前回のあらすじ
リーズ・パス頂上にて大量発生した奇声蟲…。
無力な旅人を護るため愛機と一人、死地に残った機奏英雄 柊 和十
避難する旅人を励まし、護りながら麓へと急ぐ、和十の宿縁 ユリアナ・ルーベンス

一方、そのころ麓では一組の英雄と歌姫が何も知らずにリーズ・パスを越えようとしていた…。


たった一人の護り手 (中編)

〜リーズ・パス頂上付近〜
そこには夥しい数の奇声蟲が集まっていた。
蟲達は麓を目指しているようだが、中々進めていない…。
麓へと通じる狭い街道…、
その中央には純白の絶対奏甲…グラオグランツが、蟲達の行く手を阻むように立ち、蟲達と死闘を演じていた…。

和「くそっ!!さすがに数が多い!!」

すでに周囲には十数体の蟲が死骸となって転がっている…。
しかし、和十の目の前にはそれに数倍する数の奇声蟲がおり、虎視眈々と和十のグラオグランツを狙っていた…。

和「ユリアナ!今、どの辺りだ!?」
ユ「まだ最後尾が中腹に差し掛かったところだ!麓まではまだかなり時間が掛かる!!そちらの状況は!?」
和「(奏甲の状態をチェックする)機体にダメージはない…、幻糸炉の出力も安定してはいるが…っうぅぅ!?」
ユ「和十!?大丈夫か!?」

<ケーブル>での会話の合間…、ほんの僅かの隙を突いて、三匹の奇声蟲がグラオグランツに突進してきた。
一匹を太刀で横薙ぎにし、もう一匹は機体を捻ってかわす…、がもう一匹の突進は…、避け切れずもろに奏甲で受け止めてしまう。

和「ちぃぃ、衛兵のくせに…!!」

太刀を逆手に持ち替え、突進してきた蟲に突き立てる。さらに引き抜き様、先程かわした蟲を逆袈裟に切り捨てる。

ユ「無事なのか?和十!?」
和「ああ、俺は問題ない。グラオは、…装甲と脚に少しダメージをもらったくらいだ」
ユ「脚!?戦闘継続は…大丈夫なのか!?」
和「大丈夫だ。それより今の内に『織歌』を!!…走りながらではキツイだろうが…」
ユ「走りながらの『織歌』か…。まぁ、普通の歌姫にはキツイのだろうが、私は傭兵時代によくやっていたから…。では、いくぞ…!!」

ユリアナの掛け声と共に、<ケーブル>から美しい旋律が流れてくる。
それに伴い、幻糸炉の出力は上昇、機体も安定する。
そして何より…

和「(何度、聴いてもいいものだな、アイツの織歌は…)…よし!!持ち直した。」

美しい旋律の響く中、グラオグランツは再び奇声蟲の群れに正対する。

和「さぁ、第二ラウンドといくか…。ユリアナ?」
ユ「こちらも問題ない。…時間的にはそろそろ先頭が麓に着く頃だが…」
和「わかった。もう少し時間を稼いだら俺も撤退にかかる」
ユ「まだ時間稼ぎをするのか?もう大丈夫ではないか?」
和「いや…。さっきから結構潰してはいるんだが、一向に数が減った気がしない…」
ユ「…………」
和「どうした?」
ユ「…気を、つけて…」
和「…何、情けない声出してんだ、お前らしくないぞ?…大丈夫だ、それより麓へ急げ!!」
ユ「…私らしくない、か…。それもそうだな。お前も必ず麓まで戻って来いよ!!」
和「ああ!!」

和(まぁ、不安になるのも分かるが…。…にしてもさっきから数が減らんな…。
  いや…、むしろ増えてないか?…数が増えてるってことはやっぱ貴族種がいるんだろうな…。
  活動時間が残っている間に出てきて欲しいものだが…。…ん!?)

当にその時だった。群れの中心に貴族種が姿を表したのは…。

和「やっとお出ましか…。ヤツを倒せばこの群れは瓦解するだろうな…。…一か八か危険だが、突っ込んでみるか?……ユリアナ」
ユ「どうした?和十」
和「貴族種が出た…」
ユ「なんだと!?……それで、どうするつもりだ、和十?」
和「ヤツを倒せば全てにカタがつく。…危険だが突っ込んで仕留める。」
ユ「……そう言うと思ったよ…」
和「ふっ、さすがは宿縁の歌姫」
ユ「別に宿縁だから分かったんじゃない。…お前はそういう男だからな」
和「やれやれ…。…強行突破になるからダメージが増えると思う、その分おまえに負担が掛かってしまうが…」
ユ「私のことは気にしなくていい。さっさと終わらせて戻ってこい!!」
和「了解」

和十はグラオグランツを貴族に向けて突撃させる。
突撃を阻もうと突進してくる衛兵を太刀で斬り捨てながら貴族種への道を開く。一刻も早く決着をつけるために…。

和「いっけぇぇぇぇ!!」

〜リーズ・パスの麓〜
和十が膠着した、というよりむしろ不利になりつつある状況を打開するための賭けに出たちょうどその頃、
麓では一組の英雄と歌姫が山越えの準備をしていた。

英雄の名はソード・ストライフ。歌姫の名はネリー・シュバイン。

ソ「ネリー、準備はできたか?」
ネ「あっ、ソードさん。…こちらの準備はできましたよ」
ソ「それじゃ、そろそろ行くか…」

ソードが自分のカスタム奏甲…ビリオーン・ブリッツTC(ターボカスタム)のコックピットに収まり奏甲を起動させる間、
ネリーはなんとなくこれから登っていく街道を見上げて見た…。

ネ「えっと…あ、あの、ソードさん?」
ソ「どうした、ネリー?」
ネ「あ、あれを見てください…」
ソ「ん?」

ソードとネリーの視線の先…、そこには街道を麓へ…、つまりソード達の方へ死に物狂いで走って来る人々の姿があった。

ネ「…頂上で何かあったんでしょうか?」
ソ「たぶんな…、…聞いてみるか…」

麓に辿り着いたことで安心したのか、はたまたもう走る余力さえないのか…、旅人達は地面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返している。

ソ「おい、大丈夫か?…上で何かあったのか?」
旅「はぁ、はぁ…、ちょ、頂上に奇声蟲が大量に発生したの…」
ソ「奇声蟲が?…ならなんであんた達は無事なんだ?」
旅「はぁ、はぁ…、た、旅の機奏英雄と歌姫の方が足止めをしてくださって…」
ソ「なるほど…。奇声蟲の数はわかるか?」
旅「はぁ、はぁ…、たぶん30か40、いやもっといたかもしれません…」
ネ「…ソードさん…」
ソ「…………」
ソ(…面倒くさい…いや、先に進むなら他に道はないしな…仕方ない、始末するか…)
旅「あ、あの、大変身勝手で申し訳ないのですが、あの機奏英雄と歌姫の方を助けに行ってはもらえないでしょうか?
  あの方達はたった一機の絶対奏甲で私たちを護りながら逃げる時間を稼いでくれているのです」
ネ「…ソードさん、その英雄と歌姫の方達を助けにいきましょう!」
ソ「…急ぐぞ、ネリーはここから織歌での支援を頼む」
ネ「はいっ!…気をつけてくださいね、ソードさん。数が多いですから…」
ソ「わかった」

ソードのビリオーン・ブリッツTCが戦闘起動し、全力で頂上を目指す。

死地で孤軍奮闘する一人の英雄の元へ…。


あとがき

やっと中編が書き終わりました。ソードさんには出演していただき感謝の言葉もありません。
さて、次はいよいよ"あれ"が発動します。どんな風になるかは……正直自分にも分かりません(笑) みなさんに楽しんでいただけたら幸いです。

戻る