無題迷話
弐章 第八話





 ハルフェア。その玄関口とも言われる町、ベグヴェーム。
 観光地として名高い事もあり、ヴェステェンデやヴォレアインカウフェそれにノルデハフェンシュタットとは違った、とても明るい陽気に包まれている。


 『青の騎士号』は積み荷も軽く、快調な──途中で一回海魔と呼ばれる奇声蟲に襲われた以外は快調な航海で、予定よりかなり早く入港できた。
 何がそんなに軽くなったのかと言うと。
テオドラ 「いやあ、たすかった。本当にたすかったよ。絶対奏甲を積むにゃ、『青の騎士』は小さすぎたんだ。」
 豪快な笑みを浮かべながら言うテオドラには、声にも表情にも喜んでいる以外の感情は読み取れない。
 琉都は顔では一応笑いつつ、とんでもない量の金貨の詰まった袋を受け取ると(三組分の雇用料金としては相場だが)、挨拶もそこそこに一行のもとへと戻った。
 そして金貨の詰まった袋で、思いっきりアルゼの横っ面を殴り付ける。アルゼは抵抗もままならずに吹き飛ぶと、近くに積み上げてあった小麦粉の袋に頭から突っ込む。
琉都   「この大馬鹿が!」
 何故、何が、と言った間をすっ飛ばしているため、誰一人として何に怒っているのかわからない。
 誰一人、には琥露鬼も含まれている。ノルデハフェンシュタット出航直前に、琉都が限りなく適当に紹介していたのだ。
アルゼ  「痛ててて…。 何を怒ってるんだよ、琉都。」
 何がどうなったのかすらよくわからないまま、アルゼは全身の小麦粉を叩き落としながら立ち上がる。
 間抜けな事に、横っ面には金貨の縁の模様がしっかりとついていた。
琉都   「奏甲を売った事をだ!」
クゥリス 「りゅ、琉都さん、落ち着いてください。」
 かなり頭に血が上っている琉都を落ち着かせようと、クゥリスは袋を持っている方の腕に抱きつく。それでどうにかゴルト袋攻撃は封じ込めたようだったが、口撃はそうもいかないようだった。
琉都   「何であのタイミングで売る!」
 周囲の人々が何事かと見ている事すら気にせず、琉都はなおも怒り続けている。
アルゼ  「んな事言ったってよ。ジャンク当然の奏甲を積んで船に負荷をかけるより──」
琉都   「知るか! 修理すればいいんだ!」
 もう理論も何もあった物ではないな、とアルゼは冷静に判断する。
 不思議な事に人間、目の前に熱い者が居ると、自分は冷静になれるものなのだ。もちろん逆もあるのだが。
 一見して部分部分では筋の通った、しかし全体としては支離滅裂な口撃を続ける琉都を、アルゼは仕方なく気絶させた。


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 それは難儀だったわねえ、と琥露鬼は全く興味無さげに相槌をうった。
琥露鬼  「けど怒った理由も何となくわからないじゃないでしょ?」
アルゼ  「だからって、金貨の袋で殴られていい理屈があるか。」
 そう言いながらも、アルゼは大人しくアメルダの治療をうけていた。どれだけ強い力で殴打したのか、宿へ向かう途中で青痣になっていたのだ。
琥露鬼  「まあ、それはそうだけど…」
 アルゼの頬の湿布を見、琥露鬼は弱気になった。
 確かにここまで手ひどく殴打する必要は、全く無いはずなのだから。
アメルダ 「あれはないわよ。手間が増えるだけだわ。」
アルゼ  「……え? オレで爆薬の実験をするのは手間じゃないのかよ。」
 ええそうよ、とアメルダは極自然な事のように肯いた。
 アルゼはその返答を聞き、項垂れた。まだしばらくアルゼで爆薬の威力を試すつもりらしい。
 琥露鬼はそんな様子を見て、微笑みながらアルゼの部屋を後にした。

 何気なく工房に足を運ぶ。
 まだ本格的な作業をした事は無かったが、琥露鬼は絶対奏甲の建造技術と設計理論を習得していた。そのため、大概の作業は何をしているのかわかるのだ。
 何をするでもなくふらふらと歩いていたつもりだったが、何時の間にかハイリガー・クロイツの足下に来ていた。
 そしてその隣には、古代奏甲ハイリガー・トリニテートが立っている。双胴型の絶対奏甲だが、出力などはそのリンクの容易さにより強いと言う機体だ。
琥露鬼  「珍しいわね…こんな所にもあったなんて。」
 思わずそう呟いてしまった。
 それを聞いていたのだろうか、一人の技師が近付いて来る。琥露鬼は先を取られまいと軽く会釈をすると、その技師は間延びした声で挨拶を返してきた。
???  「そんなに珍しいですかぁ?」
 天然系かな、と琥露鬼は第一印象で性格を決め付ける。
琥露鬼  「ええ。まさかハイリガー・トリニテートがこんな所で見れるとは、思ってもいなかったわ。」
???  「ミリィはハイリガー・クロイツがここにある事の方に驚きましたよぉ。」
 ミリィと言う名前なのかな、と琥露鬼は思った。
琥露鬼  「へえ、これの事を知ってるのね。」
 はいぃ、と破顔するミリィ。
ミリィ  「以前、この機体の機奏英雄様に助けてもらいましたぁ。それもぉ、2回もですぅ。」
琥露鬼  「凄いわねえ。」
 ひとしきり感心する琥露鬼。もちろん心では、どのくらいの技術者かを見積もっていた。
 だが結果は単純。うっかりでとんでもない事をしでかしそうなので、普通レベル。
ミリィ  「おっとぉ。所でぇ、今日は何のご用ですかぁ? 奏甲の購入ですかぁ?」
琥露鬼  「──あ、ううん、違うわ。私は機奏英雄じゃないから。」
 じゃあ歌姫さんですかぁ、とミリィは間延びした口調で訊ねる。
 一々間延びするので、琥露鬼は多少いらつきを感じ始めていた。
琥露鬼  「まさか。 ──私が人間? 冗談じゃ無いわよ、私をそんなのと一緒にしないで頂戴。」
 まさか、は真っ向から否定した語。しかしそれ以降は、彼女自身の呟きだ。
ミリィ  「じゃあぁ。何で工房に来たんですかぁ?」
琥露鬼  「あ、えー、えっと…。 そう、リミッタの設置に来たのよ。」
 リミッタの設置、は咄嗟に口をついて出た言葉だ。少なくとも琥露鬼はそのつもりだった。
ミリィ  「えぇ!? 技術者(テクノス)だったんですかぁ?」
 ええまあ、と琥露鬼は嘘が見抜かれていないと思い、ある程度落ち着いて肯く。
琥露鬼  「それよりも、ミリィって言ったわよね。あなたは歌姫でしょ?」
 今度はミリィが、ええまあ、と答える番。
 ツナギのファスナーを少し下げると、<声帯>があるのがはっきりと見て取れた。
ミリィ  「凄いですぅ。服の下に隠れてて見えないのにぃ、何でわかったですかぁ?」
琥露鬼  「直感…かしら。 さ、さーて。それよりさっさとリミッタを設置しちゃわないと。」
 無理矢理会話を終わらせると、琥露鬼は猫のような動きでハイリガー・クロイツをよじ登った。
 そして肩口の高さまで登り、そこにある装甲板を一部外す。レンチもスパナもドライバーも無いが、一応は作業している風にはした。
 信用したのかどうかは知らないが、ミリィは誰かに呼ばれて行ってしまったようだった。
 琥露鬼はひとつため息をつくと、ハイリガー・クロイツから作業台へ跳び移ろうとした。だが何者かに話しかけられたように、その場で一旦足を止める。
 そのままでしばらく琥露鬼は固まっていたが、すぐに力が抜ける。そして先ほど外した装甲板の内側に、ポケットから取り出した黒い水晶のような結晶体を5つ埋め込むと、琥露鬼は何事も無かったかのようにその場を後にした。


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 夕食。
 復活した琉都を含め、7人は“黒竜の酔拳亭”で食事をとっていた。ちなみに頼んだのは、B定食を人数分だ。

 で、と琉都は話を切り出した。それと平行作業で、手元のステーキも切り分けていく。
琉都   「結局は、絶対奏甲はどうするんだ? まさか6人も乗せて歩く訳にも行かないんだぞ?」
 うーむ、とアルゼは思案深げに唸りながらサラダをぱくつく。
アルゼ  「ハルフェアで入手するつもりだったんだけどな…。仮にも王都なんだ、ここより品揃えも良いんじゃないかと思って。」
 でもねえ、とルィニア。千切ったパンをポタージュスープに入れている。
ルィニア 「交通の便はここの方がいいからねぇ。ひょっとしたらここで買う方がいいかもしれないよ?」
琥露鬼  「さあ、どうかしら。…一番いいのは、私が移動用に車を買う事?」
 車、と言ったのはもちろん冗談である。
 しかし琉都はそれに思う所があったらしく、ふむふむとしきりに頷き始めた。
クゥリス 「あの…琉都さん。何を考えてるんですか?」
琉都   「──あぁ、うん。絶対奏甲で牽引できる荷車は無いかな、と思ってな。」
 絶対奏甲で牽引できる荷車、とクゥリスは呟く程度に復唱した。
 確かに存在しないではないだろうが、なかなかに見つけ辛そうでもある。
ソフィア 「別に馬を6頭、ううん3頭買い付ければいいじゃん。4人を琉都兄ぃの奏甲に乗せてさ…」
 12、3、4、とソフィアは胸と肩を叩いて数えてからそう意見した。
 コクピットに2人、肩に1人ずつ、と言う算段なのだろう。
琉都   「…一回やって見ろよ。肩の高さを変えずに歩くのは、かなり骨だぞ。」
 やってみたことがあるのか、とアルゼは半分呆れるように感心した。
アメルダ 「それ以前に、コレが足りないわよ。」
 コレ、とアメルダは人差し指と親指で○をつくって見せる。お金、だ。
 確かに報酬は多かったが、それでも絶対奏甲を買えば生活費が苦しい。消耗品の補充などもしてしまえば、嫌でも蟲退治くらいはする必要に迫られる。
 じゃあどうするんだ、と琉都はパンを齧りながら疲れたように言った。
琥露鬼  「仕方ないわねえ…。 まあ、試作奏甲の一機くらいなら、どうにか工面できるけど、ハルフェアに行く必要があるわよ。」
琉都   「…普通の奏甲で十分だっての。」
アルゼ  「俺は嫌だぜ。今出回ってる奏甲は、性能がピンとこないんでな。」
 それは見慣れてるからだろう、と琉都はツッコミを入れる。見慣れている、とは、ハイリガー・クロイツの動きをだ。
 だがアルゼとアメルダがシャル2などで十分に能力を発揮できそうに無いのも、傍から見ているだけの琉都にもわかる。
ソフィア 「射撃性能が低いから、現行のは嫌。」
 まあそれは一理ある、と琉都は頷く。
 確かに白兵戦闘を重視した現行の奏甲では、ソフィアの狙撃能力が十分に活かしきれないのだ。


 そして深夜。
 琉都とクゥリスは、他の面子が帰ってもまだ“黒竜の酔拳亭”で待っていた。
 いや、クゥリスは居座っていると言う表現の方が近いか。
琉都   「なぁ、クゥ…」
 おずおずと話しかける。
クゥリス 「嫌です。帰りません。」
 ぴしゃりと言い放つ。
 ずーっとこの調子なのだ。
 もういい、と琉都が根負けするのは目にみえている。そして事態が収集できなくなる事も。
 これから起きるであろう惨事を想像し、琉都は深く深くため息をつくと、椅子に深く腰掛け直して待った。

 数分も待たなかったかもしれない。
 店の奥から、少女と青年が姿を現した。
 青年の方は漆黒の長髪を肩の辺りで留めており、瞳は燻し金の竜眼である。
 少女の方は、一見して黒髪黒瞳で日本人か中国人だが、左目だけは白銀色であった。
クシェウ 「…ああ、もう待っていたのか。早いな。」
 青年は感心したようにそう言うと、琉都からいくらか離れた席に腰掛けた。
レイ   「アハトぉっ!会いたかったよぉぉっ!」
 顔を見るや否や、少女は琉都に飛びついた。それを見てクゥリスの顔が僅かに険しくなるが、努めて平静にしているようだった。
 琉都はそれに気付きながらも、アハトとして振る舞う。
 この少女──レイは、以前琉都が潜入した組織から連れ出した特異能力者である。悲、怒、憎、などの所謂「負の感情」から、反物質を生成する能力の持ち主だ。
琉都   「ああ、はい、はい。わかったから、首から手を放せって。」
 クゥリスの怒りのオーラを敏感に感じ取りながらも、琉都はあえて無視していた。
 もちろん当のクゥリスも、レイの能力については知っているので、何も言おうとはしない。
 だが流石に自分の宿縁が他の者といちゃつくのは見るに耐え兼ねたか、その席を黙って離れた。
 そしてクシェウの隣に腰掛ける。クシェウはクゥリスがそこに来た理由を知ってか知らずしてか、まるでこうなる事をわかっていたかのように準備していたオレンジジュース(のような物)を差し出した。
クシェウ 「悪いな、宿縁を貸してもらって。」
 差し出し際に、そう謝る。
クゥリス 「いえ、まあ事情が事情ですし。ああいう事も、機奏英雄の義務ですし。それに耐えるのは、歌姫である私の義務ですから。」
 実際にそうは思っていないのか、それとも理性で押さえ切れない部分なのか、クゥリスは感情を押し殺そうとして失敗した声で言った。
クシェウ 「…。まあ、溜め込みそうになったら、琉都に話してやれよ。」
 それが嬉しい事もある、とまるで実体験であるかのように、クシェウは苦笑しながら自分の分のワインをちびりと飲む。
 見ればワインのラベルは、“モンテリヒト(月光)”だ。ハルフェアの最高級ワインである。
クゥリス 「はあ…。そんな物なんですか。」
クシェウ 「まあ、な。だからって話しすぎると、今度は話す事が無くなって、仲が拗れるけどな。」
 これも実体験のようだ。クシェウは苦笑した。
 クゥリスもつられて中途半端に、社交辞令的に笑う。だがその注意は明らかに、レイと琉都のやりとりに向けられているようだ。
 それにもうとっくに気付いていたクシェウは、何を言うでもなくワインを舐めるように少しずつ飲む。
クゥリス 「…あの、ちょっと愚痴言ってもいいですか?」
 何を思ったのか、ジュースを一気に飲み干すとクゥリスはそう言った。
クシェウ 「まあ、ちょっと待て。すぐ戻る。」
 そう言うとクシェウは、厨房へ入って行ってしまった。クゥリスは困ったように、どこへ向かわせるべきかよくわからない視線を、すぐ後ろのレイと琉都に向けてみた。
 何を話しているのか、レイは大はしゃぎである。琉都の表情は、クゥリスに背を向ける方向だったので見えなかったが、声の調子からは楽しそうにしているように思えた。
 ふう、と一つため息をつく。と、丁度その時クシェウが戻ってきた。
 手に持っていた皿とコーヒーカップを、クゥリスの目の前に置く。
クシェウ 「何かを話す時は、俺はいつもこうするんだ。都合の悪い事を聞かれたら、食うなり飲むなりすれば、ごまかせるからな。」
クゥリス 「はぁ…」
 皿には少し大きめに切った、ふっくらとしたシフォンケーキが乗っている。一緒に乗っているクリームは、先ほど泡立てたばかりのようだ。
 コーヒーカップには、濃い目のコーヒーがなみなみと注がれている。砂糖もミルクも無しだったが。
クシェウ 「で、相談ってのは?」
クゥリス 「…最近、琉都さんが冷たい気がするんですよ。気のせいかもしれないですけど…」
 ここでクゥリスは一度だけ、琉都の方をちらりと見た。
クシェウ 「そうか…。俺は一緒に居る訳じゃないからわからないが、どんな風に冷たいんだ?」
クゥリス 「なかなか、私の事をかまってくれないんです。いつも他の人と話してて。」
 ふうむ、とクシェウはワインを飲み、新たにボトルから少しだけ注いだ。そしてしばし香りを楽しんだ後、椅子に背をあずける。

クシェウ 「なるほどな。」
クゥリス 「別に嫌じゃあ無いんですけど、寂しいんですよね…」
クシェウ 「ふぅむ…なるほど。 いつごろからそんな風に思い始めた?」
クゥリス 「かなり前から、ですね。蟲討伐の頃から、ずーっと。」
クシェウ 「ずっと我慢していた、と?」
クゥリス 「ええ…まあ、はい。」
クシェウ 「そりゃ溜め込みすぎるはずだ。」
クゥリス 「へ?」
クシェウ 「幻術師だから言えるんだが…クゥリス、だっけか? お前の精神波、もしくは魂魄の光が、異様に翳っているんだ。」
クゥリス 「……。」
クシェウ 「それでも光って感じられる。 …何か、言われて嬉しかった事は?」
クゥリス 「琉都さんに、ですか?」
クシェウ 「ああ。」
クシェウ 「…俺が未熟なせいでクゥが傷つくのは嫌だ、と言われた事、です。多分。」
クシェウ 「多分、な。…ふむ、大切な者、と位置付けているのか。」

 なるほどな、とクシェウはさらにもう一度呟き、ワインを口にした。クゥリスも少しだけコーヒーを口にするが、苦かったのか顔をしかめる。
 そしてしばらくの間、レイと琉都の楽しそうな会話を聞くようにして、クシェウはワイングラスを揺らしていた。
クシェウ 「他には?」
クゥリス 「他、ですか?」
 ああ、とクシェウは存外乗り気に肯く。
 こう言った相談事は、幻術師である彼にとっては日常茶飯事だ。もっとも、彼よりも彼の養娘の方が、相談相手に指名される事は多かったが。
 しばらく考えるようにした後、クゥリスはおもむろにシフォンケーキをひとかけら口にした。
クゥリス 「…あ。この焼き菓子、美味しいですね。」
 うまくごまかしたな、とクシェウは内心で感心した。
クシェウ 「俺が焼いたんだ。後でレシピの写しをやるから、焼いてみるといい。」
クゥリス 「え、いいんですか?」
 何このくらい、とクシェウは気前よく肯いた。
クシェウ 「それは置いておいて。 これは俺の見解に過ぎないんだが、いいか?」
クゥリス 「あ、はい。」
 うん、と肯くとクシェウはワインをもう一杯注ぐ。もう既にクシェウは瓶1本を丸々飲んでいるにも関わらず、ほろ酔い程度だ。“モンテリヒト”のアルコールはそう弱くないはずなのだが。
クシェウ 「琉都は、お前を妹のように見ているんだと思う。…そう、異母妹、かな。」
 と、かなり小さい声で話す。
 まるで琉都に聞かれたくないように、こっそりと。
クシェウ 「大切な妹を誰かに取られたくないが、妹だから恋愛対象ではない。状況的にはぴったりだと思う。」
クゥリス 「はぁ…」
 いまいち飲み込めていないのか、クゥリスは頭上に「?」マークを飛ばしている──もちろんこれは例えだ。
クシェウ 「今のままじゃ、進展は無い状況って事だ。何かきっかけがあれば打ち破れそうではあるけど、な。」
クゥリス 「きっかけ…ですか?」
 そう、とクシェウはどこか楽しそうに肯いた。
 どこか琥露鬼と表情が似ている。クゥリスはそう思った。
クシェウ 「里帰りしたら、琥露鬼に“モノリス”に連れて行ってもらうといい。いい修行になる。」
 うんそうしろ、とクシェウは勝手に自己完結させようとした。
 だが。
琉都   「琥露鬼なら、アルゼとソフィアの奏甲を調達する気らしい。」
クシェウ 「そうか。 …って、何時の間に!?」
 今さっきだ、と琉都は安らかな寝息をたてているレイを指差した。
 レイはテーブルに身を預け、椅子に座ったまま爆睡している。
クシェウ 「ああ、そうだったか…。 わかった、“モノリス”へは案内役を貸すとしよう。」
 そう言うとクシェウは、おもむろに両手を叩いた。すると奥の扉が誰も居ないにも関わらず開く。
 そして何者かがテーブルの上に飛び乗ってきた。
琉都   「!!?」
クゥリス 「こ…小人!?」
 すちゃっ、と片手をあげてその小人は挨拶をした。髪も瞳もクシェウと全く同じ色と形だ。
 だが、大きさはせいぜい手の平をいっぱいまで広げたのと同じくらいの背丈しかない。
クシェウ 「ホムンクルス…錬金術による人造人間だ。俺を基体にした、な。」
 うんうん、とその小人──ホムンクルスは自慢げに肯く。
 確かに髪色と瞳はクシェウに似ているが、何かが明らかに違うように琉都にもクゥリスにも見えた。
 そして暫くの後。
琉都   「あ、ひょっとしてこれ、女性型か?」
 そう言いつつホムンクルスの胸の辺りを突つく。メイド服を着ているためぱっと見ただけでは、身体全体の大きさもあってよくわからなかったのだ。
 確かによく見れば、クシェウと全体的な印象は同じものの、顔立ちはかなり女らしい。
 と、何を怒ったのかホムンクルスは、その体の大きさに見合ったサイズの玄大剣で琉都の指を殴った。
クシェウ 「まあ、な。 それはそうと、琉都、初対面で胸触わるたぁいい度胸だなあ。」
 あっはっは、と笑い飛ばしながらクシェウはホムンクルスの頭を撫でる。
 初対面の人間に胸を触られたのがそこまで嫌だったか、ホムンクルスは頭を撫でてくれるクシェウの腕に泣きながら抱き着いた。
クゥリス 「琉都さん…」
 後の言葉は何を続けるべきかわからないまま、クゥリスは非難するように琉都の名を呼んだ。
琉都   「そう言えば、そのホムンクルス、名前は何て言うんだ?」
 ごまかすようにそう訊ねる琉都。
 しかしクシェウは、何とも言わなかった。
 琉都は答えを待ち、黙ってみている。ホムンクルスはもう泣き止んだのか、テーブルのど真ん中でちょこんと座って三人の顔を交互に見上げていた。
クシェウ 「名前、か。…レプリカント──錬金術による人間の模造品──もホムンクルスも、大量に造るから一々名前をつけはしないんだ。」
クゥリス 「名前は無いんですか…。 それって、可哀相ですよ。ねえ、琉都さん?」
 うんうん、とホムンクルスはクゥリスの言葉にしきりに肯く。
 名前が欲しいのだろうか、とその様子を見た琉都は思わざるをえなかった。
琉都   「そうだな。」
 それこっきり、琉都は黙ってしまった。自分に名付けのセンスが無い、と言う事を何故か思い出してしまったからだ。
クシェウ 「別に何と呼ぼうと構わないが…。 結局は返してもらうからな。」
 忘れるなよ、とクシェウは念を押す。
 そしてしばらく考えた後。
クゥリス 「うぅ…。 今日はもう眠いです…」
 この一言で、ホムンクルスは名前ももらえずに琉都の頭に乗るはめになってしまった。


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 翌日。

 アルゼ、アメルダ、ソフィア、ルィニア、琥露鬼は、琉都とクゥリス(隠れているがホムンクルスも)に見送られる所だ。
 結局、乗り合い馬車に乗る事にしたのだ。これならばなかなかに旅費も節約でき、さらには絶対奏甲を持っている必要も無い。
 夜中まで琥露鬼が一人で考えた結果、こういう形になったのだとか。

ソフィア 「じゃあ、またね、琉都兄ぃ。」
 代表と言う事だろうか。最後に乗り込む前に、ソフィアはそう言った。
琉都   「ああ。」
 それだけ言うと、琉都は黙ってしまった。眠いのだ。
 当然と言えば当然だろう、今はまだ太陽も昇りきらぬ早朝だから。
 ソフィアは何か不満そうな表情だったが、彼女もまた眠かったのか、そそくさと馬車に乗り込んでしまった。
琥露鬼  「じゃあね、琉都クン、クゥリスちゃん。奏甲が手に入ったら、そのコに連絡を入れるわ。」
 そのコ、と琥露鬼は琉都の袍の襟に隠れているホムンクルスを指差した。
琉都   「わかった。こっちから連絡する時は、こいつに話しかければいいか?」
琥露鬼  「そうね。多分大丈夫よ。 …ああ、こういう時に通信機があればいいんだけど。」
 そう言って琉都の中途半端な笑いを買うと、琥露鬼は馬車に乗り込もうとした。
 そしてふと、何か思い出したように振り返る。
琉都   「…?」
琥露鬼  「クゥリスちゃん。」
クゥリス 「はいっ!?」
 びくっ、と少しだけ驚いたようにクゥリスは反応した。
 それもそうだろう。琉都が手を後ろに回して支えていなければ、そのまま後ろに倒れ込んで寝てしまっていただろう。
琥露鬼  「それに、琉都クン。 悪いけど、ハイリガーに細工させてもらったわ。殆どの機能を封印しなおしたの。」
 ごめんね、と有無を言わせずに一気に言うと、琥露鬼も馬車に乗り込んでしまった。
 寝ぼけたままの頭で肯くと、馬車が発車するのを見届け、琉都とクゥリスはふらふらと宿へ戻って行った。
 二度寝を敢行するつもりなのだろう。


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 不幸な事に夜遅く眠りそして朝早く起きてからの二度寝は、時として昼過ぎまでの惰眠となる。
 宿からチェックアウトすべき時間直前に、琉都は何かが顔面で踊っているような感触で、どうにかこうにか目を覚ました。
 と、本当に顔面でホムンクルスが踊っていた。
琉都   「……。 目覚し機能か?」
 違う、と言いたげにホムンクルスは琉都の顔を睨み付けると、その15、6センチほどしかない体のどこにそんな力があったのか、篭手と着替えを持ってきた。
 琉都はそれを受け取るとベッドから降り、寝間着から着替える。
 袍(より正しくは水干と言った方が近いかもしれないが)を着ながらホムンクルスを横目で見ていると、ちょこちょこと走り回って洗面器やタオルを持ち出したり、乾いた布で篭手を磨いたりしていた。
 かなり細々とした事に気付くらしい。名前をつけてやれば、確かに喜びそうだ。琉都はそう思い、幾つかの単語を頭の中に用意しておく。
 ホムンクルスは、濡れたハンカチを顔の上に落とすと言う方法で、クゥリスを起こそうとしている所だった。


 半時間後。
 朝食兼昼食をとるため、琉都とクゥリスはまた“黒竜の酔拳亭”に居た。元々が安い上に、会員証でさらに安くなるからと言う理由だ。
 朝食とも昼食ともとれる微妙な時間だが、モーニングセットを二つ頼む。
 新聞でもあれば読みたい所だが、生憎とアーカイアではマスメディアは発達していない。琉都は非常に暇な待ち時間の間、ちぎったメモの切れ端に幾つも単語を書き出す事に専念した。
クゥリス 「…琉都さん、何してるんですか?」
 ほんのちょっとした好奇心から、クゥリスはそう訊ねる。
琉都   「んー。まあ、コイツの名前をつけてやらないと、何か指示するときに不便だからな。」
 考えているんだ、とは言わない。日本語的な言い方だが、それでも伝わるだろうと琉都は思ったのだ。
 だが、それは大陸人種であるアーカイア人には、あまりよく伝わらない言い方だったのだろう。
クゥリス 「まあ、確かに呼ぶときに不便ですけど…」
 よくわからない、と言うような顔。
琉都   「だから、名前を考えてやってるんだよ。」
 そう言いながら、文字列の末尾にもう二文字書き加える。琉都はあえて全て漢字を使って書いていた。
 アーカイアに来てからと言うものの、琉都は何気なく喋っていたが、全ての会話はアーカイア語だ。日本語も話す事はできたが、誰にも通じないので使う事は滅多に無い。
 だがその“自動翻訳”も文字に関しては鷹揚で、誰かに伝えようとして書く文字でなければ、全く翻訳が行われないのだ。もちろんアーカイア言語の読み書きもできるのだが。
クゥリス 「変わった文字ですね。現世語なんですか?」
琉都   「まぁ、そうだな。」
 ホムンクルスはその文字が読めているようで、人形のふりをしながらも頭を動かしてしきりにメモを見ている。
 クゥリスも目で読んでいるが、やはり読むと言うよりも眺めると言った方が近いようだ。
 別に名前の案さえ書き留めて置く事ができればいいので、琉都は気にしない事にする。
クゥリス 「現世語って、変な文字を使うんですね。これ何て読むんですか?」
 これ、と文字列の一部を指差す。
琉都   「サシャ。小さい物と言う意味合いの『沙』に、うすぎぬの『紗』。」
クゥリス 「文字の一文字に意味があるんですか?」
琉都   「まあ、漢字と呼ばれる文字はな。 例えば『空』と言う一文字でも、天空とか言う意味とからっぽという意味を持っている。」
 そう言いながら、琉都は“空”とメモのきれはしに大きく書いた。そしてその隣に“天空”“空虚”とアーカイア文字で書いて見せる。
クゥリス 「じゃあ、そう言う文字の意味を知らないとだめなんですか。」
 少し残念そうである。
琉都   「…何だ、現世語に興味があったか?」
クゥリス 「あ、ううん、そうじゃないです。」
 ぶんぶんと頭を横に振って、クゥリスは思いっきり否定した。
 ああそう、と琉都が少しつまらなさそうに言うのとほぼ同時に、モーニングセット二つが運ばれてきた。
 サラダとパンを少しだけトレイに置き、ホムンクルスに与える。身体の大きさが違うだけで基本的には人間と同じ造りだと、クシェウが教えてくれたからだ。
 かなり遅めの朝食と言う事もあって、これで会話は途切れてしまった。


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 真昼、太陽ももう天頂にさしかかっている。

 2人(3人?)は、工房にいた。
 そろそろ行こうか、と琉都が言ったのは、もう1時間は前だ。そしてすぐに工房にも来ている。
 幸いにも、“黒竜の酔拳亭”はどこであろうと工房の近くに建っている。とは言え、絶対奏甲を出し入れする関係上、工房が町の外れに位置するので、“酔拳亭”も自然と町の外縁部に近い所になるのだが。
 それでも歩いても数分とかからない。本当に目と鼻の先、とも言える場所だ。
 なのにも関わらず、2人はまだ出発していない。それと言うのは、ハイリガー・クロイツの起動がなかなかできないからだ。
琉都   「もうちょっと早めのテンポで行けないか?」
 何を根拠にしてか琉都は、奏座のすぐ横で起動歌術を何度も織り直しているクゥリスにそう言った。
 大分疲れているようだが、クゥリスは頷くとかなり早めの歌を歌い始めた。ある意味では早口言葉のようでもある、複雑な歌だ。
 歌い始めるのに呼応して、<声帯>が僅かに幻糸光を放つ。そして十秒も歌わないうちに、ハイリガー・クロイツの幻糸炉が重い駆動音を立て始めた。
クゥリス 「成功ですか?」
 ゼィゼィと息を荒くつき、疲れた様子を隠そうともせずに訊ねた。
 1分ほど琉都は黙っていたが、やがてゆっくりとクゥリスに肯いて見せる。
琉都   「お疲れ、クゥ。…やっと出発できるな。」
 既に1時間前に出発届けを出してあるため、琉都はかなり気が急いているようだ。空き待ちの奏甲に軽く頭を下げ詫びながら、小走りにも近い速度でクゥリスを手の平に乗せたままハイリガーを歩かせる。
 そして町を少し離れた所で、やっとクゥリスをハイリガーのコクピットに入れた。


 のんびりとした速度で、ハイリガー・クロイツは平原を歩いて行く。
 島国で温泉が多い事が示唆するように、ハルフェアは日本型の地質のようだ。海の比較的すぐ近くに花崗岩質な山がある。
 しかしそのほとんどが比較的低いため、山と認識できる物はほとんど無いとも言える。
琉都   「…平和だ。 少し退屈かもしれない、と思う辺りどうなんだろう?」
 唐突に独り言のように、琉都は呟いた。
 少し驚いたように、クゥリスはその頭を(ハイリガー・クロイツのコクピットはタンデム方式なので、クゥリスは琉都の背中しか見れないのだ)まじまじと見つめた。
クゥリス 「平和なのは退屈ですよね。ちょっとだけ、ですけど。」
 だよな、と呟くと、琉都はまた無口になった。
 その頭の上でホムンクルスが一人で遊んでいるが、全く気にしていない様子である。だがクゥリスは、それがとてつもなく気になるのだった。
 頭の上で小人が遊んでいるが、それでも真面目くさっていると言うのは、真っ正面から見れば爆笑ものだろう。いや、後ろから見ていてもそれなりに笑えるのだが。
 しばらくはクゥリスも耐えていたが、ホムンクルスがまた踊り出した。それを見て、笑いが我慢のキャパシティを超えてしまったらしい。クゥリスは思わず吹き出してしまった。
 何が可笑しいのか、と言いたげに琉都が振り返る。それとほぼ同時にホムンクルスも踊り止め、琉都の首の動きと器用に連動しながらクゥリスの方を向いた。
琉都   「何を笑ってるんだ?」
クゥリス 「…あ、いえ、その……」
 思い出し笑いでもしているのか、涙を滲ませながらも必死に笑いを我慢するクゥリス。だがやはり我慢の限界を超えていたらしく、あははっ、と笑ってしまった。
琉都   「何がそんなに可笑しい?」
 自分が笑われているのかと琉都は疑いながら、多少は不機嫌さを隠し訊ねる。
クゥリス 「あははははっ…はぁ…ふぅ…ふふっ…ふぅ…。い、いえ、あの、…ぷっ…」
 随分と笑いの発作が長引いているようだ。笑いすぎたのか、涙は目の端に浮かんでいるし、お腹を抱えている。
 しかしそれに対し、琉都とホムンクルスは不機嫌そのものになりつつあった。
 八つ当たりの意味も兼ねて、琉都はハイリガーに少し強めに地面を踏ませ、ちょっとした衝撃をコクピットに与えた。もちろん琉都もその衝撃を受けるが、わかっているのであまり問題にはならない。
 ホムンクルスも同じくわかっていたらしく、はねとばされること無く髪い掴まっていた。
 クゥリスにとっては全くの不意打ちであったため、笑っている最中に後ろの壁に頭をぶつけてしまった。軽い痛みに頭を押さえ、笑いも止まる。
琉都   「で、何で笑ったんだ。」
 かなり不機嫌そうだったが、琉都はなるべく平静を保ちつつ訊ねた。
クゥリス 「いえ、あの、えっと…別に琉都さんの事を笑ったんじゃなくて、その…」
 えっと、その、とごまかすような言い方をする。
 いつもなら言葉を捜しているのだと琉都もわかっているが、今回は多少冷静さを欠いていたのだろう。
琉都   「いつどこで誰が何をしていたのが可笑しかった。」
 そう訊ねてしまった。
 一瞬の間クゥリスは固まったが、すぐに解凍される。
クゥリス 「えっと…さっき、琉都さんの頭の上で、ホムンクルスが踊っていたので、つい…」
 また思い出したのか、クゥリスはちょっとした笑いの発作に襲われた。
 琉都もその様子をどうにか想像してみる。そして想像し終える前にハイリガーの歩みを止めさせた。
琉都   「そりゃあ笑うなあ。」
 あっはっはっは、とつられて笑い出す琉都。自分の事なのだが、想像してみると妙に可笑しかったのだ。
クゥリス 「で、ですよね…あははっ!」
 そして2人はしばらく、その場で笑いたいだけ笑った。

 数分後。やっと笑い止み、琉都はまたハイリガーを歩み始めさせた。
 心なしか動きが軽快な気がする。
琉都   「いや、これじゃ本当に、ホムンクルスじゃあ話のネタにもし辛いし。」
クゥリス 「名前がいりますよね。」
 肯きながら返事をするクゥリス。琉都も肯きかえした。
琉都   「んじゃあ、俺は『沙紗』を提案する。」
 そう言われ、クゥリスは自分にも意見を求められていると気付き、暫し考えた。
クゥリス 「えっと…じゃあ、それでいいです。何も思いつきませんでした。」
 何も思いつかなかった、と言うのは本当である。
琉都   「オーケイ。 じゃあ、沙紗、改めてよろしく。」
 肩の上の沙紗に指を出し、琉都は握手を求めた。沙紗はその意を汲み取ったらしく、小さな両手の平でその指先を包むようにして握手する。
クゥリス 「よろしくね、沙紗。」
 クゥリスも同じように沙紗と握手をした。


 ハイリガー・クロイツはただ黙々と、何も無い街道をクゥリスの実家へと向かっていた。


クゥリス 「ところで、琉都さん。」
琉都   「んー?」
クゥリス 「行きって確か、“翼の門”で転送してもらったんですよね。」
琉都   「まあな。」
クゥリス 「こっちから帰れるんですか?」
琉都   「……。ま、まあ、大丈夫だろ。方向さえ間違えなきゃ。」
クゥリス 「その間が何かとてつもなく不安なんですけど…?」
琉都   「大丈夫!…方向さえ間違えなきゃ、な。」


 もっとも、帰り着けるかどうかは、また別問題のようだったが。







あとがき

(幌馬車の中。何人かの人が座っているが、薄暗いせいもあって殆どが寝ている。)

 はい、どうも。最近だんだんあとがきの方に力が入り始めている、センジン リュウトです。

「それはどうかと思うぜ。やっぱ本編あってのあとがきな訳だから。」

 むう。アルゼ、貴様、作者に意見すると言うか?

「何か悪かったか?」

 いや…まあそうなんだがな、確かに。

「だったらそんな言い方するなよ。もしかしたら次話で抹殺されるかもとか思っちまったじゃねえか。」

 あ、そのアイディア頂き。

「じょ、冗談じゃねえぇぇぇ!!?」



 んで。何で今回はお前だ?

「お前が出したんだろうが。オレに聞くなよ。」

 それもそうだけど。まあ、一応ね。

「……。」

 そう落ち込むな。新しい奏甲は特注品だから。

「マジで!?」

 次回の登場は3章からだけど。

「……。ま、まぁ、オレが活躍できるんならいいさ。」

 どうだか。自分がアルゼの存在を忘れなければ、だからねえ(邪笑)

「それは嫌ぁぁぁ!」

 ま、冗談はさておき。

「かなり性質の悪い冗談だぜ…まったく(ぜえぜえ)」



 これで2章は完結となります。

「……え? マジかよ。」

 ちとカコヨクしたかったけどねえ…今の実力じゃあこんな物。

「でもよ。まだ後2話分くらい構想が残ってるだろ? それはどうするんだ?」

 (チッ…)まあ、弐半章を書きつつ、かな。

「弐半章、だぁ?」

 うん、まあ。参章には不足、弐章よりは後、ってな意味合いで。2コンマ5章と読むように(笑)

「また奇怪な物を持ち出してきやがったな。」

 全くもって。

「持ち出した本人が言うな!」



 と、言う訳で。次章のネタバレを少ししたわけだけど…

「まだ何かあんのか?」

 まあ、後一つね。実は弐半章には、注意喚起文が冒頭に付属するんだな、これが。

「……何をやらかすつもりだ……」

 ま、まあ落ち着けアルゼ。その銃を下ろせ。ノー・ウォー。

「……(カチリ)」

 ひっ…

「冗談だ。で、本当に注意喚起文がつくのか?」

 まあ、現状ではそう言う必要が出るほど暴走するつもりだからね。

「……大丈夫かよ?」

 まあ、参話くらいで纏め上げるつもりだから。



「…悪ぃ、オレもちょっと寝るぜ。」

 おお、まあ朝早かったからな。ゆっくり寝ろ。

「どうせ目が覚めたらもう居ないんだろ?」

 …出たか、あとがき力。 まあそうだな。

「おぅ。じゃあな、作者。(もそもそと毛布を羽織ると、さっさと寝てしまう)」

 おやすみ、アルゼ。 さて、それでは読者の皆様。次話でお会い致しましょう。さらばーッス。