荒廃の使者〜英雄編〜
1
深い峡谷を一機の奏甲が歩んでいく。一見して色違いのシャルラッハロートのようだが、背部には幅の広い三角形の板を装備しており、それ以外で目立って武装と言える武装は巨盾と一振りの巨刀しか無い。
「おい」
「ああ。見た事の無いタイプだな」
峡谷の中ほどの位置に、盗賊が潜んでいる。彼らは元々英雄だったのだが、奏甲を駆る盗賊に成り下がった者達だ。
「何にせよ、お頭に報告しなくちゃなんねぇだろ」
ふと、シャルラッハロートは歩みを止めて盗賊たちの方に頭を向けた。
「・・・」
「気付かれたか!?」
ズシャ・・・、ズシャ・・・、と足音を立て、その奏甲は再び歩み始めた。隙を見て、盗賊はその真後ろから逃げていく。
「追わないの?」
「いいのさ。報告しに行ったみたいな感じがするだろ?」
そう言うと琉人はシャルラッハロートに岩場を登らせる。ごくゆっくりとした動作でだが、奏甲は操縦者の意思に従って動いた。
「標的を確実に仕留める。そのためさ」
「そう・・・ね」
奏甲は峡谷の岩壁の三分の二ほどの位置にある岩棚にたどり着いた。足場としてはしっかりしており、さほど大きくない飛行機なら滑走路代わりに使えそうだ。
「さて・・・リィス、走れる程度まで機動させてくれ」
16の少年がここまで大人びた言い方をするのもおかしいが、リィスはさほど気にしていないようである。歌術で奏甲の機動性を上昇させる。
奏甲は背中の板を地面に水平にすると、岩棚を走り始めた。十分な速度まで加速すると、足場から速度を損なわないよう飛び降りる。少しの間だけ落下するが、すぐに元の足場以上の高さより高くまで上昇した。
『ウィング』は浮空歌術を使って補助揚力を得るが、主に滑空するしか脳が無い。元の高さから500mまで上昇するのにも、それなりの条件が必要である。が、この峡谷は風化して幅が広くなったものであり、さらには向かい風なので、思った以上に上昇できたようだ。
ふと見下ろせば、あちこちに撃ち落とせば敵の行動を封じれるような岩盤がある。それらを少しだけ巨盾の内蔵火器であるマシンガンで撃った。
「敵は?」
「・・・いるわ。このまままっすぐ、十数機が集団でこちらに向かってきてるわ」
盾の砲門を開き、狙撃準備する。峡谷の真上を飛んでいるので、下を向ければそれで終わりなのだが。
少し飛ぶと、四本足の奏甲(フォイアロート)一機と量産機が十機前後移動しているのが見えた。こちらには気付いていないらしく、会話を行っている。
「そいつ、何だか変な板を背負ってましたぜ」
「武器も接近戦闘用の物しか装備してませんでしたし。何のつもりでしょう?」
「さぁな」
さぁな、と答えた声は女性のものだ。いくら少年英雄でも、そこまで女性っぽい声なはずが無い。
「だが、奏甲に全く無意味な装備をするはずが無いだろう?」
そう言って、とんとん、と頭を指でつついてみせる。
「・・・頭のキレる人らしいな、あの四本足に乗ってるのは」
「ええ。でもまさか上空から来−−−」
リィスの言葉は途中で悲鳴に変わった。すぐ横を空中戦用の奏甲が飛んで行ったのだ。
「そう思っているようだな。さすがはキレ者の女英雄」
そう言うと琉人は注意してその空中戦用奏甲(フォイアロート・シュヴァルペ)の羽を狙撃した。空中で直線運動から曲線運動に変わるには、少し時間がかかる。
あっけなくその奏甲は浮力を失い、落下していった。・・・それも、敵のど真ん中に。
「やはり上空かッッ!!」
ちぃ、と琉人は舌打ちをした。素早く重心を左に傾け、旋回する。
「戦闘機動、準備」
リィスは歌うために精神を集中させ始めた。琉人は敵に悟られないよう、射線上に峡谷の岩壁が入る高度まで下降する。
少し離れた場所にある大岩を狙撃して落下させ、その土ぼこりに隠れるように落ちるように着地。
少しして衝撃をやり過ごすと、上空を警戒しつつも、緩いカーブを描く峡谷を歩き始めた。
先ほど敵に遭遇した場所から300mほど離れた場所で、シャルラッハロートの歩みを止める。数秒後、複数の奏甲が走行する音が聞こえてきた。
「戦闘機動!」
戦闘機動が開始するかしないかぐらいのタイミングで、琉人は走り出した。だが最初の一体と切り結ぶころには機動していた。
盾で殴りよろめいたところに蹴りを入れて、敵のほうに倒れさせる。それに足をとられた奏甲を二、三機まとめて巨刀でたたき斬る。
後ろに回り込もうとした奏甲には、鞘で打撃を与えシールド・マシンガンでコクピットを撃ち抜く。
一分もしないうちに、烏合の衆だった雑魚は三機が残るのみとなった。誰も動こうとはしない。
「おい、そこの奏甲に乗ってるヤツ」
琉人は事もあろうか敵に話しかけた。一瞬驚いたようだが、彼らはすぐに反応した。
「お前ぇなんかと話す事は無い!」
突撃するように二機が走り出し、一機は動かなかった。
「・・・そうか。残念だ」
琉人は盾を構え、マシンガンを発射した。弾丸は正確に奏甲のコクピットを撃ち抜き、搭乗者は断末魔の声も無く死んだ。
量産型奏甲最後の一機は逃げ出し、その場には二機の奏甲だけが残った。
「そこの四本足。俺が用があったのはお前だけだ」
「・・・あんた、まだ子供だね?」
「だったら何だ。子供は戦っちゃいけないか?」
「いいや、強けりゃいいんだからね。・・・それより、あたいの手下に・・・」
「なる気は無い。もう、だれの指図も受けないと、決めたんだ」
無表情な動きで、シャルラッハロートは走り始めた。フォイアロートもそれに反撃するため、拳のクローを構える。
巨刀が振り下ろされたのを左手で受け、右腕で胴体部分に抉るような一撃を繰り出す。しかしそれは後ろに大きく跳び退った奏甲には届かなかった。
飛び退りながら、シールド・マシンガンを乱射する。数発命中したが、ほとんどは外れた。
二機は拳と刀とを交え、それでいてなお目立ったダメージを受けずにいた。
「きりが無い・・・」
そう言いながらも、残り弾数の少なくなったマシンガンを単発で撃ち、フォイアロートをけん制する。
「リィス。サブ動力炉は使えるか?」
『使えなくは無いけど・・・』
フォイアロートの拳が繰り出され、シャルラッハロートは身動きが取れなくなった。
「二重機動!ノドがいかれない程度でいい!」
リィスは歌い方を少しだけ変えた。まるで一人が二つ同時に歌うと、こんな風になるんじゃないかと思うような、不思議な歌い方である。
フォイアロートは、今止めの一撃を放とうとしていた。拳が繰り出される直前に、シャルラッハロートが幻糸の輝きを帯びる。
「な・・・!!」
「これがシャルラッハロートX、“凱神(ガイコウ)”の力だッッ!!」
その後、彼らは依頼主である峡谷の近くの村に報告し、報酬をもらった。そして、あての無い旅へ戻る・・・
村を出てすぐ、琉人が呟いた。
「・・・これでよかったんだろうか」
何が?とリィスが訊ねた。
「いや、あの峡谷の反対側さ。蟲が、それも貴族種が出没する地域じゃないか」
「でも、輸送品が略奪される事がなくなったんだから、いいんじゃないの?」
本当にそうか?と琉人は訊ねた。
「確かに輸送品が略奪されるのは困りものだ。それでも蟲が襲ってくるのはもっと問題があると思うんだが」
「・・・あ!」
「だろう?ひょっとしたら、俺たちはいい事をしたつもりで荒廃を早めただけなんじゃないかな・・・」
凱神はゆっくりのんびりとした動作で、操縦者の気の向くままに歩いていった。
あとがきに変えて
えー、琉都です。
ちょっと世界観とかが変かもしれませんが、それは大目に見てください。
後、ひょっとしたら武装とかもぜんっぜん使えないはずの武装ばっかりかもしれませんが、それはこの話の舞台となっている国・大陸の奏甲技術が優れている・・・とかで見逃してください。
ちなみに、タイトルと内容はは全く関係ありません(爆)
・・・だめだめじゃん
2004/04/27更新箇所
120mmのマシンガンは流石に存在し得ないか、と気付き訂正。4分の1の30mmまでスケールダウンする。ちょい極端だったかも知れない。
が、多分まだスケールダウンするような気がするし。
どのくらいの口径が正当なのか知りませんて。
2004/04/28
またマシンガンに関する記述を修正。もう細かい数値を書く事はやめました(ぇ
2004/05/02
琉人の一、二人称を変更。後のヴァージョンのヤツの方が使い勝手がいいので・・・
2004/05/05
琉都の二人称を変更。いくらなんでもありえなかったので・・・
2004/05/21
括弧を全て更新。オフィシャルの使い方に統一。