―評議会側・野戦陣地司令部― 色鮮やかな蒼と銀でカラーリングされた飛行型絶対奏甲が鎮座している。 そのコックピットでは、白髪の歌姫が、静かに出撃の時を待っていた。 己の心の喪失感を満たしてくれる好敵手がいることを願いながら・・・。 ―評議会軍と白銀の暁が対峙する戦場― それぞれに所属する機奏英雄が、半身の歌姫と共に愛機の絶対奏甲を駆ってぶつかり合う 戦場・・・数の上では評議会側が勝っているが、戦意と団結力に勝る白銀の暁は互角の戦闘を 展開していた。 「戦況はどうなっている!?」 評議会側の戦闘隊長が怒鳴り声を上げる。 「依然、膠着状態が続いています」 「なぜだ!?数ではこちらが勝っているというのに!」 「北西10キロ地点で幻糸反応増大!」 北西の空・・・蒼穹に浮かび上がるのは、20数機のハルニッシュヴルム。 「ハルニッシュヴルムだと!?」 「数は20!」 「こちらの航空戦力は!?」 「ダメです!2日前の戦闘で壊滅した航空部隊は現在、後方で再編成中です!」 「何!?このままでは交戦中の陸戦部隊が的になってしまうぞ!」 ―評議会側・野戦陣地司令部― 鎮座している飛行型奏甲の元に伝令の歌姫がやって来る。 「アイリス、出撃をお願い。敵はハルニッシュが20機」 「・・・位置は?」 「感知したのは白銀の暁陣の後方で、ここからだと北西13キロ地点よ。 そこから我が軍の地上部隊へ空爆を行うために移動を開始しているらしいわ」 「わかったわ。・・・エクスペルテン・シュヴァルベ出るわよ!」 ―評議会軍と白銀の暁が対峙する戦場― 「司令部より入電!敵増援は司令部が迎撃機を出すそうです」 ゴォォォォォ!! 蒼穹を引き裂く轟音と共に、一機の飛行型絶対奏甲が上空に現れた。 あっと言う間に戦場を越えたエクスペルテン・シュヴァルベは、一直線に敵増援部隊へと向かっていく。 ノーマルのシュヴァルベの倍近い速度でハルニッシュヴルムの部隊に肉薄したエクスペルテン・シュヴァルベは、 今まさに対地攻撃を仕掛けようとしていた先頭の一機を擦れ違い様に右腕に装備したバスタードソードで上下に両断し、 そのまま敵部隊を抜けて背後に廻ると敵部隊の態勢が整う前に再び最後尾のハルニッシュ目掛けて突撃する。 ザシュ!ザン! 「う、うわぁぁぁ!」 瞬く間に両脚と右腕を切断されたハルニッシュは、奏者である英雄の悲鳴と共に大地へと堕ちていく。 しかし、エクスペルテン・シュヴァルベは動きを止めることなく、次のハルニッシュへと迫る。 「く、来るなぁぁぁ!」 がむしゃらに剣を振り回す3機目のハルニッシュヴルム。しかし、いとも簡単に剣を弾かれ胴に突きを受ける。 エクスペルテン・シュヴァルベはバスタードソードが刺さったままのハルニッシュを盾に4機目に向かって体当たりをかける。 ガン!!ザン!ザン!ザン! 盾にされたハルニッシュが邪魔で攻撃ができない4機目を体当たりで吹っ飛ばすと、 容赦なく右腕のバスタードソードで斬撃を繰り出し、二機を寸刻みにする。 「全機、あの奏甲に火線を集中しろ!撃てぇ!!」 ここでようやく態勢の整った残りのハルニッシュが隊長の号令の下、一斉にマシンガンを発射してくる。 しかし、エクスペルテン・シュヴァルベは銃撃をものともせずにハルニッシュ部隊に迫る。 カン、カン、カン。 「な、何故だ!?弾は当たっているのに、何故堕ちない!?」 発射されたマシンガンは大半が左腕に装備された 展開式ラウンドシールド―扇状のパーツが基点でつながり、回転するように展開することで奏甲を覆うほどの盾を形成する― によって弾がれ、残りも装甲板や関節や稼動部を覆う防弾布で防がれる。 そんな中、アイリスのエクスペルテン・シュヴァルベは銃撃が効かないことに動揺したハルニッシュを次々と屠っていく。 「ぎゃぁぁぁ!」 「助けてくれ!」 そして、ついに隊長機を含め5機が残るのみとなった時・・・ 「・・・つまらないわね」 「何!?」 「所詮は、雑魚ね。貴方達ではお話にならないわ。見逃してあげるから撤退しなさい」 「お、女だとぉ!?たかが一機、それも女の操る奏甲に部隊が壊滅させられたなど・・・。 このままでは白銀の歌姫様に顔向けできん!全機突撃!!」 撤退勧告を無視して、マシンガンを乱射しながら突っ込んでくる5機のハルニッシュ・・・。 「愚かね」 アイリスはそう呟くと、他のハルニッシュは無視し隊長機のみを狙ってエクスペルテン・シュヴァルベを突撃させる。 5機のハルニッシュが乱射するマシンガンを左腕の展開式ラウンドシールドで防ぎながら隊長機に肉薄すると、 素早くバスタードソードを振るって右腕と左脚を斬り飛ばすと、右腕のバスタードソードを隊長機の奏座に突き付けた。 「貴方が死に急ぐのは勝手よ。でも部下や歌姫達を巻き込むのは感心しないわ。 これが最後よ、退きなさい」 「くっ・・・。全機撤退!」 ハルニッシュ隊の隊長は口惜しそうに勧告に従って残った4機に撤退するように告げた。 「女、おまえの名を聞いておきたい」 「・・・・・・」 「自分に勝てなかった男に名乗る気はない・・・ということか? まぁ、いい。その奏甲、覚えておく!次はこうはいかんからな!!」 「・・・・・・」 5機にまで減ったハルニッシュ部隊は撤退していった。それに合わせて地上の部隊も撤退していく。 おそらく航空戦力のない評議会部隊を増援のハルニッシュ隊で叩く作戦だったのだろう。 評議会側の部隊も撤退し、陣は勝利に沸き返っている。 丁度、そこへエクスペルテンがゆっくりと降りていく。 その奏座で、一人彼女は思う。 今はもういない彼のことを。 半ば八つ当たり同然で戦場に身を置く今の自分を。 そして、これから自分が進むべき道を・・・。 ☆あとがき☆ はい、という訳で第一章をお届けしました。 微妙にサブタイトルとあってない気がしますが、そのヘンは御勘弁を・・・。 これは「ドミニオンズ」のサイトで行われた小説コンテストに出品した「蒼穹を駆ける歌姫」の 再構成SSです。読んで楽しんでいただけたならうれしいです。 |