傷つきし咎人が求めるモノは・・・(序章)
 
 
―エタファ北方20キロ地点―
 
 街道から外れた広い野原・・・
 
 
ほんの数時間前まで野生の草花が自生していたその野原は、今さながら戦場跡の様相を呈していた。
その場にあるのは絶対奏甲・・・だったもの。
軽く見積もっても10機分以上ある残骸は、一部が今だ炎を上げながら周囲に散乱している。
その中心に一機の漆黒のビリオーン・ブリッツが屈んで―――いや、正確には擱坐している。
その右腕には機体色と同じ漆黒のロングソードが握られている。
各関節からは白煙が上がり、装甲は所々脱落、あるいは大きく裂けている。
何より目立つのは胸部の損傷・・・それは一見しただけで奏座にまで達しているのが分かる。
やがてハッチが開き・・・
 
「グッ・・・」
 
呻き声と共に出てきたのは背の高い黒髪の男。
キツイ印象を受ける顔立ちであったが、その顔には激痛に耐えているだけでない・・・翳りが見える。
だが、その金と蒼の色違いの瞳には決して揺らぐことのない決意が見える。
ボロボロの体を引き摺るようにして地面に降り立った男の左腕は既にない。
 
「・・・【リリス】再起動までどれくらいかかる?」
 
男が擱坐しているビリオーン・ブリッツに声を掛けると、ビリオーン・ブリッツの瞳に光が燈り
女性の声が返ってくる。
 
【現在、冷却システムをフル出力で作動させていますが再起動まで1800秒はかかります】
「30分か・・・俺は少し休む。時間が来たら起こせ」
【了解、マスター】
 
そう言って男は擱坐したビリオーン・ブリッツの右脚に寄り掛かり、
身に付けていたシャツの一部を引き裂いて左腕の止血を行うとそのまま眠りにつく。
 
 
閉じられた瞼の下にある色違いの瞳・・・
その瞳が夢の中で映しているモノははたして・・・
 
 
 
―30分後―
 
【マスター、機体の冷却が終了しました。】
「う・・・」
【マスター?】
「【リリス】・・・」
【お目覚めですね、マスター。気分は如何ですか?】
「さっきよりはだいぶいい。機体の損傷は?」
【外装に70%、フレームに30%のダメージを受けています。通常起動は問題ありませんが
 戦闘起動は5分程が限界です。補給と整備、そしてマスターの左腕の治療の必要を認めますが、
 どうしますか?】
「・・・10日も補給なしじゃ当然か。わかった、一度エタファに戻るぞ」
【了解、マスター。操縦は私が行いますがよろしいですか?】
「ああ、頼む」
 
そう言って男が奏座にもどると、擱坐していたビリオーン・ブリッツがギシギシとイヤな音を
たてて立ち上がりエタファに向かって歩き出す。
 
しばらくして男がポツリと呟いた・・・
 
「今回もハズレ。しかも待ち伏せつき・・・か」
【マスター・・・】
「大丈夫だ。俺はシェリアを取り戻すまで決して諦めない!」
【その意気です、マスター。私も精一杯サポートいたします】
「ああ。・・・俺はまた少し眠る。エタファに着いたら起こせ」
【了解、マスター】
 
そう言ってすぐに男は寝息をたて始めた。
奏者が眠ってもボロボロのビリオーンはエタファに向かって歩きつづける。
 
 
 
はたしてその先に待っているのは絶望か、それとも希望か・・・
 
 
 
 
To be continued・・・

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