前回のあらすじ

 

リーズ・パスの頂上付近で奇声蟲と死闘を繰り広げる機奏英雄 柊 和十

避難する人々を護りつつ、和十の身を案じる宿縁の歌姫 ユリアナ・ルーベンス

一人、戦う和十を救うべく頂上を目指す機奏英雄 ソード・ストライフ

麓でソードの無事を祈る宿縁の歌姫 ネリー・シュバイン

 

 活動時間も残り少なく、退路も断たれつつある和十…。

 彼は自らの信念と力なき人々を護るため最後の賭けにでる!!

 

 

           たった一機の護り手(後編)

 

 ソードの『ビリオーン・ブリッツTC』が全力で頂上を目指していた頃…、

 リーズ・パスの頂上付近で繰り広げられている奇声蟲と和十の死闘は、和十にとって危機的状況へと向かいつつあった。

 

和「くっ!!なんて厚みだ…」

 

 一気に決着を付けるべく、貴族種への突撃を試みた和十であったが、

 その意図を読み取った貴族種の指示により築かれた衛兵の厚い壁をなかなか越えることができずにいた。

 確実に衛兵の壁を斬り取り、貴族種へ接近してはいたが、愛機は少しずつ損傷し、太刀の切れ味は鈍っていく…。

 

ユ「…和十、状況は…?」

和「いいとは言えないが貴族まであと少しだ!おまえは大丈夫か!?」

ユ「はぁ、はぁ、くっ、…なんとかな」

 

 麓までかなりのスピードで走っている上に、奏甲が受けたダメージもフィードバックしているため、

 さすがのユリアナも体力の限界に近づきつつあった…。

 

和(このまま戦闘を続けるとアイツが倒れるな…)

和「ユリアナ」

ユ「はぁ、はぁ、…なんだ?」

和「こっちはリダクションシステムを起動させてもたせる!リンクをカットして少し休め!!」

ユ「……すまない、そうさせてもらう…」

 

 やはりキツイのだろう、普段こういうことを言えば必ず「何を言う!?お前が戦っているのに私が休めるか!!」と、
 食って掛かるユリアナが、今だけは大人しく引き下がった。

 

和(やはり、アイツも相当ダメージが溜まっているな。まぁ、かなり攻撃を受けているからな…)

 

 愛機・『白虎』の状態をチェックしてみれば、装甲の損傷率は40%を超え、関節も一部は既に焼きついてきている…。

 

和(やっぱり無謀だったな・・・。しかし、あの状況ではこれが最善の方法だったし…)

 

 状況は不利になっていくばかりだったが、和十は『白虎』と共に足止めに残ったことが間違いだとは思っていなかった。

 もし、自らの命を惜しみ逃げたことで多くの人々が蟲の餌食になったならば、彼は一生後悔していただろう。

 

和(まぁ、今更何を言っても始まらん…。貴族まであと少し!)

 

 衛兵の壁はだいぶ薄くなっていた。しかし、和十はまだ気づいていなかった。

 幾多の戦いで彼とユリアナ、そして、数多くの人々を護ってきた『白虎』の太刀が、静かに限界を迎えつつあることに…。

 

和「!! よし見え…」

 

 『白虎』が目の前の衛兵を斬り捨て、突破しようとした瞬間、

 今まで和十と衛兵の戦いを静観していた貴族種が『白虎』に凄まじい体当たりを仕掛けて来る。

 

和「なにっ!?」

 

 咄嗟に太刀を上段から振り下ろし斬り捨てようとするが、凄まじいスピードと衝撃で突っ込んでくる貴族種を
斬ることはできず、逆に吹き飛ばされてしまう。

 

和「くぅぅぅ!さすがは貴族種。硬いし、強い!」

 

 すぐさま『白虎』の体勢を立て直し、太刀を正眼に構え直す。そして…。

 

和「ダメージは…思ったほどではないか」

 

 剣士が一番聞きたくない音・・・愛刀の寿命を告げる音が聞こえた。

 

「ピシッ!」

 

和「!?」

 

 『白虎』が正眼に構えた太刀…その中程には大きな亀裂が走っていた。

 

和「……ここまでの無理がたったか。この亀裂の入り具合だと、貴族種が相手ではあと一撃が限界だな。

  殆ど無傷の貴族を一撃で仕留める…じいさんならできるだろうが俺には無理だな。しかし!!」

 

 『白虎』は太刀を鞘に収め、抜刀術の構えをとる。

 

和(この一撃に集中だ!!外せば…いや、失敗した時のことなど考えるな!!)

 

 貴族種も衛兵種も動かない。しばらく、その場の全ての動きが止まる。

 その膠着状態を破ったのは…和十でも貴族種でもなかった。
 貴族種の指示か、あるいは蟲の本能か、4,5匹の衛兵種が麓を目指して動き出す。

 

和「なっ!?…くそ、そんなにもたないのに!」

 

 『白虎』は構えを解き、動き出した衛兵種へと向かう。
 だがその行動は貴族種に致命的な隙を見せることになった。

 『白虎』が2匹の衛兵種を倒したところで、再び貴族種が突進して来る。

 

和「ちぃい!」

 

 なんとか貴族種の突撃を避け、すれ違い様に放った一撃。

 それは、その強烈すぎる威力故に刀身が貴族種の外皮に達したところで、太刀を折ってしまった。

 そして止めることのできなかった貴族種の突進は『白虎』を周囲の衛兵ごと吹き飛ばした。

 

和「痛ぅう!!強烈すぎるな、これは。…機体も限界か」

 

 立て直そうとしても反応しない機体…。

 『白虎』はすでに戦闘稼働できないほどのダメージを受けていた。その上、唯一の通常兵装は先程失われた。

 周囲を見渡せばすっかり囲まれている上に、4,5体の衛兵種は麓へと向かっていた。

 

和「(…麓へ向かうヤツはアイツにまかせるしかないか、残りは…)ユリアナ!!」

ユ「和十!どうした!?」

和「すまん!抜かれた!!」

ユ「数は!?」

和「4、いや5匹だ!!」

ユ「わかった!そいつ等は私にまかせろ!!」

和「頼む!……ユリアナ」

ュ「なんだ?」

和「………なんでもない」

ュ「おかしなヤツだな。それより私の体力も回復したことだし、リンクを繋ぐぞ」

和「いや!ダビングシステムはまだもつし、こっちはもうすぐカタがつく!!

  それにお前はいまから生身で奇声蟲の相手をすることになるんだから負担は少ないほうがいい」

ュ「そうか…。ならば、早く終わらせて戻ってこい」

和「ああ」

 

 和十はユリアナを心配させまいと嘘をついたが、彼が言ったことはある意味、正しかった。

 頂上付近での戦いの決着はつきつつあった。彼の敗北という形で・・・。

 

和「アイツが気づく前に終わらせないとな」

 

 そう言って和十は『白虎』に装備されている特殊兵装の起動準備に入った。

 

和「まさか本当に使う羽目になるとは思はなかったな。半分冗談のつもりで積んだんだが…。

  アイツを死なせるわけにはいかないのでな。俺につきあってぞ、蟲ども」

 

 彼が起動準備をしていたモノ。それは…自爆装置だった。

 

 

あとがき

今回で終わる予定だったのに! すみませんソードさん!!今回は出番がありませんでした…。

次回の「決着編」では大活躍の予定・・・です。ほんとすみません。

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