荒廃の使者〜英雄編〜 月の砂漠を彷徨いて−中編・ヴェルダンディー− 通常起動で全速力で逃げ出した琉人は、今になってその必要 は無かったと感じていた。 城の入り口付近にある井戸端に凱神を駐車(駐機?)させ、 落ち着いてよく考えてみると、あのドラゴンからは敵意と言う か攻撃意識のような物が感じられなかった。 ただリィスは、あれの周囲の幻糸が『歪んで』いた、と強く 言い切っている。乱れる事はあっても、歪む事は珍しいそうで ある。 「あれはきっと、ううん、絶対に悪魔よ」 「そう決め付けたらいけないんじゃないか?」 なぜ?!と半ばヒステリックに訊き返すリィス。 「幻糸が『歪んで』いたのよ!?あれが悪魔で無ければ何だ って言うの!」 確かに現世で「ドラゴン=悪魔」、と捉える国や民族が存在 していたのは事実だ。しかしその反面、「善のドラゴンと悪の ドラゴンが存在する」と捉える国や民族も存在していた。 「あれは元々中立の存在なんだ・・・多分」 「とにかく、私は明日朝一番に会いに行くのはいやよ」 (どうしてそこまで言うかな・・・) 勝手にしろ、と言うと琉人はコケの生えた床に横になった。 コケと言っても案外乾いていて、寝心地は良い感じだ。 城内がぼんやりと明るい事には気づいていたが、どうやら発 光コケの一種が壁一面に繁殖しているらしい。彼が横になった コケも、よく観察すると幽かに発光している。 ここまで繁殖していると、何者かの意思かと思わざるを得な いが、琉人はそれをとりあえずドラゴンのせいにした。現世世 界各地の言い伝えではドラゴンは超高等魔術を行使できる、と 言うのが普通だったからだ。 リィスは凱神のコクピットに入っていった。いつもそこで寝 ているから、そっちの方が幾分慣れで寝やすいだろうからな。 などと琉人が思っているとすぐに出てきた。 彼は今そっちとは反対方向を向いているので音でしか判断で きないが、こっちに向かってくる。 ふぁさっ 毛布が彼の上に広げられ、その後で背中から温い温度(大体35 〜36℃)が感じられた。 「・・・」 「・・・」 (何なんだ一体・・・) 「・・・一人でもあれに会いに行くの?」 少しの沈黙。 「ああ」 「本気なのね?」 「ドラゴンの中でも、ダークメタリックドラゴンは善の属性 に近いからな。嘘を嫌う」 「・・・」 沈黙。 「だったら、私も一緒に行くわ」 沈黙。 「好きにしろ。リィスが行こうが行くまいが、僕は会いに行 くつもりだ」 沈黙。そして笑い。 「『僕』・・・他ははもっと大人びた言葉なのに、そこだけ 子供っぽいのね。ふふっ」 笑うな、と言うと琉人はふてくされたように寝てしまった。 疲れがたまっていたらしく、眠りに落ちるのに数秒も必要な かった。 朝。 凱神に乗り込み、昨日の場所に向かう。 「万が一攻撃されたら、ひょっとしたら助からないかもしれ ないんだぞ?」 「いいのよ。キミが行くんだったら、私も行くわ」 琉人はリィスがコクピットに乗り込んだのを確認すると、ゆ っくりと凱神を立ち上がらせた。 ドラゴンは目覚めたばかりらしい。 だが寝起きは悪くないらしく、欠伸をして脅かされこそした が敵対心は感じられなかった。 「さぁて、話をしようか」 そう言うとドラゴンは目を閉じ、何かを念じているようだ。 少し逃げ腰になりながらも見ていると、その体から幻糸が発光 しながら剥がれていき、そこには二十前後の男が立っていた。 髪は漆黒で後ろ髪だけ長く、それを何か髪飾りで留めている らしい。左腕は上腕なかほどまで金属で、動かすたびに軽くカ チャカチャ音がする。瞳はくすんだ金色、どこかネコのような 印象を受ける。 彼は背中の羽(コウモリのそれのようだ)をひろげ、尾を左 腕に巻きつけると、深く“礼”をした。 ----------------------------------------------------------------------- あとがき 本当はこのまま続けてもいいんだけど・・・ キリが無いからなぁ さて、どうでしょうか? まだ全体の半分ですよ? 琉都が苦手な描写をしてみたわけですが、如何ともしがたい場 面になってしまいました。 さて、次回は“中編−スクルド−” あんまり期待できないだろうケド・・・ 乞うご期待!! |