黄色い悪魔がこちらを向く。

 その、ギラリと光る両目はこちらを見据え、その深紅の頬は青白い紫電を纏っている。

 異様な気配を纏うそいつに見つめられ、体が動かなくなる。

 それは、本能が明らかに異質なさっきを感じ取ったがゆえに、体の神経が麻痺し起こる事象。

 本能が告げるのは、絶対的な死の気配。

 もう逃げられないと、冷静に悟っている自分。

 ザナウの意識は、そこで一度真っ白に覆い尽くされる。































その叫びは、友の為














「うわぁああああああ!!!!」

 自分の叫び声が、あまり広くない部屋に響き渡る。

 意識が覚醒するとともに、叫び、飛び起きた。

「はぁ、はぁ……はぁ〜」

 ベッドの上で、自分の体をあちこち触り、無事な事を確かめると安 堵のため息を漏らす。

 それとともに、寝起きとしては以上に荒かった呼吸も落ち着けた。

 ……嫌にリアルな夢だった、とベッドの上から、窓の外に広がる青 空に視線を移しながら思う。

 夢とは思えないほどの異質な気配。

 そして、あまりにもリアルに表現されすぎている、その細部にいた るまでの描写。

 普通、夢というものは、自分の中にある記憶、イメージ等を元とし て構成されるもの故に、細部が曖昧であったり、どこかに矛盾が生じていたりするものだ。

 だが、あのような生物など、記憶の片隅にも無かった。

「……ともあれ、気にしすぎてても始まらないよな」

 所詮夢は夢。

 そう思う事に決め、ベッドから降りて食堂へと向かう。

 そういえば。

「栞に起こされずに、自分でおきるのも久しぶりだなぁ……」











 昼下がり。

 ぽかぽかとした陽気の下、ザナウは栞とともに草原の上に座りのん びりとしていた。

 町からも程よく近い、この草原はちょうど、寝転がるにはちょうど 良い場所なのだ。

「ふぁぁぁあ」

 視界一面に蒼い空を、そして視界の隅にさりげなく栞の姿を収めな がら、草原に寝転がっていた。

 眠気がのせいで、思わず出てしまった大欠伸が、なんともいえない 平和な雰囲気をかもし出している。

「ザナウさん、眠たいのなら寝てしまってもかまいませんよ?」

 先ほど、二人で食べた昼食のサンドイッチ。

 それを入れていた、籠の中を整理しながら、ザナウに微笑みかける 栞。

「ん〜じゃぁ、そうするかなぁ」

 その言葉に甘えて、ザナウは眠ろうとおもい、目をゆっくりと閉じ ようとしたときだった。

「ピカァ……」

 足元から聞こえた、奇妙な泣き声。

 それと同じくして。

「きゃぁあああああああああ!!」

 草原一帯に響き渡る、栞の叫び声。

 いったい何がいるのか?

 新種の奇声蟲か!?

 そう思い立ち、上半身だけ跳ね起きると、その視界に入ってきたの は、あの。

 ――――――今朝の夢に出てきた異質な黄色い悪魔。

「………え?」

 気が付いたとき、既にそれは行われたあとだった。



バサッ


 何かが、草原に倒れる音。

 音もなく迸った紫電は、右のさほど離れていない所にいた栞に絡み つき、意識を奪い去った。

「し…おり?」

 呆然と、視界の端で倒れている半身の名前を呼ぶ―――――返事 は、当然のごとくない。

 今、何が起こったのかようやく知覚する。

 足元にいる”こいつ”が栞に電撃を食らわせ、意識を奪い去った!

「こ、この野郎ぉぉ!!」

 それを知覚した瞬間、表に出てきた感情が怯えや恐れではなく、怒 りの感情であった事が、命運を分ける事となる。

 足元にいる生物を両手で捕まえて、力任せに殴り飛ばすなり、蹴り 飛ばすなりしようと手を伸ばす。

 その動作のおかげで。

「ピィィカァァァヂュウウウウウウウウ!!!!!!!!」

 まさに、最大電力といった感じで放たれた電撃の照準がずれたのだ から。

ドガァァァァアアアアアア!!!!!!

 ザナウの肩のあたりを掠めていった、紫電はそのまま栞の方向へと 進み、栞が倒れている地点の20メートルほど上方に炸裂する。

 その電撃の内包していた威力はどれほどのものだったのか。

 舞い上がる土塊と、草。

「う、うああああああああ!!!」

 それとともにあたり一面に走った衝撃波により、ザナウの意識は 絶たれたのであった。







「う、ううぅ……」

 ザナウが目を覚ますと、視界には、夕焼け空が広がっていた。

 鳥が、森の方向へと帰っていき、紅く染まった雲がゆっくりとその 形を変えながら流れていく。

 曖昧な意識の中、ただ呆然と寝転がってその光景を眺めていた。

 鳥の泣き声が辺りに響き、少し肌寒い風があたりを駆け抜けてい く。

 風の冷たさに体を震わせ、なんともなしに横に転がる。

 





































そこに横たわっていたのは、変わり果てた体躯

あまりに無残な光景ゆえに、気が付くのが一瞬遅れる

あれはいったい、なんだったのか?

あれはいったい誰なのか?

認めたくないという想いが正常な思考を奪い去る

だが

護りたいという信念が、その思考を無理やり戻し、残酷な現実をその心に刻み付ける
 
「栞!!?」





変わり果てた草原に、青年 の叫び声が木霊する。

それは、いずれ交わる運命の道。





























その叫びは、友の為。





























運命のときは近い。