無題迷話
第弐章 四話ノ序
黒い。
玄い。
いや、やはり黒い。
悪魔。
肩に逆十字の防護板を持ったその絶対奏甲は、文字通り絶対的な何かを誇っていた。
背に持つ皮膜のある骨──つまりは蝙蝠の持つような滑空翼──があり、それも助けて機体全てが禍々しさを放っていた。
人間で言う目にあたる部分は妖しい紅、そしてそれ以外は全て濃淡のある黒。指の先は鍵爪のように鋭い。
絶対者への反逆と抵抗、自由への渇望、そして邪心。それらを表現するかのようなフォルム。禍々しいと感じさせると同時に、それは畏怖を感じさせ、なのに強烈な誘惑すらしている。
今はまだ、深く暗いアーカイアの大地に擁かれた、究極のための邪の名を持った布石。
聖の名を持った布石が動いた事で、“彼女”もまた動かざるを得なくなった。
そして“彼女”は、有と無の名を持った二機が目覚めるのはそう遠くない、と感じて──“彼女”は絶対奏甲だが、そう感じていた。
“彼女”の目に太陽が映るのは、そう遠くない。
いやもしかしたら、それは今すぐかもしれない。