その18.0【二人だけの秘密】

船旅を終えて、私たちはエタファに着きました。
アーカイア一の大都市、「麗しの都」と異名を持つこの街はとても大きく、活気に満ち溢れています。
シュピルディムの街から一歩の出たことのない私にとって、この活気のある街並みは……圧巻としか言い用のないものです。

レグ 「さて……これからどうする?」
和馬 「やっぱり……路銀を稼がないと、この先困りますからね……短期間の仕事があればいいんですが」
ブラ 「和馬殿の言う通りだな」
遼平 「何をするにも先立つものを……ってか」
哲也 「そうだったな。俺達、一応無職なんだよな?」
フォル「では、フォルとマリーカとリョーヘイで依頼を探してまいろう。……いくぞ!」
マリー「お供いたします。フォル様」
遼平 「ちょ……待てよ」

シェフ「行ってらっしゃいませー」

…………。

哲也 「俺たちはどうする?」
ブラ 「……何もすることが無いんなら自由時間としよう」
和馬 「じゃあ……宿で落ち合うことにしますか?」
レグ 「そうだな」

……という訳で私達は、バラバラに行動することにしました。

ブラ 「フィオナ殿も、歌術図書館に行くのか?」

ブラーマさんのその言葉に肯定して、私はブラーマさんと一緒に歌術図書館に行くことにしました。
何故、図書館に行くのかということを聞いてみると……

ブラ 「レグを支えるためにも……これまで以上に歌を歌えるようにならないと……」

今までもブラーマさんは、レグニスさんを一糸乱れぬ連携で支えてきました。
その息のあった連携は、同じ歌姫として本当に悔しいですけど……私には出来ません。

しかも、ブラーマさんはこれ以上を望んでいるんですから……凄いとしか言いようがありません。

歌術の本を一緒に探している中……ちょっと気になったので、何故これ以上を望むのかということを聞いてみました。

ブラ 「私は……あいつに護られてばかりだから……その分、支えてやりたいのだ……」

レグニスさんのことを話すブラーマさんは、パッと輝いていて……本当に綺麗な顔をしていました。

ブラ 「だから……私はレグと一緒にいたい」

ブラーマさん……レグニスさんのことが本当に好きなんだ……

……その瞬間、私はそう確信していました。
次の瞬間……ブラーマさんの顔が真っ赤にしてましたけど。

ブラ 「……フィオナ殿。このことは誰にも……」

分かってますよ。ブラーマさん。このことは私の胸だけに秘めておきます。誰にも話しません。絶対に

ブラ 「よかった。さて……雑談はこの辺にしておいて……」

この話はこれまでです。私も……和馬さんに護られてばかりじゃいられません。

私達は、それぞれ本に手をかけました。


この話は……私達だけの秘密です。

その18.5【はじめての依頼】

さて……日も暮れて、私達は宿に戻り、皆さんと合流しました。
ただ、依頼を受けに行っていたフォルさんたちが帰ってこないのが心配で、探しに行こうとした矢先、

マリー「皆様!……助太刀をお願いします!!」

マリーカさんが、本当に珍しく慌てた様子で宿の扉を開けてました。

レグ 「どうした?」
マリー「フォル様と遼平様が……立ち往生していたキャラバンを助けようとしたところ……何者かに襲われて……!!」

その言葉に既に皆さんは動いていました。

…………。

哲也 『ふふふふふふふふふふ……』

奏甲に乗り込んで戦闘起動で、キャラバンが立ち往生している場所へ向かっていると……突如として哲也さんがそんな笑い声を上げていました。

哲也 『苦節一ヶ月……、ついに、ついにまっとうな相手が……!』
シェフ『あの……哲也様……?』
哲也 『言語道断! 因果応報! 眼龍点睛! 後々に禍根が残らぬよう、完膚なきまでに粉砕してくれるわーーーーーーっ!!』
シェフ『哲也様、落ち着いてーーーー!?』

なんだか嬉しそうなんですけど……まぁ、今の哲也さんにそれだけ戦意があるということです。

レグ 『敵の規模は?』
マリー『全容は掴みかねます。……ただ、奏甲もいたのは確かです』
ブラ 『レグ……!!』
レグ 『分かっている!』

レグニスさんのビリオーンが一段と速度を増して、それこそ疾風のように駆けていきます。

和馬 『フィー、少し飛ばすよ!』

その言葉と共に、鈍重なはずのリーゼが、物凄い速度で走り始めました。

街を一気に駆け抜けて、奏甲のような影が見えてきました。それも複数。
見たことのない型の奏甲なんですが、大型で重装甲のようです。
それに対峙するかのように遼平さんのシャルV。その背後にキャラバンのものと思しき奏甲クラスのものが運べる貨車が止まっていました。

フォル『無抵抗のキャラバン隊を襲うとは、なんと恥知らずな!』
遼平 『…………』

遼平さんたちに追いついてみると、フォルさんは相変わらずな様子で相手方の奏甲に啖呵を切っていました。
その勇ましい一言で、相手の奏甲は怯んでいる様でした。

フォル『リョーヘイ……どうした?』
遼平 『何でもない』

〈ケーブル〉上で広がる相変わらずなその会話に、私は二人が無事だと確信して安心しました。

マリー『フォル様、ご無事ですか?』
フォル『戻ったか、マリーカ』
マリー『皆様もお連れしました』

たどり着いた私達はすぐに戦闘体制に移ります。……敵は待ってはくれません。

フォル『そうか……義を見てなさざるは勇なきなり、だ。行くぞリョーヘイ!』
遼平 『それはいいが、なんで武器が槍に変わっているんだ?』
フォル『敵は複数だ。乱戦になろう。乱戦でのエモノは槍の方が有利だ。存分に腕をぶすがよい』
遼平 『……何が何でも、俺に武芸十八般を叩き込むつもりか』

さて……長くなりそうなので、続きはまた今度。

その19.0【裏側?】

見たことのない奏甲が四機。そのどれもがキャラバンを狙っていたのですが……
遼平とフォルさんがうまく立ち回ってくれて時間を稼いでくれたお陰で、キャラバンの誰一人として、犠牲になることはありませんでした。

それでも数の差は歴然としていて……少しずつですが、押されていました。
ですが――

和馬 「遼平さん……伏せて!!」

ケーブルを介したその会話に遼平さんは思わず伏せて……

最初は、遼平さんの目の前にいた奏甲でした。
私の歌う「神々の雄叫び」にその奏甲が半壊して、その直後、止めといわんばかりに和馬さんが大斧を投擲して、見事に命中させてました。
和馬さんも無茶をします。……一歩間違えば遼平さんの奏甲に当たってたんですが、これは結果オーライということで……
それでもリーゼ級が使うような大斧が突き刺さったんです。アレで動いたらそれだけで驚愕の事実です。

まぁ、案の定その奏甲は動くことはありませんでした。

殆ど原型をとどめてないその奏甲に恐れを抱いたのでしょう。……残る三機がひるんでいる隙に乗じて、残るレグニスさんと哲也さんが遼平さんたちに合流します。

レグ 「無事か?」
遼平 「今のところは……!」

陣形を組み直して、怯んでいる三機の奏甲は即座に、あっさりと叩き伏せられました。

フォル「所詮は恥知らずな連中か。なんとも他愛ない事よ」
マリー「皆様がお強いのですわ。きっと」
ブラ 「しかし……見たことのない奏甲だったな」
レグ 「ああ。装甲も意外と厚かったが……それでも操縦者が未熟だったな」

戦闘が終わり、報酬(というより口止め料みたいなものでしょうか)を頂いて……私達は宿に戻ることにしました。

哲也 「うーむ、この程度の敵が相手では防衛に徹する必要もないな」
シェフ「それより、何でダビングシステムとかリダクションシステムをフル起動ささせて戦っているんですかーーー?!」
哲也 「ん?だって折角ついているのだから使わなければ損じゃないか」
シェフ「そーいう問題じゃないでしょーーー?!」

帰り道、なんだか哲也さんがシェフさんに怒られてましたが……なんだかほほえましく見えるのは……多分気のせいではないとおもいます。

フォル「しかし、ああいう連中を見ておると、リョーヘイと出逢った時を思いますのう」
遼平 「……俺をあんな連中と一緒にするんじゃねぇーよ」

フォルさんの言葉にいつにも増してぶっきらぼうな遼平さんだったんですが……

マリー「勿論でございますわ。遼平様」

マリーカさんの言葉に、顔を向けると……

フォル「リョーヘイはもっと弱かったからのう」
和馬 「そうなんですか?」
フォル「うむ。まさしく下の下といったところであろう。こうしてフォルが鍛えなおさねば……今頃はどうなっていたことやら」

遼平さんが撃沈してました。

哲也 「よし、今度はマシンガンだ」
シェフ「また買ってるしー−−−っ!?」

何故でしょう。さっきまで一緒に歩いていたはずの哲也さんの奏甲に奏甲用の大型マシンガンが搭載されてます。

マリー「……フォル様の精一杯の表情……垣間見ることが出来ることが出来ました。……駒とはいえ、本当に感謝いたしますわ。おほほほ」

何故でしょう。……マリーカさんが凄く悪の親玉っぽく見えるのは気のせいでしょうか?

その20.0【ひとやすみ】

今日は、奏甲の定期点検も兼ねて宿で一休みです。
ですが……暇です。暇なんです。
ブラーマさんは、コニーちゃんのお世話に忙しそうだし……レグニスさんは外で「標的壱号」と書かれた藁人形に、物凄い勢いでナイフを投げてます。
その脇では、遼平さんとフォルさんがすでに日課となっている鍛錬を続けていて、マリーカさんが微笑ましくその光景を見ていたりします。
和馬さんは……奏甲整備の当番ということで、責任者として工房のほうに出向しています。
暇です。……とても暇なんです。

今日の日記は……そんな暇を持て余そうと、宿の一階にある食堂でちょっとだけ早い昼食を取りながら書いてます。

哲也 「うー。暑い」
シェフ「只今戻りました――ってフィオナ様?」

街に情報収集をしに出かけていた哲也さんとシェフさんが帰ってきて、三人で他愛もない会話をしていると……

哲也 「……何か、トンデモない化け物の噂を聞いたぞ」
シェフ「亡霊島の話ですね?」

哲也さんが切り出してくれた話は、暇を持て余していた私にとっては、猫にマタタビ。ピラニアに霜降り肉。暇な淑女に面白そうなお話……です。

???「淑女はないと思うぞ。せいぜいこど――」

私はその声が聞こえてきた地点を正確に〈火花のマドリガル〉で壁ごと吹き飛ばして……哲也さんの話に聞き入ることにしました。
散々和馬さん(一部遼平さんも……ですが)を的に練習してきた歌術です。
和馬さんの犠牲は無駄には出来ません。

マリーカ「只今戻りましたわ」

と、私が吹き飛ばした地点から少し離れた場所から食堂に入ってきました。
何故かマリーカさんが、私に微笑みかけているんですが……その笑顔がほんのちょっとだけ怖く感じた私は、笑顔で還すことくらいしか出来ませんでした。

フォル「先程……遼平が吹き飛ばされたように見えたが……マリーカ、分からぬか?」
マリー「はて……どうされたのでしょう? ……フィオナ様は心当たりはありませんか?」

……私は笑顔でしか返せませんでした。
なんというか……察してください。お願いします。

フォル「哲也殿……続けてくれぬか?」

哲也 「ああ。何でも、現世で傭兵をやっていたという騎士団が一瞬にして壊滅に追い込まれたらしい」
シェフ「……それは」
哲也 「ああ、化け物さ。だが、それでこそ倒しがいがあるとは思わないか? フォルシーニア殿はどう思う?」

フォル「ふむ……リョーヘイも「奇声蟲や野党程度では物足りない」とか言っておったような……」
シェフ「でも、場所が遠いのが難点なんですよねぇ……」

地図を広げた哲也さんが道順を追っていると……

哲也 「結構遠いな」

そうです。
亡霊島までは、ここエタファから……船でポザネオ島に戻って、更に定期便で亡霊島まで行くという結構手間のかかる道のりになってしまいます。

哲也 「……また、機会があれば……ってところか?」

その発言に、私を含む全員がいっせいに頷いていました。
そして、皆さんはまたそれぞれ別々に分かれていきました。


???「……そ、ま……め。……しゃれに……ものを……けしかけ――――」

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