荒廃の使者〜英雄編〜

月の砂漠を彷徨いて−中編・スクルド−


 朝。
 城内のヒカリコケが光を失い、その代わりドラゴンのウロコ
が鈍い黒の金属光沢を放つ。

 「さぁて、話をしようか」

 ドラゴンは人の姿になり、お辞儀をした。

 「ああ」

 凱神のコクピットを開き、琉人は地面に降り立った。いくら
ドラゴンが人間の姿になったからとは言え、些か命知らずでは
ないだろうか。

 「俺は“クシェウ=ヘダイト”。半竜人だ」

 「僕は、地神 琉人。・・・現世から来た人間」

 「ホォ。あの灰色の世界からか・・・」

 「知っているのか!?」

 「ああ。何回か幻視で見たが・・・くだらない世界だ」

 「・・・」

 クシェウは視線を凱神に移す。コクピットからリィスが降り
てくるところだった。が、手を滑らせてしまった。
 と、一瞬黒い風が吹き、次の瞬間にはリィスをクシェウがし
っかりと受け止めた。・・・それも、左腕一本で。

 「・・・」

 「あ、ありがとう・・・ございました」

 地面に降ろしてもらい、そう言うとリィスは素早くクシェウ
から離れた。

 全くそんな事は気にせずに、凱神を調べるクシェウ。

 「ほぅ。この回路をこうつないでいるのか・・・」

 いまさっきまで寝ていたのか、美少女が目を開けた。

 「・・・お客?」

 「ああ。・・・紹介が遅れたな、俺の養娘のマナだ」

 無論、紹介をしている間も凱神を調べている。そんな姿を見
慣れているかのように、マナは自己紹介を始めた。

 「マナ=R/ヘダイトです。よろしく」

 そう言ってリィスに微笑む。琉人を全くの無視して。

 (マイペースなんだな・・・)



 しばらくの後。

 マナはリィスと城内の散歩に行ってしまった。クシェウと琉
人は、どうと言う事の無い奏甲調律用回路設計論理についての
雑談をしている。

 「F1回路とD3回路の接続は・・・」

 「違うだろう?その間にN7回路を・・・」

 理解しがたいだろうが、全て調律用回路の事である。

 「で、AD(アークドライブの略称)接続はA9回路から・
・・」

 「ADか・・・」

 クシェウはふと、ADと言う単語で何かを思い出したようだ
。

 「ADの面白い使い方を見せてやろうか?」

 「どんな?」

 「・・・見たいんならついて来い」

 そう言うとクシェウは通路の奥に向かって歩き始めた。この
半竜人は信頼にたるとわかったので、琉人は警戒せずについて
いく。



 金銀財宝の山が常人の肉眼で認識できるようになった。が、
それは本当は幻糸結晶で作られていた。
 どちらにしてもいい。今重要なのは、それが何とも言いがた
い威圧感を放っている事である。

 「アークロードシステム。俺の故郷に直通の通路を作り出す
、幻糸機関だ」

 「現世にも繋げるのか?」

 「いや・・・後百五十年研究すればできるかもしれないが、
今は無理だな」

 そう言ってクシェウは機械の脇に置いてある、透明な幻糸結
晶の容器を見る。そこには何も入っていなかったが、威圧感の
もとはここのように感じられた。

 「うっっ・・・」

 「少し放射霊力が強すぎるようだな。だが、見ろ」

 琉人はものすごい威圧感に圧されながらも、一瞬だけ見るこ
とが出来た。その容器には“物質”は何も入っていない。だが
・・・

 「な、何だ!?」

 禍々しい黒い輝きが渦を巻き、時に女性の、時に男性の苦痛
に歪む顔を作り出している。それらは全てクシェウに対し何か
を叫んでいるように見え、同時にこちらに助けを求めているよ
うでもあった。
 クシェウは無言で容器の被いをコントロールするレバーを引
き、目隠しをした。おかげでそれが見えなくはなったが、威圧
感は倍増した。

 「あれは、幻糸を伝う力の正体・・・の一部だ」

 「・・・」

 「俗に死者の怨念とも言われるが、正しくはアストラルエナ
ジーと言う」

 「・・・何に使うつもりだ?」

 「決まっているだろう?幻糸の活性率100%を突破させて、
門と通路を確保するのさ」

 「死んだ人たちに悪いとは思わないのか・・・?」

 何の必要がある?とクシェウは大げさなリアクションをつけ
て訊き返した。

 「死者に敬意を払うのは必要だ。だが、こちらで大流行の『
歌術』も、結局はあれを使っているんだぜ?」

 「だからって・・・!」

 「俺がやろうとしているのは、それを少し大規模にしただけ
だ」

 「あれは、キミが殺したのか?」

 「一部は、な。大体、二千人って所だ」

 クシェウはさらりと言ってのけた。その二千人と言う言葉に
は、何の温かみも感じられない。ただ、数学的な言葉だ。

 「・・・それでも帰ると?」

 「ああ。・・・マナは少なくとも帰してやらなければいけな
いと思っている」

 この言葉には、義務としてそれを行わなければならないと思
っている彼の全てがこもっていた。

 「何でそこまでして・・・!!」

 「お前は帰りたいとは思わないのか?」

 沈黙。

 「思うさ。だけど・・・」

 「この世界で今帰るのは、多かれ少なかれ人を犠牲にする事
になるんじゃないか?」

 「・・・」

 「それに、どうせ“異界”なんだ。どうなろうと俺たちの住
む次元に影響を与えはしない」

 確かに、それは真実だ。だが。

 「キミの歌姫はどうなるんだ?」

 ハッ、と馬鹿にしたようにクシェウは鼻で笑った。

 「もう、死んださ」

 「・・・え?」

 何の抑揚も無い、平坦な言葉。『死んださ』と平気で言った
クシェウと、その言葉に驚く琉人。

 「召喚時に俺の魔導力で幻糸が暴走してな・・・完全消滅し
ちまった」

 琉人は黙り込んでしまった。全く気にせずクシェウは機械か
ら何か長い棒のような筒のような器具を取り外す。

 「それよりも・・・お前に憑いている霊をくれないか?」

 「・・・は?」

 「いや、安定起動まで後少しなんだ。それでお前に憑いてる
霊を・・・」

 そう言いながらクシェウはもうすでに、吸霊装置を起動して
しまった。
 フォォォォン、と言う軽い音と共に、琉人の体の疲れとして
憑いていた霊を吸引する。

 と、装置がまばゆい限りの幻糸の光を放ち始めた。すぐそこ
まで来ていたのか、リィスとマナも来る。

 「いや〜、助かった。正直言ってこれ以上“狩り”はしたく
なかったんだ」

 「はい?!」

 琉人の質問を全く無視して、クシェウは装置の鏡のようにな
っている部分に顔を差し込む。と、尾で何かマナに合図をした
。

 「・・・ありがと」

 それだけ言うと、マナは素早く装置に入っていった。
 クシェウは苦戦の末、装置からやっと首をこちら側に引き戻
した。

 「一つ言い忘れてたんだが・・・」

 「何だ?」

 「この城の最上階に、俺が今まで作った“幻曲”・・・つま
りは歌術のための曲が10曲以上ある。その中から『具幻』って
タイトルの曲を持っていってくれ」

 「何でさ?」

 ほんのお礼さ、と言うとクシェウは装置に飛び込んだ。と同
時に、装置は大きな音を立てて崩れ去った。

 「何だったんだ、あいつら?」

 「さぁ?でも、マナさんはいい人でしたよ」

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あとがき

ふぁい。琉都ッス。

完全オリジナルのキャラは、これでもう元の世界に送還しまし
た。

んで、次はもう曲を手に入れて帰るだけの至極短いのになる(
予定)ッス。

・・・予定は未定であって決定ではなぁ〜い!!


ちなみに、クシェウの強引さやマイペースさはある意味琉都の
それでもあります。

次回は“後編−『具幻』−”ッス。よろ〜。

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