さんのシャルVは、こうした不具合に加えてフォルさんが施していた重りが更に性能を下げていたようです。 ……遼平さん、そんな奏甲で結構な戦果を上げてたのは、凄いです。 哲也 「ほほう、これは……」 シェフ「少しだけどもパワーアップしましたね。でも、何でいまさら……?」 哲也 「おそらく、噂の新型幻糸炉でも搭載したんだろうよ。このあいだ書店においてあったカタログにそんな事が書いてあった」 シェフ「カタログ?」 哲也 「ちょっとローブを着て出歩いた時にな。タイトルは歌姫塾だったか?」 シャルVの不具合といえば不具合なんですが、どうやら一部のシャルVにシャルU用の幻糸炉が搭載されていたそうです。 和馬 「なんだか、どこかの自動車メーカーみたいだね」 なんの話か分かりませんが、とりあえず聞き流しておきます。 その16.5【流行】 哲也 「という訳で俺も機体を乗り換える事にした」 シェフ「でもなんでシャル3なんですか? レグニスさんみたいにもっといい機体にすればいいじゃないですか」 哲也 「簡単だ、コイツは色々と面白いモノがついているからだ」 シェフ「………それだけ?」 哲也 「それだけ」 最近……何故だか、奏甲の乗換えが流行っているそうです。 街で見掛ける奏甲も、奇声蟲討伐で使われているものではなく、その殆どが新品の奏甲になっています。 レグ 「なぜビリーオンなんだ?」 ブラ 「そ、それはだな……息のあったエース用ということで、お前の力を充分に引き出せるから……」 出発の準備を整えていた私達は、レグニスさんがその奏甲に乗っていることに驚いていました。 ビリオーン・ブリッツ。 聞く話によると、今回の奇声蟲討伐で活躍されたハルフェアの旗機、「ミリアルデ・ブリッツ」のコピー機らしいんですが、はっきり言って今までの奏甲と比べ物にならない性能です。 少数生産機という話だったんですが、よく手に入れられたと感心してます。 ブラーマさんがなんだか輝いて見えるのは気のせいでしょうか? しかし、 レグ 「シャル3の性能が上がったと世間では騒がれてるが…?」 ブラ 「だがこれはエース用だぞ、エース『ペア』用の機体だぞ! 私とお前の絆が力となるのだ!」 輝いて、見えてましたが、なんだか焦っているようにも見えないような……。 レグ 「…まあいい。金も余ってたしな」 ブラ 「これで後はツインコクピットを…」 レグ 「それはいらん」 ブラ 「…………」 コニー「だぁ〜」 遼平 「……あいつ、実は狙ってやってるんじゃないのか?」 和馬 「実はレグニスさん……すごいジゴロだったりとか」 二人が何か話していましたが、とりあえず無視しておきます。 こちらも、忙しいといえば忙しいんで…… 何をしているかは……和馬さんには、まだ秘密です。 その17.0【人形】 ポザネオ島にいても、何も始まらないです。 私たちは、エタファまでの船旅で、暇を持て余していました。 雲ひとつない青空に、穏やかな波。海のきらめきが本当に綺麗です。 そんな光景が一望できる甲板でこの日記を書いています。 フォル「リョーヘイ。お主の日頃の労をねぎらって、フォルから特別にコレをつかわそうぞ」 遼平 「……人形? ひょっとして、オレか?」 ふと……和馬さんを探していると、フォルさんたちを見かけました。 なんだか、近付いてはいけないような雰囲気だったんで……遠くから物陰に隠れて見ていたんですが…… フォル「うむ。最近、手作りの人形を英雄に渡すのが流行っておるらしいのだ。まぁ、お守りみたいなものだ。奏座にでも飾るがよい」 そうです。最近、歌姫の間で英雄様の人形を作ることが流行っているそうです。 遼平 「ほぉ〜。にしても、意外に上手いな。コレ、本当にフォルが作ったのか?」 フォル「あ、当たり前であろう!? 真のモノノフを目指すフォルに掛かれば、かような人形を作る事など、造作もなき事よ」 フォルさんが作っていたようで、なんだか恥ずかしそうにその人形を遼平さんに手渡していました。 遠くからなんで、人形の出来具合は分からなかったんですが……話から察するに、似ているそうです。 なんだか、見ているのもなんだったんで……この場から離れることにしました。 フォル「うがぁー!」 遼平 「イテェ! って、何しやがる!」 フォル「うるさい! フォルは不愉快だ!」 マリー「あらあら。羨ましいですわ、遼平様」 遼平 「何がだ!」 離れている途中、なんだか凄い物音が聞こえたんですが……多分、遼平さんが吹き飛ばされた音と思います。 再び和馬さんを探すべく歩いていると、レグニスさんとブラーマを見かけました。 こちらもなんだか近寄りがたい光景だったので、遠目から見ていました。 ブラ 「と、いうわけで私も作ってみたぞ」 レグ 「俺の人形か…器用なものだな。それで、これを奏座に飾れと?」 ブラ 「いや、それは私用のだ。お前のはこっちだ」 やはり、ブラーマさんも人形を渡していました。 やはり出来はいいのでしょうか……とそんなことを思いますが、今度はどんな人形か見ることが出来ました。 ……かなり上手いです。 家事も出来て育児もやってて歌も上手い……なんだか適わないようで悔しいです。 ブラ 「これで離れていてもいつも一緒だ!」 レグ 「リンクがあると思うんだがな……」 ブラ 「い、いいのだ。気分の問題だから。……肌身離さず持っていてくれよ?」 レグ 「……了解した」 人形の手渡しも終わったみたいなんで、私も退散することにしました。 三度、数間さんを探すべく歩いていると、今度は哲也さんとシェフさんに出くわしました。 ……やはり出て行けるような雰囲気ではなかったので隠れて見ていることにしました。 シェフ「哲也様、哲也様♪」 哲也 「どうした、シェ……げ」 シェフ「私も哲也様の人形作ってみたんですー。どうですか?」 哲也 「……」 なんだか……モヒカンヘッドで色黒で目が釣りあがってて尻尾がある人形を手渡されて渋面を浮かべていたんですが……。 シェフさんの笑顔に押されて受け取っていました。 四度、和馬さんを探そうとしていた矢先……。 和馬 「人形、流行ってるね。……フィー?」 どこから現れたのでしょう。和馬さんがいつの間にか後ろに立っていました。 正直、驚き半分、別の意味で顔が真っ赤になってました。 なんで、そんなところにいるかと聞いてみると、 和馬 「……なんだか、みんなと話しづらい雰囲気だったんでね」 なんだか、考えていることが和馬さんも同じだったようで…… 私も、和馬さんを象った人形を手渡しました。 和馬 「え、人形? ……これ、僕?」 街で売っていたセットを見て作ってみたんですが、他の皆さんとは出来栄えが違いすぎました。 ……和馬さんも他の方の人形を見ていることでしょうから……正直、見てもらうことすら恥ずかしかったです。 しかし…… 和馬 「ありがとう、フィー。……お礼は絶対するから」 和馬さんはこんな私の作った出来栄えの悪い人形を、笑顔で受け取ってくれました。 嬉しかったです。 十五年生きてきて、初めての贈り物を受け取ってくれた和馬さんに思わず抱きついてました。 ……お礼? ふと、和馬さんの一言が気になりました。 和馬 「こっちももうすぐ出来るから……」 ……『こっちも』? 和馬 「リーぜの指じゃ裁縫張りは難しかったけど……コツさえ覚えれば何とかなるみたいだし……」 なんと和馬さんも …………これで私より上手かったら……苦労して作った私の立場は一体。 そんなことを呆然と思わせられたそんな瞬間でした。 |