GLASSKNIGHT 2SESSION 『Lolita』

















「ぬくいなぁ……こと、お前のロリータフェロモンあふれる体から感じられるぬくもりが」

「変態な英雄を持つと、疲れる……」

 雪降る国ヴァッサァマインに属する町のひとつに彼らの姿はあった。傍目、9歳児くらいの少女に抱きつく超絶美形青年の姿が。

「やっぱり、ロリータ体質は最高だな!」

「何を公衆の面前で宣言しておるか!」

 硝子瑠璃は、ロリコンだ。それは、もう救いようが無いくらい、公式設定として書いても良いくらいに。

 その宿縁たる歌姫もまた、ロリータな容姿だったのは、神の悪戯なのか何なのか……ともあれ、瑠璃の歌姫たるフェイトの容姿は、かわいらしい9歳児にしか 見えないのだった。

 街中で、道を行く人々の目を気にせずにフェイトに抱きついて、頬を摺り寄せる美形青年はい空間を構築できるのではないかと錯覚させるほどに浮いていた。 抱きつかれるフェイトの容姿も標準の規格をはるかに逸脱していたのだからそれもしょうがない話なのだが。

 ともあれ、ロリコンな英雄を持ったフェイトの気苦労は凄まじいものがあった。まさか、最初に出会ったときはこんなにも精神異常者だとは思わなかったとい うのが、フェイトの心境なのだ。

 フェイトの精神的疲労は瑠璃と遭遇して二時間あまりで、極限を通り越して、悟りの域に達していたのだった。

 一方の瑠璃はというとそんなのお構いなしに、9歳児の体に抱きついてすりすりすりすりと頬を摺り寄せている。明らかに「危ないおにいちゃん」の典型的な 例であろう。

 道行く人々も『あの人に近づいたらだめですよ?』と、幼子に諭したりしているのだから、弁解の余地すら残されていない。

 そして、さらに言うならば……そんな危ないおにいちゃんを放って置くほど、この町の警察に当たる治安部は馬鹿ではなかった。

「そこの、異常性癖者ぁああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 スピーカーから響き渡る大音量の野太い叫び声が、雪が積もり白一色に染まったレンガ積みの住宅街の中を走る大通りに響き渡った。もっとも、響き渡った台 詞はあまりにも教育上問題がありすぎるお言葉だったりしたが。

「……異常性癖者?」

「お前だ、お前」

 フェイトに抱きつきながらあたりをきょろきょろと見渡して、その異常性癖者を探し出そうとする瑠璃に、その異常性癖者に抱き『憑かれて』いる張本人が冷 徹な突込みを入れる。

 ザザァーーーーーーーッ!!!!という、雪の上を横滑りする音を盛大に鳴り響かせながら、大通りにヘルテンツァーが出現した。その方には、治安部所属機 体であることを現す星のマーク。

「なっ……」

 さすがのフェイトもこれには唖然とした表情と声で反応を返すしかなかった。どこの誰が変態を検挙するために奏甲を持ち出すと思うだろうか?

 しかも、町の大通り。人が程よく密集している時間帯に、だ。当然の如く、奏甲の足元近くにいた人々はクモの子を散らすようにして逃走していた。

 大通りで対峙する瑠璃とフェイトとヘルテンツァー(治安部カスタム)。

『世のためぇぇ〜〜〜人ぉぉおおおのぉためぇぇ〜〜……悪を逃してなぁぁあああるものかぁ!!!』

 妙に歌舞伎じみた野太い声がヘルテンツァーから響き渡る。その台詞から、間違いなく分かることは異常性癖者=許しがたい悪として相手に認識されていると いう事実。

 きっと、ヘルテンツァーの英雄には瑠璃が幼女を誘拐しようとしている変態にしか映っていない事だろう。

 その事実に気が付いたフェイトの疲労は、ますます酷くなっていく一方だった。それも仕方が無いことかもしれないが、あまりにもその疲労をたたえた9歳児 クラスの横顔は哀愁を漂わせている。

 それに抱きつく瑠璃は、ヘルテンツァーなど目に入っていないかのように、すりすりすりすり頬を摺り寄せ続けているのだが。

『・・・・・・そこぉぉぉおおおおの、ロリコオオオオン!!!わしが、直々にせいばぁああああい、してくれよぉおおおおお!!!!!』

 雪降る街の大通り、そこは今、異質な世界と化していた。唯一まともな性格の人物は――――『はぁっ』というため息とともに、諦めムード。その人物に抱き つく異常性癖者事瑠璃は、今、自分が逮捕されようとしていることなどまったく気にして無いかのようにすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりす りすりすりすり……―――結果。




☆留置場☆

「なぁ、フェイト」

 古典的な牢屋というにふさわしい、鉄格子が張り巡らされた檻の中に瑠璃はいた。言うまでもなく、あの訳の分からないヘルテンツァーに逮捕されたのだ。

「………………はぁ〜」

 その様を、檻の外から眺める歌姫たるフェイトの顔には、諦めの表情が色濃く刻まれている。いや、諦めというよりは呆れ、というべきだろうか。ともあれ、 そんな複雑な表情を浮かべながら、フェイトはそこにいた。

「瑠璃……お前という馬鹿は……救いようが無いなぁ」

 どこか、遠くを見つめながら悲観に満ちたそんな言葉を留置場にフェイトは響かせていた。小学生の横顔には似合わない、とても世間に疲れたといった風な悲 しい横顔がその端正な容姿に浮かんでいる。

「なんでだ、何でだよ!!!」

 その容姿に負けずに超絶美形な瑠璃は、鉄格子をつかみながらも、何かを訴えるようにして叫んでいた。それは、世間の不条理を訴える宗教裁判で留置場に放 り込まれた無実の市民に見えないことも無い。

 そこはかとなく、悼まれぬ雰囲気が、瑠璃が放り込まれている折の周りに漂っていた。それは、こんなにも美しい青年が、天使のような容姿を持つ青年が罪を 犯すはずが無いといった、美しさを愛でる気持ちを持つ人ならば必ず抱いてしまう感情なのだろう。

 鉄格子をつかみ、壊れることが無いと分かっていながらも、必死に無実を訴え、自由を勝ち取ろうとするかのように揺らす瑠璃は叫ぶ。

「幼い少女を愛でて何が悪いんだよぉおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 まさに、魂の叫びというにふさわしい……かも知れない。そんな、見る者の涙をある意味誘うような光景であり、叫びだった。事実、フェイトは瑠璃が閉じ込 められている檻の前で、目元を押さえてその様子から目を背けている―――悲しすぎて、目を当てていられないといった風に。

 そんな時、フェイトの後ろ側にあった暗がりから治安部の人間と思しき女性が(アーカイアだから、当たり前といえば、当たり前だが)現れて、そっと、フェ イトの肩に触れた。

「いいのですか、本当に……?」

 労わる様に優しく、フェイトの意思を問う言葉だった。そこにこめられた意思は、やはり、フェイトの心に少なからず負担を与えてしまうことに対する罪悪感 なのだろう。だが、その言葉に対して、目元に手を当てながら、フェイトは迷い無く答えるのだった。

「……一思いにやってくれて構わない……その方が、あいつのためになるはずだから」

「分かりました……刑の執行は、二時間後、広場にてです。」

 フェイトの意思を確認した治安部の人は、一回、自分を納得させるために頷くとまた、暗がりの奥へと去っていった。また、二人っきりになる瑠璃とフェイ ト。瑠璃は、相変わらず鉄格子につかみかかってはいるものの、心なし少し表情が落ち込んでいるように見えた。

「なぁ……『刑』って何のことだ?」

 恐る恐る問いかける瑠璃。先ほど、治安部の人が言っていた言葉を瑠璃は聞き逃さなかったのだろう。それの意味を確実に理解しているはずのフェイトに問い かけたのだ。

 それに、フェイトは視線を合わせることなく、つらい事実を突きつけなければならない……例えるならば、植物状態から復帰した患者に3年の月日が寝ている 間に経ったんだよ、と告げなければならないような心境で問いの答えを返した。

「……汝の『処刑』のことだ」

「はっ?」

 悲しい風が、留置場に吹いた。






次回予告

『瑠璃の処刑』

 ロリコン、ヴァッサァマインの地に散る―――


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