出会いは、必然。 絆は、運命。 導きし者は、一人の少女。 導かれしは、一人の少年。 これは、その少年と少女の運命の旅―――――― 幻奏戦記Ru/Li/Lu/Ra ―遥かなる旅路― 第1話 運命は突然に 現世(ここ)ではない、どこかへ。 それは、一般には異世界と呼ばれる。 そんなものは存在しない。それが普通の考え方。 だけど…… 『クウマ君?起きてる?』 目の前に居る女の子。僕のパートナー。 「リール、おはよぅ……」 眠そうな目をこすり、大きな欠伸をした。 僕は、片桐空真。れっきとした中学生。 でもそれは現世での事。 さわやかな朝。気持ちいい朝日が差し込む。 僕は《奏座》から外へと出た。 平原に佇む、一機の「ロボット」。 明らかに現代社会では有り得ない、自然に満ちた光景。 ロボットという、超科学的なもの。 ここは《アーカイア》。そう、普通では考えられない、「異世界」だ。 何故僕がここに居るのか。それは、少し前に遡る――― その日、僕はいつもの通り朝の稽古を終え、着替えている途中だった。 僕の家は剣術道場で、父が道場の師範をしている。 僕は弟と共に父に剣道を学び、今では地域ではそれなりの強さを誇るまでになった。 「ふぅ……今日も調子が良いや」 最近はすこぶる快調、負ける気がしない。 父に浮かれ過ぎだと言われてはいるが、やはりこの沸きあがる力は確かなものだ。 「さて、今日も学校へ行くとしますか!」 着替えを終え、朝食を取ろうと道場を後にしようとした、その時だった。 『……たすけて……』 「え……?」 それは微かな声だったが、確かに助けを求める声が聞こえた。 「どこ!?どこに居るんだ!?」 道場内を捜し歩いたが、それらしい人影は見当たらない。 「おかしいな……聴き間違えのはず無いんだけど……」 そうして、道場の扉をくぐる。が…… 「えぇ!?」 足場が無い。そのまま、成す術なく落ちていく・・・・・・ 「うああぁぁぁ!?」 目の前は真っ暗。そのまま僕は気を失ってしまった。 『・・・さま!・・・さまっ!!』 「うぅ・・・・っ」 誰かの呼ぶ声がする。さっき聞いたあの声だろうか。 ゆっくりと、目を開いていく。 『英雄さまぁ!!無事ですか!?お怪我は!?』 目の前で慌てふためいていたのは、見たことのない女の子だった。 「ん……大丈夫…大丈夫だから落ち着いて!」 『よかった……奇声蟲に襲われたら大変です、移動しましょう!』 立ち上がったと思うと、そのまま強引に引っ張り込まれる。 だけどそれ以前に。 「ちょっと待って!?ここどこ!?道場の前じゃない!?」 そこは、辺り一面草原で。 見たことも、その存在すら知らない場所だった。 『その説明は後でします。とりあえず今は移動を!』 女の子にそそのかされ、仕方なく移動する。 一体何が起きているのか。頭の中は混乱するばかりだった。 数分歩いた後。そこには小さな集落があった。 『ここなら安全です。英雄様、アーカイアへよくぞ来て下さいました!』 「英雄!?アーカイア!?」 もはや意味不明だった。唐突に英雄と呼ばれたり、「あーかいあ」なんて地名も知らない。 『はい!貴方様はこの世界を救う為に選ばれた、英雄なのです』 「はい!?」 『そして、貴方は私の《宿縁》……パートナーです』 そう言って、首にあるチョーカーを指した。 不思議な事に、そのチョーカーは光を放っていた。 「ちょっとちょっと!?待った待った!順に説明して!訳わかんないよ!?」 『……混乱しますよね、いきなり言われても』 少女は少し考えた後、口を開いた。 『分かりました。順に説明します、よーく聞いてくださいね』 素直に頷く。ここは説明してもらう以外手は無い。 少女は知っている限りの全ての事を説明してくれた。 この世界《アーカイア》は、僕等の住んでいた現世とは違う世界にある事。 そしてこの世界は女性しか居ない事。それはさすがに驚いた。 だけど、ここから先が重要だった。 僕達《英雄》……つまり現世人は、アーカイアを護る為に《召喚》された。 目的はこの世界にはびこる《奇声蟲》を《絶対奏甲》と呼ばれる兵器で滅ぼす事。 その《絶対奏甲》は、現世人にしか動かせないのだと言う。その為、僕達が呼ばれたのだ。 そしてパートナー、《歌姫》と呼ばれる彼女が、その《宿縁》となり、その手助けをする。 話をまとめると、こんな感じだった。 「……じゃあ、僕達は戦う為に呼ばれた……?」 『……はい。私達には対抗する術がこれしかなかったんです……』 僕はそれ以来何も話すことが出来なかった。 もちろん、未だに頭が混乱していた事もある。 けれど、戦う為に呼ばれた、なんて都合が良い事を認められなかった。 『……戦え、なんて唐突に言われても無理ですよね……』 彼女はそう言って、悲しそうな顔を浮かべた。 『……私、妹がいたんです。でも……戦いに巻き込まれて……』 「……まさか」 『はい。私が行った時には、もう……』 衝撃だった。何より、何も信じちゃいない僕に打ち明けてくれたのが。 そして、何かが沸きあがるのを感じた。怒りとも、悲しみとも取れる何かが。 「……うん。どこまで出来るか分からないけど……やってみる」 そんな悲しい顔を見たくないから、と心で付け加えて。 『……ありがとうございます!英雄様!』 明るい笑顔を見せる彼女。そう言えば…… 「自己紹介、してない」 お互いの名前も知らないで話し合ってるのがおかしくて、思わず苦笑いしてしまう。 『そうでしたね。では私から』 こほん、と咳払いをする。 『私はリール。リール=カーチミルと言います。よろしくお願いしますね、英雄様!』 改めて笑顔で言ってくれる。一瞬見惚れてしまったのはここだけの話。 「じゃ・・・僕だね」 ぶるぶると雑念を振り払って。 「僕は、片桐空真。ここだとクウマ=カタギリになるのかな?歳は14、剣道……剣術はそれなりに得意かな。よろしく」 『クウマ……様。良い名前ですね』 「あー……」 気になることが一つ。 「リール、歳は同じみたいだけど……」 『はい、14ですが……』 思った通り。どう考えてもおかしいのはただ一つ。 「同じ歳ならさ……その様、ってのやめない?なんか偉そうって言うか気恥ずかしいって言うか……」 『……?では、なんとお呼びすれば良いのでしょう?』 困った。あんまし変にされても困るし…… そこで、彼女からも質問があった。 『それならば、クウマ様は前の世界ではどうやって呼ばれていたんですか?』 「うーん……大体は君呼び、だったかな……」 女子限定、だ。ちなみに男子は大体呼び捨てかあの「不名誉な」あだ名だが。 それは触れないでほしい、が本心だ。 『くん、ですね。では私も……クウマ君、でよろしいでしょうか?』 「……ん、それと敬語も無いほうが良いかなぁ……」 『……分かった、クウマ君』 「うん、それでOK」 さて、これからどうすれば良いのか…… 『クウマ君、とりあえず今日はここに留まって。明日《絶対奏甲》を取りに行きましょう』 「了解、っと」 その日は集落の宿に泊まることになった。 そしてその夜は静かに更けていったのだった。 ……そんなわけで。 出会いは唐突に起こり、運命は唐突に変わってしまった。 だけど。悪くは、無いかな。 『それでは、出発しましょう』 「うっし!行こう!」 目指すは、《工房》と呼ばれる場所。 絶対奏甲が整備、管理されている工場らしい。 僕達は昨日来た道の逆を歩いていった。 数時間歩いただろうか。今度は大きな街へと出てきた。 『ここが《ポザネオ市》、この島の、国の首都だよ』 なるほど、人が賑わっている。さすがに首都となると規模が違うのだろう。 「で、その工房って言うのは?」 『街の中心にあるの。多分……最初は驚くんじゃないかな?』 ふふっ、と意味有りげに笑うリール。 その笑みの理由は、すぐさま分かる事になった。 ポザネオ市工房。英雄が訪れるだろう、最初の場所だ。 「……これ、ロボット!?」 そこに立ち並んでいたのは、巨大な人型のメカだった。 『そう、これが《絶対奏甲》。これに乗って蟲と戦うの』 そこには数機のメカが並んでいた。 羽根のついた赤いもの、四足の蟹に取れるもの、斬新なフォルムのもの。 だが、中でも気になったのは。 「リール、あの青いやつ、分かる?」 一際目立って奥にある、人型の青い機体。僕の目はその機体に釘付けになっていた。 『あれは《シャルラッハロートV》。今の新鋭機体で、奇声蟲の攻撃、いわゆるノイズをカットしてくれる機能があるの』 「へぇ……良いかも、あれ……」 『ちょっときついものがあるけど……まぁ大丈夫、かな……』 やや不安げ。流石に新鋭機は厳しかったのだろうか。 『ちょっと交渉してくるね。少し待ってて』 「ん、それじゃちょっと見物でも行ってくるよ」 そうして僕は町へと繰り出した。 活気溢れる街。見た事もないものが並んでいる。 本当に異世界に来てしまったんだ、と少し実感したような気がした。 ゆっくりと見物しようとしたが、時はそれを許してくれなかった。 【ノイズ!?この街の付近か!?】 ノイズ……奇声蟲だ! その声を聴いたとき、自然と工房へと走っていた。 工房。あわただしく動く工房師たち。 その中で慌てるリールの姿を見つけた。 「リールっ!!」 声に気づいて、リールが駆け寄ってきた。 『クウマ君、奏甲は手配しました。整備もしてあるからいつでも出られます!』 「よし!出よう!!」 僕はさっきの機体へと走る。 だが、肝心な事を忘れていた。 「リール、こいつどうやって動かすんだ!?」 そう、それが分からなければ意味が無い。 『大丈夫。自由に、動きたいように念じて!』 《ケーブル》という機関を伝い、彼女の声が聞こえる。 よし、と集中に入る。 「いくよ……相棒!!」 相棒、シャルVは静かに動き出した。 この時、まだ知る由も無かった。 それが、どんなに辛く苦しい戦いの始まりかを…… |