前回のあらすじ

 

 頂上では和十が奇声蟲と死闘を演じ、

 麓からソードが和十のいる頂上へ急ぐ中・・・、

 中腹では旅人を先に逃がしたユリアナが、一人佇んでいた・・・。

 

       たった一機の護り手 (決着編1)

 

「いよいよ来るか・・・」

 

 愛用のグレートソードを背負った鞘から引き抜きつつユリアナは呟いた・・・。

 和十からの連絡から早数分・・・、奇声蟲の移動速度ならそろそろユリアナの目の前に姿を表す筈である。

 

「そういえば久しぶりだな、私一人で奇声蟲の相手をするのは・・・」

 

 グレートソードを右腕で構え、左腕を首のチョーカーに添えたユリアナは、

 不意に攻撃歌術である「白月夜フーガ」を紡ぎ出す・・・が、周囲にその効果は現れず、

代わりにチョーカーが金色に輝きだした。

 

「よし、準備はできた。 ・・・来たな」

 

キシャァァァ!!

ユリアナの目の前には『ノイズ』を発した奇声蟲が5匹、連なって現れた。

 

「『ノイズ』か・・・。残念だが、私にはきかない」

 

 本来、歌姫に致命的なダメージを与えるはずの『ノイズ』だが、

ユリアナは全く影響を受けずにグレートソードを構えて立っている。

 

「さぁ、来い!ここで私が貴様らを食い止めてみせる!!」

 

 『ノイズ』が利かないなら踏み潰すとばかりに奇声蟲が突進を始める。

 奇声蟲が突進するのと同時に、ユリアナも奇声蟲に向かって駆け出した。

 瞬く間に蟲とユリアナとの距離が詰まっていき、先頭の一匹がユリアナを踏み潰そうとした瞬間、

 奇声蟲の目の前からユリアナの姿が消える。

 

「遅い!!」

 

 蟲に踏み潰される直前に右へ飛んだユリアナが、チョーカーを左腕で押さえながら華やかなメロディを紡ぐ。

 それは最後尾の一匹に向けた「神々の雄叫び」のメロディだった。

 

「とっておきだ・・・くらえ、『二重唱』!!」

 

 「神々の雄叫び」の効果が出た直後、ユリアナの周囲の石や岩が舞い上がり、

 瞬く間に槍の穂先のように鋭くなると、奇声蟲に向かって凄まじいスピードで向かっていく。

 それはまさしく先程紡いだ「白月夜フーガ」の効果であった。

 

ドス、ドス、ドスッ!!

ギシャァァァ!キシャァァァ!!

 

 最後尾の奇声蟲は、「神々の雄叫び」と「白月夜フーガ」の二つの歌術で絶命し、残りの4匹も深手を負った。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 すかさず跳躍し、後ろから二匹目の奇声蟲の頭部に向かって、真紅のグレートソードを振り下ろす。

 

キシャァァァ!!

 

 振り下ろされた真紅のグレートソードは深々と蟲の頭部を切り裂き絶命させる。

 

「二匹目! 次!!」 

 

 動きを止めずに次ぎの奇声蟲へ走り、その勢いを止めることなく、口から頭部へと鋭い突きを放ち、仕留める。

 

「三匹目! つ・・・!?」

 

 三匹目を仕留め、次に向かおうとしたユリアナは愕然とする。

 深々と三匹目の奇声蟲の頭部に突き刺さったグレートソードは何かに引っ掛かって容易には引き抜けそうになかった。

 そこへ残り二匹の内の一匹が突進して来る。

 

「くっ・・・!」

 

 咄嗟にグレートソードから手を離し、蟲の突進を避け様としたユリアナであったが、

間に合わず吹き飛ばされ岩に叩きつけられてしまう。

 

「痛っ!私としたことが、こんな事で・・・!!」

 

 叩きつけられた拍子に脚を挫いたのか立ち上がることもままならないユリアナの目の前には、

 二匹の奇声蟲・・・。

 

「ここまでか・・・。和十・・・」

 

 和十に謝ろうと念話を試みるユリアナであったが・・・

(!? 念話が通じない!? 和十、何があった!?)

 

「何かあったのは間違いない・・・。クッ!確かめたくても・・・」

 

 目の前には二匹の奇声蟲・・・。この状況では和十の状況など確かめに行くことなどできるわけもなく、

 むしろ自分の命の方が危険である。

 

「くっ!」

 

 ユリアナが死を覚悟した瞬間であった。

 

ボシュッ、ボシュッ、ボシュッ!

 

 飛距離ギリギリであろうか?微かに麓の方からグレネードの発射音が聞こえ、着弾!

 ユリアナの目の前にいた二匹の奇声蟲を正確に捉え、粉々に打ち砕いた。

 

「っ!!」

 

 至近弾のためユリアナにも凄まじい衝撃が襲ってくるが幸い、ケガを負う事はなかった。

 着弾により発生した土煙の向こうに見覚えのある奏甲が走り寄ってくるのが見える。

 

「無事か?」

「貴様!私を殺す気か!?・・・お前は、ソード?」

「ユリアナ?・・・という事は頂上で足止めをしてるのは和十か?」

(ソードさん、どうかしたんですか!?)

「どうやら例の英雄と歌姫は、和十とユリアナのようだ、ネリー」

(ホントですか!?それで御二人は?)

「ユリアナはケガをしているが無事だ。和十は・・・頂上にいかないと分からないがユリアナが無事だから大丈夫だろ?」

「そうでもないんだ、ソード!頂上に急いでくれ!!」

「?」

「実は『白虎』は今、ダビングシステムを起動して戦っているんだが、念話が通じないんだ!!」

「なんだと?」

「和十が故意に<ケーブル>を切ってるんだ!つまり頂上で何か遭ったんだ、急いでくれ!!」

(ソードさん!!)

「・・・急いだ方がよさそうだな。帰りに拾ってやるからユリアナ、お前はここで待ってろ」

「すまない、そうさせてもらう」

 

 ソードのビリオーン・ブリッツTCはユリアナから十分に距離を取ると、

 両脛外側に増設されたブースターを起動し、凄まじいスピードでユリアナの視界から消えていく。

 

「頼んだぞ、ソード。和十、無事でいてくれ・・・!?」

 

 突然、ユリアナの脳裏にある光景が浮かぶ。

 奇声蟲の群れに取り囲まれ擱坐している純白の絶対奏甲。

 少し離れたところの転がっている中程で折られた太刀。

 それはまさしく和十の乗っている『白虎』の姿であった。

 

 そして次の瞬間、『白虎』の外部装甲が吹っ飛ぶと同時に、
 周囲に凄まじい勢いでベアリングが飛び散り奇声蟲を薙ぎ倒していくが、全ての奇声蟲を倒すには至らない。

 

(なっ!?こ、これは!?)

 

 不意に映像が切り替わる。

 そこには頭部から血を流している和十が映っていた。

 

「くそ!ベアリング弾だけじゃ全部は始末できないか、やっぱり『クリムゾン・バーニング』を起動させないと無理か」

 (『クリムゾン・バーニング』だと!?そんな武装はしらんぞ!?それにあのベアリング弾は!?)

 

 映像の中の和十はユリアナの知らない武装を起動すると静かに目を閉じた。

 

「・・・すまない、ユリアナ。麓には戻れそうにない」

(なっ!?どういうことだ、和十!!)

 

 ユリアナの叫びは映像の中の和十には届かない。・・・次の瞬間!

 『白虎』のアークドライブが爆縮! 
 『白虎』からは紅蓮の炎が広がり奇声蟲も木も岩も、周囲にあるもの全てを焼き尽くしていく。

 無論、それは『白虎』自体をも焼き尽くした。 

 

(こ、こんな!こんなことって!!和十〜〜!!!)

「はっ!?」

 

 『クリムゾン・バーニング』が周囲を焼き尽くしたところでユリアナは現実に立ち戻った。

 

「今のは・・・、これから起こること・・・」

 

 自身の特殊能力で垣間見た未来に呆然としたが、直ぐに止めさせようとしたユリアナであったが・・・。

 

「まだ、まだ今なら止めさせられるはず!・・・くそ!!」

 

 止めさせようにも和十に<ケーブル>を切断されているために連絡する手段がない。

 

「こんな力あったって!自分の宿縁一人守ることができないじゃないか!!」

 

 ユリアナが自分の無力さに打ちひしがれていると、不意に胸元で輝き出すモノがあった。

 

「!?」

 

 胸元で輝いていたモノ・・・、それは『封印のロザリオ』だった。

 そして、ロザリオから、優しい声が直接、頭に響いてくる。

 

???(嘆くことはありません。確かに彼の行動を止めることはできません。
    しかし、貴方には彼の傍にいなくても彼を護ってあげられる力があるのですから)

「こ、これは!?いや、それより和十を護る方法とは何だ!?」

???(落ち着いて。いいですか?今から私が紡ぐ旋律をなぞってください。
    ・・・ただしこれは、後々貴方と彼に厳しい試練をもたらしますが、それでも構わないのですか?)

「構わない。和十を護れるなら私はなんでもする!」

???(良い覚悟です。では・・・)

 

 頭に響いてくる不思議な旋律を紡ぐと、チョーカーが今までにない虹色の輝きを放ち出した。

 見知らぬ歌術を必死に紡ぎながらユリアナは思った。

 

(どうか和十のもとに届いてくれ!彼を護る力よ!!)

   あとがき
なんで終らんかなぁ〜。まぁ、次で終ると思いますが・・・。
ソードさん、出番が少なくて申し訳ありません。

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