荒廃の使者〜英雄編〜 3・月の砂漠を彷徨いて−前編− ここまで徹底的に迷うのも珍しいもんだ、と半ば自棄で開き 直りながら琉人はノイズまじりに呟いた。 一ヶ月前から、ファゴッツの7割を占めているとされるこの 砂漠を彷徨っていた。 始めは楽観して昼間動いていたのだが、水の消費がバカにな らないため夜型に切り替えたのが一週間目。 幸運にも蟲の出没する地域でオアシスを見つけ、ゆうに三週 間はもつだろう水を確保したのが二週間目だ。 満月の明かりを頼りに彷徨い続け、今日に至る。 一晩中移動していればすぐに脱出できそうなのだが、そうも 行かない。流砂や砂嵐で何回も足止めをくらうのも普通である 。 さらにはキャラバンの移動路から離れてしまっているらしく 、通りすがりの者も珍しい。と言うよりまずいない。 渇きに苦しめられ、灼熱に幻糸炉を焼かれるよりも夜移動し ようと思ったのは正しかった。が、その分人に助けられる可能 性が減ったのも事実だ。 食糧は干物ばかりなので、あまり食べる気がしない。 「嗚呼。我望潤」(訳:ああ、我は潤うを望む なぜ漢文なのかすら謎、と言うか文法が滅茶苦茶な気がする が・・・ この琉人の呟きももっともである。二週間前にいっぱいまで 水が入っていた水筒は今や干上がり、逆さに振っても出てくる のは砂ばかりである。 事の原因はどこにあるのかというと。 「全部琉人クンの判断が甘かったせいじゃない」 「じゃかましー。あんま喋るなー」 と言う事である。 地図と方位磁石さえあれば迷う事は無いのだが、不幸にもそ れは一昨日の砂嵐で壊れてしまっていた。砂鉄の割合が大きか ったため、磁針がおかしくなってしまっていたのである。 防塵処置を施した凱神は無事なのだが、このままでは動かな くなるのも時間の問題。なぜかと言うと、幻糸炉の冷却水を消 費して生き永らえているからである。 ついでに言うと琉人は広所方向オンチであった。 絶望、不安、渇き、方向オンチ。 この四つが彼らを苛み、苦しめる。 「死ぬ前にあれだけはしておきたかった・・・」 琉人は弱気になってしまっている。リィスは無言だが、表情 は不安げだ。 「俺はこのまま死ぬのか・・・?」 「縁起でもない事言わないでよ」 「だからってこの状況をどう打破す−−−」 琉人は途中で言葉を切った。どうしたの、とリィスが問うの には無言で前を示す。 目の前に、いつの時代の物かは知らないが古城がそびえてい た。 人の気配は無く、古城と言うよりも廃墟と言っても過言では ない。城壁は一部崩れ落ちており、いかにも、な雰囲気が醸し 出されている。 「・・・どうするの?」 「・・・この地域って、ガイスト・シュロスがあるって聞か なかったか?」 ガイスト・シュロス。歌姫大戦時の亡霊が彷徨うと言う古城 。ファゴッツの北に位置し、心霊スポットとして案外有名な場 所である。たしか。 「何だっけ、それ」 リィスは知らないのも無理は無いかも知れない。何せ彼女の 幼少時は定住せず、親の都合で各国を回っていたのだから。 「いや、知らないならいい。行くぞ」 凱神はゆっくりと古城の廃墟に向かっていった。 ------------------------------------------------------------------------------- あとがき ガイスト・シュロスに到着させました。 が、内部がどうなっているかはもう琉都の妄想で書くしかない です。 あんまり楽しみにしないでください(ぇ 現世以外の所から召喚されてきた者って居るんでしょうかね・ ・・ 見てる限り現世の人間しか居ないように思えるんですが。 ・・・亜人が召喚されてくる可能性だってありそうなんですけ ど。 感想掲示板で答え待ってるです。 あ、後感想も一言よろしく。めちゃくちゃ批判される気がする ですけど。 ------------------------------------------------------------------------------- アニメっぽく次回予告 古城には期待を裏切らず、アレがあった。 超古代の遺産。水。そして・・・ 次回「月の砂漠を彷徨いて−中編−」 鋼と蟲と歌姫の声が織り成す歌が・・・聞こえる!! |