‡【歌えない歌姫と歌わない英雄の狂奏曲】‡
S.
第一話…【最悪な出会い】(上)



 いつもどおりの毎日
 昨日が今日に
 今日が明日に
 そんな平凡な一日
 夜中にトイレのドアを開けるその時までは………



 ‡【最悪な出会い】‡



 いきなり辺り一面を鬱蒼とした木々に囲まれた俺は眉間に皺を寄せる。さっき見までトイレで用をたしていたのだが、
何故か今の目の前にあるのは膝丈ほどもある藪と月明かりさえ暗く覆う巨大な木々だけで、便器もトイレも無くなってしまっていた。
どうしてこうなったのだろうか?
俺は何となく考え、
一つの愉快な答えを思いついた。

 (俺の栄養(小便)が、景色を一変させる程に植物を異常繁殖させてまったのだと…)

 「フフッ…
俺も罪な男だ…
たった一人の力で此処まで世界に緑を与えてしまうとは…‥」

 寝呆けた頭も手伝い自分の出した答えに妙な納得をして、
とりあえず自分部屋の有ったただろう場所へと歩きだす。

だが
どれほど歩いても変わらない森の中
俺は彷徨う…



― 自己紹介をしよう
闇雲に森を歩き続ける俺の名前は神崎新一郎。
中肉中背だが、しなかで強靱な体付きと、黒髪、黒瞳の、そこそこに整った顔立、そしてどこか疲れたような雰囲気をただよわせた溶接工だ。
そして…今は寝巻代わりのジャージと便所スリッパを履いて深夜の森を徘徊するのが好きな変わり者。



 「しかし此処はいったい何処だ?。まさか本当に俺の養分(小便)が作り出した森では無いよな?」

 どれほどの時間、森を彷徨い続けたのだろうか?
突如に木々が途切れ
開けた視界に
赤い光が飛び込んできた






 「人が居たら道ぐらいは聞けるかな?」

 呟き、燃える町へと歩きだす



 ‡   ‡   ‡



 町に着くとそこには幾つかの家屋が燃え上がり
深紅の炎が
天までもを焦がさんと長い舌を幾つも空へと伸ばしていた
放置すれば通りを挟んだ向こう側、町の半分が全焼しかねないほどの大火なのに消火をする人も、
避難をする人々も見当たらない。
その異状な雰囲気を感じてはいたが、この状況を説明してくれる誰かを求めて俺は大声で呼び掛けてしまった…

 「誰かぁ居ないのかぁあああ―!!!
もし居るなら金髪美女だと嬉しいし♪巨乳ならもっと嬉しいぃぃぃ!!!」

だか帰ってくるのは炎のはぜる音だけ…
いや
返事はあった!

 「シィンギャァァァァァァァァァァ!!!」

 金属を
 硝子を
 魂を

 引き裂き、掻き混ぜ、叩きつけ続けるような叫びが上がる
それも一つでは無かった…
幾つも
幾つも幾つも幾つも
幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも

 その異様な叫び
脳をかき乱されるような頭痛
目眩
吐き気
そして…
堪え様の無い【恐怖】を
 気が付けば屈みこみ吐き続けていた
全てを吐き黄色い胃液しか出なくてもまだ吐いた
 そして見て…
 気付いてしまった


胴より下の無い人を
首が有らぬ彼方を向いた人を
顔をえぐられ
死んでいる人、人、人を!


 今
目の前から
その元凶がやってくる…
炎に照らされ
血に染まり


 【深紅の悪魔達が】


 俺はその姿を見たとたんに逃げ出した
辺りもろくに見ずただひたすらに…
息の続くかぎり

 だが奴らは狡猾で、進む道に仲間を予め回りこませ徐々に…
徐々に
狩場へと俺を誘導したのだ

 気が付けばすっかり奴らに囲まれていた
込み上げる恐怖に足を震わせ
限界にまで挑んだ疾走に心臓は悲鳴をあげ肺は荒い呼吸を繰り返す

 「何て素敵な美女達だ…
便所スリッパで走らせたら世界一の俺についてくなんて…」




 じわり…
じわり
と路地裏にて包囲を狭める奴らに俺は何も出来ず
ただ立ち尽くしていた。

 その時
激痛と衝撃を右肩に感じ転倒
その上を奴らの一匹(六本足の蜘蛛のような化け物)が飛び抜けて行った



 ?「あちゃ〜、あかん!まちごうて人に当ててもうたわ〜(笑)」
 ?「馬鹿者!!蟲は此処に居るんだけと限らんのだぞ!矢は大切に使え!!!」
 ? 「隊長…、何か間違ってませんか?民間人…死んじゃいますよ?」
 ?「隊長!今よりネウス、ローラ、ニキータ以上三名、民間人救助の為、抜剣突撃します!」
 隊長「よし!私とテレザはこの場より援護を続ける!テレザ!!!これ以上民間人に当てるなよ!」
 テレザ「まかせて〜な♪隊長はん↑次は外しまへんわ♪」
  隊長「・・・・・」




 突然の激痛
肩を見ると矢が突き刺さっている
 「ついていない…死ぬ時は美女に囲まれてと決めていたんだかな…‥」
 激痛と、後にくるショック症状が顔を青白く染め上げる。
懸命に立ち上がり逃げ道を探してると。
近くの建物から女性達が化け物へと剣を振るいながら近づいてくる。




 ネウス「おい、お前!早くこっちに来い!!助けてやる!」
 ニキータ「ネウス!こっちはもうそろそろ持たないよ!早く連れてきて」





 民間人を囲んでた八匹の蟲達
その半数を私とテレザが弓で牽制し、残りをネウス、ローラ、ニキータで何とか押さえているが
そんなに長く持たないだろう事は解っていた。
幾度と無く蟲に剣や矢が当たってはいたが、その殻に、滑り、弾かれ、致命傷を与えれずにいる。
奴らの一撃を食らえばこちらは一撃で倒れるというのに、
そのうえ数で劣る…

 隊長「もたつくな民間人!さっさと建物に入れ他の蟲どもも来たぞ!」


 必死になって化け物と女性達の間をぐぐり抜け
俺は建物へと入る事ができた
そして痛みと疲れのあまりそのまま倒れこむ
 「クッ…」
 今更ながら矢傷に響き肩に激痛が走る

 建物に入る時間を稼いでくれてた女性達も後を追うように飛び込んで来た。
そして扉を閉め閂を掛けたうえ、用意していた食器棚やベットでバリケードを作る。

 ドン!
 ドドン!!!
彼女等が入った瞬間から奴らが叩く音がしていたのだが
諦めたのか、
しばらくすると音は止んだようだ。

 「助かった…。」
そう呟き礼を言おうとした俺は…
目の前に現れた、とんでもない美女に、言葉を止めてしまった。
…
だが視線を胸元へと移していくにしたがって表情は壮絶な物へと変わっていく。
もはや今の状況に対する説明などどうでもよくなり。俺の関心はただ一つだけ…

 隊長「大丈夫か?何故お前はあんなところに居たのだ?もうこの町の者達は全て蟲に殺られたのだと思っていたが…」
 (警戒を現わに俺の頭から爪先までを見つめられ…)
 テレザ「隊〜長はん♪こん人は男みたいやで?」
 隊長「なに?コレが男?ならば機奏英雄か…黄金の姫様は召喚をなされたのか?」
(頷きなが何かに納得をされ…)
 ネウス「ローラ、この人の応急処置を。そしてニキータとテレザは引き続き見張りを頼む」
  ニキータ「はい…」
 テレザ「了解やでネウスはん♪」
 ローラ「大丈夫ですか?英雄様、今手当てをしますね」
 隊長「何も知らぬ者ならば混乱するのも仕方無い。
我らはシュピルドーゼの軍人、第137特務偵察小隊、で私が隊長のヒルデガルト(ヒルダ)コイツがネウス、
お前の手当てをしてるのがローラで見張りに行った二人がニキータとテレザだ」
(俺には訳の解らない説明をする…)
 ネウス「隊長…ソレだけでは不足かと…」
 ヒルダ「うむ、解っている。お前の肩に刺さってる矢を射たのはテレザだ。」
(ヒンニュウが…)
 ネウス「いえ…そうでなく‥」
 ヒルダ「ん?」
(貧乳が!!!)
ネウスの言いたい事が解らずきょとんとするヒルダ
 ネウス「彼は異世界から来たのです。この世界の常識は知りません。私が一から彼に説明しましょう。」
 ヒルダ「為るほど…馬鹿にも解るように説明せねばなんということだな?」
その言葉を聞いた瞬間!俺の中の何かが弾けた…
 「誰が馬鹿だ!てか、そんな事はどうでもいい!俺が聞きたいのはただ一つ…何故お前が貧乳なのかだ!
俺は…
俺はソレが許せん!!!」
 俺の突然の絶叫に虚をつかれたヒルダは腕で胸を隠し!
白い頬を赤く染め叫び返した。
 ヒルダ「わ、私はまだ17だ!こ、コレから育つのだ…。いなり何を言う!こ、コの変態が!!!」
 「俺は変態では無い…、俺は神により選ばれし巨乳の守護者!神崎新一郎だ!!!」
 神々しいまでに威厳ある微笑みを浮かべヒルダへと這い寄って行く
 ヒルダ「だ…黙れ変態!!!そ…それ以上近づくなぁぁぁぁぁ!!」

 完全にパニックを起こしたヒルダは剣を抜き放ち闇雲に切り掛かる。
その鋭い太刀筋を蟲に対した時の三倍のような速さで、床に這ったまま躱す俺
 「ふふっ…
見えるぞ!
私にも敵が!!!
巨乳の敵がぁあああああ!!!」
さらに羞恥と恐怖で大振りになった太刀筋を、尽く躱す俺の動きは毒蛇すらも凌駕していた。
 「思い知ったかショ〇ベン臭い小娘が!
(゜Д゜)、ペッ
貧乳死すべし!」
 ヒルダ「!?
た…助けろ!ネウス!ろ、ローラ!
大体、誰だ!こ、こんな、変態を、助けようなど、と言った奴は!」
 ネウス「隊長ですが…」
 ローラ「ヒルダ様……」
呆れるネウスと
頬を染め視線を逸らすローラ
 「ウケケケ…」
 緊張の糸が切れ錯乱する俺にローラは近付き、そっと肩に手を当てて動きを諫める。
 ローラ「英雄様…動いてはいけません。傷口が開いてしまいす。」
 手をはねのけようとローラに向き合った瞬間!俺は信じられない物を見たのだ…(大きぃ…)あぁ神よ…
 「このような乾いた平原で貴方の様な方に逢えるとは…」
 ローラ「はぃぃぃ?」
 「貴方の為なら俺は死ねる…」
 ヒルダ「なら死ね!変態!!!」
鋭い回し蹴りがこめかみにヒットし一瞬意識を奪う…だが今の俺にはささいな事。
ローラの手を取り目を見つめながら礼を言う
 「助けてくれてありがとう…(おかげでこうして生きて貴方と出会うことができた…)」
 ローラ「そんな…当然の事をしただけですわ。」
はにかむ様に微笑みローラは肩の傷を見てくれた…

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