無題迷話 〜アラタナル〜
第伍頁
フォスィール遺跡。
一辺2キロほどの六角形を基本としているこの遺跡は、どうやら200年前の大戦の際に使われていた研究施設らしい。
それ故に、このような存在も存在し得た。
琉都が自嘲的に呟くのが聞こえたのか、胸に宝珠を埋め込まれている動く石像──アーク・ゴーレムは、背中に手を伸ばした。石が幾つか手(と言っても曲がる柱がついているような物だ)の先に付き、先ほどまでが拳ならば今度は平手を形作る。
その手でゴーレムは背中から、何か細長い金属の板をひっぱりだした。
鈍いくろがねの輝きを放つそれは、見まがうことない、ゴーレムの身長の半分はある剣であった。
「道具なんざ使えるのかよ、石像の分際で」
琉都は揶揄するように言うと、シュツルムの古代幻糸炉からの出力の数割をバイパスに流すよう設定した。少しずつではあるが幻糸が収束されて行き、砲身内に充填され行く。
ゴーレムはそれを見て取ったのか、ソフィアが駆るシャルフシュッツェのサブマシンガンによる散発的な攻撃を浴びながらも、剣を身体の右側に軽く斜に構えた状態で走り寄ってきた。琉都は自機であるシュツルムとゴーレムの延長線上に半壊状態のローザリッタァが重なってしまうのを見て、軽く舌打ちしながら思いっきり横っ飛びに避けさせる。
「おい、リサ! “プリメーラ−ドリッド”の解凍パスワードは入れちまったか!」
『まだだ! 貴様がさっぱり教えてくれないせいでな!』
本気で怒っているのか、怒号にも近い声が<ケーブル>越しに聞こえる。琉都はそれを聞くと、少し安心した。
「よし、上出来。こいつをブッ倒すのが先決だ、幻糸砲に当たったら運がなかったと思え!」
そう言うが早いか、射線上にリサの駆るローザが乗るのもお構い無しに、琉都はシュツルムの両肩に装備されている80mm連装幻糸砲を照準した。
『琉都さん、それは酷すぎますよっ!』
クゥリスが非難するような風に思念を送ってくるが、琉都はまともに取り合いもしない。
シュツルムはゴーレムの振り下ろした鉄の刃を躱すと同時に、多少不安な状態でも片方の幻糸砲を発射した。収束されていた幻糸が解き放たれ、暴力的な白光となってゴーレムの頭を粉砕する。
頭を粉砕されたゴーレムは、そこに感覚器官が集中していたのかやたらめったらに剣を振り回し始める。シュツルムの鼻の先三寸ほどの所で切先が振りぬかれたのを見て、琉都はシュツルムに大きくバックステップさせた。
着地するとほぼ同時に、もう片方の幻糸砲を発射。破壊の白刃が空を滑り、ゴーレムの左腕を大きく抉った。
「チッ…動きやがって! まともに当たる物もあたらないだろが!」
『それ、何か無茶苦茶な事言ってませんか?』
舌打ちし悪態を突く琉都に、冷静なツッコミを入れるクゥリス。
ゴーレムのパニックはいよいよ拍車がかかってきたらしく、剣を振り回しながら明後日の方向へと走り出してしまった。本当に何も無い方向だが、ほうっておいては遺跡そのものを破壊しかねない勢いである。
「とにかくっ! 壁にぶつかったりする前に、ありったけ幻糸砲を叩き込んでやる!」
『幻糸砲に弾数制限はありませんよ…』
あえてクゥリスのツッコミを無視し、琉都はシュツルムを向き直らせた。両足で地面をしっかりと踏みしめさせ、幻糸砲発射の反動に耐えられる体勢を整える。
幸いにも暴走したゴーレムは、直進するしか能が無いようだった。
「流れ弾があるとは思えないが、気をつけろ! 行くぞっ!」
琉都はそう言うが早いか、初弾を34%の出力で発射した。破壊的な白光がゴーレムの足下に突き刺さり、爆風が足をごっそりと削る。さらに二発目、三発目と少しずつ背中に向けて射角を修正しながら、左右の砲を交互に撃つ事で間断無い攻撃を浴びせる。
白光の刃は五発目でやっと背中に当たり、ゴーレムの胴体に大きな風穴を空けた。
ゴーレムはふらふらと二歩さらに歩くと、そこで耐えられなくなったように崩れて瓦礫の山に戻ってしまった。
『ンな威力の砲があるなら、最初からやりゃいいのに…』
「誰だったかな、遺跡が壊れるって騒いだのは」
もう呆れるしかないと思ったような調子のリサに琉都はそう言い放つと、ローザッリッタァにシュツルムを歩み寄らせた。
「歩かせる事は?」
『ねえちゃんが痛がってるけど…大丈夫。できると思う』
「よし。 シャルフシュッツェ…も、大丈夫だろ?」
『うん。でも、ルィ姉ぇはシュツルムに乗せたげてよ』
わかったわかった、と呟くと、琉都はクゥリスとルィニアが立っているキャットウォークへとシュツルムを寄せた。
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その翌日。
結局俺の収入はこれだけか、と琉都はほぼ諦めの体で呟いた。篭手を着けた手で、腰に帯びた中剣──武器開発研究室から取ってきた物だ──を軽く撫でた。ちなみにクゥリスは、拳大の紅い宝玉を分配してもらっていたようだ。
絶対奏甲は三機とも損傷が激しかったため、その修理費に発掘品のほとんどが消えて行ってしまったのである。
さすがに宝石類は高く売れたのだが、何故それまでもが修理費に消えたかと言うのは、いまだに謎だ。だが修理と整備をほとんどルィニアが仕切っていたと言うのだから、おおよその見当はつける事ができるが。
整備しているのを邪魔にならないよう片隅に立って見ていると、少し疲れたような顔のリサとリナがふらふらと歩いてきた。
「リサ、リナ、お疲れ」
琉都が軽く手を振ると、ああ、とリサが手を振り返した。
「分配品はどうしたんだ?」
「あぁ…巨刀か? 売り飛ばしたら中々に高値がついた」
そうか、と琉都は軽く頷いた。
リサが分配してもらっていたのは、少なくとも琉都の目で見れば華奢なその身体に不似合いな、刃渡りが2ザイル(垂Qメートル)近くもある巨刀だ。大きな武器であるにも関わらず、見る者を吸い付けるような美しさがあった逸品であった。
ちなみにリナが分配してもらったのは、アメシストの指輪である。
「そんなに金に困ってたのか」
琉都は軽く笑ったが、自分自身の財布も最近は苦しいので、さすがに気前良いどころかお人好しな発言はしない。
「ち…違う! ちょっと欲しい物が多すぎたから、その代金代りにだなその…」
ごにょごにょと言い訳しながら、リサはリナにひっぱられてどこかへ行ってしまった。
「自由民も…大変なんですね」
同情したように呟くクゥリス。琉都はそれに一つ肯くと、今まで腰掛けていたジャンクの山から立ち上がった。
やけに気合を入れて陣頭指揮をしているルィニアの隣に立つと、琉都はもう完璧に装甲板は修理されているシュツルムを見上げた。作業台の上に寝かされているため、非常にスペースを使ってしまっている。
ルィニアは琉都とクゥリスが隣に来た事に気付くと、自慢げにシュツルムの足を指差した。
「丁度いい所に来たねえ。ほら、あれを見てごらん」
「あれって?」
そう訊ねかえしながら、琉都はシュツルムの足の踵の当たりを見る。
「ローラーか?」
「そうさね。名付けて『駆動輪』…気に入るといいんだけどねえ」
駆動輪と呼ばれたのは、踵の両側に取り付けられた赤い車輪であった。ローザリッタァの装甲板と同じ色なのは、恐らくローザに取り付ける前に試作した物だからだろう。爪先にも補助的な小さい車輪が取り付けられている。
琉都はクゥリスと顔を見合わせ、それから一つ溜息をついた。
「また改造されたな」
「そうですね」
既に何個所も事後承諾の改造個所があるシュツルムだ、これ以上弄くられる事は無いだろうと思っていたのだ。
ルィニアはやはり自慢げに、そして嬉しそうに何かが書き付けてある書類を取り出す。
「理論値では、戦闘時の最高速は1.25倍になり、通常時に使えば1.5倍もの速度で移動できるはずさね。多少、整備が難しくなるけど、それはワタシがやるから問題ないだろう?」
「普通に歩いたり走ったりするのに支障は無いのか?」
琉都は車輪を見ながら、不安そうに訊ねる。ルィニアは小丸眼鏡を中指で押し上げると、別のページを開いた。
「そういう時はスライドして格納しておくから問題無いよ。踵関節部分の防護板も兼ねてるって訳さね」
「聞いてる限りだとなかなか凄そうですね」
ルィニアの改造の大半が的外れである事を見て知っているクゥリスは、多少の棘を含ませてそう言った。
琉都は何か思う所があったのか、じっと駆動輪を見ている。丁度今、回転制御テストを行っている所だ。
「聞いてる限り、じゃないさね。今回は正真正銘、正規の改造法として登録されてるからねえ」
ルィニアは残念そうにそう言うと、高速で回転する駆動輪を見た。しかし回転している物を見たために気持ち悪くなったのか、すぐに目を離す。
「あぁ…なら安心だな」
琉都は意味ありげにそう呟くと、駆動輪の最終調整を見学する事にした。
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ツヴィッシェンの町には、宿が数多くある。
琉都達はその中から、わりあい安いが小奇麗に掃除してある宿を選んだ。経済状態も考えて、大部屋を一つ、割り勘で借りている。
一人だけ疎外感を感じながらも、琉都は「今後どうするのか」とたまたま部屋に居た全員に向かって訊ねてみた。
「今後どうするって、どういう意味だ?」
リサは質問の意味をしっかり理解しきれなかったらしく、拳銃を磨きながら訊ね返した。
「今後も一緒に行動するかどうかと言う意味か?」
「違う違う。俺が聞いてるのは、明日──ツェルト村に滞在できる最後の日さ」
琉都は既に自分の中では結論が出ているにも関わらず、他者の意見を聞くためにわざわざ訊ねたのだろう。言うだけ言って見ろ、と言う風がある。
リサはリナと目を合わせると、小さく頷き交わした。
「“プリメーラ−ドリッド”の目覚めの鍵が解らなかったら、本部に指示を仰ぎに戻ろうと思う」
「いや、見当は二つ三つつけてある。いざ本当に解らなきゃ教えるけど、俺ぁ意地悪だからな、筋を通して自分で考えてくれ」
「…頭固い…」
リナにぼそりといわれ、琉都は軽く愛想笑いを浮かべた。それからソフィアとルィニアの方を向く。
「ソフィアは?」
「わたしは…。 明日はお休みにするー」
「そうさねえ。色々と買い込みたい物もあるし」
ソフィアは分配してもらっていた銀スプーン(歌術がかかっているそうだ)を磨きながら、ルィニアもやはり分配してもらったホイッスル(奇声に似た音が出る)を観察しながら、そう答えた。
琉都はそれを受諾したのか、一つ頷いた。
「で、クゥはどうする?」
「もちろん琉都さんと一緒に居ます」
きっぱりと言い切り、クゥリスは琉都の隣に立った。
琉都は全員の意見を聞き終わると、何事か考え始める。たっぷり1分は黙った後に、ぽんと手を叩いた。
「わかった。んじゃ明日、ソフィアとルィニアだけは昼間もツヴィッシェンに居る訳だな」
「さっきも言ったじゃないかい」
解りきった事を訊ねられたように、ルィニアは面倒そうに言った。琉都は小さく頷くと、リサとリナの方を向く。
「ツェルト村までは1時間で往復できるし、昼までには帰る事になるな…。 自由民のお二人は、遺跡から出たらそのまま直行?」
「…」
リナは黙って肯いた。
「ん。わかった」
「何でそんな事を聞くんだ?」
「いや、一応予定を把握しときたくて。 …と、そろそろ飯だな」
琉都は窓の外がすっかり夕闇に包まれたのを見ると、今まで腰掛けていた椅子から立ち上がった。
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翌早朝。
気がはやり過ぎて食べる物も食べていないリサとリナに朝食のサンドイッチを手渡しながら、琉都はやれやれと溜息をついた。
「まさか自由民のローザも改造するとは。ルィニアさんも豪気っつーか、恐い物知らずと言うか、馬鹿と言うか」
「馬鹿なんだな」
はっきりと言い切って、リサはタマゴサンドをほお張る。ゆで卵を潰した物が少しはみ出したが、このくらいは気にしないようだ。
琉都は困ったように笑うと、サラダサンドをほお張った。
「ひふぁひ、ほうひへ──んぐ──こんなにも早く宿を出たんだ?」
「…早く出さないと、可哀相だから…」
リサの代りにリナがそう答える。そして手に持っていた特大チキンサンドをばくりとほお張った。
「そういう事だ。現世人風情にはわからないか?」
「わからいでか。なぁ、クゥ?」
「ふぇ? ふぁ、ふぁい! ほうへふほへ」
いきなり声をかけられたので、思わず口の中に残っていたトマトサンドを飲み込み忘れ、クゥリスはとにかく肯いた。琉都に小突かれてやっとその事に気付き、失態を恥じながらも飲み込んだ。
「琉都さん、優しいですから」
「どうだか」
リサは即座に、一応は否定して見せた。
「…琉都、優しい。あのとき助けてくれた…」
リナはそう言った。恐らく現世騎士団の時の事を言っているのだろう。琉都は困ったなと言うように、大袈裟な動きで肩を竦めた。
「ありゃ成り行き任せだ。俺は、自分が流され易いのをわかってっからな…思われてるほど優しくはない」
「でもローザを──リサさんとリナさんを生け捕りにしたじゃないですか」
クゥリスにそう指摘されて、琉都は何かを誤魔化すようにサラダサンドの残りを一気に口に詰め込んだ。それを飲み込まぬ内に、食事中も篭手を外さなかった手をぽんぽんとはたきながら立ち上がる。
まだ小寒いからと熾した火もそのままに、琉都はシュツルムに乗り込んだ。
膝を軽く曲げ、僅かに前屈した姿勢で、ローザとシュツルムはなかなかに早い速度を出していた。足を動かしていないが、その代りに踵の車輪が高速で回転している。
「なかなかに快適だな」
琉都はほとんど思念で干渉する必要のないこの移動法が、いたく気に入ったようだった。曲がり角でちょっと体重を移動させる以外には、ほとんど操作らしい操作が必要無い。
通路は全て整地であるために、ローラーダッシュするのに困る事はほとんど無いのだ。
『整備されてない道でも、岩山とか登山道とか獣道とかでなければ使えそうだな』
リサもそれなりに気に入っているらしく、なかなかに高い評価を下す。琉都はその評価を肯定すると、『LABO-1』のプレートを左折した。
少し進むと、駐機スペースが見えた。琉都はローラーダッシュを解除すると、まだ多少速度が残っているシュツルムを立ち止まらせる。ローザもそれに倣った。
「所で、解凍コードはわかったか?」
クゥリスを扉の前に降ろしてから、琉都は武器を準備しながら訊ねた。
「いや、さっぱり」
「…わかんない…」
リサとリナはほぼ同時にそう言い、ほとんど同じ動きで首を横に振った。そうか、と呟きながら琉都はメモの切れ端を取り出す。
「まあ、とにかくプリメーラの所に行こう」
「ああ」
琉都は一昨日と同じように扉を開くと、紅龍眼で少しだけ氣を探った。リサが苛立ちの氣を発している以外は、一昨日とそう変わりない。
クリスタルケースの林を抜けると、よく見れば培養装置に“第参ロット壱号”と書かれているクリスタルケースの前に立った。リサとリナをその前に押し出し、琉都は腕を組む。
「一昨日の日記を見てみるといい。綴りがわざと間違ってある──だろ、クゥ?」
「ええ。慌てて書いたには間違い無いですけど、そこだけ慎重に活字体で書いてありました」
琉都は自分の考えが一つは正しかった事を確信すると、腕組みをやめてメモの切れ端を見た。恐らくカンニングペーパーなのだろう。
「“Arc”“Aia”と二つに分けて考えると、なかなかに面白い。これは“偉大なる”“空・空気”だ。正しい綴りは“Arcair”になるはずだがな」
「それが解凍コードか!?」
リサは結論を急ごうとして、鼻息も荒く琉都に近寄った。琉都はリサの肩を押して遠ざけると、さらに続ける。
「違う。 “いだいなるち”をどう解釈するか、という問題だが……。“Arc”を“いだいなる”と考えるのは正しいにしても、どうやったって“ち”が“Air”な訳が無い。だからこの仮説は惜しい所だ」
そこまで言うと、琉都はメモの切れ端をびりびりと破いて棄てた。
「じゃあ、クゥ。“ち”と言われて思い浮かべるものは?」
「血、地、知、ですね。妥当な線だと」
すらり、と答えるクゥリス。琉都は一つ頷くと、もう一度腕を組み直した。
「“aia”を何かの続き文字と考えると、“ち”を象徴する何かの内の最後の三文字。しかもこう書いている所を見ると、恐らく絶対にわかってもらえる自信があってやったから、消えているのはせいぜい三文字くらいまで。と、するとだ。現世では“大地の女神ガイア”ってのが存在するという神話がある」
「知る訳が無い」
リサは不満そうに呟くと、忌々しげに日記を睨みつける。
「まあ、その頃は流行っていたんだろ。 ちなみに“ガイア”の綴りは“Gaia”…と言う事は、だ。結論を急ぐと、“偉大なる地”と“アーカイア”と“ArcGaia”を引っかけた──暗号と言えるのかどうかは別として──謎かけだったわけさ」
「つまり暗号は、“ArcGaia”?」
ああ、と琉都はもったいぶって頷いた。
「…あ、ここで入力するのかな…」
リナが何か見つけたのか、培養装置の裏側でそう言った。リサは急いで駆け寄ると、そこにアーカイア文字キーボードがある事を確認する。
琉都とクゥリスはそのまま背を向けると、研究室の外に向かって歩き始めた。
「俺達は退散するとする。またゴーレムが居るかもしれないし、本部の場所は現世人風情に知られたくないだろ?」
「あ…ああ」
ちょっと戸惑ったように肯くリサ。
琉都は扉をくぐる前に、一度だけ振り向いた。
「またな」
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「あれでよかったんですか?」
ローラーダッシュしているシュツルムの手の上で、飛ばされないよう奏甲の指にしがみ付きながらクゥリスはそう訊ねた。その問いに答えたように、シュツルムは一度立ち止まる。
「いいんだ。俺達が関わったら、何がどうなるともわからないし…本当にゴーレムがまた居るかもしれない。何よりプリメーラが厄介事を持ってきそうな面してたからな」
琉都は『カタパルトホール』の中をフォルシェン・フォーァリヒトゥングで探り、何も居ない事を確認して出口に向かった。
「実は最後の「厄介事を持ってきそう」が原因なんじゃないですか?」
「全くその通り」
女難の相が出始めたらしくてな、と琉都は冗談を言おうとしたが、止めた。
そしてシュツルムをツヴィッシェンの町に向けて歩き始めさせる。既に『家』から自分たちの荷物は運び出してあったので、村には寄らないつもりだ。
「けど、縁があれば、嫌でも逢う事になるだろうさ」
「私と琉都さんが逢ったみたいにですか」
「そういう事…。さて、さっさと報告して、報酬を貰いに行かないとな」
琉都はそう言うと、多少凸凹しているもののよく踏み固められている平坦な道へシュツルムを歩み出させた。駆動輪を再起動させ、普通の奏甲よりも早い速度で道を行かせる。
新たなる出逢いと、新たなる旅を求めて。