前回のあらすじ

和十が「白虎」の自爆装置を起動させてしまう未来を予知したユリアナ。
未来を予知できても和十を救うことができないと嘆く彼女に謎の声が囁く。
他に方法がない彼女は声に従い、未知の歌を紡ぐ・・・。
それが後々彼女と和十にどんな試練をもたらすかわからぬまま・・・。

果たして彼女は自身が垣間見た未来を変えることができるのだろうか!?


たった一機の護り手(決着編2)

ユリアナが謎の声に従って、未知の歌を紡いでいた頃・・・。
『白虎』に搭載されている自爆装置『クリムゾン・バーニング』の作用により、
『白虎』に積んであるエンシェントドライブは臨界を迎えつつあった。

「臨界まであと数分か・・・。」

頂上付近で擱座した『白虎』の周囲は奇声蟲で埋め尽くされていた。
モニターが死んでいるため、奏座にいる和十には自分の周囲の光景は見えないが、
ガリガリと奇声蟲が装甲を齧る音だけは聞こえていた。

「蟲に食われるのは勘弁してもらいたいな・・・。ん!?」

『白虎』の中で成す術のない和十の耳に、奇声蟲が装甲を齧る音に混じって何か別の音が聞こえた。

ボシュ、ボシュ、ボシュッ!! タタタッ、タタタッ、タタタッ・・・。
ギシャァァァ!!

周囲にグレネードとマシンガンの着弾音、そして奇声蟲の悲鳴が木霊する。

「・・・援軍?誰だ、一体?いや、それよりこのままでは自爆に巻き込まれるぞ!?」

援護に来た機奏英雄に早くこの場から離れるよう伝えようとするが、
既に機能の大半が死んでいる『白虎』の通信装置は沈黙している・・・。

「くそっ!通信機だけでも復旧させなければ・・・!!」


一方、頂上付近に到着したソードの目の前に広がる光景は、
夥しい数の奇声蟲とその奇声蟲に囲まれ、大破している『白虎』・・・。

「多いな・・・」
(ソードさん、和十さんの様子はどうなんです!?)
「わからん」
(・・・ふざけているんですか!?)
「いや、ふざけてはいないが・・・」
(じゃあ、何なんです!?「わからん」っていうのは?)
「蟲に阻まれて、確認できん」
(そんなに蟲がいるんですか!?)

ソードは周囲を見渡してみる。頭から両断された蟲や腹部に大穴の空いた蟲の死骸・・・。
それらはどう少なく見積もっても、20体分以上はある。
しかし、ソードの目の前にはその倍以上の数の衛兵種と貴族種が、新たに現れた獲物に向かって
その牙を研いでいた。

「いるな。・・・ネリー、『二重奏』を頼む」
(わかりました!いきます!!)

<ケーブル>からネリーの『二重奏』の旋律が響いてくると、ビリオーンの出力が上がっていく。
それと同時に、ソードはビリオーンを右方向へ走らせ、右腕に装備されたマシンガンを手近な蟲へ発射する。
命中した弾丸は奇声蟲の外皮を突き破り、内部をズタズタに引き裂いて蟲を絶命させる。
続いて左前方から飛び掛ってくる蟲へむけて左腕のマシンガンを連射。命中を確認する間もなく機体を左へとステップさせ、
その場にいた蟲へ跳び蹴りの要領で左足の外付けスパイクを打ち込む。
ドヅンッ!!という重苦しい音と共に串刺しにした蟲を、正面から突進してくる蟲へ放り投げると、
まとめて右腕のマシンガンで蜂の巣にする。しかし、蟲の勢いは衰えず、尚も列を成して襲い掛かってくる。

「このままではラチがあかん」
(じゃあ、どうするんです!?)
「・・・こうするのさ!」

ドォムッ!
左足のスパイクを収納し、跳躍と同時に両脚に装備されたブースターを起動。
ビリオーンを後方へと大きくジャンプさせ、蟲との距離をとる。
十分に距離をとって着地すると同時に両脚のスパイクを地面に打ち込み、後方へと滑る機体に急制動を掛ける。
素早く体勢を整えると、残っていたグレネードを全弾、奇声蟲の群れの中央に向けて発射する。

ボシュボシュボシュボシュッ!!

ランチャーから吐き出されたグレネード弾は着弾と同時に周囲の蟲を吹き飛ばしていく。
しかし、グレネードの全弾発射で十数匹を吹き飛ばしても尚、ソードの前には倒した数以上の蟲が蠢き、
仲間の死骸を越えてビリオーンに襲い掛かってくる。

「ちぃ! しつけぇっ!!」

素早く両脚のスパイクを収納し、向かってくる蟲へマシンガンの弾をばら撒く。
吐き出された弾丸は蟲達を容赦なく切り裂いていたが、程なくしてその勢いが衰える。
ガチン!と音を立てて止まった右のマシンガン。
そして左のマシンガンもカタカタカタと乾いた音を立てる。

「・・・ちっ!」

ソードは素早く機体を後方へ跳躍させると同時に両脚のブースターを起動させる。爆発のような音が響いて、機体が舞上がる。
低く、長い跳躍で後退しながら、マシンガンのマガジンを左右同時にリリースし、
腰のサイドにマウントした予備マガジンにキャッチを叩きつけ、一瞬だけ手を離してボルトを引く。

ガシャリ、ジャコン!

一連の動作を終えても機体はまだ宙に浮いていた。
しばしの滞空の後、左右両方のマシンガンをいつでも撃てる状態にし、着地する。
後方へと滑る機体を両脚のスパイクで無理矢理その場に繋ぎとめ、向かってくる蟲へと射撃を開始する。

タタタッ、タタタッ、タタタッ・・・

「マズイな・・・」
(どうかしましたか!? ソードさん!)
「『白虎』と距離が開いてしまった。・・・ん?」
「・・・か知らんが・・・・・・で逃げ・・・」

その時、ビリオーンを操っていたソードの耳にか細く蟲の叫び声でない何かが聞こえた。
「・・・ネリー」
(何ですか?ソードさん)
「周囲の音を拡大してひろえるか?」
(やれないことはないですけど・・・)
「やってくれ」

ネリーの紡いだ歌術によって周囲の音が拡大されて、奏座のソードに響く。

ギチギチギチ。キシャァァァ!

奇声蟲が口を噛み合せる音や奇声に混じって、聞き覚えのある声が響いてきた。

「どこの誰か知らんがここから急いで逃げろ!」

それはやっと通信機の修理が終えた和十の声だった。

(ソードさん、急いで和十さんの救出を!)
「待て、ネリー。逃げろとはどういうことだ、和十!」
「その声はソードか!?もうじき『白虎』は自爆する!このままでは巻き込まれるぞ!!」
「何?」
「『白虎』はもう戦えない・・・。唯一、使える武器は自爆装置だけなんでね」
「・・・威力は?」
「半径1キロは何も残らないはずだ」
「・・・わかった。撤退する」
(ソードさん!?)
「せっかく助けに来てもらったのにすまないな。急げ、臨界まであと1分とないぞ!」

タタタッ、タタタッ、タタタッ・・・。ドォムッ!

マシンガンで蟲を牽制しつつ、ビリオーンは後方への跳躍と同時に両脚のブースターを起動する。
上昇するビリオーンから見える『白虎』はみるみる小さくなっていく。

(ソードさん!和十さんを見捨てるんですか!?)
「あの場にいても巻き込まれるだけだ」
(でも!!)
「・・・・・・」
(あっ・・・!?)

地上に小さく見える『白虎』・・・。そのボディーはエンシェントドライブから漏れ、白い燐光となった幻糸に包まれていた・・・。


一方、『白虎』の奏座では、和十が迫りくる死を静かに待っていた。

「あと20秒・・・すまない、ユリアナ。麓には戻れそうにない。・・・これは!?」

死を覚悟していた和十に淡い光が降り注ぐ。それは微かに暖かく、優しい光だった。
そして、ついにエンシェントドライブが臨界を迎え・・・

バンッ!! ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ!!

『白虎』の装甲が吹っ飛び、内蔵されていたベアリング弾が発射され、
周囲の奇声蟲をズタズタに引き裂いていく中、装甲の外れた『白虎』が眩いばかりの光を放つ・・・。

ドォォォォン!!!

臨界を迎えたエンシェントドライブの爆縮によって、周囲に灼熱の劫火と凄まじい衝撃波が広がる。
周囲にいた奇声蟲や木や岩・・・、
そして『白虎』本体さえも焼き尽くした灼熱の劫火は周囲の地形も変えていく・・・。
また、周囲に広がった衝撃波は上空にいたビリオーンをも襲った。

「くっ!」
(きゃぁぁぁ!!)

なんとかバランスを保って着地すると、ビリオーンは体勢を低くして衝撃波をやり過ごす。
『白虎』から距離が離れていた事が幸いし、それほど奏甲に被害はでなかった。
数分後・・・

「・・・ネリー、無事か?」
(はい。ソードさんは大丈夫ですか?)
「ああ。しかし・・・」

頂上からだいぶ下った位置に着地したはずのソードの目の前には、焼け焦げたクレーターが広がっていた。

「・・・」

余りの威力に沈黙しているソードにネリーの驚きに満ちた声が響く。
(ソードさん!!)
「どうした?」
(物凄い幻糸の反応があります!)
「どこからだ?」
(その・・・丁度、和十さんの『白虎』がいた位置からです)
「・・・」
(まさか、あの爆発で生きているはずはない・・・しかし)
(どうしますか?ソードさん)
「調べてみる」
(もう奇声蟲は残っていないと思いますけど、気をつけてくださいね)

まだ熱を帯びている大地を慎重にビリオーンが進んでいくと・・・

「・・・まいったな」
(ソードさん?)
「生きてるようだぞ、和十のヤツ」
(本当ですか!?)

『白虎』が擱座していた位置・・・つまり爆心地には、淡い光に包まれた和十が岩に寄り掛かるようにして座っていた。

「ああ、とりあえずヤツを回収してからそっちへも戻る」
(わかりました)

ソードはビリオーンから降りて和十の元へと向かった。

「生きてるな?」
「・・・かろうじて」
「しかし、どういうことだ?奏甲本体だって消し飛んでるのに・・・」
「わからない。ただ・・・」
「ただ?」
「『白虎』が自爆する直前、何かこう、暖かい光に包まれたんだ。どうやらその光のおかげで爆発の影響を受けずに済んだらしい」
「・・・まあいい。麓に戻るからTCに乗れよ」
「ああ、すまない。・・・できれば肩を貸して欲しいんだが」
「・・・ふう。しょうがないな」

和十はふらつく体をソードに支えられ、ようやくビリオーンの右の掌にたどり着いた。

「落ちるなよ」
「ああ、気をつける」

ビリオーンが静かにその巨体を起こし、麓に向かって静かに歩き出す。

「そう言えばユリアナは?」
「怪我はしたようだが無事だ。中腹で待っているはずだ」
「そうか・・・」
「俺に聞かなくても、<ケーブル>で会話できるだろ?」
「そう言えばそうだな。・・・・・・念話ができない」
「何?」
「ユリアナが何かやっているのか、それとも・・・」
「・・・すこし急ぐぞ」
「頼む!」

ビリオーンはスピードを上げてユリアナの待つ中腹を目指した。
一方、その中腹では・・・

???(効果はあった様ですね)
「本当か!?和十は無事なんだな!?」
???(ええ、今はもうこちらに向かっています)
「そうか・・・」
???(安堵するのは分かりますが、本当に大変なのはこれからですよ)
「さっき言っていた試練と言うヤツか?」
???(そうです。これはアナタに、と言うよりアナタの宿縁に重大な決断を迫るでしょう)
「和十に?・・・なら大丈夫だ。アイツならどんな時でも最善の選択をするだろう」
???(時として最善の選択が個人にとって最良とは限りませんよ)
「なんだと?」
???(ふふふ。彼が『その時』にどんな選択をするのか・・・。楽しみです)
「何者だ、おまえは?」
???(そうですね。『歴史の闇に消えた者』とでも名乗っておきましょう)
「『歴史の闇に消えた者』だと?」
???(次に私の声を聞くときが、試練の始まりですよ。それでは・・・)
「あ、おい!待て!」

ユリアナが静止するのも聞かず、謎の声は現れたときと同じように唐突に聞こえなくなった。

「何なんだ?、一体。・・・・・・あっ!!」

ふと、頭を上げたユリアナの深紅の瞳には、ビリオーンの手の上から手を振る宿縁の姿が映っていた・・・。


あとがき
修正したけどあんま変わらんか・・・(^^:

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